上 下
52 / 92

第五十一話「鐘楼内での戦い:前篇」

しおりを挟む
 4月23日午前7時頃。
 迷宮管理事務所の屋上にある鐘楼から、溢れてくる魔物を狙撃し続けている。

 モーゼスさんが用意してくれた指向性地雷を使い、多くのオーガやミノタウロスを倒したが、焼け石に水ですぐに50体近くに膨れ上がった。
 町への唯一の出口、城門を破壊し始めたため、門にたどり着いた魔物を優先的に狙っている。

「守備隊は無事に町に散ったようだ。アメリアは西に向かった。恐らく、モーゼス殿の工房に行ったのだろう」

 ローザには周囲の警戒を頼んでいるので、その時に見えたのだろう。

「それなら心強いね」と言いながら、セミオートマチックにしているM4カービンの引き金トリガーを引く。

 城門に戦斧を振り下ろそうとしていたミノタウロスの頭に直撃し、光となって消えている。

 迷宮から出た魔物だが、出た直後は迷宮内と同じように倒せば光の粒子になって消えてしまう。
 しかし、時間が経つと山にいる魔物のように実体を持つようになるが、どの程度の時間が掛かるかは分かっていないらしい。

 消えた魔物の後にすぐに別の魔物が入り、城門に取り付いていく。この状況では実体がある方が、死体が邪魔になって助かるのだが、上手くいかない。

 唯一の救いは門の前の穴が魔物で埋まっているが、重みで押しつぶされて死に、死体が消えることによって、その都度、足場が下がって不安定になることだ。そのお陰で門を破壊しようと斧を振るうミノタウロスがよろけている。

 そんなミノタウロスを5体ほど倒したところで、最上位種であるミノタウロスチャンピオンが僕たちのいる鐘楼を指さした。
 その個体の頭に銃弾を撃ち込むが、当たり所が悪かったのか、一撃では倒せず、2発目で倒すことができた。
 その間に他の魔物たちも僕たちの場所に気づき、騒ぎ始める。

「見つかったみたいだ」

「仕方なかろう。見つかることは想定済みなのだから」

 ローザはそう言いながら、愛刀“黒紅”を抜くが、

「しかし、この場所ではそれがしの出番がない」とぼやく。

「そのうちここにも来るだろうし、ここを放棄した後にもいっぱい戦ってもらうから。あと悪いけど、マガジンに弾丸の装填をお願いしたいんだけど」

 そう言いながら、空になったマガジンと予備の弾丸が入った箱を収納魔術アイテムボックスから取り出して渡す。

「了解だ」と言ってローザは座り、装填を始めた。

 30分ほどで200体くらいのオーガ、トロール、ミノタウロスを倒した。しかし、まだ途切れることなく溢れ出てくる。
 更に僕がいることも分かっているためか、こちらに向かって雄叫びを上げている。特に何も支障はないのだが、城門を破られたら、ここに殺到してくることだけは間違いない。

「これほど撃っていたとは……銃の方は大丈夫なのだろうか? モーゼス殿は耐久性がどうとか言っていたと思うが?」

 弾丸を装填しながら、聞いてきた。既に1000発近く撃っており、以前の銃身なら限界が近づいているところだ。

「アダマンタイトの銃身にしたから、倍はいけるという話だし、恐らく持っている弾丸が尽きるまでは大丈夫だと思う」

 そう言うものの、モーゼスさんもこの世界の銃をそこまで使ったことがないので、どこまでもつか自信がないと言っていた。
 この先、M4がなくなると厳しくなるが、今の状況ではそうも言っていられない。

 更に30分ほど経った午前8時過ぎ。
 遂に城門が破られた。城門を破壊したのはミノタウロスの上位種であるミノタウロスナイトだ。
 ナイトはミノタウロスにしては珍しく盾を持ち、それを翳して銃弾を防ぎながら、ハルバードで城門を破壊したのだ。

「こちらに向かってくるようだな」とローザが言うが、その口調には余裕があった。

 この鐘楼の入口は僕たちでも屈まないと入れないほど小さい。また、鐘を下ろすことができるよう吹き抜けになっているため、階段の幅が1メートル弱しかなく、普人族ヒュームでもすれ違うのがやっとだ。

 そこにヒュームの倍近い体格のオーガやミノタウロスが入ってきたとしても、1体ずつしか戦えないし、足場も悪いから倒すことは容易だ。
 そのことが分かっているから、余裕があるのだ。

「問題があるとすれば、我らを無視して町に散ることだろう。ライル殿はどうするつもりだ?」

「相手を怒らせるようにチクチクと攻撃するしかないと思う。それよりもこの後に出てくる悪魔デーモンたちの方が厄介だ。何といっても奴らは飛べるし、魔術も使ってくるからね」

「そうだな。だとすれば、少しでもレベルを上げておいた方がよいだろう」

 オーガたちの後に出てくるのは悪魔たちだ。
 デーモンは身長2メートルほどの強靭な肉体を持ち、魔術と剣術を使う強敵だ。その他にも女淫魔サキュバス男淫魔インキュバス夢魔ナイトメアなどの精神攻撃を得意とする悪魔も出てくるらしい。

 悪魔の中で最も危険なのは門番ゲートキーパーである大悪魔グレーターデーモンだ。身長2.5メートルほどの屈強な肉体に巨大な剣を持ち、火属性や暗黒属性の上級魔術を使ってくる。
 ラングレーさんたちでも1体を相手にするのが精一杯だと言っていた。

 悪魔の次はヴァンパイアやワーウルフなどの上位アンデッドだ。その上位種であり、ゲートキーパーであるヴァンパイアロードが現れることまでは分かっている。
 ヴァンパイアロードは通常の武器が効かないだけでなく、上級魔術を使い、更に魅了や麻痺、石化などの特殊攻撃も行ってくるらしい。

 アンデッドの後に出てくる魔物は分かっていない。他の迷宮の情報から魔法金属系のゴーレムや上位悪魔、キメラやマンティコアなどの魔獣などが出てくるのではないかと言われているが、誰もその階層に行っていないので分からないのだ。

 ヴァンパイアロードより先のことは正直あまり考えていない。
 グレーターデーモンやヴァンパイアロードでもレベル500を超えており、その後に出てくるゲートキーパーや守護者ガーディアンならレベル600を超えている可能性がある。

 そんな敵を相手に僕の魔銃が通用するのか、通用したとしてもどう戦っていいのか想像すらできない。

 そんなことを話しながらも確実に敵を倒していく。
 しかし、溢れ出てくる数が多すぎ、破られた城門から次々とオーガたちが町に溢れ出る。そのほとんどが僕たちの方に向かっているが、それでも別の方向に向かうものも少なからずいた。

 既に迷宮入口の防衛線に参加していたシーカーたちが脱出してから2時間近くたっており、十分な時間は稼げたと思う。ただ、この先、僕にできることは少しでも引き付けることだけだ。

「城壁に上がってきた。そろそろ、ここの入口に気づくぞ」とローザがいい、僕も城壁に視線を向ける。

 上がってきているのは動きが速く体術の心得のあるミノタウロスが中心だ。真下には撃ちにくいので、近づいてくるミノタウロスを集中的に狙うことにした。

 城壁の幅は5メートルほどあり、ミノタウロスでも2体並んで走ることができる。そのため、狙撃を開始したものの、すぐに入口に取り付かれてしまった。

「某は階段の踊り場で待ち受ける。ライル殿は最も効率が良い方法で戦ってくれ」

「了解。外の警戒も必要だけど、中で倒した方がレベルアップの効率はいいから、僕も鐘楼の中の敵を狙うことにするよ」

「承知。某もその方が助かる」

 そう言って板を跳ね上げ、階段を降りていった。
 僕は鐘を鳴らすためのロープを通す穴から狙撃を行う。その穴は一辺1メートルほどあり、板張りの床に腹ばいになれば、階段を上がってくる敵を狙える。

 鐘楼の入口の扉が破壊され、ミノタウロスが入ってきた。四つん這いで窮屈そうに入ってきたため、その後頭部を狙う。
 命中の衝撃でミノタウロスは頭を床に叩きつけられ、そのまま光の粒子となって消えていく。

 その後、数体のミノタウロスを同じ要領で倒したが、敵も少し頭を使ってきた。城門を破壊した時と同じようにミノタウロスナイトが盾を翳して防御しながら入ってきたのだ。

 その鋼鉄製の盾は人族が使うものより分厚く、この距離でもM4では貫通させるのがやっとだ。無駄弾を撃つより、確実にダメージを与えた方がいいと考え、ナイトを狙うことを諦める。

「中に入られたぞ!」とローザに叫ぶと、「承知!」という短い気合の篭った声が返ってくる。

 ナイトが中に入り、盾を構えて入口を守る。その隙に武器を持たないミノタウロスが素早い身のこなしで入ってきた。

「グラップラーだ! 思ったより速いぞ!」と警告を発しながら、頭に照準を合わせる。

 グラップラーは腕も使い、四つ脚の獣のように階段を駆け上がってくる。その速度は人が走るほどで、放っておけばあっという間に上にたどり着くだろう。
 それでも僕には余裕があった。

 グラップラーの体術をもってしても、狭い階段では曲がる時に速度を緩めざるを得ず、そこで狙い撃てるためだ。

 速度が緩んだところで無防備な頭部を狙撃する。グラップラーは一度大きく跳ねると光に変わっていった。
 その後、3体連続でグラップラーが侵入してきたが、同じような要領で倒していく。

 しかし、水際で食い止めるには限界があった。
 ナイトが再び盾を使って僕の射線を防ぐようにしながら、ゆっくりと階段を上がってきたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

聖女様に貴方の子を妊娠しましたと身に覚えがないことを言われて結婚するよう迫られたのでもふもふな魔獣と旅にでることにした

葉柚
ファンタジー
宮廷魔術師であるヒューレッドは、ある日聖女マリルリから、「貴方の子を妊娠しました。私と結婚してください。」と迫られた。 ヒューレッドは、マリルリと二人だけで会ったこともなければ、子が出来るような関係を持ったこともない。 だが、聖女マリルリはヒューレッドの話を聴くこともなく王妃を巻き込んでヒューレッドに結婚を迫ってきた。 国に居づらくなってしまったヒューレッドは、国を出ることを決意した。 途中で出会った仲間や可愛い猫の魔獣のフワフワとの冒険が始まる……かもしんない。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

処理中です...