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第四部:「激闘! ラスール軍港」
第三十一話
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宇宙暦四五一九年十二月二十八日
クリフォード率いる王太子護衛戦隊はシャーリア法国のラスール軍港を離れる形でゆっくりと旋回していた。しかし、その加速は最大加速より低い、五kGに抑えられている。
一方の帝国戦隊は駆逐艦五隻とスループ艦三隻を前面に押したて、その後ろに軽巡航艦シポーラが追従する陣形で進んでいる。これはシポーラの加速性能が駆逐艦に劣るためだ。
いびつな陣形からは主砲が作り出す光の柱が何本も伸びていく。
アルビオン側も必死に回避機動を行い、数回の直撃はあったものの、目立った損害は出ていない。
それでも戦隊司令であるセルゲイ・アルダーノフ少将は満足し、今までにないほど高揚した気分でいる。
(駆逐艦とスループが猟犬、シポーラが猟師といった役どころか。この相対速度なら敵が反転しても恐れることはない。ゼロ距離からのミサイル攻撃というのも派手でよいかもしれんな……)
この時、アルダーノフはアルビオン側が強行突破に失敗し、第四惑星ジャンナの上空にある軍事施設に逃げ込もうとしていると考えていた。
(加速度が小さい。敵の軽巡航艦がトラブルを抱えているのだろう。ルブヌイの自爆に巻き込まれた時に通常空間航行機関かパワープラントのいずれかにダメージを負ったというところか。だとすれば、敵が採り得る策はシャーリアの軍事施設に逃げ込み、保護してもらうしかない……しかし、シャーリアの指導部はそれを認めまい……)
そう考え、ほくそ笑むが、旗艦艦長であるドゥルノヴォ大佐の声で現実に引き戻される。
「敵が反転してきます。ご命令を!」
その声にメインスクリーンを見直す。
そこには鋭角で交わる双方の予想針路が示されていた。
「いつの間に敵は……」
アルダーノフの高揚した気分は一気に冷めた。彼はメインスクリーンに示される航路を見て、このままでは敵がジャンプポイントに逃げ込んでしまうと焦った。
「全艦加速停止! 敵軽巡航艦に砲撃を集中せよ!」
ドゥルノヴォは冷静に復唱すると、艦の加速を止める。
(ようやく腑に落ちた。敵の指揮官はスクリーンに映る画像で、“逃げている”という錯覚を起こさせたのか……この敵は本物だ。侮れない……)
ドゥルノヴォは気を引き締め直す。そして、戦闘の指揮を執りながら、敵を殲滅する策を考えていく。
(敵は我々を通過してもすぐに安全になるわけではない。そのことは分かっているはずだ。だとすれば、敵はどう出る? すれ違う瞬間に何らかの手を打ってくるのではないか……)
ドゥルノヴォは艦長用のコンソールを操作し、敵が採り得る作戦を思い描く。
そして、ある事実に気づき、ほくそ笑んだ。
(なるほど、こいつを使う気か……恐ろしいまでに先が読める男だ。だが、今回はそれを逆手に取らせてもらう……)
彼はアルダーノフに自分の考えを説明し、自らの策を承認させた。
■■■
クリフォードが指揮を執るデューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]は三隻のS級駆逐艦を従え、帝国の戦隊に向けて加速を続けている。
敵からの攻撃は執拗に続いているが、DOE5は大きなダメージを負うことなく、駆逐艦も一部に損傷を受けているものの、戦闘に支障はない。
既に相対距離は〇・一光秒を割っており、あと十秒で敵に最接近するところまで来ていた。
「全艦、ミサイル発射! 主砲による攻撃停止! 衝撃に備えろ!」
この時、帝国戦隊との間に航行不能を装っていた高機動揚陸艦ロセスベイ1が入り込んでいた。
クリフォードは戦隊のベクトルを微妙に調整し、加速度は五kGのまま速度を上げないようにしていたのだ。
「ロセスベイの対消滅炉爆発まで五秒、四、三、二、一、ゼロ……」
その瞬間、両戦隊の間で恒星が生まれた。
百五十テラワット級対消滅炉二基が同時に爆発し、百万トンを超えるデブリと強力なガンマ線などの放射線を撒き散らす。
クリフォードの作戦は出港直後からロセスベイの対消滅炉を高出力の臨界状態にしておき、敵に最接近したところで安全装置を解除して自爆させ、混乱する敵にステルスミサイルを撃ち込んで殲滅するというものだった。
「ステルスミサイル接近! 自動迎撃開始!」
戦術士のベリンダ・ターヴェイ少佐が声を掠れさせながら報告する。
クリフォードはその報告に驚きを隠せなかった。
(読まれていたか……しかし、この至近距離で直線的に発射されたものなら、充分に人工知能の予測が可能だ)
自分の策が読まれていたことに愕然とするものの、冷静さを装い、命令を発していく。
「手動回避停止。AIによる自動回避で対応せよ」
彼は至近距離で放たれたミサイルは充分な加速が行えず、更に強い放射線によってステルス性が損なわれていると判断した。そのため、AIによる自動迎撃をより有効にするため、外乱となる手動回避を停止させたのだ。
この大胆な命令は三隻の駆逐艦にも同時に伝えられた。
シレイピス545号のシャーリーン・コベット艦長とシャーク123号のイライザ・ラブレース艦長は即座にその命令に反応した。
しかし、スウィフト276号のヘレン・カルペッパー艦長は戦闘中に手動回避を停止するという非常識な命令に一瞬ためらった。
そのためらいが命運を分けた。
二十基のステルスミサイルはDOE5に二基、各駆逐艦にそれぞれ六基向かっていた。これはアルダーノフの命令で、未だに王太子を捕らえたいと考えていたためだが、ドゥルノヴォがシポーラのミサイルを温存したため、先ほどの一斉発射より少なかった。
帝国のステルスミサイル“影”はアルビオン軍の大型ミサイルであるスペクターミサイルに匹敵する。つまり、直撃すれば巡航戦艦すら一撃で破壊できるほどの攻撃力を持ち、駆逐艦なら至近で爆発するだけでも大きなダメージを負う。
S級駆逐艦には十ギガワット級対宙レーザーが十基装備されているが、配置の関係により正面から接近して来ない限り、半数程度しか有効に機能しない。
素早く判断したシレイピスとシャークは正面にミサイルがあるうちに迎撃を開始しており、直前で迎撃したものを含め、全数を撃ち落すことに成功した。
しかし、判断が遅れたスウィフトは前方にいる間に三基しか破壊できず、三基の大型ミサイルに囲まれた。
「迎撃を! 早く!」というカルペッパーの悲鳴が戦闘指揮所に響く。何とか一基のミサイルを破壊したものの、その直後、二基のミサイルが直撃した。
スウィフトは大きな火球に包まれた。火球が消えた後に残骸すら見当たらず、スウィフトは蒸発したかのようにその存在を消した。
「スウィフト喪失! 脱出ポット射出確認できず!」という悲痛な声がDOE5のCICに響く。
しかし、その直後、情報士であるクリスティーナ・オハラ大尉の歓喜の声が響いた。
「敵駆逐艦三隻、轟沈! 一隻大破! 半数のミサイルが命中しました!」
クリフォードはその報告に「了解」と答えると、すぐに状況の確認を行っていく。
今回、敵のミサイルの命中率に対し、アルビオン側の命中率が異常に高かった理由はミサイル発射のタイミングの差だ。
アルビオン側はロセスベイの爆発のタイミングが分かっており、敵が最も混乱する状況に合わせてミサイルを撃ち込んでいる。
また、ミサイルも直線的に撃ち込むのではなく、大きく弧を描くように針路を設定しており、ガンマ線によってステルス性を損なうことなかった。
更に曲線的な針路により、敵にとっては思いがけない方向から攻撃された形になり、対宙レーザーによる迎撃効率が著しく落ちていたのだ。
この攻撃により、アルビオンと帝国の戦力差は一気に縮まった。
クリフォード率いる王太子護衛戦隊はシャーリア法国のラスール軍港を離れる形でゆっくりと旋回していた。しかし、その加速は最大加速より低い、五kGに抑えられている。
一方の帝国戦隊は駆逐艦五隻とスループ艦三隻を前面に押したて、その後ろに軽巡航艦シポーラが追従する陣形で進んでいる。これはシポーラの加速性能が駆逐艦に劣るためだ。
いびつな陣形からは主砲が作り出す光の柱が何本も伸びていく。
アルビオン側も必死に回避機動を行い、数回の直撃はあったものの、目立った損害は出ていない。
それでも戦隊司令であるセルゲイ・アルダーノフ少将は満足し、今までにないほど高揚した気分でいる。
(駆逐艦とスループが猟犬、シポーラが猟師といった役どころか。この相対速度なら敵が反転しても恐れることはない。ゼロ距離からのミサイル攻撃というのも派手でよいかもしれんな……)
この時、アルダーノフはアルビオン側が強行突破に失敗し、第四惑星ジャンナの上空にある軍事施設に逃げ込もうとしていると考えていた。
(加速度が小さい。敵の軽巡航艦がトラブルを抱えているのだろう。ルブヌイの自爆に巻き込まれた時に通常空間航行機関かパワープラントのいずれかにダメージを負ったというところか。だとすれば、敵が採り得る策はシャーリアの軍事施設に逃げ込み、保護してもらうしかない……しかし、シャーリアの指導部はそれを認めまい……)
そう考え、ほくそ笑むが、旗艦艦長であるドゥルノヴォ大佐の声で現実に引き戻される。
「敵が反転してきます。ご命令を!」
その声にメインスクリーンを見直す。
そこには鋭角で交わる双方の予想針路が示されていた。
「いつの間に敵は……」
アルダーノフの高揚した気分は一気に冷めた。彼はメインスクリーンに示される航路を見て、このままでは敵がジャンプポイントに逃げ込んでしまうと焦った。
「全艦加速停止! 敵軽巡航艦に砲撃を集中せよ!」
ドゥルノヴォは冷静に復唱すると、艦の加速を止める。
(ようやく腑に落ちた。敵の指揮官はスクリーンに映る画像で、“逃げている”という錯覚を起こさせたのか……この敵は本物だ。侮れない……)
ドゥルノヴォは気を引き締め直す。そして、戦闘の指揮を執りながら、敵を殲滅する策を考えていく。
(敵は我々を通過してもすぐに安全になるわけではない。そのことは分かっているはずだ。だとすれば、敵はどう出る? すれ違う瞬間に何らかの手を打ってくるのではないか……)
ドゥルノヴォは艦長用のコンソールを操作し、敵が採り得る作戦を思い描く。
そして、ある事実に気づき、ほくそ笑んだ。
(なるほど、こいつを使う気か……恐ろしいまでに先が読める男だ。だが、今回はそれを逆手に取らせてもらう……)
彼はアルダーノフに自分の考えを説明し、自らの策を承認させた。
■■■
クリフォードが指揮を執るデューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]は三隻のS級駆逐艦を従え、帝国の戦隊に向けて加速を続けている。
敵からの攻撃は執拗に続いているが、DOE5は大きなダメージを負うことなく、駆逐艦も一部に損傷を受けているものの、戦闘に支障はない。
既に相対距離は〇・一光秒を割っており、あと十秒で敵に最接近するところまで来ていた。
「全艦、ミサイル発射! 主砲による攻撃停止! 衝撃に備えろ!」
この時、帝国戦隊との間に航行不能を装っていた高機動揚陸艦ロセスベイ1が入り込んでいた。
クリフォードは戦隊のベクトルを微妙に調整し、加速度は五kGのまま速度を上げないようにしていたのだ。
「ロセスベイの対消滅炉爆発まで五秒、四、三、二、一、ゼロ……」
その瞬間、両戦隊の間で恒星が生まれた。
百五十テラワット級対消滅炉二基が同時に爆発し、百万トンを超えるデブリと強力なガンマ線などの放射線を撒き散らす。
クリフォードの作戦は出港直後からロセスベイの対消滅炉を高出力の臨界状態にしておき、敵に最接近したところで安全装置を解除して自爆させ、混乱する敵にステルスミサイルを撃ち込んで殲滅するというものだった。
「ステルスミサイル接近! 自動迎撃開始!」
戦術士のベリンダ・ターヴェイ少佐が声を掠れさせながら報告する。
クリフォードはその報告に驚きを隠せなかった。
(読まれていたか……しかし、この至近距離で直線的に発射されたものなら、充分に人工知能の予測が可能だ)
自分の策が読まれていたことに愕然とするものの、冷静さを装い、命令を発していく。
「手動回避停止。AIによる自動回避で対応せよ」
彼は至近距離で放たれたミサイルは充分な加速が行えず、更に強い放射線によってステルス性が損なわれていると判断した。そのため、AIによる自動迎撃をより有効にするため、外乱となる手動回避を停止させたのだ。
この大胆な命令は三隻の駆逐艦にも同時に伝えられた。
シレイピス545号のシャーリーン・コベット艦長とシャーク123号のイライザ・ラブレース艦長は即座にその命令に反応した。
しかし、スウィフト276号のヘレン・カルペッパー艦長は戦闘中に手動回避を停止するという非常識な命令に一瞬ためらった。
そのためらいが命運を分けた。
二十基のステルスミサイルはDOE5に二基、各駆逐艦にそれぞれ六基向かっていた。これはアルダーノフの命令で、未だに王太子を捕らえたいと考えていたためだが、ドゥルノヴォがシポーラのミサイルを温存したため、先ほどの一斉発射より少なかった。
帝国のステルスミサイル“影”はアルビオン軍の大型ミサイルであるスペクターミサイルに匹敵する。つまり、直撃すれば巡航戦艦すら一撃で破壊できるほどの攻撃力を持ち、駆逐艦なら至近で爆発するだけでも大きなダメージを負う。
S級駆逐艦には十ギガワット級対宙レーザーが十基装備されているが、配置の関係により正面から接近して来ない限り、半数程度しか有効に機能しない。
素早く判断したシレイピスとシャークは正面にミサイルがあるうちに迎撃を開始しており、直前で迎撃したものを含め、全数を撃ち落すことに成功した。
しかし、判断が遅れたスウィフトは前方にいる間に三基しか破壊できず、三基の大型ミサイルに囲まれた。
「迎撃を! 早く!」というカルペッパーの悲鳴が戦闘指揮所に響く。何とか一基のミサイルを破壊したものの、その直後、二基のミサイルが直撃した。
スウィフトは大きな火球に包まれた。火球が消えた後に残骸すら見当たらず、スウィフトは蒸発したかのようにその存在を消した。
「スウィフト喪失! 脱出ポット射出確認できず!」という悲痛な声がDOE5のCICに響く。
しかし、その直後、情報士であるクリスティーナ・オハラ大尉の歓喜の声が響いた。
「敵駆逐艦三隻、轟沈! 一隻大破! 半数のミサイルが命中しました!」
クリフォードはその報告に「了解」と答えると、すぐに状況の確認を行っていく。
今回、敵のミサイルの命中率に対し、アルビオン側の命中率が異常に高かった理由はミサイル発射のタイミングの差だ。
アルビオン側はロセスベイの爆発のタイミングが分かっており、敵が最も混乱する状況に合わせてミサイルを撃ち込んでいる。
また、ミサイルも直線的に撃ち込むのではなく、大きく弧を描くように針路を設定しており、ガンマ線によってステルス性を損なうことなかった。
更に曲線的な針路により、敵にとっては思いがけない方向から攻撃された形になり、対宙レーザーによる迎撃効率が著しく落ちていたのだ。
この攻撃により、アルビオンと帝国の戦力差は一気に縮まった。
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