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第六章:「蠢動編」
第十話「後輩ヴィルヘルム」
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統一暦一二〇三年十月十三日。
グライフトゥルム王国王都シュヴェーレンベルク、王立学院。ヴィルヘルム・フォン・ノルトハウゼン
一週間前の模擬戦のレポートを何とか提出した。
今回のレポートは成績には関係ないが、私が願って行われたものであり、真剣に取り組んでいる。
親友であるロベルト・フォルカーと、昨日の休日を潰して作り上げたが、きちんと書けているのか自信がない。
マティアス先輩は一通り目を通して、所感を伝えてくれると言っているので、その結果が出るまで、自分たちの考えが正しいのか、ドキドキし続けることになるだろう。
今日の一限目はロマーヌス・マインホフ教授の戦史の講義であり、講堂に向かっているところだったが、休み明けの朝には出会いたくない人物と顔を合わせてしまう。
その相手は私と首席を争っているエルンスト・フォン・ヴィージンガーだ。彼はマルクトホーフェン侯爵家に属するヴィージンガー子爵家の嫡男で、いつも薄ら笑いのような表情を浮かべ、私に嫌味を言ってくる。
気に入らない奴ではあるが、抜群の記憶力と頭の回転の速さで、座学は断トツの成績を誇っている。と言っても、マティアス先輩のような完璧な成績ではなく、五百点満点中四百八十点台と、去年卒業したラザファム先輩やイリス先輩に劣る。
それを言ったら私は四百六十点台であり、昨年の“恩賜の短剣組”で言えば、最も座学を苦手としていたハルト先輩にすら及ばない。
まあ、あの“世紀末組”と比較すること自体に無理はあるのだが。
「あのレポートは評価に使われないと聞きましたよ。無駄な努力をするものですね」
私が休日返上でレポートを作っていたことをどこかで聞き付け、嫌味を言いに来たようだ。私が伯爵家の嫡男であるため、一応敬語を使ってくるが、敬意などかけらも感じたことはない。
「学院の成績がすべてではないからな。それにあの模擬戦について真面目に考えることが、今後の役に立つとラウシェンバッハ先生はお考えだ。それなら真剣に考えて作るべきだと思っただけだよ」
私の横でロベルトが黙って頷いている。
黙っているのはここで口を開くと、ヴィージンガーが“平民風情が口を挟むな”と言ってくるためだ。
「ラウシェンバッハ先生に取り入っても、首席にはなれませんよ。他の先生に媚を売った方がよいと思いますが。フフフ……」
マティアス先輩は戦術の講義を担当しているが、幸い戦術の成績はヴィージンガーよりいい。だから、苦手な座学の教官に媚びを売った方がいいと言いたいのだろう。
先輩は相談に乗ってはくれるが、媚を売っても依怙贔屓をする人ではないので、そもそもこいつの言っていることに意味はない。
尊敬する先輩を馬鹿にされて腹が立つが、横にいるロベルトが袖を引っ張ったので落ち着きを取り戻す。
そこでヴィージンガーが私を苛立たせようとしていることに気づいた。
うっかりそれに乗りそうになったが、ロベルトのお陰で踏みとどまることができた。
ヴィージンガーは私が苛立ちを見せないため、ロベルトを睨み付けた後、一瞬不満そうな表情を見せてから立ち去った。
「助かったよ、ロベルト」
「ヴィルは見た目より気が短いからな。特にラウシェンバッハ先生やハルト先輩を馬鹿にされるとすぐに切れるから」
そう言って笑っているが、常に冷静な彼のお陰でずいぶん助かっている。
ロベルトは王家直属の騎士爵の次男で、兵学部に入るまで接点はなかった。入学してすぐに互いにマルクトホーフェン侯爵派の奴らに嫌がらせを受けたことから意気投合した。
現在彼は第五席で、このままいけば“恩賜の短剣組”になれる。彼はマティアス先輩のような何でも知っているというタイプではないし、ラザファム先輩のような万能の天才というタイプでもないが、常に冷静で判断ミスがほとんどないので、将来私の参謀になってもらいたいと思っている。
「今日の講義が終わったら、ラウシェンバッハ先生のところに行ってみないか? レポートは出し終えたんだし、先日の模擬戦の話を聞いてみたいからね」
ロベルトは私がヴィージンガーのことで不愉快になっていると思い、気を遣ってくれたようだ。こういった点も一緒にいたい理由だ。
「それはいいな。ラウシェンバッハ先生は忙しいかもしれないが、イリス先輩ならそこまで忙しくないだろう。参謀役として何を助言したのか気になっていたから、行ってみようか」
そんな話をしながら講堂に向かった。
■■■
統一暦一二〇三年十月十三日。
グライフトゥルム王国王都シュヴェーレンベルク、王立学院。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ
午後三時頃、今日の講義が終わり、研究室に戻ってきた。
私の机は数百枚の書類で埋め尽くされ、呆れ顔のイリスに出迎えられる。そして、山積みのレポートを指さした。
「全部回収してきたわよ。それにしてもこれを見るだけでも大変よ。大丈夫なの?」
「レポートを出せと言った手前、すべてに目を通す必要があるからね。まあ成績に関係ないと言ってあるから、手を抜いたものばかりだろうけど」
「チラッと見てみたけど、そんなことないわよ。特に三年生のレポートは結構気合が入っていた気がするわ」
そんな話をしていると、研究室のドアをノックする音が聞こえてきた。
入ってきたのはヴィルヘルム・フォン・ノルトハウゼンと、彼の友人であるロベルト・フォルカーだ。
この二人は大貴族の嫡男と騎士爵の次男だが、対等な友人関係を築いている。初めて見た時、奇跡的な組み合わせだなと思ったことがあった。
そのため、そのことを口にしたが、ヴィルヘルムはその問いに首を傾げていた。
『ラウシェンバッハ先輩やエッフェンベルク先輩は、平民であるイスターツ先輩と親友だと聞きましたが?』
確かにラザファムとハルトムートの関係の方が彼らより身分の差がある。
彼は私たちとハルトムートとの関係を見て、王立学院の兵学部では身分に関係なく付き合うことが当たり前なのだと思ったそうだ。
普段身分のことを考えないのですぐに忘れてしまうが、私としてはいい事例として引き継がれていってほしいと思っている。
そんなことを思い出したが、すぐに用件を聞く。
「何か質問でもあるのかな?」
そう言って近くにあった椅子を目で勧める。
「レポートを出し終わりましたから、先日の模擬戦のことを聞きに来たんです」
ロベルトが机の上にあるレポートの山を見て、少し遠慮気味に言ってきた。これを見るのに忙しくなると思ったのだろう。
「構わないよ。で、どんなことが聞きたいのかな?」
私が水を向けると、ヴィルヘルムがホッとしたような表情を見せる。
「よかった……私が頼んだことで、こんなにも仕事が増えたから、そのことで叱られるんじゃないかと思っていたんですよ」
私が否定する前にイリスが口を挟む。
「それはないわ。第一、レポートのことを言いだしたのはこの人よ。私は大変なことになるから、やめておきなさいと言ったのだけど」
「ラザファム先輩たちがどんな指揮を執るのか、兵学部の学生なら誰もが興味を持ちますから、その程度で諦める学生はいませんよ」
ロベルトがそう言って大きく頷いている。横ではヴィルヘルムも頷いており、ラザファムたちの価値を分かっていなかったのは私だけだったようだ。
「そうでしょ。意外に抜けているのよ、この人は」
笑いながらそういうイリスに、二人がどう反応していいのか戸惑っている。
「具体的には何が聞きたいのかな?」
話題を変えるためにヴィルヘルムに問いかけた。
「ノルトハウゼン騎士団と第二騎士団の最も大きな差はなんでしょうか? 編制や指揮命令系統が違うことは分かるんですが、先生が考える決定的な差とは何か聞きたかったのです」
「一言で言えば、意識の差だね」
「意識の差ですか……」
二人ともよく分からないという表情を浮かべている。
「まず指揮官も兵士も目的を達成するという意識を持つように教育されている。もちろん、ノルトハウゼン騎士団も国や領地を守るという意識はあるだろうけど、第二騎士団は何をすべきかという具体的なイメージを常に持っているんだ」
ロベルトがすぐに疑問を口にする。
「具体的なイメージとは何でしょうか?」
「例えば、訓練一つとっても、他の騎士団ではとりあえず鍛えるという感じのところが多いが、第二騎士団では明確な目標を立てて、それを達成することを目指している。今回の模擬戦でも普段の訓練でさまざまな想定をしているから、指揮官の命令にすぐに反応できた。残念ながら、ノルトハウゼン騎士団の隊長も兵士もそう言った訓練をしていないから想定外に弱い。今回も意表を突かれて反応できず、付け込まれていたね」
二人は“なるほど”と頷いている。
「他にも隊長たちの指揮能力の差もあるね」
「ラザファム先輩たちとバウマン、ダイスラーの差ということですか?」
ヴィルヘルムの問いに大きく頷く。
「その通り。ラズたちは個人の能力も突出しているけど、指揮官としての能力は更に飛びぬけている。実際、シャイデマン男爵の命令を時間差なく実行していたからね。まあ、バウマン男爵たちも決して能力が低いわけではないんだけど、きちんとした教育を受けていない分、差が出た感じだね」
そこでロベルトが話に加わってきた。
「イリス先輩の存在も大きかったと思うのですが」
「いいところに目を付けたね。その点は大きいと思うよ」
そう言って褒めると、ロベルトははにかむような笑みを見せる。
「適切な助言を行える軍師的な存在がいる方がよいということですか?」
ヴィルヘルムが質問してきた。
「軍師的な存在というと語弊があるね。どちらかといえば、指揮官が指揮に集中している時に全体を見て適切に状況を把握し、助言する存在が重要だということだね。指揮官も自分の部下に指示を出している時は視野が狭くなってしまうから。もっとも今回イリスは軍師として作戦を提案していたようだけど」
そんな話を十分ほどしたところで、ヴィルヘルムが立ち上がった。
「今回のことはとても助かりました。お陰で第二騎士団への入団も認めてもらえそうです。ありがとうございました」
そう言って頭を下げた。
グライフトゥルム王国王都シュヴェーレンベルク、王立学院。ヴィルヘルム・フォン・ノルトハウゼン
一週間前の模擬戦のレポートを何とか提出した。
今回のレポートは成績には関係ないが、私が願って行われたものであり、真剣に取り組んでいる。
親友であるロベルト・フォルカーと、昨日の休日を潰して作り上げたが、きちんと書けているのか自信がない。
マティアス先輩は一通り目を通して、所感を伝えてくれると言っているので、その結果が出るまで、自分たちの考えが正しいのか、ドキドキし続けることになるだろう。
今日の一限目はロマーヌス・マインホフ教授の戦史の講義であり、講堂に向かっているところだったが、休み明けの朝には出会いたくない人物と顔を合わせてしまう。
その相手は私と首席を争っているエルンスト・フォン・ヴィージンガーだ。彼はマルクトホーフェン侯爵家に属するヴィージンガー子爵家の嫡男で、いつも薄ら笑いのような表情を浮かべ、私に嫌味を言ってくる。
気に入らない奴ではあるが、抜群の記憶力と頭の回転の速さで、座学は断トツの成績を誇っている。と言っても、マティアス先輩のような完璧な成績ではなく、五百点満点中四百八十点台と、去年卒業したラザファム先輩やイリス先輩に劣る。
それを言ったら私は四百六十点台であり、昨年の“恩賜の短剣組”で言えば、最も座学を苦手としていたハルト先輩にすら及ばない。
まあ、あの“世紀末組”と比較すること自体に無理はあるのだが。
「あのレポートは評価に使われないと聞きましたよ。無駄な努力をするものですね」
私が休日返上でレポートを作っていたことをどこかで聞き付け、嫌味を言いに来たようだ。私が伯爵家の嫡男であるため、一応敬語を使ってくるが、敬意などかけらも感じたことはない。
「学院の成績がすべてではないからな。それにあの模擬戦について真面目に考えることが、今後の役に立つとラウシェンバッハ先生はお考えだ。それなら真剣に考えて作るべきだと思っただけだよ」
私の横でロベルトが黙って頷いている。
黙っているのはここで口を開くと、ヴィージンガーが“平民風情が口を挟むな”と言ってくるためだ。
「ラウシェンバッハ先生に取り入っても、首席にはなれませんよ。他の先生に媚を売った方がよいと思いますが。フフフ……」
マティアス先輩は戦術の講義を担当しているが、幸い戦術の成績はヴィージンガーよりいい。だから、苦手な座学の教官に媚びを売った方がいいと言いたいのだろう。
先輩は相談に乗ってはくれるが、媚を売っても依怙贔屓をする人ではないので、そもそもこいつの言っていることに意味はない。
尊敬する先輩を馬鹿にされて腹が立つが、横にいるロベルトが袖を引っ張ったので落ち着きを取り戻す。
そこでヴィージンガーが私を苛立たせようとしていることに気づいた。
うっかりそれに乗りそうになったが、ロベルトのお陰で踏みとどまることができた。
ヴィージンガーは私が苛立ちを見せないため、ロベルトを睨み付けた後、一瞬不満そうな表情を見せてから立ち去った。
「助かったよ、ロベルト」
「ヴィルは見た目より気が短いからな。特にラウシェンバッハ先生やハルト先輩を馬鹿にされるとすぐに切れるから」
そう言って笑っているが、常に冷静な彼のお陰でずいぶん助かっている。
ロベルトは王家直属の騎士爵の次男で、兵学部に入るまで接点はなかった。入学してすぐに互いにマルクトホーフェン侯爵派の奴らに嫌がらせを受けたことから意気投合した。
現在彼は第五席で、このままいけば“恩賜の短剣組”になれる。彼はマティアス先輩のような何でも知っているというタイプではないし、ラザファム先輩のような万能の天才というタイプでもないが、常に冷静で判断ミスがほとんどないので、将来私の参謀になってもらいたいと思っている。
「今日の講義が終わったら、ラウシェンバッハ先生のところに行ってみないか? レポートは出し終えたんだし、先日の模擬戦の話を聞いてみたいからね」
ロベルトは私がヴィージンガーのことで不愉快になっていると思い、気を遣ってくれたようだ。こういった点も一緒にいたい理由だ。
「それはいいな。ラウシェンバッハ先生は忙しいかもしれないが、イリス先輩ならそこまで忙しくないだろう。参謀役として何を助言したのか気になっていたから、行ってみようか」
そんな話をしながら講堂に向かった。
■■■
統一暦一二〇三年十月十三日。
グライフトゥルム王国王都シュヴェーレンベルク、王立学院。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ
午後三時頃、今日の講義が終わり、研究室に戻ってきた。
私の机は数百枚の書類で埋め尽くされ、呆れ顔のイリスに出迎えられる。そして、山積みのレポートを指さした。
「全部回収してきたわよ。それにしてもこれを見るだけでも大変よ。大丈夫なの?」
「レポートを出せと言った手前、すべてに目を通す必要があるからね。まあ成績に関係ないと言ってあるから、手を抜いたものばかりだろうけど」
「チラッと見てみたけど、そんなことないわよ。特に三年生のレポートは結構気合が入っていた気がするわ」
そんな話をしていると、研究室のドアをノックする音が聞こえてきた。
入ってきたのはヴィルヘルム・フォン・ノルトハウゼンと、彼の友人であるロベルト・フォルカーだ。
この二人は大貴族の嫡男と騎士爵の次男だが、対等な友人関係を築いている。初めて見た時、奇跡的な組み合わせだなと思ったことがあった。
そのため、そのことを口にしたが、ヴィルヘルムはその問いに首を傾げていた。
『ラウシェンバッハ先輩やエッフェンベルク先輩は、平民であるイスターツ先輩と親友だと聞きましたが?』
確かにラザファムとハルトムートの関係の方が彼らより身分の差がある。
彼は私たちとハルトムートとの関係を見て、王立学院の兵学部では身分に関係なく付き合うことが当たり前なのだと思ったそうだ。
普段身分のことを考えないのですぐに忘れてしまうが、私としてはいい事例として引き継がれていってほしいと思っている。
そんなことを思い出したが、すぐに用件を聞く。
「何か質問でもあるのかな?」
そう言って近くにあった椅子を目で勧める。
「レポートを出し終わりましたから、先日の模擬戦のことを聞きに来たんです」
ロベルトが机の上にあるレポートの山を見て、少し遠慮気味に言ってきた。これを見るのに忙しくなると思ったのだろう。
「構わないよ。で、どんなことが聞きたいのかな?」
私が水を向けると、ヴィルヘルムがホッとしたような表情を見せる。
「よかった……私が頼んだことで、こんなにも仕事が増えたから、そのことで叱られるんじゃないかと思っていたんですよ」
私が否定する前にイリスが口を挟む。
「それはないわ。第一、レポートのことを言いだしたのはこの人よ。私は大変なことになるから、やめておきなさいと言ったのだけど」
「ラザファム先輩たちがどんな指揮を執るのか、兵学部の学生なら誰もが興味を持ちますから、その程度で諦める学生はいませんよ」
ロベルトがそう言って大きく頷いている。横ではヴィルヘルムも頷いており、ラザファムたちの価値を分かっていなかったのは私だけだったようだ。
「そうでしょ。意外に抜けているのよ、この人は」
笑いながらそういうイリスに、二人がどう反応していいのか戸惑っている。
「具体的には何が聞きたいのかな?」
話題を変えるためにヴィルヘルムに問いかけた。
「ノルトハウゼン騎士団と第二騎士団の最も大きな差はなんでしょうか? 編制や指揮命令系統が違うことは分かるんですが、先生が考える決定的な差とは何か聞きたかったのです」
「一言で言えば、意識の差だね」
「意識の差ですか……」
二人ともよく分からないという表情を浮かべている。
「まず指揮官も兵士も目的を達成するという意識を持つように教育されている。もちろん、ノルトハウゼン騎士団も国や領地を守るという意識はあるだろうけど、第二騎士団は何をすべきかという具体的なイメージを常に持っているんだ」
ロベルトがすぐに疑問を口にする。
「具体的なイメージとは何でしょうか?」
「例えば、訓練一つとっても、他の騎士団ではとりあえず鍛えるという感じのところが多いが、第二騎士団では明確な目標を立てて、それを達成することを目指している。今回の模擬戦でも普段の訓練でさまざまな想定をしているから、指揮官の命令にすぐに反応できた。残念ながら、ノルトハウゼン騎士団の隊長も兵士もそう言った訓練をしていないから想定外に弱い。今回も意表を突かれて反応できず、付け込まれていたね」
二人は“なるほど”と頷いている。
「他にも隊長たちの指揮能力の差もあるね」
「ラザファム先輩たちとバウマン、ダイスラーの差ということですか?」
ヴィルヘルムの問いに大きく頷く。
「その通り。ラズたちは個人の能力も突出しているけど、指揮官としての能力は更に飛びぬけている。実際、シャイデマン男爵の命令を時間差なく実行していたからね。まあ、バウマン男爵たちも決して能力が低いわけではないんだけど、きちんとした教育を受けていない分、差が出た感じだね」
そこでロベルトが話に加わってきた。
「イリス先輩の存在も大きかったと思うのですが」
「いいところに目を付けたね。その点は大きいと思うよ」
そう言って褒めると、ロベルトははにかむような笑みを見せる。
「適切な助言を行える軍師的な存在がいる方がよいということですか?」
ヴィルヘルムが質問してきた。
「軍師的な存在というと語弊があるね。どちらかといえば、指揮官が指揮に集中している時に全体を見て適切に状況を把握し、助言する存在が重要だということだね。指揮官も自分の部下に指示を出している時は視野が狭くなってしまうから。もっとも今回イリスは軍師として作戦を提案していたようだけど」
そんな話を十分ほどしたところで、ヴィルヘルムが立ち上がった。
「今回のことはとても助かりました。お陰で第二騎士団への入団も認めてもらえそうです。ありがとうございました」
そう言って頭を下げた。
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