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第六部:「ヤシマ星系を死守せよ」

第十三話

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 宇宙暦SE四五二三年五月八日、標準時間一二〇〇。

 現在、ヤシマに駐留しているアルビオン艦隊は、オズワルド・フレッチャー大将率いる第七艦隊、ノーラ・レイヤード大将率いる第八艦隊、サンドラ・サウスゲート大将率いる第十一艦隊、そしてアデル・ハース大将率いる第九艦隊の四艦隊である。

 四人の大将の中でフレッチャーが最も先任であるため、アルビオン艦隊の総司令官となっている。フレッチャーはヤシマからの情報提供を受け、艦隊司令官と参謀長、副参謀長を招集した。

 ハースはゾンファ艦隊の情報を受け取ると、参謀長のセオドア・ロックウェル中将と副参謀長のオーソン・スプリングス少将、副官のアビゲイル・ジェファーソン中佐と共に第七艦隊の旗艦クイーン・エリザベス71に向かった。

 クイーン・エリザベスの会議室に司令官たちが集まった。
 議長役のフレッチャーが最後に座る。その生真面目な性格を表すかのように笑み一つ浮かべず、すぐに議事を進めていく。

「ゾンファ艦隊にどう対応するか、意見を聞きたい」

 その言葉にサウスゲートが手を上げて発言を求める。
 サウスゲートは身長百八十センチを超える大柄の女性将官で、鍛え上げられた肉体を持つ。そのため、艦隊の下士官兵たちは陰で“女戦士アマゾネス”と呼んでいる。

 フレッチャーが頷くことで認めると、その体格に見合ったやや低い声で発言を始めた。

「小官はイーグンジャンプポイントJPでの迎撃を推す。百万基のステルス機雷と十一個艦隊なら互角以上の戦いができる。制約が多い惑星周辺でFSU艦隊がまともに動けるとは思えない。軍事衛星群があるとはいえ、各個撃破されるだけだ」

 その発言にハースが反論する。

「逆ではないでしょうか? JP周辺では自由度が大きいため、艦隊同士の連携が重要になります。そうなると、複雑な艦隊運動をタイムリーに行わなければなりません。一方、タカマガハラ周辺であれば、担当セクターを決めておけば、衛星群の支援を受けるだけで、艦隊同士の綿密な連携はそれほど重要ではなくなります。練度に課題があるFSU艦隊でも対応が容易になるのではないでしょうか」

 ハースの方が先任だが、二年先輩ということで丁寧な口調で対応していた。

 ハースの意見にレイヤードが「小官もハース提督の意見に同意する」と感情を排した声で賛同した。

 レイヤードは生真面目な性格と滅多に妥協しない押しの強さから、下士官たちは“鉄の女アイアンレディ”というあだ名を付けている。

 ハースとは正反対の性格であり、艦隊内では反目しあっているという噂があるほどだ。
 その彼女がハースの意見に賛成したことに、フレッチャーとサウスゲートが僅かに驚く。

「サウスゲート提督の言にも聞くべきところはあるが、小官もハース提督の意見に賛同する」

 フレッチャーが重々しく言った後、更に理由を付け加えていく。

「正直なところ、ヒンド艦隊とラメリク・ラティーヌ艦隊は戦力として数えない方がよいと思っている。実質的には我々とヤシマの計七個艦隊でゾンファ艦隊と戦うことになる。ステルス機雷があるとはいえ、とてもではないが、自由な機動が可能なJPで迎え撃つことなどできん」

 フレッチャーはヤシマに来てからヒンド共和国艦隊、ラメリク・ラティーヌ共和国艦隊との合同演習を何度も行っていた。その際、自国の艦隊だけでもまともに連携できていない状況を目の当たりにしている。

 そのため、大規模な艦隊戦を行えば、アルビオン艦隊の足を引っ張ると確信していた。
 一方でヤシマ艦隊については評価を改めている。

 スヴァローグ帝国との戦いでもアルビオン艦隊ほどの活躍はなかったものの、ロンバルディア艦隊ほど使えないわけではなく、その後もアルビオン艦隊との合同演習を重ねることで、一翼を任せるに足ると考えていた。

 その説明にハースとレイヤードが頷き、サウスゲートも「そうかもしれない」と渋々ながらも認めた。

 見た目通りの猛将であるサウスゲートにとって、タカマガハラ周辺での防衛戦は性格的に合わないため、JPでの迎撃を提案したが、ヒンド、ラメリクの艦隊の能力を嫌というほど見ていたため、認めざるを得なかったのだ。

「では、我が軍としてはタカマガハラで迎え撃つという提案を行うということでよろしいかな」

 その言葉に三人の司令官が頷く。

「他に意見があれば、積極的に発言してほしい」

 それまで発言していなかった各艦隊の参謀長・副参謀長が発言していく。しかし、そのほとんどは戦術に関するものだった。

 そんな中、第九艦隊の副参謀長スプリングスが発言する。

「ヤシマ政府がタカマガハラでの防衛を認めるでしょうか?」

 その言葉に「確実な勝利のために認めるしかなかろう」とフレッチャーが答える。

「前回のゾンファの侵攻では民間設備への攻撃や質量兵器の使用も示唆しており、ヤシマの国民はゾンファ艦隊が近づくことに対して不安を感じると思われます。常識的に考えればヤシマの技術を欲するゾンファが地上攻撃を行うことはあり得ないのですが、ゾンファ軍の暴虐さをヤシマの人々は見ております。政治家たちが流されるのではないか、不安に思うのです」

 スプリングスの発言にハースが補足する。

「ヤシマの国民性を考えれば、充分にあり得ることですね。サイトウ首相がどこまで指導力を発揮してくださるかですが……他にもヒンド、ラメリクもタカマガハラでの防衛戦より、JPでの会戦を希望するかもしれません」

「それはどう意味ですか?」とレイヤードが確認する。

「本国に向かうテンシャンJPに向かうなら、タカマガハラからよりイーグンJPからの方が有利ですから。もし、大敗を喫した後に緊急脱出する場合、星間物質の濃度が高いタカマガハラ周辺より、すぐに最大巡航速度で逃げられるJP付近の方がよいと考えないとも限りません」



 惑星周辺は星間物質の濃度が高く、星系内最大巡航速度である〇・二光速での移動が難しい。これは星間物質の濃度が高いと防御スクリーンが過負荷になりやすいためだ。

 通常航行であればそこまで気にしないが、撤退時は前方だけに防御スクリーンを展開するわけにはいかないため、速度を落とす必要が出る。そのため、前方にだけスクリーンを展開すればいい追撃側から逃れることが難しくなる。

 一方、JP付近なら加速開始が早ければ、最大速度は同じであるため、敵の射程内から逃れられる可能性が高くなる。また、自由な空間であれば航路の選択肢が増えるため、追撃を振り切る手段は多くなる。

「逃げることを考えてか……ないとは言えんな」とフレッチャーが呟く。

「JPでの迎撃案も検討しておいた方がよいでしょう。と言っても選択肢は限られているのですが」

 ハースがそう言うと、司令官たちは一斉に頷いた。

 その後、アルビオン・FSU連合艦隊のトップが集まり、迎撃に関する協議が行われた。
 スプリングスやハースが指摘した通り、FSU側からイーグンJPで迎撃する案が出され、それが承認された。
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