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第四部:「激闘! ラスール軍港」
第十三話
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宇宙暦四五一九年十月一日。
キャメロット第一艦隊第一特務戦隊、通称王太子護衛戦隊はヤシマに向けて出発した。
彼らの前方にはキャメロット第九艦隊があり、同じようにヤシマを目指している。
これは王太子を護衛するためではなく、ヤシマに駐留する艦隊を交替させるためで、王太子一行はその交替のタイミングに合わせて出発したのだ。
キャメロット星系からヤシマ星系までは約二十二パーセク(約七十二光年)で、三つの星系を経由する。最も近い星系はスパルタン星系で、トリビューン、レインボーと続き、ヤシマに至る。
正規艦隊五千隻と行動を共にするため、二十二パーセクを三十一日間で移動する。護衛戦隊だけであれば二十七日で済むが、高機動艦隊である第九艦隊といえども、比較的足の遅い輸送艦や工作艦を伴うため、星系内での移動に時間が掛かるためだ。
その時間を利用し、クリフォードは更に訓練を重ねていった。
特にトリビューン星系では第九艦隊の駆逐艦戦隊に協力を仰ぎ、小惑星帯を利用した離脱訓練を行っている。
訓練を終えた後、副長であるサミュエルと艦長室で問題点を話し合った。
そして、話し合いを終えた後、スクリーンに映る小惑星を見つめていたサミュエルがぼそりと呟いた。
「懐かしいですね、艦長」
「そうだな。もう七年も前か。ここに一緒に戻ってくるとは思わなかったな」
クリフォードが感慨深くそう言うと、サミュエルも頷いている。
「あの頃は自分が士官になれるか不安でした。それが佐官になっているとは……当時の自分が今の姿を見たらビックリするでしょうね」
「全くだな……そういえば覚えているか、“ローストピーナッツ”から脱出した時のことを」
彼が言っているローストピーナッツはゾンファの通商破壊艦の補給基地があった小惑星AZ-258877のことだ。
形がピーナッツに似ており、更にこの星系の弱い恒星に照らされた色が、焼いたピーナッツに似ていたことから、下士官たちが付けたあだ名だった。
「二人で無茶をしましたね。あの時のことを思い出すと今でも冷や汗が出ますよ」
そんな他愛ない話をし、互いの仕事に戻っていった。
トリビューン星系からレインボー星系への超空間航行に入った後、二人は王太子に捕まった。
「そろそろトリビューンの話をしてくれてもいいだろう。妃も聞きたがっているんだ」
今回のヤシマ訪問には王太子妃シルヴィアも同行している。ちなみに王太子には二人の王子がいるが、十五歳と十三歳であり、二人とも寄宿舎のある学校に入っているため、同行していない。
クリフォードとサミュエルは同時に肩を竦め、王太子の部屋に向かった。
十月三十一日。
クリフォードたちは無事ヤシマ星系に到着した。
首都星である第三惑星タカマガハラに向かうが、未だに完全な復興には程遠いためか、破壊された施設が多く見られた。
惑星上空に待機するアルビオン艦隊の旗艦で王太子は演説を行い、将兵たちを労った。
更にヤシマの首都タカチホに王太子妃シルヴィアと共に降り立つと、ヤシマ国民から熱烈な歓迎を受ける。
アルビオンによって国が解放されたこと、アルビオン軍の軍規に緩みがなく、ほとんどトラブルが起きなかったことから、王太子が登場する前からアルビオンに対するヤシマ国民の感情は非常に好意的だった。
もちろん、比較対象が暴虐の限りを尽くしたゾンファ軍であったことが関係することは否めない。
更にヤシマ国民は“ロイヤルファミリー”という幻想的な言葉に弱かった。マスメディアがそうなるように演出したこともあるが、王太子は行く先々で歓迎された。
クリフォードは王太子が各地を回る間に、デューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]をサミュエルに任せ、アルビオン艦隊の臨時司令部とヤシマ防衛軍本部を訪問した。
彼の目的はロンバルディア連合とシャーリア法国の状況とスヴァローグ帝国に関する情報を入手することだった。
アルビオンの臨時司令部ではヤシマの民間船から受けたスヴァローグ帝国の情報を基に分析を行っている。そこの情報担当参謀である大佐は帝国の現状についてクリフォードに説明した。
「帝国は物凄い勢いで復興しているようだ。ダジボーグの工廠に大量の資材が持ち込まれているという情報があったよ。既に七個艦隊は駐留していると見ている。恐らくだが、三年ほどでどこかの星系に攻め込むつもりだろうな」
「帝国とロンバルディア連合との関係はどう見ていますか?」
「情報源はヤシマ政府だから、信憑性は保証できないが、ロンバルディアは帝国と密かに交渉を行っているらしい。ただ、それがどのような交渉なのかは全く不明なのだがね」
情報参謀はそう言って肩を竦める。
「ロンバルディアは農業国ですが、帝国に食糧を輸出しているのでしょうか?」
「いや、ダジボーグ側のジャンプポイントは封鎖されているはずだ。民間船の航行は認められていないと聞いている。もっとも内戦中は結構稼いでいたらしいがね」
クリフォードはシャーリア法国の状況を聞いてみたが、情報参謀は「あの国は秘密主義でね。ほとんど情報は入ってこないのだよ」とお手上げという仕草をする。
彼はその足でヤシマ防衛軍本部に向かい、同様に情報を入手していった。得られた情報は少なくなかったが、シャーリアについては有益なものは得られなかった。
(聞く限りはほとんど鎖国状態だな。確かシャーリア星系は充分に自活できる豊かな星系だったはずだ。宗教的な理由もあるのだろうが、判断に困るな。ロンバルディアにいる外交官が情報を持っていればいいんだが……)
クリフォードはDOE5に戻るまでの時間を利用し、弟であるファビアンと話をした。
ファビアンは第九艦隊の重巡航艦に乗っており、現在の階級は中尉だ。士官候補生時代に陰湿ないじめにあったが、ジュンツェン星系会戦で功績を上げ、勲章も得ている。
弟との会話を楽しんだクリフォードだったが、すぐにDOE5に戻り、サミュエルと情報士のクリスティーナ・オハラ大尉と共に情報を分析していく。
オハラは得られた情報を分類し、更に情報の確度ごとに整理していった。その手際の良さにクリフォードはもちろん、情報士官の経験があるサミュエルですら感歎していた。
情報の分析を終えたオハラがクリフォードたちに結果を報告する。
「……得られた情報を整理しますと、三ヶ月以内にスヴァローグ帝国がロンバルディアに侵攻する可能性は非常に低いと思われます。ただ気になる点があります」
「気になる点とは?」とクリフォードが聞くと、オハラはニコリと笑い、
「帝国の脅威が迫る中、隣国でありながらもロンバルディアとシャーリアの関係があまりに希薄です。シャーリアの秘密主義と言われればそうかもしれませんが、ロンバルディアも積極的にアプローチしているように見えません。この点が気になるのです」
「確かに気になるな。ロンバルディアは脅威を減らすために少しでも味方はほしいはずだ。だとすれば、シャーリアとの関係を強化する努力を惜しまないはず……どう思う、サム?」
「そうですね」と言ってサミュエルは沈黙し、五秒ほど考えた後、自分の考えを整理するかのようにゆっくりと話し始めた。
「ロンバルディアの政治形態が影響しているのかもしれませんね。あの国は複雑な議会制民主主義だったはずです。二つの惑星にある政府が連合体を作っているため、政策決定に時間が掛かったのでは。それが原因の一つではないかと」
彼の言う通り、ロンバルディア連合は第三惑星テラノーヴォと第四惑星テラドゥーエの二つの有人惑星からなり、それぞれに地方政府がある。
その地方政府の代表者により統一政府が作られているが、行政府の長、首相の権限は小さく、政策決定に時間が掛かる構造的な欠陥を有していた。
更にタカマガハラの敗戦により、多くの政党が乱立し現在の危機的状況でも政治ゲームに終始し、合従連衡を繰り返している。
「ありえる話だ。しかし、それだけではシャーリアに積極的に接触しない理由にはならないと思うが」
「あの、よろしいでしょうか」とオハラが発言を求め、クリフォードが許可する。
「個人的な見解なのですが、ロンバルディア人の気質は見栄っ張りと聞いたことがあります。自由星系国家連合の盟主たらんといろいろと画策していたようですし、その点から考えると、連合内でも小国であるシャーリアに頭を下げることをよしとしない勢力がいるのではないでしょうか」
「なるほど……その辺りはパレンバーグ秘書官の意見を聞いてみてもいいな。彼なら我々より外交情報を持っているだろうし。いずれにせよ、今のままではシャーリアに向かう判断ができないな」
こうして王太子エドワードの秘書官、テオドール・パレンバーグ伯爵と情報をすり合わせることとなった。
キャメロット第一艦隊第一特務戦隊、通称王太子護衛戦隊はヤシマに向けて出発した。
彼らの前方にはキャメロット第九艦隊があり、同じようにヤシマを目指している。
これは王太子を護衛するためではなく、ヤシマに駐留する艦隊を交替させるためで、王太子一行はその交替のタイミングに合わせて出発したのだ。
キャメロット星系からヤシマ星系までは約二十二パーセク(約七十二光年)で、三つの星系を経由する。最も近い星系はスパルタン星系で、トリビューン、レインボーと続き、ヤシマに至る。
正規艦隊五千隻と行動を共にするため、二十二パーセクを三十一日間で移動する。護衛戦隊だけであれば二十七日で済むが、高機動艦隊である第九艦隊といえども、比較的足の遅い輸送艦や工作艦を伴うため、星系内での移動に時間が掛かるためだ。
その時間を利用し、クリフォードは更に訓練を重ねていった。
特にトリビューン星系では第九艦隊の駆逐艦戦隊に協力を仰ぎ、小惑星帯を利用した離脱訓練を行っている。
訓練を終えた後、副長であるサミュエルと艦長室で問題点を話し合った。
そして、話し合いを終えた後、スクリーンに映る小惑星を見つめていたサミュエルがぼそりと呟いた。
「懐かしいですね、艦長」
「そうだな。もう七年も前か。ここに一緒に戻ってくるとは思わなかったな」
クリフォードが感慨深くそう言うと、サミュエルも頷いている。
「あの頃は自分が士官になれるか不安でした。それが佐官になっているとは……当時の自分が今の姿を見たらビックリするでしょうね」
「全くだな……そういえば覚えているか、“ローストピーナッツ”から脱出した時のことを」
彼が言っているローストピーナッツはゾンファの通商破壊艦の補給基地があった小惑星AZ-258877のことだ。
形がピーナッツに似ており、更にこの星系の弱い恒星に照らされた色が、焼いたピーナッツに似ていたことから、下士官たちが付けたあだ名だった。
「二人で無茶をしましたね。あの時のことを思い出すと今でも冷や汗が出ますよ」
そんな他愛ない話をし、互いの仕事に戻っていった。
トリビューン星系からレインボー星系への超空間航行に入った後、二人は王太子に捕まった。
「そろそろトリビューンの話をしてくれてもいいだろう。妃も聞きたがっているんだ」
今回のヤシマ訪問には王太子妃シルヴィアも同行している。ちなみに王太子には二人の王子がいるが、十五歳と十三歳であり、二人とも寄宿舎のある学校に入っているため、同行していない。
クリフォードとサミュエルは同時に肩を竦め、王太子の部屋に向かった。
十月三十一日。
クリフォードたちは無事ヤシマ星系に到着した。
首都星である第三惑星タカマガハラに向かうが、未だに完全な復興には程遠いためか、破壊された施設が多く見られた。
惑星上空に待機するアルビオン艦隊の旗艦で王太子は演説を行い、将兵たちを労った。
更にヤシマの首都タカチホに王太子妃シルヴィアと共に降り立つと、ヤシマ国民から熱烈な歓迎を受ける。
アルビオンによって国が解放されたこと、アルビオン軍の軍規に緩みがなく、ほとんどトラブルが起きなかったことから、王太子が登場する前からアルビオンに対するヤシマ国民の感情は非常に好意的だった。
もちろん、比較対象が暴虐の限りを尽くしたゾンファ軍であったことが関係することは否めない。
更にヤシマ国民は“ロイヤルファミリー”という幻想的な言葉に弱かった。マスメディアがそうなるように演出したこともあるが、王太子は行く先々で歓迎された。
クリフォードは王太子が各地を回る間に、デューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]をサミュエルに任せ、アルビオン艦隊の臨時司令部とヤシマ防衛軍本部を訪問した。
彼の目的はロンバルディア連合とシャーリア法国の状況とスヴァローグ帝国に関する情報を入手することだった。
アルビオンの臨時司令部ではヤシマの民間船から受けたスヴァローグ帝国の情報を基に分析を行っている。そこの情報担当参謀である大佐は帝国の現状についてクリフォードに説明した。
「帝国は物凄い勢いで復興しているようだ。ダジボーグの工廠に大量の資材が持ち込まれているという情報があったよ。既に七個艦隊は駐留していると見ている。恐らくだが、三年ほどでどこかの星系に攻め込むつもりだろうな」
「帝国とロンバルディア連合との関係はどう見ていますか?」
「情報源はヤシマ政府だから、信憑性は保証できないが、ロンバルディアは帝国と密かに交渉を行っているらしい。ただ、それがどのような交渉なのかは全く不明なのだがね」
情報参謀はそう言って肩を竦める。
「ロンバルディアは農業国ですが、帝国に食糧を輸出しているのでしょうか?」
「いや、ダジボーグ側のジャンプポイントは封鎖されているはずだ。民間船の航行は認められていないと聞いている。もっとも内戦中は結構稼いでいたらしいがね」
クリフォードはシャーリア法国の状況を聞いてみたが、情報参謀は「あの国は秘密主義でね。ほとんど情報は入ってこないのだよ」とお手上げという仕草をする。
彼はその足でヤシマ防衛軍本部に向かい、同様に情報を入手していった。得られた情報は少なくなかったが、シャーリアについては有益なものは得られなかった。
(聞く限りはほとんど鎖国状態だな。確かシャーリア星系は充分に自活できる豊かな星系だったはずだ。宗教的な理由もあるのだろうが、判断に困るな。ロンバルディアにいる外交官が情報を持っていればいいんだが……)
クリフォードはDOE5に戻るまでの時間を利用し、弟であるファビアンと話をした。
ファビアンは第九艦隊の重巡航艦に乗っており、現在の階級は中尉だ。士官候補生時代に陰湿ないじめにあったが、ジュンツェン星系会戦で功績を上げ、勲章も得ている。
弟との会話を楽しんだクリフォードだったが、すぐにDOE5に戻り、サミュエルと情報士のクリスティーナ・オハラ大尉と共に情報を分析していく。
オハラは得られた情報を分類し、更に情報の確度ごとに整理していった。その手際の良さにクリフォードはもちろん、情報士官の経験があるサミュエルですら感歎していた。
情報の分析を終えたオハラがクリフォードたちに結果を報告する。
「……得られた情報を整理しますと、三ヶ月以内にスヴァローグ帝国がロンバルディアに侵攻する可能性は非常に低いと思われます。ただ気になる点があります」
「気になる点とは?」とクリフォードが聞くと、オハラはニコリと笑い、
「帝国の脅威が迫る中、隣国でありながらもロンバルディアとシャーリアの関係があまりに希薄です。シャーリアの秘密主義と言われればそうかもしれませんが、ロンバルディアも積極的にアプローチしているように見えません。この点が気になるのです」
「確かに気になるな。ロンバルディアは脅威を減らすために少しでも味方はほしいはずだ。だとすれば、シャーリアとの関係を強化する努力を惜しまないはず……どう思う、サム?」
「そうですね」と言ってサミュエルは沈黙し、五秒ほど考えた後、自分の考えを整理するかのようにゆっくりと話し始めた。
「ロンバルディアの政治形態が影響しているのかもしれませんね。あの国は複雑な議会制民主主義だったはずです。二つの惑星にある政府が連合体を作っているため、政策決定に時間が掛かったのでは。それが原因の一つではないかと」
彼の言う通り、ロンバルディア連合は第三惑星テラノーヴォと第四惑星テラドゥーエの二つの有人惑星からなり、それぞれに地方政府がある。
その地方政府の代表者により統一政府が作られているが、行政府の長、首相の権限は小さく、政策決定に時間が掛かる構造的な欠陥を有していた。
更にタカマガハラの敗戦により、多くの政党が乱立し現在の危機的状況でも政治ゲームに終始し、合従連衡を繰り返している。
「ありえる話だ。しかし、それだけではシャーリアに積極的に接触しない理由にはならないと思うが」
「あの、よろしいでしょうか」とオハラが発言を求め、クリフォードが許可する。
「個人的な見解なのですが、ロンバルディア人の気質は見栄っ張りと聞いたことがあります。自由星系国家連合の盟主たらんといろいろと画策していたようですし、その点から考えると、連合内でも小国であるシャーリアに頭を下げることをよしとしない勢力がいるのではないでしょうか」
「なるほど……その辺りはパレンバーグ秘書官の意見を聞いてみてもいいな。彼なら我々より外交情報を持っているだろうし。いずれにせよ、今のままではシャーリアに向かう判断ができないな」
こうして王太子エドワードの秘書官、テオドール・パレンバーグ伯爵と情報をすり合わせることとなった。
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