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第四部:「激闘! ラスール軍港」

第十話

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 デューク・オブ・エジンバラ5号[DOE5]の副長となったサミュエルは精力的に働いた。

 クリフォードが言うように、彼には元々苦手とする分野がない。
 戦闘指揮、航法、情報のどの分野でも高いレベルにあり、公平かつ無私で組織運営・管理も充分に高いレベルにある。

 更に宙軍士官には極端に嫌う者もいる消耗品の管理などの主計科の仕事も苦にしなかった。

 また、クリフォードが砲艦レディバードで行ったように准士官以下の意見をしっかりと吸い上げ、副長の経験がないとは思えないほど順調に艦を掌握していく。

 特に艦の運用の鍵となる掌砲長ガナー掌帆長ボースンとの関係は前任者を凌ぎ、准士官たちはサミュエルに敬意を抱くと共に仲間意識すら芽生えていた。

 ただ一つの躓きは士官室ワードルーム内の人間関係の構築だった。
 艦長と親友であるという話は伝わっており、赴任直後より警戒されていたが、それ以上に障害となったのは彼の出自だった。

 DOE5の士官は爵位持ち、つまり上流社会の生まれの者ばかりだ。
 一方、サミュエルは平民の生まれであり、どうしても話題についていけない。唯一の共通話題である軍関係の話でも、実戦部隊とはほど遠いこの艦では話題として盛り上がることは少なかった。

 ただ、戦術士タコーのベリンダ・ターヴェイ少佐と宙兵隊長のアルバート・パターソン大尉は彼の話に興味を示すことが多く、完全に孤立することだけは避けられている。

(やはり人間関係は難しいな。准士官や下士官と話をする方がよほど気は楽だ……)

 それでも彼は士官たちを掌握する努力を惜しまず、少しずつ自分の居場所を作っていった。


 サミュエルが副長として奮闘している中、クリフォードに慶事があった。
 彼に待望の第一子、長男が誕生したのだ。

 仕事第一の彼にしては珍しく、愛妻ヴィヴィアンの出産前は常に彼女のかたわらにいた。

 それが可能だったのは、一つには王太子のスケジュールが惑星上のみであったこと、もう一つは信頼できる盟友、サミュエルに艦を任せられたためだ。

 出産直後の妻を労わりながら、クリフォードは家族が増えた喜びを噛み締めていた。

 彼に第一子が生まれたことはマスコミによってキャメロット星系に広がったが、王太子の配慮により、彼らの周囲にマスコミが溢れるようなことはなかった。

「私の艦長に幸せを感じる、ささやかな時間を与えてやってくれないか」

 定例記者会見でクリフォードに第一子が生まれたことへのコメントを求められた際、メディアの前ではっきりと伝えたため、メディア側も取材を自粛している。これはキャメロット星系でのエドワード王太子の影響力の大きさを示していた。

 元々王太子は“プリンス・オブ・キャメロット”の称号を持ち、キャメロット星系では絶大な人気を誇る。

 エドワードはその飾らない人柄で市民たちと気軽に触れ合うなど、その人気は国王を凌ぐ。

 更に自分が不快に思う報道を行っても、そのメディアを排斥するようなことはなかったが、友好的なメディアに対しては独占取材を許すなど、メディアを上手くコントロールしていた。

 もちろん、一部の自称フリージャーナリストたちはしつこく、クリフォードたちを追ったが、軍や警察だけでなく、市民たちもそのような不届き者に対しては厳しく当たり、大きなトラブルになることはなかった。

 彼の長男はフランシス・エドワード・コリングウッドと名付けられた。そのミドルネームは大きな花束と共に王太子から贈られたものだった。

 フランシスが生まれた時、久しぶりにコリングウッド一家が集まった。父リチャードだけでなく、弟ファビアンもいたのだ。

 ファビアンは四五一六年に、士官学校を次席という優秀な成績で卒業した後、一年半で少尉に任官し、現在は勇将ジークフリート・エルフィンストーン提督麾下の第九艦隊の重巡航艦ノーフォーク332で戦術士官として勤務している。

 その第九艦隊が軍事衛星アロンダイトに入港したため、休暇を取って駆けつけたのだ。

 ファビアンは士官候補生時代に酷いいじめにあったが、今では堂々とした士官となっており、クリフォードは誇らしい気分で弟を見つめる。

「ノーフォークでの活躍は私にとっても鼻が高いよ」

 ファビアンはジュンツェン星系会戦で戦術士官として初陣を飾り、重巡航艦で巡航戦艦を沈めるなどの大活躍をしている。それによって、青銅星勲章ブロンズスターを受勲していた。

「兄さんほどじゃないよ」と笑うが、その笑顔には余裕があった。

 激戦を生き延び、士官として成長した証だとクリフォードは思っている。

「そう言えば、ファビアンもそろそろ結婚してもいいんじゃないか?」

「そもそも相手がいないからね」と苦笑しながら答える。

「本当にいないのか? 何をやらせても器用なお前に?」と兄が驚く。

「そもそも出会いがないよ。義姉ねえさんの知り合いでも紹介してもらおうかと思い始めているくらいだ」

 クリフォードとファビアンはそんな話で笑いあった。父リチャードからも祝福の言葉を受け、妻ヴィヴィアンと共に幸せな時間を過ごした。

 家族との幸せな時間を過ごしていたが、九月に入ると総司令部から、ある命令が下った。
 それは十月一日に自由星系国家連合フリースターズユニオンのヤシマに向かうというものだった。

 王太子が以前から希望していたヤシマ星系に駐留している艦隊への慰問のため、ヤシマを公式訪問することになったのだ。更にヤシマの先にあるロンバルディア星系、シャーリア星系も訪問することになっていた。



 今回、王太子の自由星系国家連合フリースターズユニオン訪問が認められたのは、クリフォードの成果が要因の一つとして挙げられる。

 彼が護衛戦隊に厳しい訓練を課したことから、王太子という重要人物を政情が安定しているとは言い難い国家に派遣しても安全が確保できると判断されたのだ。

 キャメロット星系からシャーリア星系までは約四十六パーセク、約百五十光年の距離がある。移動だけでも往復三ヶ月以上掛かり、行事などを考えると、五ヶ月ほどの行程となる。

 クリフォードはヴィヴィアンに済まなそうにそのことを告げた。

「長期の任務が来たよ。自由星系国家連合FSUにいくことになった」

「どのくらい掛かりますの?」と不安げな表情で問われると、彼も残念そうな顔で、

「五ヶ月は掛かると思う。私としては君とフランシスと一緒にいたいと思っているんだけどね」

 その答えにヴィヴィアンは無理やり笑みを作る。

「任務ですから仕方がありません。それに戦争をしにいくわけではないのですから、その点だけは安心しています」

 彼は愛する妻を抱き締める。
 別れを済ませると、彼は精力的に準備を行っていく。

 十月一日、王太子一行はヤシマに向けて出発した。
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