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第六部:「ヤシマ星系を死守せよ」
第四十話
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宇宙暦四五二三年六月三十日 標準時間〇二四五。
第九艦隊は連合艦隊が反攻を開始した位置から約二十光秒の位置にあった。
奇襲が成功したことに歓声が上がったが、すぐにフェイ・ツーロン上将率いるゾンファ艦隊から激しい攻撃を受け、多くの艦が爆発する。
「前方のフェイ艦隊を本隊に向かわせてはなりません! ここで食い止めるのです!」
司令官のアデル・ハース大将は奇襲によって勢いを得たものの、予想より敵の混乱が小さく、フェイ艦隊が戦場に乱入すれば、敵に立ち直る時間を与えてしまい、再び相手に流れが傾くと考えていた。
(思ったより奇襲の効果が小さいわ。二十分、いえ、十五分でいいから、ここで足止めしないと……混成部隊であるサウスゲート艦隊に攻撃を加えられたら、ヤシマとロンバルディアの将兵は必ず動揺するわ。そうなったら、一気に流れを持っていかれてしまう……)
焦りを隠しながら的確に指示を出し、フェイ艦隊を押し留めようとしていた。
旗艦インヴィンシブル89は第一巡航戦艦戦隊と共に最前列で死闘を繰り広げている。
「主砲、副砲は艦隊運用規則を無視して砲撃を続けよ! スペクターミサイル発射準備!……」
クリフォードは部下たちに命令を発しながらメインスクリーンに映るフェイ艦隊の動きを見ていた。
(フェイ上将は救援に向かいたくて焦っているようだ。しかし、提督はここで食い止めるつもりでいる。遠距離とはいえ、第十一艦隊を攻撃されると厄介だが、救援に向かわせた上で、我が艦隊が更に後方から脅かす方が敵に動揺を与えられるのではないだろうか……)
ハースは側面を見せているサウスゲート艦隊に遠距離砲撃を加えることで流れを取り戻されることを恐れたが、クリフォードはその上で更に後方から攻撃を加えることで、流れを引き戻せばいいと考えていた。
クリフォードと同じ考えに至ったのか、副参謀長のオーソン・スプリングス少将が提案を行った。
「前方の艦隊を素通りさせて、その後方から我が艦隊が攻撃した方がよいのではありませんか?」
ハースはその提案を即座に否定する。
「それは駄目よ」
「なぜでしょうか?」と首席参謀のヒラリー・カートライト大佐が疑問を口にする。
「ヤシマとロンバルディアの将兵は一時的に高揚しているだけ。ここでサウスゲート艦隊が大きなダメージを受けて下がれば、最後の策が効果を発揮する前に戦線が崩壊してしまうわ。何としてでも時間を稼がないといけないのよ」
その言葉でクリフォードも納得した。
(確かにそうだ。アルビオン艦隊なら問題ないが、自由星系国家連合の将兵はそこまで強くない。この攻勢を凌がれたら、勝機は訪れない……しかし、何もしないわけにはいかない……あれを使えば……)
クリフォードはメインスクリーンに映る大型軍事衛星に見た後、振り返って提案を行った。
「ムツキ級衛星に支援を要請してはいかがでしょうか。ゾンファ艦隊本隊よりこちらのフェイ艦隊の方が現状では優先度が高いですし、ムツキ級の砲撃が加われば敵艦隊も容易には突破できないでしょう」
ムツキ級軍事衛星はゾンファ艦隊本隊によって三基が破壊されているが、残りの七基は損傷を負いながらも攻撃能力は失っていなかった。
「そうね。オオサワ提督なら分かってくださると思うわ。アビー、オオサワ提督に繋いでちょうだい」
副官のアビゲイル・ジェファーソン中佐が回線を繋ぐと、ハースは手短に状況を説明し、支援を依頼した。
「短時間で構いませんので、敵後方艦隊への砲撃をお願いします」
オオサワは状況を把握しており、即座に了承する。
「確かにその艦隊の方が危険ですな。ここからでは殲滅することはできませんが、足止めくらいはできるでしょう」
そう言うと、すぐに支援砲撃を開始した。
標準時間〇二五〇。
第九艦隊とフェイ艦隊はほぼゼロ距離にまで接近した。
迎え撃つ第九艦隊は星間物質との相対速度をほぼゼロにまで減速し終えていた。
一方のフェイ艦隊だが、一旦は〇・〇二Cまで加速したものの、その状態では危険であると判断し、減速を終えている。
第九艦隊はその特性である機動力を生かすことができず非常に不利な状況だ。
しかし、フェイも早急に本隊の救援に向かいたいと考え、焦りがあった。
接近中から加速された粒子ビームとミサイルが交錯し、そのたびに多くの艦が爆発している。
最前線にあるインヴィンシブルにも何度も直撃があり、その都度激しい揺れが乗組員たちを襲っている。
「優先順位は防御スクリーン、パワープラント、通常空間用航行機関、主砲だ。それ以外の損傷は無視しろ! 今は敵を一秒でも食い止めることが重要だ! 我々巡航戦艦戦隊で敵を食い止めるんだ!」
クリフォードの言葉に乗組員たちも全力で当たった。
インヴィンシブルは第一巡航戦艦戦隊の各艦と連携して格上であるルーシャン級大型戦艦やフージェン級戦艦を三隻、重巡航艦を五隻撃沈しているが、第一巡航戦艦戦隊も二十隻中、既に五隻が沈められ、二隻が戦闘不能に陥っていた。
艦隊全体では二百隻近くが沈められ、約千五百隻が損傷を負っていた。
それでもこの程度で済んでいるのはムツキ級軍事衛星からの支援砲撃のお陰だった。
ムツキ級は三基が破壊され、七基のうち二基が大きな損傷を負っているが、それでも六十三門の百テラワット級陽電子加速砲を有していた。その砲撃力は一個艦隊の戦艦の集中砲撃の総出力を超えており、フェイ艦隊も強引に前進することができなかった。
順調にフェイ艦隊を抑え込んでいたと思われた時、インヴィンシブルを大きな衝撃が襲った。
身体を大きく揺さぶる揺れと共に、CICの照明が一瞬消え、オレンジ色の非常用照明に切り替わる。
コンソールからは警報音が鳴り響き、人工知能の中性的な声がそれにかぶさるように響く。
『最外殻ブロック減圧。エリア一斉隔離信号作動。当該区画にいる乗組員は直ちに退避してください……』
クリフォードはいち早く我に返ると、指揮官用コンソールを一瞥する。
そこには艦首から右舷側に向けて大きく損傷し、防御スクリーンが両系統とも失われていることが示されていた。
「損傷状況を確認後、報告せよ!」
すぐに報告が上がってくる。
「主砲加速コイル損傷! 現状では使用不能です!」
「対消滅炉、A及びC系統緊急停止! 現在、機関制御室から再起動中! 質量-熱量変換装置異常なし!」
「センサー類に一部欠落はありますが、情報系機器は正常です」
「通常空間用航行機関異常なし! スラスターもすべて正常です!」
しかし、その直後に最も悲観的な報告が上がってきた。
「防御スクリーン、三系統とも緊急停止! Aトレイン再展開まで三十秒です! B、Cトレイン、再展開シーケンスに入りません!」
その言葉にCIC要員たちが声を失う。現状では完全に無防備だが、敵の砲撃は熾烈さを増しているためだ。
クリフォードはその空気を変えるべく、努めて明るい声で指示を出す。
「操舵長は手動回避に専念してくれ! 今は君の腕に掛かっている! 軽巡航艦並みの動きを見せてくれよ!」
彼の後ろでは司令部要員たちが各戦隊からの問合せに対応しているが、その中でハースはクリフォードに冷静な口調で声を掛けた。
「クリフ、旗艦の状況を教えて。インヴィンシブルはまだ戦えるかしら」
「旗艦としての機能は維持しておりますが、戦闘艦としての機能は失いました。旗艦艦長として、閣下及び司令部の退艦を進言いたします」
クリフォードは無防備な旗艦から司令官以下が退去すべきと提案した。
「分かりました。アビー、マクレガー中将に大至急繋いで」
その間にクリフォードも次々と指示を出していく。
「副長! 防御スクリーンの修理を最優先で頼む! 戦術士、副砲とカロネードで応戦しろ! まだ我々は牙を失っていない!……」
彼の後ろではハースが副司令官のショーン・マクレガー中将に指示を出していた。
「旗艦が損傷しました。私はここで指揮を執り続けますが、旗艦からの連絡が途絶えたら、遅滞なく貴官が艦隊の指揮を執ってください」
マクレガーは即座に「了解しました、提督」と答え、更に「ご武運を」と付け加えると、すぐに通信を切った。
その決定にクリフォードは驚き、思わずハースを見た。
「この状況では次の艦に移ることもできません。ならば、ここで指揮を執り続けた方が艦隊にとってはよいのです」
別の艦に移るためには艦載艇を使うしかないが、激しい砲撃戦の中に艦載艇で乗り出すことは大きな危険が伴う。また、移乗先の艦が艦載艇を収容する際に回避機動を停止せざるを得ず、無防備な状態になる点も大きなリスクと言えた。
「しかし……」とクリフォードが言いかけるが、ハースはそれを遮った。
「今は議論している時間はありませんよ。それに私はこの艦の仲間を信じています。私が指揮を執り続けられるようにしてくれると」
ハースはこの場に相応しくないような優しい表情でそれだけ言うと、参謀長らに次々と指示を出し始めた。
クリフォードはハースの判断が合理的だと思いつつも、司令官を危険に晒すことに忸怩たる思いをしていた。しかし、CIC要員たちは驚きつつもやる気に満ちていた。
「提督のために何としてでも艦を守り抜くぞ!」と、戦術士のオスカー・ポートマン中佐が宣言すると、多くの者がそれに賛同する。
「提督を守り抜くためにも、今は戦いに集中するんだ!」
クリフォードの言葉にCIC要員たちに冷静さが戻る。
「防御スクリーンAトレイン回復しました!」という報告に、クリフォードを含め、CIC要員たちは安堵の表情を浮かべた。
「Aトレイン対消滅炉、再起動失敗! Cトレインは起動シーケンスに入りましたが、フル出力に上げられません! 立ち上げと調整に三十分必要とのことです!」という機関士の悲痛な叫びが響く。
三基ある対消滅炉のうち、二基が故障した状態であり、このままでは直撃を受けた衝撃で、生き残っている炉も停止する恐れがあった。
「了解。機関長にB系の調整に専念するように伝えてくれ」
それだけ命じると、満身創痍の愛艦の状況を確認していった。
第九艦隊は連合艦隊が反攻を開始した位置から約二十光秒の位置にあった。
奇襲が成功したことに歓声が上がったが、すぐにフェイ・ツーロン上将率いるゾンファ艦隊から激しい攻撃を受け、多くの艦が爆発する。
「前方のフェイ艦隊を本隊に向かわせてはなりません! ここで食い止めるのです!」
司令官のアデル・ハース大将は奇襲によって勢いを得たものの、予想より敵の混乱が小さく、フェイ艦隊が戦場に乱入すれば、敵に立ち直る時間を与えてしまい、再び相手に流れが傾くと考えていた。
(思ったより奇襲の効果が小さいわ。二十分、いえ、十五分でいいから、ここで足止めしないと……混成部隊であるサウスゲート艦隊に攻撃を加えられたら、ヤシマとロンバルディアの将兵は必ず動揺するわ。そうなったら、一気に流れを持っていかれてしまう……)
焦りを隠しながら的確に指示を出し、フェイ艦隊を押し留めようとしていた。
旗艦インヴィンシブル89は第一巡航戦艦戦隊と共に最前列で死闘を繰り広げている。
「主砲、副砲は艦隊運用規則を無視して砲撃を続けよ! スペクターミサイル発射準備!……」
クリフォードは部下たちに命令を発しながらメインスクリーンに映るフェイ艦隊の動きを見ていた。
(フェイ上将は救援に向かいたくて焦っているようだ。しかし、提督はここで食い止めるつもりでいる。遠距離とはいえ、第十一艦隊を攻撃されると厄介だが、救援に向かわせた上で、我が艦隊が更に後方から脅かす方が敵に動揺を与えられるのではないだろうか……)
ハースは側面を見せているサウスゲート艦隊に遠距離砲撃を加えることで流れを取り戻されることを恐れたが、クリフォードはその上で更に後方から攻撃を加えることで、流れを引き戻せばいいと考えていた。
クリフォードと同じ考えに至ったのか、副参謀長のオーソン・スプリングス少将が提案を行った。
「前方の艦隊を素通りさせて、その後方から我が艦隊が攻撃した方がよいのではありませんか?」
ハースはその提案を即座に否定する。
「それは駄目よ」
「なぜでしょうか?」と首席参謀のヒラリー・カートライト大佐が疑問を口にする。
「ヤシマとロンバルディアの将兵は一時的に高揚しているだけ。ここでサウスゲート艦隊が大きなダメージを受けて下がれば、最後の策が効果を発揮する前に戦線が崩壊してしまうわ。何としてでも時間を稼がないといけないのよ」
その言葉でクリフォードも納得した。
(確かにそうだ。アルビオン艦隊なら問題ないが、自由星系国家連合の将兵はそこまで強くない。この攻勢を凌がれたら、勝機は訪れない……しかし、何もしないわけにはいかない……あれを使えば……)
クリフォードはメインスクリーンに映る大型軍事衛星に見た後、振り返って提案を行った。
「ムツキ級衛星に支援を要請してはいかがでしょうか。ゾンファ艦隊本隊よりこちらのフェイ艦隊の方が現状では優先度が高いですし、ムツキ級の砲撃が加われば敵艦隊も容易には突破できないでしょう」
ムツキ級軍事衛星はゾンファ艦隊本隊によって三基が破壊されているが、残りの七基は損傷を負いながらも攻撃能力は失っていなかった。
「そうね。オオサワ提督なら分かってくださると思うわ。アビー、オオサワ提督に繋いでちょうだい」
副官のアビゲイル・ジェファーソン中佐が回線を繋ぐと、ハースは手短に状況を説明し、支援を依頼した。
「短時間で構いませんので、敵後方艦隊への砲撃をお願いします」
オオサワは状況を把握しており、即座に了承する。
「確かにその艦隊の方が危険ですな。ここからでは殲滅することはできませんが、足止めくらいはできるでしょう」
そう言うと、すぐに支援砲撃を開始した。
標準時間〇二五〇。
第九艦隊とフェイ艦隊はほぼゼロ距離にまで接近した。
迎え撃つ第九艦隊は星間物質との相対速度をほぼゼロにまで減速し終えていた。
一方のフェイ艦隊だが、一旦は〇・〇二Cまで加速したものの、その状態では危険であると判断し、減速を終えている。
第九艦隊はその特性である機動力を生かすことができず非常に不利な状況だ。
しかし、フェイも早急に本隊の救援に向かいたいと考え、焦りがあった。
接近中から加速された粒子ビームとミサイルが交錯し、そのたびに多くの艦が爆発している。
最前線にあるインヴィンシブルにも何度も直撃があり、その都度激しい揺れが乗組員たちを襲っている。
「優先順位は防御スクリーン、パワープラント、通常空間用航行機関、主砲だ。それ以外の損傷は無視しろ! 今は敵を一秒でも食い止めることが重要だ! 我々巡航戦艦戦隊で敵を食い止めるんだ!」
クリフォードの言葉に乗組員たちも全力で当たった。
インヴィンシブルは第一巡航戦艦戦隊の各艦と連携して格上であるルーシャン級大型戦艦やフージェン級戦艦を三隻、重巡航艦を五隻撃沈しているが、第一巡航戦艦戦隊も二十隻中、既に五隻が沈められ、二隻が戦闘不能に陥っていた。
艦隊全体では二百隻近くが沈められ、約千五百隻が損傷を負っていた。
それでもこの程度で済んでいるのはムツキ級軍事衛星からの支援砲撃のお陰だった。
ムツキ級は三基が破壊され、七基のうち二基が大きな損傷を負っているが、それでも六十三門の百テラワット級陽電子加速砲を有していた。その砲撃力は一個艦隊の戦艦の集中砲撃の総出力を超えており、フェイ艦隊も強引に前進することができなかった。
順調にフェイ艦隊を抑え込んでいたと思われた時、インヴィンシブルを大きな衝撃が襲った。
身体を大きく揺さぶる揺れと共に、CICの照明が一瞬消え、オレンジ色の非常用照明に切り替わる。
コンソールからは警報音が鳴り響き、人工知能の中性的な声がそれにかぶさるように響く。
『最外殻ブロック減圧。エリア一斉隔離信号作動。当該区画にいる乗組員は直ちに退避してください……』
クリフォードはいち早く我に返ると、指揮官用コンソールを一瞥する。
そこには艦首から右舷側に向けて大きく損傷し、防御スクリーンが両系統とも失われていることが示されていた。
「損傷状況を確認後、報告せよ!」
すぐに報告が上がってくる。
「主砲加速コイル損傷! 現状では使用不能です!」
「対消滅炉、A及びC系統緊急停止! 現在、機関制御室から再起動中! 質量-熱量変換装置異常なし!」
「センサー類に一部欠落はありますが、情報系機器は正常です」
「通常空間用航行機関異常なし! スラスターもすべて正常です!」
しかし、その直後に最も悲観的な報告が上がってきた。
「防御スクリーン、三系統とも緊急停止! Aトレイン再展開まで三十秒です! B、Cトレイン、再展開シーケンスに入りません!」
その言葉にCIC要員たちが声を失う。現状では完全に無防備だが、敵の砲撃は熾烈さを増しているためだ。
クリフォードはその空気を変えるべく、努めて明るい声で指示を出す。
「操舵長は手動回避に専念してくれ! 今は君の腕に掛かっている! 軽巡航艦並みの動きを見せてくれよ!」
彼の後ろでは司令部要員たちが各戦隊からの問合せに対応しているが、その中でハースはクリフォードに冷静な口調で声を掛けた。
「クリフ、旗艦の状況を教えて。インヴィンシブルはまだ戦えるかしら」
「旗艦としての機能は維持しておりますが、戦闘艦としての機能は失いました。旗艦艦長として、閣下及び司令部の退艦を進言いたします」
クリフォードは無防備な旗艦から司令官以下が退去すべきと提案した。
「分かりました。アビー、マクレガー中将に大至急繋いで」
その間にクリフォードも次々と指示を出していく。
「副長! 防御スクリーンの修理を最優先で頼む! 戦術士、副砲とカロネードで応戦しろ! まだ我々は牙を失っていない!……」
彼の後ろではハースが副司令官のショーン・マクレガー中将に指示を出していた。
「旗艦が損傷しました。私はここで指揮を執り続けますが、旗艦からの連絡が途絶えたら、遅滞なく貴官が艦隊の指揮を執ってください」
マクレガーは即座に「了解しました、提督」と答え、更に「ご武運を」と付け加えると、すぐに通信を切った。
その決定にクリフォードは驚き、思わずハースを見た。
「この状況では次の艦に移ることもできません。ならば、ここで指揮を執り続けた方が艦隊にとってはよいのです」
別の艦に移るためには艦載艇を使うしかないが、激しい砲撃戦の中に艦載艇で乗り出すことは大きな危険が伴う。また、移乗先の艦が艦載艇を収容する際に回避機動を停止せざるを得ず、無防備な状態になる点も大きなリスクと言えた。
「しかし……」とクリフォードが言いかけるが、ハースはそれを遮った。
「今は議論している時間はありませんよ。それに私はこの艦の仲間を信じています。私が指揮を執り続けられるようにしてくれると」
ハースはこの場に相応しくないような優しい表情でそれだけ言うと、参謀長らに次々と指示を出し始めた。
クリフォードはハースの判断が合理的だと思いつつも、司令官を危険に晒すことに忸怩たる思いをしていた。しかし、CIC要員たちは驚きつつもやる気に満ちていた。
「提督のために何としてでも艦を守り抜くぞ!」と、戦術士のオスカー・ポートマン中佐が宣言すると、多くの者がそれに賛同する。
「提督を守り抜くためにも、今は戦いに集中するんだ!」
クリフォードの言葉にCIC要員たちに冷静さが戻る。
「防御スクリーンAトレイン回復しました!」という報告に、クリフォードを含め、CIC要員たちは安堵の表情を浮かべた。
「Aトレイン対消滅炉、再起動失敗! Cトレインは起動シーケンスに入りましたが、フル出力に上げられません! 立ち上げと調整に三十分必要とのことです!」という機関士の悲痛な叫びが響く。
三基ある対消滅炉のうち、二基が故障した状態であり、このままでは直撃を受けた衝撃で、生き残っている炉も停止する恐れがあった。
「了解。機関長にB系の調整に専念するように伝えてくれ」
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