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あの頃
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唐突。というほど期間が空いていたわけではない。
あの日。私が教室を去った日以降も、連絡先を交換していた私たちは、ちょくちょくやり取りはしていた。
いつでも会えるという思いを持っていたからか、いつか遊ぼうみたいなやり取りはしていても、お互い目先の忙しさに追われている中で具体的な約束を交わすまでは至らず、終ぞ直接会うことは叶わなかったが。
私が通っていた『ミューズガーデン・バレエアーツ』はルイーズ先生と里奈先生が現役引退後、指導者として立ち上げたバレエ教室だ。
なので何代にも亘っている教室と比較すると歴は浅くなるが、世界三大バレエ団のひとつフランスの『オペラ座バレエ団』で、ダンサー最高位である『エトワール』の称号を得たこともある、フランス人男性と日本人女性のハーフでフランス国籍のルイーズ先生と、バレエ大国ドイツのフランクフルトバレエ団でダンサーとして活躍しながら、世界的な気鋭の振付家が芸術監督を務めていた同団でコレオグラファーとしての才能も発揮していた里奈先生。彼女は同団が財政難で一旦閉鎖した後はフリーのダンサー兼コレオグラファーとして活躍し、ベルギーやスイスの名門バレエ団にも振付を提供した実績も持っていた。
世界的な実績を持つふたりの先生の指導が受けられる教室ということで、開校当初からから有力な生徒や講師が集まり、数多のコンクールで常に上位入賞者を輩出する名門校となった。
どんな競技でも、精鋭が集まる強豪校やチームは、生徒の出入りが激しい。
毎月多くの入会希望者がその世界の最高峰を目指すべく扉を叩き、近しい人数のその道に見切りをつけた者が、教室から去っていった。
入会したメンバーのことを在席している生徒がひとりひとり把握できるなんてことはまずない。
まして年齢差で教室が異なっていれば、レッスン時間もずれていることもあり顔を合わせることさえ機会は限られている。
合同のレッスンなどで、気付いたら傍にいた彼女。
休憩時など、折を見て話しかけてくれた彼女については、年下の教室のメンバーの中では顔と名前が一致する数少ない存在だった。
隣で踊る彼女のダンスが、観るたびに洗練されていったことも、かなり早い段階で彼女を認識できた要因のひとつだ。
彼女が私を慕ってくれていることはすぐに気がついた。
素直に嬉しかったし、応えたいと思った。
一人っ子のわたしにとっては、可愛い妹ができたようだったし、競技者としては教えを請いに来る妹弟子の存在は教える私自身の技術向上にもつながる。
妹弟子の規範となれるようにとの意識が私の競技者としての段階を引き上げた。
いつの間にか掛け替えのない存在となっていた彼女の手を。
私は私の実力不足が故に離してしまった。
そんな私に、尚連絡を取り続けてくれた彼女。
できるなら、できるだけ応えてあげたい。そう思っていた。
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