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第六部:「ヤシマ星系を死守せよ」
エピローグ
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ジュンツェン星系にあるJ5要塞の病室でフェイ・ツーロン上将は天井を見つめながら考えていた。
(祖国はどうなるのか……少なくとも私は戦犯として処分されるだろう……それはいい。実際、それだけのことをしているのだから……)
更に革命軍の兵士がヤシマで得た情報についてぼんやりと考えた。
その情報はヤシマで流されていたニュースに過ぎないが、アルビオン王国と自由星系国家連合の連合艦隊の活躍が載っていたのだ。
(若き英雄、“崖っぷち”のコリングウッド大佐か……これほどの逸材だとは思わなかったな……)
ヤシマで人気が高いクリフォードについて、多くの記事が書かれていた。
その中には非公式ながらもクリフォードが第二次タカマガハラ会戦の戦略を考え、下士官たちに反乱を促したと書かれている。
(反乱を呼びかけるところまでなら、俺でも思いつく。だが、革命政府を作り、更に党に不信感を持つ士官の心理まで読むなんてことは俺にはできない……ターマガントで彼を殺しておけば、このような事態にはならなかったのだろうな……いや、あの時も彼は“崖っぷち”だった。そう考えれば、俺が敗れたのは必然だったのだろう……)
その後、フェイは完全に回復したが、ジュンツェン星系に駐留する艦隊の管理をするだけで、革命軍とは深くかかわらないようにしていた。いずれ、ヤシマかアルビオンに連行されると考えていたためだ。
しかし、フェイは告発されなかっただけでなく、軍から追放されることも降格されることもなかった。
これは元政治局長ファ・シュンファの指示を受けた暫定政権の首相チェン・ユンフェイが新生ゾンファ軍の再建にフェイを利用しようと考えていたためだ。
引き続き軍に残ることになり、フェイは困惑する。
(新政府は敗軍の将である俺に何をさせる気なんだ?)
年が明けると、フェイは艦隊と共にゾンファ星系に帰還した。
その報告のため、チェンの下を訪れた。
「上将には苦労を掛けた。今後も我が国のために力を貸してほしい」
その言葉にフェイは小さく首を横に振る。
「敗軍の将は責任を取るべきです。新生ゾンファ軍に小官のような者は相応しくないと考えます」
「もちろん責任は取ってもらうつもりだ。だが、辞めることが責任を取ることとイコールではない。我が国は大きく力を落とした。だが、いつまでもやられているばかりじゃない。そう遠くない将来に必ず復権させる。その時、障害になるのはアルビオンだ。君には敵に対抗できるだけの戦力を整えつつ、敵の力を削ることを頼みたい」
その言葉にフェイは疑問を感じた。
「軍の再建は分かりますが、敵の力を削るというのは停戦条約に反するのではありませんか?」
「大規模な艦隊戦だけが戦争ではないのだ。いろいろとやれることはあるはずだ」
フェイはチェンから今後の戦略を聞き、危惧を抱くが、次の一言で思考が停止する。
「君はアルビオンの若造に負けたままでよいのか?」
ニ十歳も年下のクリフォードに負けた事実を指摘されたのだ。
「彼は実に優秀です。小官が負けたのは必然。私怨で戦いを起こすつもりはありません」
「本当にそう思っているのか? 君も武人であるなら、再戦の機会を望んでいるのではないか」
返す言葉が見つからなかった。図星だったのだ。
彼自身、ターマガントに続き、ヤシマでもクリフォードの策に敗れたことに忸怩たる思いがあった。
「君に暗殺の指揮を執ってくれとは言わん。だが、非正規戦の指揮ならどうだ? 商船に偽装した通商破壊艦で敵の国力を低下させるのは、古来よりある一般的な戦略だ。その指揮を君に任せたい。奴が出てくるかは分からんが、手を焼くような状況になれば、奴が抜擢される可能性は高い。どうだ?」
フェイはその提案に魅力を感じ、最後には「微力を尽くします」と答えた。
こうしてフェイ・ツーロンは新生ゾンファ共和国軍の初代長官となった。彼の下には過去に通商破壊活動に従事した者たちが集められていった。
■■■
宇宙暦四五二三年九月十二日。
クリフォードはヤシマ星系に戻ってきた。
すぐに旗艦インヴィンシブル89に乗り込み、副長のアンソニー・ブルーイット中佐から引継ぎを受ける。
「艦の応急修理は完了しております。完璧ではありませんが、主砲も使える状況ですし、主機関係も問題ありません」
「よくやってくれた」と言って、クリフォードはブルーイットの手を取る。
その後、細かい引継ぎを終えると、司令官のアデル・ハースから呼び出される。
ハースは笑みを浮かべていた。
「我が艦隊は四日後の九月十五日にキャメロットに向けて出発します。これで故郷に帰れるわね」
第九艦隊の他にヤシマで戦った第六、第八、第十一艦隊も帰還することが決まっている。
会戦から二ヶ月半が経っていたが、ヤシマ星系を空にするわけにはいかず、ジュンツェン星系に派遣された三個艦隊が戻ってくるのを待っていたのだ。
「今回も長くなりましたね」と言ってクリフォードは笑った。
前回は五ヶ月超、今回は六ヶ月超という長い期間、祖国を離れていたことになるためだ。
「帰ったら准将に昇進よ。その心づもりでいなさい」
「はい、提督」
自分には早いと思うが、旗艦艦長になって二年以上経ち、更にスヴァローグ帝国での戦いも評価されていたことから、充分にあり得ると思っていた。
そこでハースは真剣な表情に変える。
「今回ゾンファが力を落とし、帝国も昨年の戦争で外に目を向ける余裕がなくなったわ。これで一時的に平和になるはずだけど、その二国が何もせずに大人しくしているとは思えない……」
その言葉にクリフォードも表情を引き締める。
「……ですが、明確な敵がないのだから、我が国は大規模な軍縮に着手するはず。つまり、今までより少ない戦力で、何をしてくるのか分からない敵に対応しなければならないわ」
「提督はその二国が何をしてくるとお考えですか?」
「具体的に何をするのかまでは分からないわ。ただ、謀略を仕掛けてくることは間違いない。ゾンファも帝国もアルビオンだけが強くなることに強い危機感を持つから」
「謀略ですか……確かにあり得そうです。ですが、謀略であれば、諜報部か参謀本部が対応するのではありませんか? 准将に昇進したとしても私にできることは少ないと思いますが」
「そうね。でも、何となくあなたの力が必要になる気がするのよ」
暗くなった雰囲気を変えるべく、クリフォードは笑みを浮かべる。
「それは賢者の予言でしょうか」
クリフォードの軽口にハースは真面目な表情を崩さなかった。
「そうね。そう考えてもらってもいいわ」
そこでクリフォードも表情を引き締め直す。
「了解しました、提督。今のお言葉を心に留め置くようにします」
それで安心したのか、ハースはようやく笑顔を見せた。
「では、ヤシマを出発した後のことを相談しましょう。会戦の前にあなたが料理を、私がワインを提供するという話があったわね。どんな料理を考えているのかしら?」
「ヤシマの最高級の和牛を使った料理を考えています」
「それはいいわね。でも、いつの間に調達していたのかしら? キャメロットから持ってきた物ではないわね?」
「ジュンツェンに向かう前です。王太子殿下の護衛戦隊の時によいレストランをいくつか紹介してもらいましたので、副長に手配を頼んだのです」
「全然気づかなかったわ。なら、明日にでも上陸して味を確認してみるわ。どのワインにするか、決めないといけないから」
「了解しました、提督。長艇はこちらで手配します」
「あら、あなたも一緒に行くのよ」
「艦に戻ったばかりですが」とクリフォードは苦笑する。
「艦隊にも半舷上陸を許可するつもりだから大丈夫よ。それに出港準備はほぼ終わっているのでしょう? 士官たちも連れていきましょう。今から予約できるかしら」
ハースは副官のアビゲイル・ジェファーソン中佐を呼んだ。
その様子をクリフォードは笑みを浮かべながら見ていた。
(こんな日々が続けばいいんだが……これまでとは違う戦いが始まると提督はおっしゃるが、私に何ができるのだろうか……)
クリフォードは一抹の不安を感じながらも今は平和になったことを楽しもうとハースたちの会話に加わった。
第六部完
(祖国はどうなるのか……少なくとも私は戦犯として処分されるだろう……それはいい。実際、それだけのことをしているのだから……)
更に革命軍の兵士がヤシマで得た情報についてぼんやりと考えた。
その情報はヤシマで流されていたニュースに過ぎないが、アルビオン王国と自由星系国家連合の連合艦隊の活躍が載っていたのだ。
(若き英雄、“崖っぷち”のコリングウッド大佐か……これほどの逸材だとは思わなかったな……)
ヤシマで人気が高いクリフォードについて、多くの記事が書かれていた。
その中には非公式ながらもクリフォードが第二次タカマガハラ会戦の戦略を考え、下士官たちに反乱を促したと書かれている。
(反乱を呼びかけるところまでなら、俺でも思いつく。だが、革命政府を作り、更に党に不信感を持つ士官の心理まで読むなんてことは俺にはできない……ターマガントで彼を殺しておけば、このような事態にはならなかったのだろうな……いや、あの時も彼は“崖っぷち”だった。そう考えれば、俺が敗れたのは必然だったのだろう……)
その後、フェイは完全に回復したが、ジュンツェン星系に駐留する艦隊の管理をするだけで、革命軍とは深くかかわらないようにしていた。いずれ、ヤシマかアルビオンに連行されると考えていたためだ。
しかし、フェイは告発されなかっただけでなく、軍から追放されることも降格されることもなかった。
これは元政治局長ファ・シュンファの指示を受けた暫定政権の首相チェン・ユンフェイが新生ゾンファ軍の再建にフェイを利用しようと考えていたためだ。
引き続き軍に残ることになり、フェイは困惑する。
(新政府は敗軍の将である俺に何をさせる気なんだ?)
年が明けると、フェイは艦隊と共にゾンファ星系に帰還した。
その報告のため、チェンの下を訪れた。
「上将には苦労を掛けた。今後も我が国のために力を貸してほしい」
その言葉にフェイは小さく首を横に振る。
「敗軍の将は責任を取るべきです。新生ゾンファ軍に小官のような者は相応しくないと考えます」
「もちろん責任は取ってもらうつもりだ。だが、辞めることが責任を取ることとイコールではない。我が国は大きく力を落とした。だが、いつまでもやられているばかりじゃない。そう遠くない将来に必ず復権させる。その時、障害になるのはアルビオンだ。君には敵に対抗できるだけの戦力を整えつつ、敵の力を削ることを頼みたい」
その言葉にフェイは疑問を感じた。
「軍の再建は分かりますが、敵の力を削るというのは停戦条約に反するのではありませんか?」
「大規模な艦隊戦だけが戦争ではないのだ。いろいろとやれることはあるはずだ」
フェイはチェンから今後の戦略を聞き、危惧を抱くが、次の一言で思考が停止する。
「君はアルビオンの若造に負けたままでよいのか?」
ニ十歳も年下のクリフォードに負けた事実を指摘されたのだ。
「彼は実に優秀です。小官が負けたのは必然。私怨で戦いを起こすつもりはありません」
「本当にそう思っているのか? 君も武人であるなら、再戦の機会を望んでいるのではないか」
返す言葉が見つからなかった。図星だったのだ。
彼自身、ターマガントに続き、ヤシマでもクリフォードの策に敗れたことに忸怩たる思いがあった。
「君に暗殺の指揮を執ってくれとは言わん。だが、非正規戦の指揮ならどうだ? 商船に偽装した通商破壊艦で敵の国力を低下させるのは、古来よりある一般的な戦略だ。その指揮を君に任せたい。奴が出てくるかは分からんが、手を焼くような状況になれば、奴が抜擢される可能性は高い。どうだ?」
フェイはその提案に魅力を感じ、最後には「微力を尽くします」と答えた。
こうしてフェイ・ツーロンは新生ゾンファ共和国軍の初代長官となった。彼の下には過去に通商破壊活動に従事した者たちが集められていった。
■■■
宇宙暦四五二三年九月十二日。
クリフォードはヤシマ星系に戻ってきた。
すぐに旗艦インヴィンシブル89に乗り込み、副長のアンソニー・ブルーイット中佐から引継ぎを受ける。
「艦の応急修理は完了しております。完璧ではありませんが、主砲も使える状況ですし、主機関係も問題ありません」
「よくやってくれた」と言って、クリフォードはブルーイットの手を取る。
その後、細かい引継ぎを終えると、司令官のアデル・ハースから呼び出される。
ハースは笑みを浮かべていた。
「我が艦隊は四日後の九月十五日にキャメロットに向けて出発します。これで故郷に帰れるわね」
第九艦隊の他にヤシマで戦った第六、第八、第十一艦隊も帰還することが決まっている。
会戦から二ヶ月半が経っていたが、ヤシマ星系を空にするわけにはいかず、ジュンツェン星系に派遣された三個艦隊が戻ってくるのを待っていたのだ。
「今回も長くなりましたね」と言ってクリフォードは笑った。
前回は五ヶ月超、今回は六ヶ月超という長い期間、祖国を離れていたことになるためだ。
「帰ったら准将に昇進よ。その心づもりでいなさい」
「はい、提督」
自分には早いと思うが、旗艦艦長になって二年以上経ち、更にスヴァローグ帝国での戦いも評価されていたことから、充分にあり得ると思っていた。
そこでハースは真剣な表情に変える。
「今回ゾンファが力を落とし、帝国も昨年の戦争で外に目を向ける余裕がなくなったわ。これで一時的に平和になるはずだけど、その二国が何もせずに大人しくしているとは思えない……」
その言葉にクリフォードも表情を引き締める。
「……ですが、明確な敵がないのだから、我が国は大規模な軍縮に着手するはず。つまり、今までより少ない戦力で、何をしてくるのか分からない敵に対応しなければならないわ」
「提督はその二国が何をしてくるとお考えですか?」
「具体的に何をするのかまでは分からないわ。ただ、謀略を仕掛けてくることは間違いない。ゾンファも帝国もアルビオンだけが強くなることに強い危機感を持つから」
「謀略ですか……確かにあり得そうです。ですが、謀略であれば、諜報部か参謀本部が対応するのではありませんか? 准将に昇進したとしても私にできることは少ないと思いますが」
「そうね。でも、何となくあなたの力が必要になる気がするのよ」
暗くなった雰囲気を変えるべく、クリフォードは笑みを浮かべる。
「それは賢者の予言でしょうか」
クリフォードの軽口にハースは真面目な表情を崩さなかった。
「そうね。そう考えてもらってもいいわ」
そこでクリフォードも表情を引き締め直す。
「了解しました、提督。今のお言葉を心に留め置くようにします」
それで安心したのか、ハースはようやく笑顔を見せた。
「では、ヤシマを出発した後のことを相談しましょう。会戦の前にあなたが料理を、私がワインを提供するという話があったわね。どんな料理を考えているのかしら?」
「ヤシマの最高級の和牛を使った料理を考えています」
「それはいいわね。でも、いつの間に調達していたのかしら? キャメロットから持ってきた物ではないわね?」
「ジュンツェンに向かう前です。王太子殿下の護衛戦隊の時によいレストランをいくつか紹介してもらいましたので、副長に手配を頼んだのです」
「全然気づかなかったわ。なら、明日にでも上陸して味を確認してみるわ。どのワインにするか、決めないといけないから」
「了解しました、提督。長艇はこちらで手配します」
「あら、あなたも一緒に行くのよ」
「艦に戻ったばかりですが」とクリフォードは苦笑する。
「艦隊にも半舷上陸を許可するつもりだから大丈夫よ。それに出港準備はほぼ終わっているのでしょう? 士官たちも連れていきましょう。今から予約できるかしら」
ハースは副官のアビゲイル・ジェファーソン中佐を呼んだ。
その様子をクリフォードは笑みを浮かべながら見ていた。
(こんな日々が続けばいいんだが……これまでとは違う戦いが始まると提督はおっしゃるが、私に何ができるのだろうか……)
クリフォードは一抹の不安を感じながらも今は平和になったことを楽しもうとハースたちの会話に加わった。
第六部完
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