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第八部:「聖王旗に忠誠を」
第六話
しおりを挟む ごねて中に通さない伯父様に呆れた私達の後ろで、大柄な漁師が言い放った。
「ここで構わねえぞ」
王宮の謁見の間なんて意味がない。直球で価値を否定されたのに、伯父様はほっとしていた。全然理解していないわ。民に見放されたも同然の発言だった。お父様を玉座の前に通したら、自分の席が取られると思っているみたい。
呆れているのは民だけじゃないわ。貴族はやれやれと首を横に振っているし、ドラゴン達も尻尾を意味ありげに振り回した。妙な真似したら、ぶっ飛ばすぞ……ですって。
「ダニエル、お前に帰国の許可は出していない。それにセレスティーヌの離婚はなんだ? シャルリーンの婚約破棄も、みっともない。蛮族相手に……ぐっ!」
最後まで言い切る前に、お父様の右拳が炸裂した。吹き飛ばされた伯父様が転がる。尻餅くらいならともかく、転がるほど打ったのね。歯が折れたようで、血と一緒に吐き捨てた伯父様の表情が歪んだ。
失礼、表情だけじゃなく顔の骨格も歪んでそうだわ。怒りが収まらないお父様の腕は、まだブルブルと震えていた。余計な一言を吐いた途端、もう一発喰らわせる気でいるわね。
「兄上が……いや、お前が罵った蛮族にセレスティーヌは嫁いだんだ。愛する男と別れ、国のためになると信じ、二十年も我慢した。その努力を嘲笑う権利は、お前にはない!」
一歩前に出るお父様に圧され、伯父様が尻でずって後ろに逃げる。追うようにまた一歩踏み出した。
「勝手な妄想で俺を貶めるのは構わん。だがシャルの十年は努力と忍耐の上にあった。それを……っ!!」
ガッと鈍い音がする。もう一発殴られた伯父様は、血塗れだった。鼻血はもちろん、頭の出血は派手なのよね。殴り殺したりはしないでしょう。御前会議というより、兄弟喧嘩の見物になっている。
漁師のおじさんは太い腕を振り回し、行けっそこだ! と叫ぶ。農家の若い青年は、瓦礫を放りながら情けないと息をつく。商家の奥さんなんて、数日は何食べても痛そうね、と苦笑いした。
御前試合になっているけど、これでいいのよ。本来はもっと早くこうして戦うべきだった。お父様と伯父様の間の確執なんて、民には関係ないし、私や叔母様にはもっと意味がないわ。
「お前に何がわかるっ!」
捨て鉢になったのか、伯父様が拳を握って反撃に出た。それを胸で平然と受け止め、防御もしない父が鼻で笑う。
「この程度の力で、何が守れるか!」
喧嘩が激しくなる中、国民の興奮も高まっていく。ドラゴン達もそわそわしながら、大きく尻尾を揺らした。王宮の一部の建物や渡り廊下が壊れている。そろそろ止めるタイミングね。私達、こんな光景を見にきたわけじゃないの。
「伯父様、お父様。ここで終わりになさって。王宮が粉々になりますわよ」
殴りかかる手を止めたお父様は、ドラゴンの尻尾で破壊された瓦礫に目を見開く。伯父様は顔を覆って嘆いた。その二人に、私は重大な指摘をする。
「ところで、伯父様。さきほど私をシャルリーンと呼んだようですが、シャルリーヌですわ」
ここは重要な部分なので、きっちり訂正させていだきますわ。
「ここで構わねえぞ」
王宮の謁見の間なんて意味がない。直球で価値を否定されたのに、伯父様はほっとしていた。全然理解していないわ。民に見放されたも同然の発言だった。お父様を玉座の前に通したら、自分の席が取られると思っているみたい。
呆れているのは民だけじゃないわ。貴族はやれやれと首を横に振っているし、ドラゴン達も尻尾を意味ありげに振り回した。妙な真似したら、ぶっ飛ばすぞ……ですって。
「ダニエル、お前に帰国の許可は出していない。それにセレスティーヌの離婚はなんだ? シャルリーンの婚約破棄も、みっともない。蛮族相手に……ぐっ!」
最後まで言い切る前に、お父様の右拳が炸裂した。吹き飛ばされた伯父様が転がる。尻餅くらいならともかく、転がるほど打ったのね。歯が折れたようで、血と一緒に吐き捨てた伯父様の表情が歪んだ。
失礼、表情だけじゃなく顔の骨格も歪んでそうだわ。怒りが収まらないお父様の腕は、まだブルブルと震えていた。余計な一言を吐いた途端、もう一発喰らわせる気でいるわね。
「兄上が……いや、お前が罵った蛮族にセレスティーヌは嫁いだんだ。愛する男と別れ、国のためになると信じ、二十年も我慢した。その努力を嘲笑う権利は、お前にはない!」
一歩前に出るお父様に圧され、伯父様が尻でずって後ろに逃げる。追うようにまた一歩踏み出した。
「勝手な妄想で俺を貶めるのは構わん。だがシャルの十年は努力と忍耐の上にあった。それを……っ!!」
ガッと鈍い音がする。もう一発殴られた伯父様は、血塗れだった。鼻血はもちろん、頭の出血は派手なのよね。殴り殺したりはしないでしょう。御前会議というより、兄弟喧嘩の見物になっている。
漁師のおじさんは太い腕を振り回し、行けっそこだ! と叫ぶ。農家の若い青年は、瓦礫を放りながら情けないと息をつく。商家の奥さんなんて、数日は何食べても痛そうね、と苦笑いした。
御前試合になっているけど、これでいいのよ。本来はもっと早くこうして戦うべきだった。お父様と伯父様の間の確執なんて、民には関係ないし、私や叔母様にはもっと意味がないわ。
「お前に何がわかるっ!」
捨て鉢になったのか、伯父様が拳を握って反撃に出た。それを胸で平然と受け止め、防御もしない父が鼻で笑う。
「この程度の力で、何が守れるか!」
喧嘩が激しくなる中、国民の興奮も高まっていく。ドラゴン達もそわそわしながら、大きく尻尾を揺らした。王宮の一部の建物や渡り廊下が壊れている。そろそろ止めるタイミングね。私達、こんな光景を見にきたわけじゃないの。
「伯父様、お父様。ここで終わりになさって。王宮が粉々になりますわよ」
殴りかかる手を止めたお父様は、ドラゴンの尻尾で破壊された瓦礫に目を見開く。伯父様は顔を覆って嘆いた。その二人に、私は重大な指摘をする。
「ところで、伯父様。さきほど私をシャルリーンと呼んだようですが、シャルリーヌですわ」
ここは重要な部分なので、きっちり訂正させていだきますわ。
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