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第四部:「激闘! ラスール軍港」
第三十三話
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宇宙暦四五一九年十二月二十八日
アルビオン王国軍第一艦隊第一特務戦隊は軽巡航艦デューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]とS級駆逐艦シレイピス545号、シャーク123号の二隻に減っていた。
その三隻のうち、シレイピスは大きなダメージを受け、駆逐艦の命ともいえる加速能力が五十パーセントも低下している。
また、艦の心臓ともいえる対消滅炉も一系統が損傷し、充分なエネルギー供給ができなくなる可能性があった。
クリフォードはシレイピスの艦長シャーリーン・コベット少佐にシャーリア法国の軍事施設に避難するよう命じた。
このため、アルビオン側の戦力は軽巡航艦と駆逐艦各一隻となった。
アルビオン戦隊はシャーリア星系第四惑星ジャンナの上空三十万キロで、帝国側から離れるように慣性航行を続けている。
しかし、その速度は高機動艦である軽巡航艦、駆逐艦にとっては止まっていると言っていいほど低速の〇・〇一六光速であった。
しかし、その艦首は敵に向いており、DOE5とシャークは主砲による攻撃を加え続けていた。
一方の帝国戦隊だが、旗艦である軽巡航艦シポーラは健在であるものの、五隻あった駆逐艦は二隻にまで撃ち減らされ、そのうち一隻は戦闘力を完全に失った状態で漂流している。また、三隻あったスループ艦も一隻が沈められ、残り二隻となっていた。
戦隊指揮官であるセルゲイ・アルダーノフ少将は半数以下にまで減った自軍の戦力に自らの未熟さを思い知らされた。彼は熟練の艦隊士官である旗艦艦長ニカ・ドゥルノヴォ大佐に戦闘の指揮を任せ、自らは得意とする謀略に専念することに決めた。
アルビオンと帝国はほぼ互角の戦力で対峙することになった。
■■■
帝国旗艦シポーラの戦闘指揮所では、ドゥルノヴォが部下たちを鼓舞していた。
「敵は我らの策に嵌った! 多くの戦友が散ったが、敵の次期国王を捕らえられれば、祖国にとってこれ以上ないほどの利益をもたらす!」
部下たちにはこう言っているものの、彼は王太子がDOE5に乗っている可能性は限りなく低いと考えている。
(誘い出すような敵の行動と先ほどの無謀な攻撃……敵は我々を、いや、このシポーラを沈めに掛かっている。つまり、王太子はあの艦に乗っていない。決戦を求める艦に次期国王を乗せておくとは思えんからな)
しかし、そのことは口にしなかった。戦闘の指揮を任されたとはいえ、この戦隊の司令はアルダーノフ少将であり、彼が王太子の存在を否定しない状況で、次席指揮官に過ぎない自分がそれを否定することはできない。
もちろん、余裕があればその旨を進言したのだが、秒単位で目まぐるしく変わる高機動艦同士の戦闘中にそのことを議論している余裕はなかった。
「敵軽巡航艦に攻撃を集中してくれたまえ、艦長」
アルダーノフが静かに命じた。
「了解しました。しかし、よろしいのですか?」
「あの艦に王太子は乗っておらんよ。恐らく軍港に残っているのだろう。全艦で出撃してきたことで一杯食わされたが、敵の行動を冷静に見れば、王太子を守ろうというものではないことは私でも分かる」
そして、自嘲気味に付け加えた。
「敵の指揮官は若いが、私より遥かに老練だ。私は自分の未熟さを嫌というほど思い知ったよ」
ドゥルノヴォはその言葉には答えず、「敵軽巡航艦を確実に仕留めてみせます」と言い、
「王太子は軍港に潜んでいるはずです。我々が軍港に向かえば、敵は慌てるはず。軍港に向かう許可を」
彼の言葉にアルダーノフは「指揮は艦長に任せている」と許可を出す。
「最大加速で後退せよ! 目標ラスール第二軍港!」
部下たちにそう命じる。
(敵に考える余裕を与えてはいけない。攻撃を加えつつ、何か手を打った方が……)
そう考えたドゥルノヴォは「主砲発射用意! 目標敵軽巡航艦! 撃て!」と命じた。
更に無傷で生き残った駆逐艦サブサーンをシポーラから切り離し、アルビオン側の側方を脅かす策に出た。
「サブサーンに敵右舷側に回り込むよう伝えろ! スループも独自の判断で側方に回り込め!」
サブサーンと二隻のスループ艦はそれぞれ別の方向からアルビオンの側面を狙うように動き始める。
アルダーノフはラスール第二軍港に通信を送り、エドワード王太子の身柄を拘束するよう交渉を始めた。これは通常の通信であり、アルビオン側に聞かせ、焦りを生じさせるための謀略だった。
■■■
クリフォードは戦闘指揮所で戦闘の指揮を執りながら、敵の動きにどう対応すべき考えていた。
(敵軽巡航艦が後退している? 軍港に向かうつもりか!)
ドゥルノヴォの意図に気づいたクリフォードは直ちに加速を命じた。
「最大加速!」
その直後、情報士のクリスティーナ・オハラ大尉が報告を上げる。
「敵司令が王太子殿下の身柄を拘束するようシャーリアに通信を入れています!」
シャーリア法国の動向も気になるが、今できることはないと考え、「了解。今は戦闘に専念してくれ」と指示を出す。
その間に敵の駆逐艦とスループ艦がシポーラから離れていく。
クリフォードは敵駆逐艦が離れていくことに危機感を抱く。
(駆逐艦が後方に回ると厄介だ。しかし、敵は回避に専念している。手間取れば軽巡航艦からの攻撃を一方的に受けることになる。だからといって、シャークを回すのは愚策だ。敵にはまだステルスミサイルが残されている。分散すればそれだけミサイルを迎撃しにくくなる……)
戦闘艦の防御スクリーンは集中的に使用する運用が前提であり、例え駆逐艦の小出力の主砲であったとしても、前後から挟撃されると非常に不利になる。
彼が悩んでいると、シレイピスのコベット艦長から連絡が入る。
「挟撃に向かっている駆逐艦はシレイピスに任せてください」
クリフォードは一瞬、コベットが盾になるつもりなのではないかと考え、返答に詰まる。
「本艦の戦闘力は健在です。今は擬態でよろよろとラスール軍港に戻っていますが、主砲も防御スクリーンも短時間であれば百パーセントの性能を発揮できるのです」
彼女の自信に満ちた顔にクリフォードは思わず頷いていた。
「確かに奇襲効果は充分にある……了解した。敵駆逐艦はシレイピスに任せよう。だが、敵軽巡航艦からの攻撃には充分に注意を払っておいてほしい。敵はこちらの護衛艦を減らした後、ミサイル攻撃を仕掛けようとするはずだ」
「了解しました。今、作戦案を送付しましたので、承認願います」
指揮官用コンソールに作戦案が送付されてきたと表示される。
戦闘中であり、熟読する時間はないが、概略を理解すると、すぐに承認した。
「見事な作戦案だ。我々の背中は少佐に任せる」
通信を切った後、すぐに戦隊全体に向けて放送を行った。
「敵は戦力を分散させた! 今、敵軽巡航艦に支援できる艦はない! この機を逃さず、敵旗艦を沈めるんだ! 駆逐艦は軽巡航艦を沈めれば何もできない! DOE5とシャークで一気に雌雄を決するぞ!」
クリフォードにしては珍しく興奮気味の口調で、CIC要員は驚きを隠せなかった。
そして、この放送は簡易暗号を用いて行われた。帝国側に傍受させるためだ。
(これでこちらが猪突すると思ってくれればいいんだが……敵の指揮官は非情だが、どう動く? 防御を固めて、駆逐艦が後方に回るまで攻撃を手控えてくれればいいんだが……)
クリフォードとドゥルノヴォの正面切っての戦いが始まろうとしていた。
アルビオン王国軍第一艦隊第一特務戦隊は軽巡航艦デューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]とS級駆逐艦シレイピス545号、シャーク123号の二隻に減っていた。
その三隻のうち、シレイピスは大きなダメージを受け、駆逐艦の命ともいえる加速能力が五十パーセントも低下している。
また、艦の心臓ともいえる対消滅炉も一系統が損傷し、充分なエネルギー供給ができなくなる可能性があった。
クリフォードはシレイピスの艦長シャーリーン・コベット少佐にシャーリア法国の軍事施設に避難するよう命じた。
このため、アルビオン側の戦力は軽巡航艦と駆逐艦各一隻となった。
アルビオン戦隊はシャーリア星系第四惑星ジャンナの上空三十万キロで、帝国側から離れるように慣性航行を続けている。
しかし、その速度は高機動艦である軽巡航艦、駆逐艦にとっては止まっていると言っていいほど低速の〇・〇一六光速であった。
しかし、その艦首は敵に向いており、DOE5とシャークは主砲による攻撃を加え続けていた。
一方の帝国戦隊だが、旗艦である軽巡航艦シポーラは健在であるものの、五隻あった駆逐艦は二隻にまで撃ち減らされ、そのうち一隻は戦闘力を完全に失った状態で漂流している。また、三隻あったスループ艦も一隻が沈められ、残り二隻となっていた。
戦隊指揮官であるセルゲイ・アルダーノフ少将は半数以下にまで減った自軍の戦力に自らの未熟さを思い知らされた。彼は熟練の艦隊士官である旗艦艦長ニカ・ドゥルノヴォ大佐に戦闘の指揮を任せ、自らは得意とする謀略に専念することに決めた。
アルビオンと帝国はほぼ互角の戦力で対峙することになった。
■■■
帝国旗艦シポーラの戦闘指揮所では、ドゥルノヴォが部下たちを鼓舞していた。
「敵は我らの策に嵌った! 多くの戦友が散ったが、敵の次期国王を捕らえられれば、祖国にとってこれ以上ないほどの利益をもたらす!」
部下たちにはこう言っているものの、彼は王太子がDOE5に乗っている可能性は限りなく低いと考えている。
(誘い出すような敵の行動と先ほどの無謀な攻撃……敵は我々を、いや、このシポーラを沈めに掛かっている。つまり、王太子はあの艦に乗っていない。決戦を求める艦に次期国王を乗せておくとは思えんからな)
しかし、そのことは口にしなかった。戦闘の指揮を任されたとはいえ、この戦隊の司令はアルダーノフ少将であり、彼が王太子の存在を否定しない状況で、次席指揮官に過ぎない自分がそれを否定することはできない。
もちろん、余裕があればその旨を進言したのだが、秒単位で目まぐるしく変わる高機動艦同士の戦闘中にそのことを議論している余裕はなかった。
「敵軽巡航艦に攻撃を集中してくれたまえ、艦長」
アルダーノフが静かに命じた。
「了解しました。しかし、よろしいのですか?」
「あの艦に王太子は乗っておらんよ。恐らく軍港に残っているのだろう。全艦で出撃してきたことで一杯食わされたが、敵の行動を冷静に見れば、王太子を守ろうというものではないことは私でも分かる」
そして、自嘲気味に付け加えた。
「敵の指揮官は若いが、私より遥かに老練だ。私は自分の未熟さを嫌というほど思い知ったよ」
ドゥルノヴォはその言葉には答えず、「敵軽巡航艦を確実に仕留めてみせます」と言い、
「王太子は軍港に潜んでいるはずです。我々が軍港に向かえば、敵は慌てるはず。軍港に向かう許可を」
彼の言葉にアルダーノフは「指揮は艦長に任せている」と許可を出す。
「最大加速で後退せよ! 目標ラスール第二軍港!」
部下たちにそう命じる。
(敵に考える余裕を与えてはいけない。攻撃を加えつつ、何か手を打った方が……)
そう考えたドゥルノヴォは「主砲発射用意! 目標敵軽巡航艦! 撃て!」と命じた。
更に無傷で生き残った駆逐艦サブサーンをシポーラから切り離し、アルビオン側の側方を脅かす策に出た。
「サブサーンに敵右舷側に回り込むよう伝えろ! スループも独自の判断で側方に回り込め!」
サブサーンと二隻のスループ艦はそれぞれ別の方向からアルビオンの側面を狙うように動き始める。
アルダーノフはラスール第二軍港に通信を送り、エドワード王太子の身柄を拘束するよう交渉を始めた。これは通常の通信であり、アルビオン側に聞かせ、焦りを生じさせるための謀略だった。
■■■
クリフォードは戦闘指揮所で戦闘の指揮を執りながら、敵の動きにどう対応すべき考えていた。
(敵軽巡航艦が後退している? 軍港に向かうつもりか!)
ドゥルノヴォの意図に気づいたクリフォードは直ちに加速を命じた。
「最大加速!」
その直後、情報士のクリスティーナ・オハラ大尉が報告を上げる。
「敵司令が王太子殿下の身柄を拘束するようシャーリアに通信を入れています!」
シャーリア法国の動向も気になるが、今できることはないと考え、「了解。今は戦闘に専念してくれ」と指示を出す。
その間に敵の駆逐艦とスループ艦がシポーラから離れていく。
クリフォードは敵駆逐艦が離れていくことに危機感を抱く。
(駆逐艦が後方に回ると厄介だ。しかし、敵は回避に専念している。手間取れば軽巡航艦からの攻撃を一方的に受けることになる。だからといって、シャークを回すのは愚策だ。敵にはまだステルスミサイルが残されている。分散すればそれだけミサイルを迎撃しにくくなる……)
戦闘艦の防御スクリーンは集中的に使用する運用が前提であり、例え駆逐艦の小出力の主砲であったとしても、前後から挟撃されると非常に不利になる。
彼が悩んでいると、シレイピスのコベット艦長から連絡が入る。
「挟撃に向かっている駆逐艦はシレイピスに任せてください」
クリフォードは一瞬、コベットが盾になるつもりなのではないかと考え、返答に詰まる。
「本艦の戦闘力は健在です。今は擬態でよろよろとラスール軍港に戻っていますが、主砲も防御スクリーンも短時間であれば百パーセントの性能を発揮できるのです」
彼女の自信に満ちた顔にクリフォードは思わず頷いていた。
「確かに奇襲効果は充分にある……了解した。敵駆逐艦はシレイピスに任せよう。だが、敵軽巡航艦からの攻撃には充分に注意を払っておいてほしい。敵はこちらの護衛艦を減らした後、ミサイル攻撃を仕掛けようとするはずだ」
「了解しました。今、作戦案を送付しましたので、承認願います」
指揮官用コンソールに作戦案が送付されてきたと表示される。
戦闘中であり、熟読する時間はないが、概略を理解すると、すぐに承認した。
「見事な作戦案だ。我々の背中は少佐に任せる」
通信を切った後、すぐに戦隊全体に向けて放送を行った。
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