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そろそろ基盤は固まってきた

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 しょーちゃんが残してくれたものにいつまでも頼ってはいられない。
『独り立ち』という言葉の意味を再度強く意識した。
 
 周囲からの支援は無いもの。
 しょーちゃんレベルの接客を期待しているしょーちゃんから引き継いだお客様からは、基本シビアな目で見られている。
 そもそも私は全キャストの中で一番経験が浅い。全先輩の動きは学びの宝庫であるはずだ。
 
 そういう前提に身を置き、集中して事に当たった。
 
 結果、特段目立ったミスは無かったはずだ。
お客様は皆さん、楽しんでくれているように思えた。
 新規のお客様も少しずつではあるが獲得できている。
 頂いた名刺や連絡先もたまってきた。そろそろ営業連絡をしてみても良いかもしれない。まだ対象が少なく記憶は新しいので、少し時間が掛かっても、手間暇込めた内容にしてみようか。

 
 意外とうまくやれているんじゃ……? というのが、率直な感想だった。
 今なら、高天さんのような付き合いで来ただけのお客様に対しても、もっと上手く対応できる気がしていた。

(反省点と課題について、今のスキルでトライアンドエラーしたいな。また来てくれないかなぁ)

 なんて思っても、店舗やキャストの都合でお客様が思うように動いてくれるなら苦労はない。だからこそ一回一回をできるだけ精度高く納めなくてはならないのだ。毎日、毎接客が常に本番なのだから。

 でも、この仕事にはお店やキャストの都合でお客様を動かしてこそプロフェッショナルという側面もある。
 直接的なのは営業メッセージだが、あいにく仕事用のアドレスと電話番号しかわからない。流石に今の段階で仕事用の連絡先に連絡を入れるのは逆効果だと思う。

(あ、そうだ。たーくんに頼めば?)

 たーくんもほぼ毎日のように来ていた反動からか、前回の来店から少し間が空いていた。
 営業の連絡をするタイミングかなと思っていたところだ。そこに高天さんも連れてきて欲しいと加えれば、営業メッセージとしてもより良いのではないだろうか。

 そういうところに思い至れた点も、自らの成長を実感できた。



 ところどころに成長の証が見えるのは嬉しい。
 慢心しないよう気は引き締めるが、結果に対しては自負を持って良いだろう。
 結果は、ある種わかりやすい数字として表れていた。
 ほぼ時給額だった初月と比較して、ひとり立ちした最初の月のお給料は、毎日のランチをちょっと贅沢してもきちんと貯蓄に回せる額だった。
 
 基本、これより下がることが無いとするなら……。
 
 生活の基盤となる収入としては充足できる見込みが立ったということになる。
 
 
 いよいよ。やっと。スルドを再開することができる。
 
 
 改めて所属したいサンバチームを探すにあたり。
 
 私は要さんに時間を取ってもらっていた。
 あの日、相談したかったこと。確認したかったこと。
 収入源の話から始まって、支出についての話に展開し、異様な安さの家賃への疑問から、事故物件であることが分かったあの日。
 その後相談どころではなくなってしまい、慌ただしく引越しやら仕事探しやら新しい仕事やらで、そのままになってしまっていた、もうひとつの相談事。
 
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