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第八部:「聖王旗に忠誠を」
第三十五話
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宇宙暦四五二五年六月五日
情報通報艦がキャメロット星系にジャンプアウトした。
そして、すぐに緊急情報を艦隊総司令部に伝達する。
『去る五月三十日、シビル星系小惑星帯において、国王陛下護衛戦隊が奇襲を受けました。敵は二百万トン級改造商船六隻。陛下座乗のアルビオン7は損傷なし。護衛戦隊の損害はバーミンガム391がステルスミサイルの至近弾による小破のみ。改造商船は全艦無力化し、うち一隻が大破漂流中。コリングウッド准将が大破した改造商船の調査に向かいました……』
その情報を受けた防衛艦隊司令長官、ジークフリード・エルフィンストーン大将は驚きのあまり、椅子から立ちあがった。
「陛下の護衛戦隊が奇襲を受けただと!」
総参謀長ウォーレン・キャニング中将もエルフィンストーンと同じように驚いたが、すぐに送付されてきたデータを確認する。
「航路上で六隻の改造商船の待ち伏せを受けたようです……第二特務戦隊がステルスミサイルを適切に処理してくれたお陰で無事だったようですね。それにしてもフレーザーは何をしていたのだ。全く役に立っていないではないか……」
温厚なキャニングが吐き捨てるように呟く。
「マイヤーズが戻ってくれば更に詳細が分かるだろう。反乱について情報がない。こちらは何とか起こさせずに済んだようだな」
エルフィンストーンがそういうと、キャニングも頷いている。
「陛下のお言葉が効果を発揮したようですね。他にもやっていそうですが、今回もコリングウッド准将に助けられたようですな」
「そうだな。それよりも大至急、シビル星系に増援を派遣しなくてはならんな。駆逐艦二隻とスループ艦二隻ではクリフも大変だろうからな」
「おっしゃる通りです。派遣可能な艦隊は第一、第四、第六、第九、第十の五つの艦隊です。第四、第十艦隊はアテナ星系から戻ったところですし、第九艦隊は訓練航宙の直後ですので、第六艦隊がよいのではないかと考えます」
エルフィンストーンは即座に決断する。
「よかろう。第六艦隊から分艦隊を派遣する」
「分艦隊ですか? 商船の臨検であれば、哨戒艦隊を複数送り込めば事足りると思いますが?」
常識的に考えれば、キャニングの意見が正しい。
哨戒艦隊は重巡航艦を旗艦とする八から十隻程度の小部隊だ。シビル星系には百隻程度の商船がいることになるが、三個程度の哨戒艦隊を派遣するだけでも対応は難しくない。
「今のところ緘口令を敷く予定だが、国王陛下のお命が狙われたのだ。どこかで情報が漏れる。それに陛下が戻って来られるのだ、隠し続けることはできん。それならば、大々的に動いた方が問題にならないはずだ」
「確かにその通りですな」
その後、第六艦隊司令官ジャスティーナ・ユーイング大将と通信を繋ぐ。
「ジャスティーナも聞いていると思うが、シビル星系に艦隊を派遣する。俺としては五百隻程度の分艦隊を派遣したい。君の艦隊から出してもらえるか?」
“女主人”と呼ばれるユーイングは独特の鼻に掛かった声で答える。
『承りましたわ。民主党の議員がアルビオンに向かいましたから、私が指揮した方がよいでしょう』
前日の六月四日に野党民主党の重鎮レジナルド・リトルトン下院議員がアルビオン星系に向かっている。リトルトンは歯に衣着せぬ物言いの議員で、生真面目なクリフォードとトラブルになるとユーイングは考えたのだ。
「確かにリトルトン議員が難癖をつけないとも限らんからな。君が行ってくれるなら心強い。この後、ナイジェルとアデルを交えて協議を行う。君にも参加してほしい」
『承りました。それでは艦隊の準備を始めますわ』
エルフィンストーンはすぐに統合作戦副本部長であるナイジェル・ダウランド大将と、盟友である第九艦隊司令官アデル・ハース大将に連絡を取り、会議を行った。
「既に情報通報艦からの情報は聞いていると思う。シビル星系には第六艦隊から分艦隊五百隻程度を派遣するが、今後の方針について意見を聞きたい」
エルフィンストーンが発言を終えると、ダウランドが話し始める。ダウランドは銀色の髪をオールバックにした怜悧な官僚という印象を与える人物だ。見た目通りの切れるタイプの知将で、エルフィンストーンは全幅の信頼を寄せている。
「情報が少ないからまだ何とも言えないが、帝国もしくはゾンファが動いていることは間違いない。先日もゾンファの工作員が検挙され、更に帝国の拠点も発見されている。問題は航路情報が漏れていたことだ。現在、諜報部が調査しているが、どうやら統合作戦本部から漏洩した可能性が高いようだ。この件について謝罪する」
そう言って頭を下げる。
「謝罪はすべてが明らかになってからでいいだろう。艦隊総司令部でも調べているが、今回のことは分からないことが多すぎる。アデル、君の意見を聞きたい」
その言葉で全員がハースに視線を向けた。
「第十一艦隊のことが気になりますわ。フレーザー少将の戦隊が全く役に立っていません。クリフの第二特務戦隊がいなければ、どうなっていたのかと背筋が寒くなる思いでした」
「確かにそうだな。フォークナー中将が絡んでいる可能性があるということか?」
エルフィンストーンの問いにハースは首を横に振る。
「まだ断言できるほどの情報がありません。ですが、私が調べたところでは、フレーザー戦隊の構成は明らかに異常です。艦長たちの履歴を見る限り、今回の任務に適した人物なのか疑問を感じざるを得ませんでした。私なら絶対に選ばないですね」
ハースは数日前まで隣のアテナ星系にいたため、キャメロット星系に戻ってから、フレーザー戦隊が護衛に選ばれたと知った。そして、疑問を感じ、独自に調べていたのだ。
ハースの意見にユーイングが質問する。
「私は詳細な情報は見ていないのですけど、どういった者たちが選ばれているのですか?」
「臨機応変な対応が必要な小部隊での任務を苦手とする者が選ばれています。艦隊戦であれば、一定以上の能力を見せていますが、ごく短時間での判断が必要な哨戒艦隊での任務ではミスを犯している者が多いという印象でしたね」
艦隊戦であれば、速度は光速の一パーセント以下であり、戦艦の主砲の射程距離である三十光秒の距離を考えれば、指揮官からの命令を待つことはできるし、自身が判断するにしても分オーダーの余裕がある。
一方、哨戒艦隊のように最大戦速である光速の二十パーセントであれば、主砲の射程を抜けるのに一分足らずしか時間がなく、その間にステルスミサイルやカロネードなども使用されるため、秒単位での判断が必要になってくる。
「そうなのですね。今回の任務では国王陛下のアルビオン7から離れて護衛するわけですから、不適格というのはよく分かりますわ」
詳細な情報は見ていないが、ハースの言葉からユーイングはフレーザーが犯したミスに気づいた。
「もう一つ申し上げるなら、多くの艦長が上に阿るタイプで、准士官以下から嫌われていたということでしょう。それにフォークナー中将が反乱を懸念していたという話を加えて考えると、少しきな臭く感じます」
ダウランドが憮然とした表情で頷く。
「最近になってフォークナーは、下士官たちを締め付けるべきと頻りに訴えてきた。フレーザー戦隊の件と合わせて考えると、少しどころのきな臭さではないな」
「ですが、証拠もありませんし、証拠が出てきたとしても安易に公表できませんわ。フレッチャー提督の件があった後に、このような醜聞が漏れれば、軍の信頼は完全に失墜してしまいます」
ユーイングの指摘に全員が頷く。
エルフィンストーンが「話を戻そう」と言って仕切り直す。
「シビル星系に第六艦隊の分艦隊を派遣するとして、今後の方針を決めておきたい。まず、シビル星系では徹底的な調査を行う。調査の結果次第で封鎖を解除するが、これについてはジャスティーナに任せたい。ナイジェル、それでいいな」
ダウランドが大きく頷く。
「それで問題ない。ユーイング提督なら適任だ。リトルトン議員を含め、誰からも文句は出ないだろう」
ユーイングはヤシマ星系において、消極的な総司令官フレッチャーの解任し、その後に指揮を執った。そして、圧倒的に不利な状況から大勝利を掴んでおり、その判断力に疑問が呈される可能性は低い。
「では、シビル星系についてはこれでいい。問題は帝国もしくはゾンファに対する行動だ。アデル、この後どうなるか、君の考えを聞かせてくれないか」
エルフィンストーンは“賢者”と呼ばれ、政治にまで通じる知将に意見を求めた。
「まず国内ですが、今回の件で民主党が強硬論を展開することは間違いないでしょう。そして、その主張は、アルビオン星系はもちろん、保守党の地盤でもあるキャメロット星系でも受け入れられるはずです。何といっても陛下の人気はここの方が高いですから」
全員が暗い表情になる。
「そうだな。そうなると出兵の可能性が出てくるということか……」
「そうなると思います。ゾンファであれば、既に艦隊を派遣すべきという主張がされていますから、国民はその主張を受け入れるでしょう。帝国の場合も皇帝と藩王ニコライの間がおかしくなっていますから、内戦に介入すべきという主張を強めてくると思います。いずれにしても数個艦隊を長期にわたって派遣することになるでしょうね」
ハースの意見にダウランドが賛同する。
「賢者殿の言う通りだろうな。ゾンファ星系では戦闘にはならんだろうが、艦隊を戻す条件が明確ではない。国家統一党を排除し、民主主義を定着させると言っても何をもってそれで良しとするのか、基準がないからな。帝国はもっと深刻だ。内戦に介入すると言ってもまだ起きるかも分からぬ状態だ。ダジボーグ星系を占領することは難しくないが、恒久的に維持するとなると話は別だ」
「私も同意見ですわ。ダジボーグ人がレジスタンス活動を行う中で、スヴァローグやストリボーグの艦隊と戦うことは敗北を意味します。そのことをお分かりにならない方が多すぎることが問題なのですけど」
ダウランドやユーイングが言うように、帝国のダジボーグ星系を占領することは軍事費の増大を招くだけでなく、これまでにない敗北を喫する可能性が高い。
このことはゴールドスミスら民主党のブレーンたちも理解しているが、彼女らは艦隊を派遣するものの、戦争犯罪人などの処分を行うだけで帰還させるつもりでいた。
しかし、一度艦隊を派遣すれば、その程度の成果で国民が納得するはずもなく、ずるずると泥沼に引きずり込まれるのではないかと、ハースたちは考えている。
「我々軍人が政治に関与することはできません。ですので、マールバラ内閣と保守党に期待するしかないでしょう。調査結果を上手く使って、艦隊を派遣させるために帝国なりゾンファなりが暗躍していたという風に持っていければ、世論を誘導することは不可能ではありませんから」
ハースはそう言うものの、首相がマールバラでは難しいと思っていた。
(ノースブルック氏が首相なら可能性はあるのだけど……あるいはクリフが政治家に転身すれば可能性はあるわ。彼なら誠実な政治家として国民に語り掛けてくれるはず……)
しかし、そのことは口にできなかった。
その後、会議は当面の方針を確認し、終了した。
情報通報艦がキャメロット星系にジャンプアウトした。
そして、すぐに緊急情報を艦隊総司令部に伝達する。
『去る五月三十日、シビル星系小惑星帯において、国王陛下護衛戦隊が奇襲を受けました。敵は二百万トン級改造商船六隻。陛下座乗のアルビオン7は損傷なし。護衛戦隊の損害はバーミンガム391がステルスミサイルの至近弾による小破のみ。改造商船は全艦無力化し、うち一隻が大破漂流中。コリングウッド准将が大破した改造商船の調査に向かいました……』
その情報を受けた防衛艦隊司令長官、ジークフリード・エルフィンストーン大将は驚きのあまり、椅子から立ちあがった。
「陛下の護衛戦隊が奇襲を受けただと!」
総参謀長ウォーレン・キャニング中将もエルフィンストーンと同じように驚いたが、すぐに送付されてきたデータを確認する。
「航路上で六隻の改造商船の待ち伏せを受けたようです……第二特務戦隊がステルスミサイルを適切に処理してくれたお陰で無事だったようですね。それにしてもフレーザーは何をしていたのだ。全く役に立っていないではないか……」
温厚なキャニングが吐き捨てるように呟く。
「マイヤーズが戻ってくれば更に詳細が分かるだろう。反乱について情報がない。こちらは何とか起こさせずに済んだようだな」
エルフィンストーンがそういうと、キャニングも頷いている。
「陛下のお言葉が効果を発揮したようですね。他にもやっていそうですが、今回もコリングウッド准将に助けられたようですな」
「そうだな。それよりも大至急、シビル星系に増援を派遣しなくてはならんな。駆逐艦二隻とスループ艦二隻ではクリフも大変だろうからな」
「おっしゃる通りです。派遣可能な艦隊は第一、第四、第六、第九、第十の五つの艦隊です。第四、第十艦隊はアテナ星系から戻ったところですし、第九艦隊は訓練航宙の直後ですので、第六艦隊がよいのではないかと考えます」
エルフィンストーンは即座に決断する。
「よかろう。第六艦隊から分艦隊を派遣する」
「分艦隊ですか? 商船の臨検であれば、哨戒艦隊を複数送り込めば事足りると思いますが?」
常識的に考えれば、キャニングの意見が正しい。
哨戒艦隊は重巡航艦を旗艦とする八から十隻程度の小部隊だ。シビル星系には百隻程度の商船がいることになるが、三個程度の哨戒艦隊を派遣するだけでも対応は難しくない。
「今のところ緘口令を敷く予定だが、国王陛下のお命が狙われたのだ。どこかで情報が漏れる。それに陛下が戻って来られるのだ、隠し続けることはできん。それならば、大々的に動いた方が問題にならないはずだ」
「確かにその通りですな」
その後、第六艦隊司令官ジャスティーナ・ユーイング大将と通信を繋ぐ。
「ジャスティーナも聞いていると思うが、シビル星系に艦隊を派遣する。俺としては五百隻程度の分艦隊を派遣したい。君の艦隊から出してもらえるか?」
“女主人”と呼ばれるユーイングは独特の鼻に掛かった声で答える。
『承りましたわ。民主党の議員がアルビオンに向かいましたから、私が指揮した方がよいでしょう』
前日の六月四日に野党民主党の重鎮レジナルド・リトルトン下院議員がアルビオン星系に向かっている。リトルトンは歯に衣着せぬ物言いの議員で、生真面目なクリフォードとトラブルになるとユーイングは考えたのだ。
「確かにリトルトン議員が難癖をつけないとも限らんからな。君が行ってくれるなら心強い。この後、ナイジェルとアデルを交えて協議を行う。君にも参加してほしい」
『承りました。それでは艦隊の準備を始めますわ』
エルフィンストーンはすぐに統合作戦副本部長であるナイジェル・ダウランド大将と、盟友である第九艦隊司令官アデル・ハース大将に連絡を取り、会議を行った。
「既に情報通報艦からの情報は聞いていると思う。シビル星系には第六艦隊から分艦隊五百隻程度を派遣するが、今後の方針について意見を聞きたい」
エルフィンストーンが発言を終えると、ダウランドが話し始める。ダウランドは銀色の髪をオールバックにした怜悧な官僚という印象を与える人物だ。見た目通りの切れるタイプの知将で、エルフィンストーンは全幅の信頼を寄せている。
「情報が少ないからまだ何とも言えないが、帝国もしくはゾンファが動いていることは間違いない。先日もゾンファの工作員が検挙され、更に帝国の拠点も発見されている。問題は航路情報が漏れていたことだ。現在、諜報部が調査しているが、どうやら統合作戦本部から漏洩した可能性が高いようだ。この件について謝罪する」
そう言って頭を下げる。
「謝罪はすべてが明らかになってからでいいだろう。艦隊総司令部でも調べているが、今回のことは分からないことが多すぎる。アデル、君の意見を聞きたい」
その言葉で全員がハースに視線を向けた。
「第十一艦隊のことが気になりますわ。フレーザー少将の戦隊が全く役に立っていません。クリフの第二特務戦隊がいなければ、どうなっていたのかと背筋が寒くなる思いでした」
「確かにそうだな。フォークナー中将が絡んでいる可能性があるということか?」
エルフィンストーンの問いにハースは首を横に振る。
「まだ断言できるほどの情報がありません。ですが、私が調べたところでは、フレーザー戦隊の構成は明らかに異常です。艦長たちの履歴を見る限り、今回の任務に適した人物なのか疑問を感じざるを得ませんでした。私なら絶対に選ばないですね」
ハースは数日前まで隣のアテナ星系にいたため、キャメロット星系に戻ってから、フレーザー戦隊が護衛に選ばれたと知った。そして、疑問を感じ、独自に調べていたのだ。
ハースの意見にユーイングが質問する。
「私は詳細な情報は見ていないのですけど、どういった者たちが選ばれているのですか?」
「臨機応変な対応が必要な小部隊での任務を苦手とする者が選ばれています。艦隊戦であれば、一定以上の能力を見せていますが、ごく短時間での判断が必要な哨戒艦隊での任務ではミスを犯している者が多いという印象でしたね」
艦隊戦であれば、速度は光速の一パーセント以下であり、戦艦の主砲の射程距離である三十光秒の距離を考えれば、指揮官からの命令を待つことはできるし、自身が判断するにしても分オーダーの余裕がある。
一方、哨戒艦隊のように最大戦速である光速の二十パーセントであれば、主砲の射程を抜けるのに一分足らずしか時間がなく、その間にステルスミサイルやカロネードなども使用されるため、秒単位での判断が必要になってくる。
「そうなのですね。今回の任務では国王陛下のアルビオン7から離れて護衛するわけですから、不適格というのはよく分かりますわ」
詳細な情報は見ていないが、ハースの言葉からユーイングはフレーザーが犯したミスに気づいた。
「もう一つ申し上げるなら、多くの艦長が上に阿るタイプで、准士官以下から嫌われていたということでしょう。それにフォークナー中将が反乱を懸念していたという話を加えて考えると、少しきな臭く感じます」
ダウランドが憮然とした表情で頷く。
「最近になってフォークナーは、下士官たちを締め付けるべきと頻りに訴えてきた。フレーザー戦隊の件と合わせて考えると、少しどころのきな臭さではないな」
「ですが、証拠もありませんし、証拠が出てきたとしても安易に公表できませんわ。フレッチャー提督の件があった後に、このような醜聞が漏れれば、軍の信頼は完全に失墜してしまいます」
ユーイングの指摘に全員が頷く。
エルフィンストーンが「話を戻そう」と言って仕切り直す。
「シビル星系に第六艦隊の分艦隊を派遣するとして、今後の方針を決めておきたい。まず、シビル星系では徹底的な調査を行う。調査の結果次第で封鎖を解除するが、これについてはジャスティーナに任せたい。ナイジェル、それでいいな」
ダウランドが大きく頷く。
「それで問題ない。ユーイング提督なら適任だ。リトルトン議員を含め、誰からも文句は出ないだろう」
ユーイングはヤシマ星系において、消極的な総司令官フレッチャーの解任し、その後に指揮を執った。そして、圧倒的に不利な状況から大勝利を掴んでおり、その判断力に疑問が呈される可能性は低い。
「では、シビル星系についてはこれでいい。問題は帝国もしくはゾンファに対する行動だ。アデル、この後どうなるか、君の考えを聞かせてくれないか」
エルフィンストーンは“賢者”と呼ばれ、政治にまで通じる知将に意見を求めた。
「まず国内ですが、今回の件で民主党が強硬論を展開することは間違いないでしょう。そして、その主張は、アルビオン星系はもちろん、保守党の地盤でもあるキャメロット星系でも受け入れられるはずです。何といっても陛下の人気はここの方が高いですから」
全員が暗い表情になる。
「そうだな。そうなると出兵の可能性が出てくるということか……」
「そうなると思います。ゾンファであれば、既に艦隊を派遣すべきという主張がされていますから、国民はその主張を受け入れるでしょう。帝国の場合も皇帝と藩王ニコライの間がおかしくなっていますから、内戦に介入すべきという主張を強めてくると思います。いずれにしても数個艦隊を長期にわたって派遣することになるでしょうね」
ハースの意見にダウランドが賛同する。
「賢者殿の言う通りだろうな。ゾンファ星系では戦闘にはならんだろうが、艦隊を戻す条件が明確ではない。国家統一党を排除し、民主主義を定着させると言っても何をもってそれで良しとするのか、基準がないからな。帝国はもっと深刻だ。内戦に介入すると言ってもまだ起きるかも分からぬ状態だ。ダジボーグ星系を占領することは難しくないが、恒久的に維持するとなると話は別だ」
「私も同意見ですわ。ダジボーグ人がレジスタンス活動を行う中で、スヴァローグやストリボーグの艦隊と戦うことは敗北を意味します。そのことをお分かりにならない方が多すぎることが問題なのですけど」
ダウランドやユーイングが言うように、帝国のダジボーグ星系を占領することは軍事費の増大を招くだけでなく、これまでにない敗北を喫する可能性が高い。
このことはゴールドスミスら民主党のブレーンたちも理解しているが、彼女らは艦隊を派遣するものの、戦争犯罪人などの処分を行うだけで帰還させるつもりでいた。
しかし、一度艦隊を派遣すれば、その程度の成果で国民が納得するはずもなく、ずるずると泥沼に引きずり込まれるのではないかと、ハースたちは考えている。
「我々軍人が政治に関与することはできません。ですので、マールバラ内閣と保守党に期待するしかないでしょう。調査結果を上手く使って、艦隊を派遣させるために帝国なりゾンファなりが暗躍していたという風に持っていければ、世論を誘導することは不可能ではありませんから」
ハースはそう言うものの、首相がマールバラでは難しいと思っていた。
(ノースブルック氏が首相なら可能性はあるのだけど……あるいはクリフが政治家に転身すれば可能性はあるわ。彼なら誠実な政治家として国民に語り掛けてくれるはず……)
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その後、会議は当面の方針を確認し、終了した。
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