アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町

文字の大きさ
上 下
347 / 386
第八部:「聖王旗に忠誠を」

第八話

しおりを挟む
ゲートルームに入って、壁面の表示が変わっているのに気がついた。
一から十までの表示になってる。これは階層を表してるんだな。
一を選んでタップする。

転移時の浮遊感と共に、見慣れた一階層の小部屋に立っている。
ダンジョンの出入り口はすぐ傍だ。
念のために壁に手の平を当てる。すぐに二から十までの数字とGの文字が浮かび、床が青白く光る。うん、チュートリアル通りだ。これでいつでも行き来できる。

ダンジョンの出口には見張り番のおじさんが立ってて、訝しそうに僕を見る。
僕が一人で、何も持ってないのに気がつくと、何とも気の毒そうな顔をした。
ポーターが置き去りにされるのは良くある事なので、それを察したんだ。
「坊主、良く無事だったな」
「うん、何とか逃げられたよ」わざと弱々しい声で答えておく。

僕たちのねぐらは街を通って流れる川に渡った橋の下。
端切れ板を組み合わせて、何とか雨風を凌げるようにしたオンボロだ。
入り口のぼろ布をかき分けて中に入る。
「ただいまー」
「アッシュ!」一斉に声がかかる。

「パーティーが全滅したって聞いて。もう駄目かと思ってたよお!十日もどうしてたの?」
カティが抱きついてきた。十歳の女の子。痩せてガリガリだ。食べ物がお土産だって言ったら喜ぶだろうな。

でも、十日って?潜って三日、管理者ルームに居たのは一日くらいだったぞ?
一番ありそうなのは、僕が亜空間に入ってゲートに出現するまで、何日か掛かっていたんだと思う。多分、ダンジョンが僕を解析するのに必要な時間だったんだろう。その間の記憶が無いのは、おそらく感覚が遮断されていたんだ。

「うん、囮にされたんだけど、うまく逃げられた。あれ、ターニャはまだ?」
カティを抱き返しながら、周りに聞く。
「ギルドに行ってるよ。アッシュがどうなったか確かめるって」
オルトは帰ってるか。僕より二つ上の兄貴分。僕より頭一つ高い。ひょろひょろだけど。
「あいつら、全滅か。自業自得だな」
僕には何の感慨も浮かばない。バックパックに入ってた筈の装備が無くて焦っただろうな。

「怪我してない?治癒魔法掛けようか?」
ミルカが駆け寄ってくる。七歳なのにもう魔法が使える。天才の女の子。
奥の方で眠そうに目を擦っているのはダイン。九歳の男の子。なぜか料理は一番うまい。
「あれ?アッシュ?幽霊?ゾンビ?」
「殺すなよ、ダイン。あ、そうだ、皆に良い土産があるよ」
僕は亜空間から、パーティーから預かっていた食料を取り出す。
「あいつら全滅したんだからもう要らないよね?」

全員が目を剥く。そして一斉に舌なめずり。
うん、僕たちはいつも空腹だ。食料が足りていない。
ポーターは、まあ、そこそこ稼ぎになる。でも途切れなく仕事にありつける訳でもない。
ターニャは今年十六。もう冒険者登録して稼いでいる。まあ、F級なのでポーターよりは良いけど、それ程の稼ぎはない。今でも僕らを見捨てないで稼ぎを入れてくれる。それでもギリギリ。

ダインが早速、食材を見繕って料理を始めた。
川縁に組んだ石のかまどに拾い集めた木材を燃やし、どこかでくすねてきた鍋で色々放り込んで煮ている。良い匂いがしてきた。
出来上がるまで、保存食の干し肉を皆でかじる。

「アッシュ!」
ターニャが帰ってきて、いきなり僕を胸に抱きしめる。
いや、ターニャはもう十六なんだからね。色々育ってきて当たるんだからね。
「心配掛けたね、ターニャ。でも大丈夫だから」
軽く髪を撫でる。感謝を込めて。

「今回の仕事は無駄足だったねえ。気を落とさず今度頑張ろうぜ」
優しいターニャは慰めようとしてくれる。パーティー全滅ならポーター料は未払いになるからだ。ほんとに僕たちの頼りになる姉御だ。
「いや、無駄足でもないさ。お土産たっぷりだよ」
僕はにやりとして、亜空間から全滅したパーティーの装備と、討伐した魔物の素材を出してみせる。

ターニャは目を丸くして、すぐに悪い笑みを浮かべる。
「お前も悪よのう、エチゴヤ」
「いえいえ、お代官ほどでも」
これは僕の前世話から、皆がお気に入りになったやり取り。

「この装備、売ったら結構な金になるね」
オルトが早速品定め。
僕がここの仲間になってから、皆に読み書きと計算を教えるようになっていた。
出来るのが八歳まで王子だった僕だけだったから。五才頃から教師が付いていたからね。読み書きとか魔法とか剣術とか。これで他の浮浪児グループより生きやすくなる。

一緒に生きてきた子供達。生き延びるための手段として身につけて欲しかった。
最初は面倒がってたけど、知識があると騙そうとした相手を見破られるのに気づいて、段々熱心になり始めた。ミルカには魔法の基礎を教えた。これで上達が早くなるだろう。
ターニャにも剣術の型を教えた。すぐに僕より強くなったのには参ったな。
教えた子供達の中でオルトが図抜けて優秀だった。彼なら結構良い商店で雇って貰えるだろう。

「こっちの素材、売れるかなあ」
ダインが首を傾げる。食材になる物はとっておく気満々だ。
「まあ、その前に小細工しないとね。そのままホイホイって訳にはいかないさ」
ターニャの言う通り、普通のポーターが素材屋に持って行ったら怪しまれる。
「どうするの?」
ミルカが首を傾げる。うん、その仕草、可愛いな。

「【腐肉漁りスカベンジャー】をやった振りをするのさ」
ターニャがウィンクして、ニヤリと笑った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

異星人X

安藤夏
SF
鬱憤と苛立ちという霧に包まれた現代社会で働くOL羽村弘は、不思議な力を使う謎の男二尾暮爽に異星人との戦い巻き込まれながらも徐々に心打ち解けていくSF作品

処理中です...