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第八部:「聖王旗に忠誠を」

第一話

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 宇宙暦SE四五二五年一月十七日。

 キャメロット第一艦隊第二特務戦隊はキャメロット星系に帰還した。
 第二特務戦隊がスヴァローグ帝国で襲撃を受けたという情報は既に知られており、多くのメディアが第二特務戦隊の入港を見守っていた。

『ご覧ください。旗艦である軽巡航艦キャヴァンディッシュと駆逐艦ジニスの姿はなく、戻ってきたふねにはいずれも大きな損傷の跡が見られます。外交使節団が襲撃を受けたという前代未聞の事態に、軍と政府はどのような対応を取るのでしょうか?』

 女性キャスターが深刻そうな表情で話すと、ゲストである外交アナリストに話を振る。

『スヴァローグ帝国の皇帝アレクサンドル二十二世は出身星系すら掌握できていないのでしょうか? 確かに謝罪と補償を行う旨をコメントとして出しておりますが、その程度で許すことが適当なのでしょうか?』

 五十代半ばのアナリストは訳知り顔で頷く。

『はい、そうですねと受け取っていい案件ではありません。外交使節は我が国を代表して赴いています。つまり、アルビオン王国そのものと言っても過言ではないのです。その使節団を攻撃したということは宣戦布告に等しい行為です。安易に許せば、我が国の威信が損なわれることは間違いありません。皇帝の退位、領土の割譲など我々が納得できる内容でなければ、受け入れることは国益を損なうことと言えるでしょう』

『領土の割譲とおっしゃいますと、ダジボーグ星系を念頭に置かれていると思いますが、先の会戦では勝利を得ながら当該星系を占領しなかったことに対し、野党から強い批判の声が上がっています。このことについてはどうお考えでしょうか?』

『ノースブルック首相は、ダジボーグ星系を領有すれば、防衛負担が大きすぎると言っておりましたが、そもそもヤシマ及び自由星系フリースターズ国家連合ユニオンに多くの艦隊を派遣していたのですから、その主張には矛盾があります。それに民主党が主張しているように自由星系国家連合FSUにダジボーグを管理させれば、我が国の負担は小さくでき、更に帝国と接することがなくなるのですから、防衛費の増大は招きません』

『なるほど。確かにダジボーグ星系がFSUの領土となれば、テーバイ星系方面からの侵攻を考えなくてよくなりますから、防衛上も有利になるというわけですね』

 そこでアナリストはにこりと微笑む。

『そこまで単純ではありませんが、おおむねその理解でよいかと思います』

 このような感じでノースブルック政権を批判していた。
 この二人は野党民主党寄りと言われており、臨時の旗艦であるグラスゴー451の戦闘指揮所CICで見ていたクリフォード・コリングウッド准将は無言で見ていた。
 しかし、艦長であるサミュエル・ラングフォード中佐は憤りを見せる。

「勝手なことを言うものですな。FSUにその能力がないことなど分かっているでしょうに……我々軍の努力をなんだと思っているのだ」

 その言葉にクリフォードが苦笑する。

「選挙が近いからな。やれないと分かっていても魅力的な案を出せば、国民の支持が得られると思っているのだろう」

 このままいけば、四年に一度の下院議員選挙が今年の八月に行われる。そのため、野党民主党は必死に国民の支持を得ようとメディア受けする発言を繰り返していた。
 そんな話をしていたが、自分たちの話になり、スクリーンに視線を向ける。

『今回の外交使節団についても疑問があります』

 アナリストの発言にキャスターが先を促す。

『それはどのような点でしょうか?』

『まず、特使であるパレンバーグ伯爵が何者かに暗殺されかけたわけですから、通常であれば帰国するか、情報収集のために出発を大幅に遅らせるはずです。それが計画通りに帝国に向かっています。その結果、所属不明の武装商船船団の待ち伏せを受けました。本来であればあり得ぬことです。グリースバック特使代理とコリングウッド准将の判断が誤っていたということでしょう』

 その言葉にサミュエルが激怒する。

「准将は反対されている! 何を勝手なことを!」

 クリフォードは彼をなだめる。

「私は気にしていないよ。実際、安全を理由に計画を中止すべきだったと今は考えている。そうすれば戦死者を出すことはなかったからね」

「しかし、外務省と軍の取り決めでは……」

「このことはマールバラ外務卿が後始末を付けてくださるはずだ。それにパレンバーグ特使も我々に続いて帰還されるだろうしね」

 エドウィン・マールバラ子爵は首相であるウーサー・ノースブルック伯爵の盟友で、外交の責任者である外務卿を務めている。その怜悧さから“カミソリ”の異名を持つほどの政治家であるため、クリフォードは楽観していた。

 その後何事も起きず、無事に第三惑星ランスロットの衛星軌道上にある要塞アロンダイトに入港する。

 軍港ということでメディアの記者たちも入り込めず、和やかな雰囲気で舷門ギャングウェイから降りる。

「お疲れさまでした。あなたが無事でよかったわ。もう身体の方は大丈夫なの?」

 小柄な女性将官、第九艦隊司令官のアデル・ハース大将が彼を出迎える。

「今回のことでは君に苦労を掛けた。だが、私は君を選んでよかったと思っているよ。君以外なら間違いなく全滅していただろうから」

 鋭い眼光の壮年の将官、疾風ゲールことジークフリード・エルフィンストーン大将がクリフォードの手を取り、軽く肩を叩く。

 二人の偉大な大将に出迎えられ、クリフォードは恐縮する。

「ご心配をおかけしました。私の身体の方は完全に回復しております……」

 一時は命が危ぶまれる状況であったが、帰還中に艦内でリハビリに励んだことから、体重が戻っていないことを除けば、ほぼ回復していた。
 クリフォードは二人に頭を下げる。

「今回の任務に就きまして、未帰還者を出したこと、キャヴァンディッシュとジニスを失ったことはすべて小官の責任です。いかような処分も甘んじて受けるつもりです」

 彼の謝罪に対し、二人の提督は全く取り合わなかった。

「あなたは最善を尽くしたわ。それに提督がおっしゃったように、あなた以外ではこれほど多くの将兵が祖国の地を踏めなかったでしょう」

 ハースの言葉にエルフィンストーンが頷く。

「その通りだ。今回の責任はすべてグリースバック伯爵にある。これは軍と外務省の統一見解だ。君を含め、第二特務戦隊に責任を問うことはない」

 艦を失ったバートラム・オーウェル中佐も責任が問われないと聞き安堵する。

「今後の予定ですが、どのようになっているのでしょうか?」

「すぐにでも家族に会いたいだろうが、まずは帝国の状況を教えてほしい。すまないが、本部に来てくれないか」

「もちろん構いません。戦隊の各艦が工廠に入るまでは地表に降りるつもりはありませんでしたので。それにパレンバーグ特使がお戻りになるまでに軍でも検討しておいた方がよいと考えております」

 メディアの報道の状況から、軍としても早急に対策を考えておくべきと考えていたため、即答する。

「参謀のオハラ中佐、グラスゴーのラングフォード中佐にも来てもらいたい。二人は君に代わってストリボーグに行き、藩王ニコライ十五世と直接顔を合わせているのだからな」

 その後、クリフォードは二人の中佐に加え、副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐を引き連れて、アロンダイトの艦隊司令本部に向かった。
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