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1巻
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◆
一ヶ月間、スキルカードを使い続けた結果、称号欄に〝武王〟、〝大賢者〟、〝聖者〟、〝闇魔導王〟、〝上忍〟という文字が躍っている。
これらの称号を鑑定で確認したが、その記載があまりにぶっ飛んでいた。
武王は武術系スキルを、大賢者は元素系魔術と時空魔術を、聖者は神聖魔術を、闇魔導王は暗黒魔術、上忍は探索系スキルと暗器術を、それぞれ極めた達人とあった。これらの称号には固有スキルが存在し、更に戦闘力を押し上げているのだ。
レベルが一なのに、これほどの称号を得ていいのかと思わないでもない。
武器のスキルに関しては結構悩んだ。最終的には竜と相談し、伝説の武器のバリエーションが多いものを選んでいる。魔術はとりあえずすべて覚え、軒並みレベルがマックスになっているが、今のところ実感はない。まだ生活魔術しか使ったことがないためだ。
その生活魔術は、なかなか役に立っている。
特に〝清潔〟は身体を清潔に保つ上で気に入っていた。魔導具の簡易シャワーはあるものの、せっけんやシャンプーがなく、いまいちスッキリした気にならなかったのだ。
そして他の魔術についてだが、今まで生活魔術しか使っていないのには理由があった。
俺自身のレベルが低く、魔力保有量が少ないからだ。一応、鑑定で調べると必要魔力量は分かるのだが、その調整方法が分からない。
『魔力など気にして使ったことはないの』
竜に聞いてみてもあまり役に立たなかった。
鑑定で魔力切れを調べると、MPがゼロになると意識を失い、最悪の場合、精神に傷を負うとあった。そのため、充分な魔力量を持つようになってから使うことになったのだ。
安全マージンを取り過ぎという気がしないでもないが、僅かなリスクも排除したいという竜の意向を酌んだ形だ。
スキルをカンストさせたので、それに合った装備を整える。今まで装備を整えなかったのも安全を優先したからだ。竜が出すアイテムは破格の性能の物が多い。というより、迷宮の深いところでのみドロップする希少なアイテムしか出せないらしい。
『階層によって出せるアイテムに制限が掛けられておってな。そのせいでそなたには強過ぎるものしか出せぬのじゃ』
強力な武器を扱う場合、充分にスキルを上げてからでないと、思わぬ事故が起きる。例えば、炎を飛ばすことができる武器の場合、間違って自分に当たったら、そのまま死ぬ可能性がある。
もっとも俺の場合、既に即死無効のスキルがあるから即死することはないのだが、この無効系のスキルも万能ではなく、本人のレベルが低いと効かないことがあるため、注意が必要だそうだ。
『まずは武器からじゃ。くれぐれも扱いには注意するのだぞ』
その直後に宝箱が現れる。今までの物より大きめの箱で、幅が一メートルほどある。
箱を開けると、そこには鈍い銀色をした両刃の剣があった。
『竜殺しの剣じゃ。名は〝狂気〟。素材はオリハルコンじゃの』
「……」
突っ込みどころがあり過ぎ、目が点になる。
『不服か?』
「いや、最初から凄過ぎて驚いているだけだ……」
そう答えるが、その後に独り言が口をつく。
「……確かに目的から言ったらドラゴンスレイヤーが最適だとは思うが、〝狂気〟という名が不吉過ぎる……それにいきなりオリハルコンが出てくるとはな……」
そう言いながらも、俺は慎重に剣を箱から取り出す。
長さは約一メートルで刃渡りは八十センチほど。鍔は十字型の長剣だ。柄頭には鮮血のような真っ赤な宝石がはめられている。
宝箱の中では鈍い銀色に見えたが、取り出してみると、金属というより少し透明感のある石のような質感だった。慎重に刃部分を触ると仄かに温かい。
箱の中には鞘もあった。鞘は金色に輝き、宝石がちりばめられている。剣を鞘に納めると、柄頭の宝石と相まって〝宝剣〟という言葉が頭に浮かぶほどだ。
『鑑定すれば分かると思うが、魔力を注ぐと切れ味が増すらしいの。魔術との相性もよいようじゃし、まずはこれでよかろう』
「まずはということは、これ以上の剣があるのか?」
『無論じゃ。それは訓練用の剣に過ぎぬ。それで我を斬りつけても、傷すら付かずに折れるだけじゃろう』
オリハルコンの剣でも歯が立たないなら何があるのだと言いたくなるが、竜は俺の疑問を無視して次の箱を出してきた。
『次は防具じゃ。まだ重いものは装備できぬじゃろうから、軽そうなものを見繕っておいた』
宝箱を開けると、そこにはシンプルな全身鎧があった。ヘルメットはフルフェイスではなく、オープンタイプで、天辺に角のような飾りがある。
『ミスリル製で重量軽減の魔法陣が描かれておる。着け方は分かるな』
「ああ、多分大丈夫だ」
上位鑑定を使うと、細かい解説まで出てくるようになっている。それも説明書のように、脱着の仕方から手入れの方法、取り扱いの注意点などが頭の中に浮かんでくるのだ。
軽量化の魔術が掛けられているためか、紙でできたハリボテを持っていると錯覚するほど軽い。もちろん本物の鎧なんて持ったことがないから、鋼鉄製の鎧とどれくらいの差があるのかは分からないが、鑑定ではその魔術で重量が三分の一になっているとあった。
また、着用者の体格に合うように自動調整機能も付いているらしい。
他にも鎧の下に着る鎧下、靴下や手袋なども出してもらい、装備していく。
最初は戸惑ったものの、何度か着脱するうちに要領を掴んだ。
『よく似合うではないか』
竜が楽しげな思念を送ってくる。それに少しポーズを取って応えるが、すぐに気を引き締め直す。
「装備を付けたら、いよいよ実戦か?」
『その通りじゃ。我が召喚する魔物と戦ってもらう。最初は我が召喚できる最も弱い魔物のうち、特殊な攻撃をせぬものを用意する。その武器と防具、そしてそなたのスキルがあれば、倒すことは容易いはずじゃ』
そう言われるが、もうかれこれ四十日ほど、しかも四六時中一緒にいるので、この竜が意外に抜けていることも分かっている。
「簡単かどうかは分からないが、やらなくちゃならないんだろ」
『安心せよ。まずは我が、瀕死の状態にまで持っていく。その止めを刺すだけでよい』
同士討ちで援護してくれるようだ。
「それなら安心だな」と言うと、竜は『では始めるぞ、よいな』と念を押してきた。それに大きく頷くと、剣を引き抜き、中段に構える。
その直後、俺と竜との間に光の粒子が生まれ、人影らしき形に徐々に集束していく。
それとの距離は二十メートルほど。現れたのは牛頭の屈強な戦士で、身長はこの距離でも思わず見上げそうになるほど高く、俺の倍ほどに見える。そして、その手には不気味に煌めく巨大な戦斧が握られていた。
『牛頭勇者じゃ。レベルは僅か四百五十しかない』
竜の思念が飛んでくるが、俺は恐怖のあまり答えることができない。圧倒的な強者からの強い殺意を受け、膝ががくがくと震えていた。
『恐れずともよい。我が許さねば、そこから動くことすらできぬのじゃから』
そう言った直後、竜はブレスを放った。
「ブモォォォ!」という苦しげな叫び声が響く。ミノタウロスは背中にブレスを受け、真っ赤な炎に包まれている。まさにフレンドリー〝ファイア〟だ。
ブレスを受けたミノタウロスは膝を突き、頭から床に倒れていく。まだ意識はあるようで、その虚ろな目には〝なぜ?〟という疑問が浮かんでいるように見えた。
『何を呆けておる。その者は瀕死の状態じゃ。早くせねばそのまま死んでしまうではないか。早う剣を突き立てよ』
その言葉に俺は慌てて走り寄り、突っ伏したままのミノタウロスに剣を突き立てる。オリハルコンの長剣は何の抵抗もなくミノタウロスの背中に吸い込まれた。
「ブモォォォ……」という悲しみに満ちた切ない鳴き声と共に、その巨体は光の粒子に戻っていった。
だが完全にその姿が消えた瞬間、俺の身体の内部から猛烈な痛みが湧き上がる。
「うあぁぁぁ!」と思わず叫び、その場で転げ回る。
頭の中が掻き回され、筋肉をねじ切り、骨の形を無理やり変えようとするかのような力が加わっていた。胃の中の物を撒き散らして叫び続けることしかできなかった。
『ゴウよ! どうしたのじゃ! 何が起きておる!』
そんな竜の思念が聞こえた気がしたが、それに答える余裕などない。永遠とも一瞬とも分からない時間が過ぎる。
やがて、痛みは唐突に消えた。
「何が起きたんだ……」
『大丈夫なのか……何が起きたのじゃ?』
「分からない……身体が引きちぎられるかと思った……」
造水の魔術で水を作って口を濯ぐ。それで少し落ち着いた。
『うむ。レベルアップは上手くいったようじゃな』
竜は何事もなかったかのように話題を変えてきた。
こんなことになるなら先に言ってほしかったが、恐らく知らなかったのだろうと思い、「ああ」と言いながら俺はステータスを確認する。
驚いたことに、レベルは一気に三百三にまで上がっていた。
さらにステータスを確認したところで、しばし言葉を失う。そして俺は何度も確認し、見間違いでないと確信した後、竜に声を掛けた。
「運以外のステータスが軒並み四千くらいになっているんだが……何かの間違いか?」
『……』
俺の問いに竜は黙り込む。
「シーカーの平均的な能力は、千を超えるかどうかという話だったが、いきなり四千だ。どういうことなんだ?」
再度問うと、絞り出すような思念が届く。
『……うむ。平均的というところを取り違えたのかもしれぬが、分からぬな……流れ人が特別なのか、称号が影響しておるのか……いずれにせよ、よいではないか! これで我を倒し、外に出られる可能性は高まったのじゃから!』
最後は悪びれずにそう言い切った。言っていることに間違いはないが、こいつを信じていいのかと不安が募り、思わずジト目で見てしまった。
『うむ。我にも知らぬことが多々あるということじゃ。まあ、時間は充分にある。安全第一でやってゆけばよい。そうは思わぬか?』
何となくこちらを宥めるような口調だ。
「まあ、そうだな。……うん? 何か落ちているぞ」
ふと見ると、ミノタウロスチャンピオンが消滅した場所に、深紅の宝石らしきものと、皮膜のようなもので包まれた塊が落ちていた。
『魔力結晶とドロップアイテムじゃな』
マナクリスタルは文字通り魔力の結晶で、この世界のエネルギー源となるものだ。
落ちていたマナクリスタルは直径五センチほどあり、強い魔力を感じる。
それを拾い、続いてドロップアイテムを手に取った。ずっしりと重いが柔らかい感触がある。
「これは! もしかして肉なのか!」
重さは十キロ近いが、強化された俺は片手で軽々と持ち上げられる。
ビニールのような皮膜を開いていくと、赤い血が滴る牛肉の塊だった。
「おおお! これであの実以外の物が食える……ようやく……ああ……」
思わず涙が溢れ、頬を流れていく。それほど食い物に飢えていたのだ。
『まずはそれを収納空間の中に入れておくのじゃ。まだまだ訓練を続けるからの』
竜は冷酷にも訓練を続けろと言ってきた。だが、俺は断固拒否する。
「いや、まずは肉だ! こいつを食うまで何もせんぞ!」
突然そんな声を上げた俺を、竜は宥めに掛かってくる。
『まだ腹は減っておらんのじゃろう? アイテムボックスに保管しておけばよいではないか』
アイテムボックスは時空魔術で覚えた収納魔術だ。俺の場合、ほぼ無限の収納能力を持ち、時間も止められる。こいつの言う通り、腐らないから別に後でも問題ないのだが、俺の魂が肉を食わせろと叫んでおり、それに従うしかない。
「駄目だ! 肉を食わねばならんのだ!」
俺の宣言に竜も諦めたらしい。
『仕方がないの。では、存分に食え』
俺は満面の笑みで頷き、料理の用意をしようとした。
しかし、そこで調理器具や調味料がないことに気づき、絶望する。
「焼けない……塩すら持っていない……」
魔術を使えば、焼くことは可能だと思うが、生活魔術しか使ったことがなく、火加減をうまく調節できる自信がない。このまま肉を前にして何もできないのかと己の無力さに涙が出てきた。
俺の顔を見て同情したのか、竜は宝箱を出してくれた。
『まったく、泣くほどのことかの……焼くだけでよいなら、それを使え』
開けてみると、先ほどミノタウロスチャンピオンが持っていたような、巨大な両刃の戦斧が入っていた。
『熱戦斧じゃ。魔力を通せば、斧の刃の部分が熱を帯びる。それで焼けばよいじゃろう』
刃の部分は幅六十センチ、刃渡り三十センチほどあり、一人焼肉なら充分に可能な大きさだ。更に鑑定で確認すると、温度調節も可能らしい。
俺は「助かる!」と礼を言って、嬉々として調理を再開する。
ミスリルの盾を俎板代わりにし、アダマンタイトの投擲剣で肉を切っていく。
この投擲剣は刃渡り十五センチほどだが、切れ味が上がる補正がついており、巨大な肉の塊を簡単に捌くことができた。
肉をステーキ用の厚さに切り終え、いよいよ焼く段階に入った。
通す魔力の量で調節はできるものの、鋼鉄を溶断するほどの温度まで上げられるためか、魔力を小まめに調節してもなかなか適温にならない。
「なかなか難しいな……」
そう言いながらも、四十日ぶりに肉が食えることに、鼻歌が出そうになるくらい気分がいい。
上機嫌で脂身の部分を使って温度を確認していく。牛脂が焼ける香りが鼻をくすぐり、食欲を猛烈に刺激する。
「そろそろいけるな! それにしても美味そうだ」
ミノタウロスチャンピオンの肉は和牛のサーロインのような〝さし〟の入ったものでなく、肩肉やランプのような赤身だった。赤身と言っても適度に脂は入っているのか、表面は艶やかだ。
熱したヒートバトルアックスの刃に肉を置いた瞬間〝ジュウ!〟という音が迷宮に響く。その直後、肉と脂の焼ける香ばしい匂いに包まれ、魂が蕩けていく感じがした。
「しあわせだ……」と思わず呟くほど香しいが、
(まだだ……まだ焼きが足りない……もう少し我慢するんだ……)
早くひっくり返したい気持ちを抑えながら、表面の色が変わり始めるのを待つ。
「よし、今だ!」と声に出し、箸を使ってひっくり返す。
熱していた面はしっかりとした焼き色に変わり、ところどころに適度な焦げがある。その色を見ただけでも、湧き上がってくる涎が止まらない。
ちなみに使っている箸は、暗器用の太針だ。長さは二十センチほどで、当然先端は鋭く尖っているから口に刺さる可能性がある。
しかし、俺には物理攻撃無効のスキルがあるから問題はないし、仮に頬を突き抜けたとしても、肉を食うという行為をやめるという選択肢はなかった。
程よく焼けたところで投擲剣を使って少し切り、焼き加減を確認する。
中はロゼ色でミディアムからウェルダンに近い感じだ。赤身の肉はこのくらい焼いた方が好みなのでちょうどいい。
ヒートバトルアックスの温度を最低に下げ、保温状態にする。食べている間に焼け過ぎてしまうことを防ぐためだ。
その状態で肉を切っていく。ロゼ色のミノタウロス肉から透明な肉汁が滴り、斧の刃に流れる。
「じゅる……」と思わず涎が垂れる。
切った肉を太針の箸で口に運ぶ。その間にも肉の香ばしく、甘い匂いが俺の食欲をこれでもかと刺激し続けていた。この食欲に対しては〝異常状態無効〟のスキルも効かないらしい。
待ちに待った肉を一気に口に放り込む。
その瞬間、旨味成分であるイノシン酸が口の中で爆発する。脂を感じた舌から、脳に直接ドーパミンが放出されるかのような錯覚と多幸感が俺を包み込む。
もぐもぐと噛み締めると、涙が自然と零れてきた。
「美味い……肉ってこんなに美味かったんだな……ぐすっ……」
涙を拭くことなく、時々鼻をすすりながら、一心不乱に肉を食った。
『まるで人が変わったようじゃの』
竜が冷ややかな目で見ながらそう言ってきたが、俺はそれを無視して三枚のステーキを平らげた。
◆
ゴウのステータスが異常に高い理由は、竜の勘違いによるものだ。
一般的なヒュームのレベル一での能力値は高くても十五、平均で五程度である。能力の実で初期値が平均の二十倍近くもあり、更に称号による補正が加わったことから、レベルアップにより人族最強の能力をあっさりと凌駕してしまったのだ。
これは竜の勘違いが良い方向に作用した一例と言えるだろう。
続いてゴウに倒された牛頭勇者だが、物理攻撃、魔術攻撃のいずれに対しても耐性を持ち、更には武術も極めたミノタウロス系の最強種である。
討伐時にドロップする肉は繊細な肉質と上品な脂を持ち、魔物系の食材では最高峰との呼び声も高い。オークキング、ブラックコカトリスと並び、三大魔物肉と言われる幻の食材だ。
市場に出回ることはほとんどなく、国王ですら味わえないほど貴重な食材である。仮に出回ったとすれば、一キロ一万ソル、百万円以上の値が付くことは間違いない。
そしてその肉を調理した熱戦斧は、かつて悪魔の王フォルファクスが愛用した〝マラクス〟と同種の武器である。
フォルファクスは二千年ほど前に実在した悪魔で、数十万の魔物を率い、大陸の半分を支配した。ハイヒュームを中心とした人族の連合軍が決死の覚悟で挑んだが、多くの犠牲を払ったにもかかわらず倒すことができなかったほど強力で、当時の人族はただ恐怖に震えるしかなかった。
だが幸運なことに、増長したフォルファクスが始祖竜、つまりゴウの目の前にいる竜に挑んで自滅したため、人族は滅亡を免れることができた。
そんないわくつきの武器で、肉を焼いた。もし、悪魔の王フォルファクスがこの光景を見たなら、どのような想いを抱いただろうか。
幸いなことに二人はそのことに気づいていなかった。
◆
この迷宮に迷い込んでから一年の時が流れた。
ミノタウロスチャンピオンを倒して急速なレベルアップを果たした後、俺は同じような方法でレベルを上げていった。
竜が召喚する魔物は徐々に強くなったが、俺のレベルも上がり続け、現在では九百五十に達している。
レベルが上がったことでいろいろな影響があった。
一番大きなことは、俺が人間をやめたことだろう。
この世界に来た当初、俺の種族は〝普人族(異世界種)〟というものだった。
それがレベル五百で〝神人族(異世界種)〟に進化し、更にレベル八百で〝半神〟になったのだ。
その名の通り半分神様というおかしなことになっており、自分でも呆れている。
この〝半神〟を鑑定で見てみると、以下のような説明があった。
〝上位種族の限界を突破した者。寿命はなく、神に近い能力を持ち、神ですら直接滅することはできない。但し、同格の半神による攻撃は通じるため、完全な不死というわけではない……〟
同じ半神というと、目の前にいる竜がそれにあたる。
竜に話を聞くと、最初から〝半神〟だったそうだ。他にいるかと問うと、
『我に匹敵する者はおらぬが、我を傷つけられる者は数名おったはずじゃ。まあ、そのほとんどが竜種、すなわち我の眷属じゃがな。我としては、人族であってもこの階層に来られるほど強くなれば、我に挑むことはできると思っておったのだが、まさか種族そのものに成長限界があるとは。盲点であったな……』
ヒュームの限界レベルは五百、ハイヒュームは八百だったのだが、俺は特殊スキルにある〝限界突破〟の効果でそれを突破できたらしい。
限界突破を鑑定で見てみると、〝レベル差が百以上の敵を倒す。複数人で戦った場合は、そのうち最も強い者と敵のレベル差が百以上であること〟というのが取得条件らしい。
普通に戦っていたら、レベル差が百以上もある相手に勝つことはまず不可能なため、種族限界に引っかかる。一般的なヒュームのシーカーであれば、実力にかかわらず五百階層付近が限界ということになるのだ。竜はそのことを知らずにいたらしい。
ちなみに、レベルが高くなるとレベルアップが極端に難しくなる。上位種族になると更にそれが顕著になった。そのことを如実に表しているのが、レベルアップに掛かった時間の内訳だ。
レベル五百までは最初の戦闘から十日も掛からなかったが、そこからレベル八百までは一ヶ月半掛かっている。また、八百から九百までは三ヶ月で、九百から九百五十まで上げるのに半年近い日数を要した。
今では十日間戦い続けても、レベルが一つ上がるかどうかというところまで来ている。
レベルが高くなって必要経験値が増えたこともあるが、それ以上に敵が相対的に弱くなったことが原因だった。この迷宮には、レベル八百を超える存在はラスボスである竜しかおらず、格下相手に数をこなしているというのが現状なのだ。
とはいえ、その甲斐あって各能力値は一千二百万以上というバカげた数字になっている。今の能力ならレベル四百五十のミノタウロスチャンピオンに攻撃されても傷すらつかず、目を瞑っていても瞬殺できる。
以前竜が言っていた、人族の平均能力の話は何だったのかという気がしないでもないが、これほど強くなっても、ステータス的には竜と何とか戦えるといったレベルらしい。
『特殊スキルというものがどの程度の効果を発揮するかじゃな。それによっては我を倒すことも可能じゃろう……』
限界突破のスキルもそうだが、これまでに特殊スキルを大量に取得している。
レベルや能力値が上がると勝手に取得するものもあるが、特殊な条件でしか取得できないものが多い。
例えば〝一撃必殺〟は〝百回連続で敵を一撃で倒す〟というのが取得条件だ。俺の場合、レベル上げのために竜が〝同士討ち〟で弱らせてくれた敵に止めを刺していたから取得できたに過ぎない。
その効果は〝クリティカルヒット率の向上〟とあり、五パーセント以下だったクリティカル率が二十五パーセントまで上がっている。
他にも〝勇猛果敢〟は〝自らよりレベルが高い相手に対し、百回連続で勝利〟という取得条件で、効果も〝レベルが高い相手に対し、攻撃力と防御力が上昇する〟と、竜との戦いでも効果が期待できる。
武器や防具もすべて最高の物を揃えた。
武器は聖剣〝アスカロン〟で、刃渡り一メートル二十センチ、十字型の鍔を持つシンプルな形の大型剣だ。本来なら両手で使うものだが、俺のステータスなら片手で扱える。
これも〝ドラゴンスレイヤー〟であり、竜種に対して攻撃力が倍増する点が、選んだ理由だ。
防具は竜鱗のフルプレートアーマー。黒曜石のように光沢のある黒で、俺のような日本人のおっさんではなく、白人の偉丈夫が身に着けたらいかにも英雄といった感じになるだろう。
ちなみにこれに使われている鱗は始祖竜、すなわち目の前にいる竜のもので、名前もそのまま〝始祖竜の鎧〟だ。すべての竜のブレスを無効化できる性能を持つ。
盾はオーソドックスな形の凧型盾で、〝戦神の盾〟という名が付いている。不壊の加護があり、どれほど強力な攻撃を受けても壊れることはない。
他にも能力値を底上げするアイテムを装備し、ほとんどのステータスは竜を凌駕した。
だが竜のレベルは千三十四。俺より八十以上高い。
生命力も俺の二億五千万に対し、六倍の十五億を超えている。
これだけの差があるが、俺は今日、竜と戦う。
理由としては、一つにはレベルアップの効率が落ち、このままレベルアップの作業を続けたとしても、一年後でもレベルは五つしか上がらず、十年後でも今より八か九しか上がらないと予想されたからだ。これは今までバッテリーを温存していたタブレットを起動し、表計算ソフトを使って計算した結果なので、精度は高い。
そしてそれ以上に、俺のストレスが限界に達していることが大きかった。率直に言って、味つけがない単調な食事が続くことに我慢できなくなったのだ。
食事はミノタウロスチャンピオンの肉の他に、鶏肉に近いコカトリスの肉などが手に入る。素材は上質なのだが、問題は調味料が一切ないということだ。
能力の実や、肉から滴り落ちる血などを使っていろいろ試してみたが、塩分や甘みなどを手に入れることができず、結局味を変えることはできなかった。
たかが味が変わらないだけでと思うかもしれないが、そのストレスは日に日に強まり、一年という区切りの日にイチかバチか試してみるというところまで、精神的に追い詰められていた。
もちろん、こんなところに千年以上いる竜の方が強い苦痛を感じていることは理解している。
だがそのことを正直に話すと竜は、最初こそ反対したが、自分自身も同じ苦痛を味わっていることから、最後には折れてくれた。
『仕方がなかろう。我も同じ苦しみを知っておるのだから否とは言えぬ……』
準備を整え、最後の会話を行う。どちらが勝っても、もう片方は命を落とす。ここで話しておかないと、二度と機会は巡ってこない。
一ヶ月間、スキルカードを使い続けた結果、称号欄に〝武王〟、〝大賢者〟、〝聖者〟、〝闇魔導王〟、〝上忍〟という文字が躍っている。
これらの称号を鑑定で確認したが、その記載があまりにぶっ飛んでいた。
武王は武術系スキルを、大賢者は元素系魔術と時空魔術を、聖者は神聖魔術を、闇魔導王は暗黒魔術、上忍は探索系スキルと暗器術を、それぞれ極めた達人とあった。これらの称号には固有スキルが存在し、更に戦闘力を押し上げているのだ。
レベルが一なのに、これほどの称号を得ていいのかと思わないでもない。
武器のスキルに関しては結構悩んだ。最終的には竜と相談し、伝説の武器のバリエーションが多いものを選んでいる。魔術はとりあえずすべて覚え、軒並みレベルがマックスになっているが、今のところ実感はない。まだ生活魔術しか使ったことがないためだ。
その生活魔術は、なかなか役に立っている。
特に〝清潔〟は身体を清潔に保つ上で気に入っていた。魔導具の簡易シャワーはあるものの、せっけんやシャンプーがなく、いまいちスッキリした気にならなかったのだ。
そして他の魔術についてだが、今まで生活魔術しか使っていないのには理由があった。
俺自身のレベルが低く、魔力保有量が少ないからだ。一応、鑑定で調べると必要魔力量は分かるのだが、その調整方法が分からない。
『魔力など気にして使ったことはないの』
竜に聞いてみてもあまり役に立たなかった。
鑑定で魔力切れを調べると、MPがゼロになると意識を失い、最悪の場合、精神に傷を負うとあった。そのため、充分な魔力量を持つようになってから使うことになったのだ。
安全マージンを取り過ぎという気がしないでもないが、僅かなリスクも排除したいという竜の意向を酌んだ形だ。
スキルをカンストさせたので、それに合った装備を整える。今まで装備を整えなかったのも安全を優先したからだ。竜が出すアイテムは破格の性能の物が多い。というより、迷宮の深いところでのみドロップする希少なアイテムしか出せないらしい。
『階層によって出せるアイテムに制限が掛けられておってな。そのせいでそなたには強過ぎるものしか出せぬのじゃ』
強力な武器を扱う場合、充分にスキルを上げてからでないと、思わぬ事故が起きる。例えば、炎を飛ばすことができる武器の場合、間違って自分に当たったら、そのまま死ぬ可能性がある。
もっとも俺の場合、既に即死無効のスキルがあるから即死することはないのだが、この無効系のスキルも万能ではなく、本人のレベルが低いと効かないことがあるため、注意が必要だそうだ。
『まずは武器からじゃ。くれぐれも扱いには注意するのだぞ』
その直後に宝箱が現れる。今までの物より大きめの箱で、幅が一メートルほどある。
箱を開けると、そこには鈍い銀色をした両刃の剣があった。
『竜殺しの剣じゃ。名は〝狂気〟。素材はオリハルコンじゃの』
「……」
突っ込みどころがあり過ぎ、目が点になる。
『不服か?』
「いや、最初から凄過ぎて驚いているだけだ……」
そう答えるが、その後に独り言が口をつく。
「……確かに目的から言ったらドラゴンスレイヤーが最適だとは思うが、〝狂気〟という名が不吉過ぎる……それにいきなりオリハルコンが出てくるとはな……」
そう言いながらも、俺は慎重に剣を箱から取り出す。
長さは約一メートルで刃渡りは八十センチほど。鍔は十字型の長剣だ。柄頭には鮮血のような真っ赤な宝石がはめられている。
宝箱の中では鈍い銀色に見えたが、取り出してみると、金属というより少し透明感のある石のような質感だった。慎重に刃部分を触ると仄かに温かい。
箱の中には鞘もあった。鞘は金色に輝き、宝石がちりばめられている。剣を鞘に納めると、柄頭の宝石と相まって〝宝剣〟という言葉が頭に浮かぶほどだ。
『鑑定すれば分かると思うが、魔力を注ぐと切れ味が増すらしいの。魔術との相性もよいようじゃし、まずはこれでよかろう』
「まずはということは、これ以上の剣があるのか?」
『無論じゃ。それは訓練用の剣に過ぎぬ。それで我を斬りつけても、傷すら付かずに折れるだけじゃろう』
オリハルコンの剣でも歯が立たないなら何があるのだと言いたくなるが、竜は俺の疑問を無視して次の箱を出してきた。
『次は防具じゃ。まだ重いものは装備できぬじゃろうから、軽そうなものを見繕っておいた』
宝箱を開けると、そこにはシンプルな全身鎧があった。ヘルメットはフルフェイスではなく、オープンタイプで、天辺に角のような飾りがある。
『ミスリル製で重量軽減の魔法陣が描かれておる。着け方は分かるな』
「ああ、多分大丈夫だ」
上位鑑定を使うと、細かい解説まで出てくるようになっている。それも説明書のように、脱着の仕方から手入れの方法、取り扱いの注意点などが頭の中に浮かんでくるのだ。
軽量化の魔術が掛けられているためか、紙でできたハリボテを持っていると錯覚するほど軽い。もちろん本物の鎧なんて持ったことがないから、鋼鉄製の鎧とどれくらいの差があるのかは分からないが、鑑定ではその魔術で重量が三分の一になっているとあった。
また、着用者の体格に合うように自動調整機能も付いているらしい。
他にも鎧の下に着る鎧下、靴下や手袋なども出してもらい、装備していく。
最初は戸惑ったものの、何度か着脱するうちに要領を掴んだ。
『よく似合うではないか』
竜が楽しげな思念を送ってくる。それに少しポーズを取って応えるが、すぐに気を引き締め直す。
「装備を付けたら、いよいよ実戦か?」
『その通りじゃ。我が召喚する魔物と戦ってもらう。最初は我が召喚できる最も弱い魔物のうち、特殊な攻撃をせぬものを用意する。その武器と防具、そしてそなたのスキルがあれば、倒すことは容易いはずじゃ』
そう言われるが、もうかれこれ四十日ほど、しかも四六時中一緒にいるので、この竜が意外に抜けていることも分かっている。
「簡単かどうかは分からないが、やらなくちゃならないんだろ」
『安心せよ。まずは我が、瀕死の状態にまで持っていく。その止めを刺すだけでよい』
同士討ちで援護してくれるようだ。
「それなら安心だな」と言うと、竜は『では始めるぞ、よいな』と念を押してきた。それに大きく頷くと、剣を引き抜き、中段に構える。
その直後、俺と竜との間に光の粒子が生まれ、人影らしき形に徐々に集束していく。
それとの距離は二十メートルほど。現れたのは牛頭の屈強な戦士で、身長はこの距離でも思わず見上げそうになるほど高く、俺の倍ほどに見える。そして、その手には不気味に煌めく巨大な戦斧が握られていた。
『牛頭勇者じゃ。レベルは僅か四百五十しかない』
竜の思念が飛んでくるが、俺は恐怖のあまり答えることができない。圧倒的な強者からの強い殺意を受け、膝ががくがくと震えていた。
『恐れずともよい。我が許さねば、そこから動くことすらできぬのじゃから』
そう言った直後、竜はブレスを放った。
「ブモォォォ!」という苦しげな叫び声が響く。ミノタウロスは背中にブレスを受け、真っ赤な炎に包まれている。まさにフレンドリー〝ファイア〟だ。
ブレスを受けたミノタウロスは膝を突き、頭から床に倒れていく。まだ意識はあるようで、その虚ろな目には〝なぜ?〟という疑問が浮かんでいるように見えた。
『何を呆けておる。その者は瀕死の状態じゃ。早くせねばそのまま死んでしまうではないか。早う剣を突き立てよ』
その言葉に俺は慌てて走り寄り、突っ伏したままのミノタウロスに剣を突き立てる。オリハルコンの長剣は何の抵抗もなくミノタウロスの背中に吸い込まれた。
「ブモォォォ……」という悲しみに満ちた切ない鳴き声と共に、その巨体は光の粒子に戻っていった。
だが完全にその姿が消えた瞬間、俺の身体の内部から猛烈な痛みが湧き上がる。
「うあぁぁぁ!」と思わず叫び、その場で転げ回る。
頭の中が掻き回され、筋肉をねじ切り、骨の形を無理やり変えようとするかのような力が加わっていた。胃の中の物を撒き散らして叫び続けることしかできなかった。
『ゴウよ! どうしたのじゃ! 何が起きておる!』
そんな竜の思念が聞こえた気がしたが、それに答える余裕などない。永遠とも一瞬とも分からない時間が過ぎる。
やがて、痛みは唐突に消えた。
「何が起きたんだ……」
『大丈夫なのか……何が起きたのじゃ?』
「分からない……身体が引きちぎられるかと思った……」
造水の魔術で水を作って口を濯ぐ。それで少し落ち着いた。
『うむ。レベルアップは上手くいったようじゃな』
竜は何事もなかったかのように話題を変えてきた。
こんなことになるなら先に言ってほしかったが、恐らく知らなかったのだろうと思い、「ああ」と言いながら俺はステータスを確認する。
驚いたことに、レベルは一気に三百三にまで上がっていた。
さらにステータスを確認したところで、しばし言葉を失う。そして俺は何度も確認し、見間違いでないと確信した後、竜に声を掛けた。
「運以外のステータスが軒並み四千くらいになっているんだが……何かの間違いか?」
『……』
俺の問いに竜は黙り込む。
「シーカーの平均的な能力は、千を超えるかどうかという話だったが、いきなり四千だ。どういうことなんだ?」
再度問うと、絞り出すような思念が届く。
『……うむ。平均的というところを取り違えたのかもしれぬが、分からぬな……流れ人が特別なのか、称号が影響しておるのか……いずれにせよ、よいではないか! これで我を倒し、外に出られる可能性は高まったのじゃから!』
最後は悪びれずにそう言い切った。言っていることに間違いはないが、こいつを信じていいのかと不安が募り、思わずジト目で見てしまった。
『うむ。我にも知らぬことが多々あるということじゃ。まあ、時間は充分にある。安全第一でやってゆけばよい。そうは思わぬか?』
何となくこちらを宥めるような口調だ。
「まあ、そうだな。……うん? 何か落ちているぞ」
ふと見ると、ミノタウロスチャンピオンが消滅した場所に、深紅の宝石らしきものと、皮膜のようなもので包まれた塊が落ちていた。
『魔力結晶とドロップアイテムじゃな』
マナクリスタルは文字通り魔力の結晶で、この世界のエネルギー源となるものだ。
落ちていたマナクリスタルは直径五センチほどあり、強い魔力を感じる。
それを拾い、続いてドロップアイテムを手に取った。ずっしりと重いが柔らかい感触がある。
「これは! もしかして肉なのか!」
重さは十キロ近いが、強化された俺は片手で軽々と持ち上げられる。
ビニールのような皮膜を開いていくと、赤い血が滴る牛肉の塊だった。
「おおお! これであの実以外の物が食える……ようやく……ああ……」
思わず涙が溢れ、頬を流れていく。それほど食い物に飢えていたのだ。
『まずはそれを収納空間の中に入れておくのじゃ。まだまだ訓練を続けるからの』
竜は冷酷にも訓練を続けろと言ってきた。だが、俺は断固拒否する。
「いや、まずは肉だ! こいつを食うまで何もせんぞ!」
突然そんな声を上げた俺を、竜は宥めに掛かってくる。
『まだ腹は減っておらんのじゃろう? アイテムボックスに保管しておけばよいではないか』
アイテムボックスは時空魔術で覚えた収納魔術だ。俺の場合、ほぼ無限の収納能力を持ち、時間も止められる。こいつの言う通り、腐らないから別に後でも問題ないのだが、俺の魂が肉を食わせろと叫んでおり、それに従うしかない。
「駄目だ! 肉を食わねばならんのだ!」
俺の宣言に竜も諦めたらしい。
『仕方がないの。では、存分に食え』
俺は満面の笑みで頷き、料理の用意をしようとした。
しかし、そこで調理器具や調味料がないことに気づき、絶望する。
「焼けない……塩すら持っていない……」
魔術を使えば、焼くことは可能だと思うが、生活魔術しか使ったことがなく、火加減をうまく調節できる自信がない。このまま肉を前にして何もできないのかと己の無力さに涙が出てきた。
俺の顔を見て同情したのか、竜は宝箱を出してくれた。
『まったく、泣くほどのことかの……焼くだけでよいなら、それを使え』
開けてみると、先ほどミノタウロスチャンピオンが持っていたような、巨大な両刃の戦斧が入っていた。
『熱戦斧じゃ。魔力を通せば、斧の刃の部分が熱を帯びる。それで焼けばよいじゃろう』
刃の部分は幅六十センチ、刃渡り三十センチほどあり、一人焼肉なら充分に可能な大きさだ。更に鑑定で確認すると、温度調節も可能らしい。
俺は「助かる!」と礼を言って、嬉々として調理を再開する。
ミスリルの盾を俎板代わりにし、アダマンタイトの投擲剣で肉を切っていく。
この投擲剣は刃渡り十五センチほどだが、切れ味が上がる補正がついており、巨大な肉の塊を簡単に捌くことができた。
肉をステーキ用の厚さに切り終え、いよいよ焼く段階に入った。
通す魔力の量で調節はできるものの、鋼鉄を溶断するほどの温度まで上げられるためか、魔力を小まめに調節してもなかなか適温にならない。
「なかなか難しいな……」
そう言いながらも、四十日ぶりに肉が食えることに、鼻歌が出そうになるくらい気分がいい。
上機嫌で脂身の部分を使って温度を確認していく。牛脂が焼ける香りが鼻をくすぐり、食欲を猛烈に刺激する。
「そろそろいけるな! それにしても美味そうだ」
ミノタウロスチャンピオンの肉は和牛のサーロインのような〝さし〟の入ったものでなく、肩肉やランプのような赤身だった。赤身と言っても適度に脂は入っているのか、表面は艶やかだ。
熱したヒートバトルアックスの刃に肉を置いた瞬間〝ジュウ!〟という音が迷宮に響く。その直後、肉と脂の焼ける香ばしい匂いに包まれ、魂が蕩けていく感じがした。
「しあわせだ……」と思わず呟くほど香しいが、
(まだだ……まだ焼きが足りない……もう少し我慢するんだ……)
早くひっくり返したい気持ちを抑えながら、表面の色が変わり始めるのを待つ。
「よし、今だ!」と声に出し、箸を使ってひっくり返す。
熱していた面はしっかりとした焼き色に変わり、ところどころに適度な焦げがある。その色を見ただけでも、湧き上がってくる涎が止まらない。
ちなみに使っている箸は、暗器用の太針だ。長さは二十センチほどで、当然先端は鋭く尖っているから口に刺さる可能性がある。
しかし、俺には物理攻撃無効のスキルがあるから問題はないし、仮に頬を突き抜けたとしても、肉を食うという行為をやめるという選択肢はなかった。
程よく焼けたところで投擲剣を使って少し切り、焼き加減を確認する。
中はロゼ色でミディアムからウェルダンに近い感じだ。赤身の肉はこのくらい焼いた方が好みなのでちょうどいい。
ヒートバトルアックスの温度を最低に下げ、保温状態にする。食べている間に焼け過ぎてしまうことを防ぐためだ。
その状態で肉を切っていく。ロゼ色のミノタウロス肉から透明な肉汁が滴り、斧の刃に流れる。
「じゅる……」と思わず涎が垂れる。
切った肉を太針の箸で口に運ぶ。その間にも肉の香ばしく、甘い匂いが俺の食欲をこれでもかと刺激し続けていた。この食欲に対しては〝異常状態無効〟のスキルも効かないらしい。
待ちに待った肉を一気に口に放り込む。
その瞬間、旨味成分であるイノシン酸が口の中で爆発する。脂を感じた舌から、脳に直接ドーパミンが放出されるかのような錯覚と多幸感が俺を包み込む。
もぐもぐと噛み締めると、涙が自然と零れてきた。
「美味い……肉ってこんなに美味かったんだな……ぐすっ……」
涙を拭くことなく、時々鼻をすすりながら、一心不乱に肉を食った。
『まるで人が変わったようじゃの』
竜が冷ややかな目で見ながらそう言ってきたが、俺はそれを無視して三枚のステーキを平らげた。
◆
ゴウのステータスが異常に高い理由は、竜の勘違いによるものだ。
一般的なヒュームのレベル一での能力値は高くても十五、平均で五程度である。能力の実で初期値が平均の二十倍近くもあり、更に称号による補正が加わったことから、レベルアップにより人族最強の能力をあっさりと凌駕してしまったのだ。
これは竜の勘違いが良い方向に作用した一例と言えるだろう。
続いてゴウに倒された牛頭勇者だが、物理攻撃、魔術攻撃のいずれに対しても耐性を持ち、更には武術も極めたミノタウロス系の最強種である。
討伐時にドロップする肉は繊細な肉質と上品な脂を持ち、魔物系の食材では最高峰との呼び声も高い。オークキング、ブラックコカトリスと並び、三大魔物肉と言われる幻の食材だ。
市場に出回ることはほとんどなく、国王ですら味わえないほど貴重な食材である。仮に出回ったとすれば、一キロ一万ソル、百万円以上の値が付くことは間違いない。
そしてその肉を調理した熱戦斧は、かつて悪魔の王フォルファクスが愛用した〝マラクス〟と同種の武器である。
フォルファクスは二千年ほど前に実在した悪魔で、数十万の魔物を率い、大陸の半分を支配した。ハイヒュームを中心とした人族の連合軍が決死の覚悟で挑んだが、多くの犠牲を払ったにもかかわらず倒すことができなかったほど強力で、当時の人族はただ恐怖に震えるしかなかった。
だが幸運なことに、増長したフォルファクスが始祖竜、つまりゴウの目の前にいる竜に挑んで自滅したため、人族は滅亡を免れることができた。
そんないわくつきの武器で、肉を焼いた。もし、悪魔の王フォルファクスがこの光景を見たなら、どのような想いを抱いただろうか。
幸いなことに二人はそのことに気づいていなかった。
◆
この迷宮に迷い込んでから一年の時が流れた。
ミノタウロスチャンピオンを倒して急速なレベルアップを果たした後、俺は同じような方法でレベルを上げていった。
竜が召喚する魔物は徐々に強くなったが、俺のレベルも上がり続け、現在では九百五十に達している。
レベルが上がったことでいろいろな影響があった。
一番大きなことは、俺が人間をやめたことだろう。
この世界に来た当初、俺の種族は〝普人族(異世界種)〟というものだった。
それがレベル五百で〝神人族(異世界種)〟に進化し、更にレベル八百で〝半神〟になったのだ。
その名の通り半分神様というおかしなことになっており、自分でも呆れている。
この〝半神〟を鑑定で見てみると、以下のような説明があった。
〝上位種族の限界を突破した者。寿命はなく、神に近い能力を持ち、神ですら直接滅することはできない。但し、同格の半神による攻撃は通じるため、完全な不死というわけではない……〟
同じ半神というと、目の前にいる竜がそれにあたる。
竜に話を聞くと、最初から〝半神〟だったそうだ。他にいるかと問うと、
『我に匹敵する者はおらぬが、我を傷つけられる者は数名おったはずじゃ。まあ、そのほとんどが竜種、すなわち我の眷属じゃがな。我としては、人族であってもこの階層に来られるほど強くなれば、我に挑むことはできると思っておったのだが、まさか種族そのものに成長限界があるとは。盲点であったな……』
ヒュームの限界レベルは五百、ハイヒュームは八百だったのだが、俺は特殊スキルにある〝限界突破〟の効果でそれを突破できたらしい。
限界突破を鑑定で見てみると、〝レベル差が百以上の敵を倒す。複数人で戦った場合は、そのうち最も強い者と敵のレベル差が百以上であること〟というのが取得条件らしい。
普通に戦っていたら、レベル差が百以上もある相手に勝つことはまず不可能なため、種族限界に引っかかる。一般的なヒュームのシーカーであれば、実力にかかわらず五百階層付近が限界ということになるのだ。竜はそのことを知らずにいたらしい。
ちなみに、レベルが高くなるとレベルアップが極端に難しくなる。上位種族になると更にそれが顕著になった。そのことを如実に表しているのが、レベルアップに掛かった時間の内訳だ。
レベル五百までは最初の戦闘から十日も掛からなかったが、そこからレベル八百までは一ヶ月半掛かっている。また、八百から九百までは三ヶ月で、九百から九百五十まで上げるのに半年近い日数を要した。
今では十日間戦い続けても、レベルが一つ上がるかどうかというところまで来ている。
レベルが高くなって必要経験値が増えたこともあるが、それ以上に敵が相対的に弱くなったことが原因だった。この迷宮には、レベル八百を超える存在はラスボスである竜しかおらず、格下相手に数をこなしているというのが現状なのだ。
とはいえ、その甲斐あって各能力値は一千二百万以上というバカげた数字になっている。今の能力ならレベル四百五十のミノタウロスチャンピオンに攻撃されても傷すらつかず、目を瞑っていても瞬殺できる。
以前竜が言っていた、人族の平均能力の話は何だったのかという気がしないでもないが、これほど強くなっても、ステータス的には竜と何とか戦えるといったレベルらしい。
『特殊スキルというものがどの程度の効果を発揮するかじゃな。それによっては我を倒すことも可能じゃろう……』
限界突破のスキルもそうだが、これまでに特殊スキルを大量に取得している。
レベルや能力値が上がると勝手に取得するものもあるが、特殊な条件でしか取得できないものが多い。
例えば〝一撃必殺〟は〝百回連続で敵を一撃で倒す〟というのが取得条件だ。俺の場合、レベル上げのために竜が〝同士討ち〟で弱らせてくれた敵に止めを刺していたから取得できたに過ぎない。
その効果は〝クリティカルヒット率の向上〟とあり、五パーセント以下だったクリティカル率が二十五パーセントまで上がっている。
他にも〝勇猛果敢〟は〝自らよりレベルが高い相手に対し、百回連続で勝利〟という取得条件で、効果も〝レベルが高い相手に対し、攻撃力と防御力が上昇する〟と、竜との戦いでも効果が期待できる。
武器や防具もすべて最高の物を揃えた。
武器は聖剣〝アスカロン〟で、刃渡り一メートル二十センチ、十字型の鍔を持つシンプルな形の大型剣だ。本来なら両手で使うものだが、俺のステータスなら片手で扱える。
これも〝ドラゴンスレイヤー〟であり、竜種に対して攻撃力が倍増する点が、選んだ理由だ。
防具は竜鱗のフルプレートアーマー。黒曜石のように光沢のある黒で、俺のような日本人のおっさんではなく、白人の偉丈夫が身に着けたらいかにも英雄といった感じになるだろう。
ちなみにこれに使われている鱗は始祖竜、すなわち目の前にいる竜のもので、名前もそのまま〝始祖竜の鎧〟だ。すべての竜のブレスを無効化できる性能を持つ。
盾はオーソドックスな形の凧型盾で、〝戦神の盾〟という名が付いている。不壊の加護があり、どれほど強力な攻撃を受けても壊れることはない。
他にも能力値を底上げするアイテムを装備し、ほとんどのステータスは竜を凌駕した。
だが竜のレベルは千三十四。俺より八十以上高い。
生命力も俺の二億五千万に対し、六倍の十五億を超えている。
これだけの差があるが、俺は今日、竜と戦う。
理由としては、一つにはレベルアップの効率が落ち、このままレベルアップの作業を続けたとしても、一年後でもレベルは五つしか上がらず、十年後でも今より八か九しか上がらないと予想されたからだ。これは今までバッテリーを温存していたタブレットを起動し、表計算ソフトを使って計算した結果なので、精度は高い。
そしてそれ以上に、俺のストレスが限界に達していることが大きかった。率直に言って、味つけがない単調な食事が続くことに我慢できなくなったのだ。
食事はミノタウロスチャンピオンの肉の他に、鶏肉に近いコカトリスの肉などが手に入る。素材は上質なのだが、問題は調味料が一切ないということだ。
能力の実や、肉から滴り落ちる血などを使っていろいろ試してみたが、塩分や甘みなどを手に入れることができず、結局味を変えることはできなかった。
たかが味が変わらないだけでと思うかもしれないが、そのストレスは日に日に強まり、一年という区切りの日にイチかバチか試してみるというところまで、精神的に追い詰められていた。
もちろん、こんなところに千年以上いる竜の方が強い苦痛を感じていることは理解している。
だがそのことを正直に話すと竜は、最初こそ反対したが、自分自身も同じ苦痛を味わっていることから、最後には折れてくれた。
『仕方がなかろう。我も同じ苦しみを知っておるのだから否とは言えぬ……』
準備を整え、最後の会話を行う。どちらが勝っても、もう片方は命を落とす。ここで話しておかないと、二度と機会は巡ってこない。
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