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第七部:「謀略と怨讐の宇宙(そら)」

第六話

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 キャメロット第一艦隊第二特務戦隊の司令部に、戦隊参謀のクリスティーナ・オハラ中佐と副官のヴァレンタイン・ホルボーン少佐が入った。
 しかし、まだ戦隊の形はほとんどなく、そのことについて話し合いを始める。

「ラングフォード中佐のグラスゴー451とコリングウッド少佐のゼファー328は確定として、他の艦はどうされるのですか?」

 ホルボーンの質問にオハラも頷いている。
 本来であれば、第一艦隊の中から選ぶことになるのだが、今回はコパーウィート軍務卿の肝いりであることと艦隊の縮小に伴う再編であることから、クリフォードの希望が優先される。

「旗艦はキャヴァンディッシュ132にしたいと思っている。駆逐艦はゼファーと同じZ級だ。偵察艦スループはリーフ級が望ましい」

 Z級駆逐艦は艦隊決戦から独行任務まで行える万能艦であり、高い戦闘能力と長い活動期間を誇る新鋭駆逐艦だ。

 リーフ級スループは索敵強化型のスループ艦であり、汎用型スループ艦であるフラワー級より能動型アクティブセンサー類が充実し、艦隊の目と呼ばれる艦である。フラワー級と同様にステルス性能が高く、監視が少ない緩衝宙域であれば気づかれずに潜入することも可能だ。

 オハラはZ級とリーフ級に関しては納得するものの、軽巡航艦キャヴァンディッシュについて疑問を持った。

「確かにキャヴァンディッシュ級は軽巡航艦五等級艦の中では旗艦機能を持った艦ではありますが、ラングフォード中佐のグラスゴーが旗艦でなくともよいのですか?」

 キャヴァンディッシュ級は軽巡航艦としてはやや大型で、指揮・作戦・通信など旗艦としての能力を高めた艦だ。

 それに対し、タウン級軽巡であるグラスゴー451は戦闘指揮所CICが狭く、通信系の能力もやや低いため、旗艦とするにはキャヴァンディッシュ級に比べ能力的に劣る。但し、十隻未満の小規模な戦隊であるため、タウン級であっても問題は少ない。

 オハラはクリフォードとサミュエルの関係を知っているため、サミュエルが旗艦艦長になると考えており、そのことを指摘したのだ。

「キャヴァンディッシュ132ですか……バートラム・オーウェル中佐が艦長をされていますね」

 個人用情報端末PDAを操作していたホルボーンがそう呟く。

「オーウェル中佐は私の最初の艦、砲艦レディバードの副長だった人物だ。彼に旗艦艦長を任せようと思っている」

 バートラムはレディバードが沈んだ後、上級士官養成コースを経て、駆逐艦の艦長となった。その後、艦隊の増強によって中佐に昇進し、第一艦隊所属のキャヴァンディッシュ132の艦長に就任している。

「ラングフォード中佐のように優秀な方なのでしょうか?」

 オハラはPDAを見ながら質問する。
 彼女は戦隊参謀の権限でバートラムの勤務評定を見ており、疑問に思ったのだ。

「いい砲艦乗りであったことは間違いない。それに私の考えをよく理解してくれたし、准士官や下士官兵の人気も高い」

「しかし、上官との折り合いはよくないようです。そのような方が旗艦艦長で大丈夫なのでしょうか。こう言っては失礼ですが、友人を救うために旗艦艦長というポジションを用意するのは不適切ではありませんか」

 バートラムは部下に対する理不尽な命令に対しては、上官であっても躊躇なく抗議する義侠心を持っている。しかし、その義侠心が度を過ぎ、鼻つまみ者の巣窟と言われた砲艦戦隊に送り込まれた。その後もその性格は治らず、勤務評定は必ずしもよいものではなかった。

 オハラはクリフォードの機嫌を損ねる可能性を考えつつも、冷静にそのことを指摘した。

「確かにバートを助けるという一面もあるが、サムではなく彼を旗艦艦長にするのには理由がある」

「それをお伺いしてもよいでしょうか?」

 その言葉にクリフォードは小さく頷くと、説明を始めた。

「まず彼の指揮官リーダーとしての能力、資質は非常に高い。レディバード時代も私の無茶な提案を癖の強い下士官たちに理解させ、一つのチームに作り上げてくれた。それに加え、自分より若い者や下の階級の者に対しては面倒見がいい。今回、艦長の中では彼が最年長になるだろう。彼が私と艦長たちの間を上手く繋いでくれる気がするんだ」

「それでしたらラングフォード中佐でもよろしいのではありませんか? DOE5時代、中佐は副長として艦を完璧にまとめておられました。そのことは准将もよくご存じでしょう」

 オハラは王太子護衛戦隊の旗艦、デューク・オブ・エジンバラ5号(DOE5)で情報士をしており、その際、副長であったサミュエルの指揮下にあったため、彼の統率力の高さを実感していた。

 その言葉に対し、クリフォードは頷く。

「もちろん知っている。だが、彼には別のことを頼みたいと思っているんだ」

「別のことですか?」

 オハラは僅かに首を傾げる。

「そうだ。サムは私が最も信頼し、そして私の戦い方を最も理解してくれる人物だ。だから、戦隊を二つに分けるような事態になった時、彼が別動隊を率いてくれれば、ある程度私の考えを読んで動いてくれるはずだ。私は彼にそれを期待している」

 その言葉にオハラは驚く。

「戦いになるとお考えなのですか?」

「それは分からない。だが、DOE5でも戦うことになったんだ。新しい戦隊が戦わずに済むという保証はないよ」

 オハラは当時のことを思い出し、大きく頷く。

「確かに当時は私を含め、王太子護衛戦隊が戦うなんて誰も考えていませんでした。ですが、准将だけは戦うことを前提に厳しい訓練を実施されました。そう考えれば、外交官の護衛とはいえ、戦闘を前提とした編成が望ましいというのは理解できます」

 二人のやり取りを聞いたホルボーンはクリフォードに対する考えを改める。

(戦術・戦略・政略の天才という話だが、常に準備を怠らないからこそ、あれほど厳しい状況でも勝利をものにできたんだろうな。艦はもらえなかったが、そんな人物に目を掛けてもらえた。これは艦長になるより幸運なことかもしれない……)

 その後、バートラムが呼び出された。
 それまで何度か会っていたものの、久しぶりに会う旧友に、クリフォードの表情が緩んだ。

「久しぶりだな、バート」

「ご無沙汰しております。閣下サー

 バートラムは生真面目な態度で敬礼した後、笑みを浮かべた。

「こんなに早く准将になるとは思いませんでしたよ。さすがは崖っぷちクリフエッジの大将だ」

「私も思っていなかったよ」と返すが、すぐに真剣な表情に変える。

「聞いていると思うが、新たな戦隊を編成することになった。君には私の旗艦艦長をやってもらいたい」

 その言葉にバートラムが目を見開く。

「俺がですか……あなたなら選びたい放題でしょうに……何で俺を?」

「君が適任だからだ」

 クリフォードはその問いに簡潔に答えた。
 その躊躇いのない言葉に、バートラムは昔のようなぞんざいな口調になる。

「いやいや、俺が聞いた話じゃ、外交使節の護衛が任務だ。俺のようないい加減な奴より、もっと慣れた奴がいるはずだが」

「確かに外交使節の相手なら君以上に上手くできる者はいくらでもいるだろう。だが、私としては戦闘部隊として戦隊をまとめ上げたい」

 その言葉にバートラムがゴクリと息を呑む。

「そのためには当然だが、厳しい訓練を課すことになる。今までなら私が艦長として下士官や兵たちのケアができたが、司令となった私にはそれができない。あの気難しい砲艦乗りたちをまとめ上げた君の力が必要なんだ」

「相変わらずですな」

 バートラムはそう言って呆れるが、すぐに真剣な表情に戻す。

了解しました、閣下アイアイサー! あなたの下はしんどいがやりがいがある。これから楽しませてもらいます」

 そう言って敬礼する。

 こうしてクリフォードの最初の旗艦が決まった。

 その後、要塞内の臨時の戦隊司令部から、係留されているキャヴァンディッシュ132号に移った。

 キャヴァンディッシュは半舷休暇に入っており、多くの乗組員が艦を降りていたが、クリフォードは残っていた者の中に見知った人物を見つける。

操舵長コクスンじゃないか! ここにいたのか!」

「そうなんすよ、准将サー

 軽い口調で答えたのはレディバードの操舵長だったレイ・トリンブルだった。
 彼はレディバードが沈められた後、准士官である兵曹長に昇進し、駆逐艦の操舵長となった。しかし、その軽い性格が災いし、艦長とそりが合わなかった。

 退役しようかと考えていた時、偶然バートラムが見つけ、キャヴァンディッシュに連れてきたのだ。

「これからは退屈せずに済みそうだな。よろしく頼むよ、コクスン」

「それはこっちも同じですよ。のんびりやらせてもらえないことはレディバードで嫌というほど知っていますけどね」

 最後に取ってつけたように“准将サー”と言いながら、敬礼のつもりなのか、右手を額に付ける。

 そんな様子を後ろで聞いていたホルボーンは、クリフォードの意外な一面を見て内心で驚いていた。

(准士官以下に人気が高いと聞いていたが、これほど気安く話されるとは……偉大な英雄という印象が完全に崩れたな……だが、面白い。この人がどんな人物なのか、じっくりと見させてもらおう……)

 ホルボーンはクリフォードのことを大将クラスと堂々と渡り合う大物という印象を持っていた。実際、義父が首相であるだけでなく、王太子エドワードとも個人的な付き合いがある。

 それが一介の准士官と古くからの友人のように話しているのを目の当たりにし、その人柄に興味を持った。

 キャヴァンディッシュに移ったクリフォードは精力的に行動し始めた。
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