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第六部:「ヤシマ星系を死守せよ」
第二十四話
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宇宙暦四五二三年五月十四日、標準時間〇八〇〇。
イーグン星系ジャンプポイント会戦が終わってから四時間が経過した。超光速航行が可能なゾンファ艦はすべて撤退し、脱出した将兵の回収や降伏したゾンファ艦の処置などを行っている。
本会戦に参加した戦闘艦は、アルビオン・自由星系国家連合連合艦隊が十一個艦隊約四万九千五百隻。
内訳はアルビオン王国が四個艦隊一万八千隻、ヤシマが三個艦隊一万三千五百隻、ヒンド共和国とラメリク・ラティーヌ共和国はそれぞれ二個艦隊九千隻ずつであった。
一方のゾンファ共和国は八個艦隊約三万六千隻で、両軍合わせて十九個艦隊八万五千五百隻、参加した将兵の数は九百万人を大きく超えていた。
連合艦隊側の損失は喪失艦約九千隻と破棄される大破した艦約三千五百隻を加えた約一万二千五百隻。参加総数の約四分の一に達する。また、中小破が約三万三千隻であり、九十パーセントを超える艦が何らかのダメージを負った。
アルビオン艦隊では、第十一艦隊を中心に喪失約三千隻、大破約一千と一個艦隊に迫る数の艦が失われている。また、中破が約五千隻と、戦闘力を有している艦の数は一万隻を割り込んでいた。
ヤシマ艦隊は更に大きく傷ついていた。
喪失が約四千隻、大破が約一千五百隻、中破が約四千隻、小破が約四千隻と無傷の艦はほとんどなく、戦力は会戦前の三分の一にまで減少していた。
後方にあったヒンド、ラメリクの両艦隊だが、喪失が約二千隻、大破が約一千隻、中破が約五千隻、小破が約八千隻と思った以上に大きく傷ついている。
撤退したゾンファ艦隊だが、撃沈が約三千隻、超光速航行機関や対消滅炉などが故障し、降伏した艦が約二千と約五千隻を失っている。
また、人工知能の解析では、中破が約七千隻、小破が約一万隻と無視できない損害を負っている。
しかし、連合艦隊側に比べれば半数程度と軽微であった。
この事実に第九艦隊司令官アデル・ハース大将はいつもの笑みを消し、深刻そうな表情で考え込んでいた。
「どうなされましたか」と副官であるアビゲイル・ジェファーソン中佐が声を掛ける。
「ゾンファがどうしてこれほどあっさり撤退したのか考えていたのよ」
「沈められた艦の数は敵の方が圧倒的に少なかったわ。あのまま押していたら、連合艦隊本隊が耐えられたか微妙なところよ。ヒンドとラメリク・ラティーヌの艦隊は無視すれば、両方とも逃げ出したでしょう。そうなると戦力比は大きく逆転されることになったはず」
「我々第九艦隊の動きを恐れたのではないでしょうか?」
ジェファーソンの言葉をハースは即座に否定する。
「それはないわ。あの時、クリフが言ったけど、敵の総司令官は我々のことを脅威とは見ていなかったはず。もし、脅威だと感じているなら、何らかの手を打ったでしょうから」
そこで参謀長のセオドア・ロックウェル中将に視線を向ける。
「参謀長はどうお考えですか?」
「あれだけ整然と撤退したということは再侵攻を考え、戦力を温存した可能性が考えられますな」
「参謀長もそうお考えになりますか……オーソン、あなたの意見を聞かせて」
副参謀長のオーソン・スプリングス少将はすぐに「参謀長のお考えに賛成です」と答えた。
「でもわざわざジャンプで逃げる必要はないのではなくて? 超空間の中では満足な補修もできないのだから。そこが引っかかるのよ」
超空間では艦内からの補修は可能だが、艦外に出ることができないことと、修理専門の工作艦による補修ができないため、完全に回復させることは難しい。
「確かにそうですな。こちらの数がここまで減ったのなら、我々を強引に全滅させた方がその後が楽になったはずです」
ロックウェルの言葉にスプリングスと首席参謀のヒラリー・カートライト大佐が頷く。
「クリフ、手を止められるかしら」
「はい、提督」とクリフォードは答える。
彼は旗艦艦長として自艦や戦隊各艦の状況を確認していた。しかし、戦闘で被弾することなく、戦隊にも損害を受けた艦がいなかった。また、救助活動も小回りの利く小型艦が行うため、特にすることがなく、手持ち無沙汰な状態であった。
「話は聞いていたわね。意見があったら教えてほしいわ」
「了解しました、提督。恐らくですが、即座に再侵攻してくることはないと思います」
「その根拠は?」
「敵がわざわざイーグンJPでの決戦を狙ってきたことが理由です。最初から我々にある一定のダメージを与えたら、自分たちが大きなダメージを負う前に撤退するつもりだったのでしょう。一度ジュンツェン星系に引き上げ、艦隊を再編後、地上軍と共に再侵攻してくると思います」
「確かにそうね。補助艦艇を連れてきていないし、あれほどあっさりと撤退したということは最初から狙っていたはず。最初は補助艦艇を時間差で送り込むと思っていたけど、この状況を見ればあり得ないのだから」
イーグン星系からヤシマ星系までは五パーセク(約十六光年)あり、超空間の移動だけでも五日かかる。一日程度の時間差で補助艦艇を送り込む場合、侵攻艦隊本隊が超空間を移動中に超光速航行に移行する必要がある。
つまり、補助艦艇を後で送り込むつもりであったなら、それまでJPに張り付き続けていなければ、補助艦艇は無防備な状態で敵の星系に突入することになるのだ。
「それにイーグン星系に予備の艦隊がいる可能性はありませんから、傷ついた状態で再侵攻した場合、タカマガハラの軍事衛星群と残存艦隊の相手をする必要があります。それならば、最初から連合艦隊を殲滅する方がマシでしょう。いずれにしても捕虜を尋問すれば、ある程度は分かると思います」
「ジュンツェン星系に戻ることになるから、一ヶ月半くらいは時間が稼げるということね……でも、それだと本国からの増援は期待できないわ。だから、あっさりと撤退したのね……」
ヤシマ星系とキャメロット星系は二十二パーセク(約七十二光年)離れている。そのため、ゾンファ軍侵攻という情報がキャメロットに届くのは二十三日後の五月三十日頃となる。そこから艦隊の出撃準備をしたとしても、ヤシマに増援が来るのは七月十日頃が最短となる。
一方、ゾンファ側の再侵攻は六月末頃となるため、キャメロットからの増援が間に合う可能性は低い。
その後、捕虜の尋問により得られた情報により、クリフォードの予想が当たっていたことが判明した。
また、十五個艦隊と百二十万人の地上軍という膨大な戦力を用意していたことも同時に判明する。
その事実にイーグンJP会戦での勝利に沸いていた将兵たちは愕然とするしかなかった。
「いずれにしてもできることは損傷した艦を早期に復帰させ、タカマガハラ周辺での防衛体制を強化することです。自らの職務を全うしてくれることを期待しています」
ハースの言葉に第九艦隊では落ち着きを取り戻した。
イーグン星系ジャンプポイント会戦が終わってから四時間が経過した。超光速航行が可能なゾンファ艦はすべて撤退し、脱出した将兵の回収や降伏したゾンファ艦の処置などを行っている。
本会戦に参加した戦闘艦は、アルビオン・自由星系国家連合連合艦隊が十一個艦隊約四万九千五百隻。
内訳はアルビオン王国が四個艦隊一万八千隻、ヤシマが三個艦隊一万三千五百隻、ヒンド共和国とラメリク・ラティーヌ共和国はそれぞれ二個艦隊九千隻ずつであった。
一方のゾンファ共和国は八個艦隊約三万六千隻で、両軍合わせて十九個艦隊八万五千五百隻、参加した将兵の数は九百万人を大きく超えていた。
連合艦隊側の損失は喪失艦約九千隻と破棄される大破した艦約三千五百隻を加えた約一万二千五百隻。参加総数の約四分の一に達する。また、中小破が約三万三千隻であり、九十パーセントを超える艦が何らかのダメージを負った。
アルビオン艦隊では、第十一艦隊を中心に喪失約三千隻、大破約一千と一個艦隊に迫る数の艦が失われている。また、中破が約五千隻と、戦闘力を有している艦の数は一万隻を割り込んでいた。
ヤシマ艦隊は更に大きく傷ついていた。
喪失が約四千隻、大破が約一千五百隻、中破が約四千隻、小破が約四千隻と無傷の艦はほとんどなく、戦力は会戦前の三分の一にまで減少していた。
後方にあったヒンド、ラメリクの両艦隊だが、喪失が約二千隻、大破が約一千隻、中破が約五千隻、小破が約八千隻と思った以上に大きく傷ついている。
撤退したゾンファ艦隊だが、撃沈が約三千隻、超光速航行機関や対消滅炉などが故障し、降伏した艦が約二千と約五千隻を失っている。
また、人工知能の解析では、中破が約七千隻、小破が約一万隻と無視できない損害を負っている。
しかし、連合艦隊側に比べれば半数程度と軽微であった。
この事実に第九艦隊司令官アデル・ハース大将はいつもの笑みを消し、深刻そうな表情で考え込んでいた。
「どうなされましたか」と副官であるアビゲイル・ジェファーソン中佐が声を掛ける。
「ゾンファがどうしてこれほどあっさり撤退したのか考えていたのよ」
「沈められた艦の数は敵の方が圧倒的に少なかったわ。あのまま押していたら、連合艦隊本隊が耐えられたか微妙なところよ。ヒンドとラメリク・ラティーヌの艦隊は無視すれば、両方とも逃げ出したでしょう。そうなると戦力比は大きく逆転されることになったはず」
「我々第九艦隊の動きを恐れたのではないでしょうか?」
ジェファーソンの言葉をハースは即座に否定する。
「それはないわ。あの時、クリフが言ったけど、敵の総司令官は我々のことを脅威とは見ていなかったはず。もし、脅威だと感じているなら、何らかの手を打ったでしょうから」
そこで参謀長のセオドア・ロックウェル中将に視線を向ける。
「参謀長はどうお考えですか?」
「あれだけ整然と撤退したということは再侵攻を考え、戦力を温存した可能性が考えられますな」
「参謀長もそうお考えになりますか……オーソン、あなたの意見を聞かせて」
副参謀長のオーソン・スプリングス少将はすぐに「参謀長のお考えに賛成です」と答えた。
「でもわざわざジャンプで逃げる必要はないのではなくて? 超空間の中では満足な補修もできないのだから。そこが引っかかるのよ」
超空間では艦内からの補修は可能だが、艦外に出ることができないことと、修理専門の工作艦による補修ができないため、完全に回復させることは難しい。
「確かにそうですな。こちらの数がここまで減ったのなら、我々を強引に全滅させた方がその後が楽になったはずです」
ロックウェルの言葉にスプリングスと首席参謀のヒラリー・カートライト大佐が頷く。
「クリフ、手を止められるかしら」
「はい、提督」とクリフォードは答える。
彼は旗艦艦長として自艦や戦隊各艦の状況を確認していた。しかし、戦闘で被弾することなく、戦隊にも損害を受けた艦がいなかった。また、救助活動も小回りの利く小型艦が行うため、特にすることがなく、手持ち無沙汰な状態であった。
「話は聞いていたわね。意見があったら教えてほしいわ」
「了解しました、提督。恐らくですが、即座に再侵攻してくることはないと思います」
「その根拠は?」
「敵がわざわざイーグンJPでの決戦を狙ってきたことが理由です。最初から我々にある一定のダメージを与えたら、自分たちが大きなダメージを負う前に撤退するつもりだったのでしょう。一度ジュンツェン星系に引き上げ、艦隊を再編後、地上軍と共に再侵攻してくると思います」
「確かにそうね。補助艦艇を連れてきていないし、あれほどあっさりと撤退したということは最初から狙っていたはず。最初は補助艦艇を時間差で送り込むと思っていたけど、この状況を見ればあり得ないのだから」
イーグン星系からヤシマ星系までは五パーセク(約十六光年)あり、超空間の移動だけでも五日かかる。一日程度の時間差で補助艦艇を送り込む場合、侵攻艦隊本隊が超空間を移動中に超光速航行に移行する必要がある。
つまり、補助艦艇を後で送り込むつもりであったなら、それまでJPに張り付き続けていなければ、補助艦艇は無防備な状態で敵の星系に突入することになるのだ。
「それにイーグン星系に予備の艦隊がいる可能性はありませんから、傷ついた状態で再侵攻した場合、タカマガハラの軍事衛星群と残存艦隊の相手をする必要があります。それならば、最初から連合艦隊を殲滅する方がマシでしょう。いずれにしても捕虜を尋問すれば、ある程度は分かると思います」
「ジュンツェン星系に戻ることになるから、一ヶ月半くらいは時間が稼げるということね……でも、それだと本国からの増援は期待できないわ。だから、あっさりと撤退したのね……」
ヤシマ星系とキャメロット星系は二十二パーセク(約七十二光年)離れている。そのため、ゾンファ軍侵攻という情報がキャメロットに届くのは二十三日後の五月三十日頃となる。そこから艦隊の出撃準備をしたとしても、ヤシマに増援が来るのは七月十日頃が最短となる。
一方、ゾンファ側の再侵攻は六月末頃となるため、キャメロットからの増援が間に合う可能性は低い。
その後、捕虜の尋問により得られた情報により、クリフォードの予想が当たっていたことが判明した。
また、十五個艦隊と百二十万人の地上軍という膨大な戦力を用意していたことも同時に判明する。
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