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第四部:「激闘! ラスール軍港」
第四話
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クリフォードはデューク・オブ・エジンバラ5号の士官たちと交流するため、士官室で酒を飲みながら歓談した。
それが終わり、艦長室に戻って一人になると、大きく息を吐き出す。
(表面上は上手くいっている……それにしてもレディバードとは大違いだ。レディバードでは下士官たちとも話す機会が多かったが、ここでは准士官以上としか話す機会がない……)
砲艦では問題が多いと言われていた准士官や下士官が多かったが、家族のような気やすい関係を好ましく思っていた。
王室専用艦ではそのような関係を築くことは望めず、杓子定規な対応が多いと感じてしまう。
しかし、すぐに気持ちを切り替える。
(前の艦のことを考えても仕方がない。幸い、この艦が戦闘をする機会はほとんどない。ゆっくりと時間を掛けて、艦をまとめていくしかないだろうな……)
一抹の不安を感じながら、椅子に深々と座り、眠りに落ちていった。
一時間ほど、うたた寝をしていたが、気づけば毛布が掛けられていた。
(モリスが掛けてくれたのか。相変わらず気が利くが、起こしてくれればいいものを……)
彼の予想通り、艦長室付きの従卒ヒューイ・モリス兵長が掛けた物だった。クリフォードが起き上がると、モリスが「失礼します、艦長」と言いながら入ってきた。
「そろそろお休みになった方がよろしいかと。寝台の準備はできておりますが、その前に寝る前の一杯をお持ちした方がよろしいでしょうか」
「ああ、一杯頼むよ。殿下より頂いたブランデーをシングルで」とクリフォードは言い、「気遣いありがとう」と言って毛布を渡す。
モリスは「いいえ、艦長、仕事ですので」と言って簡易厨房に入っていく。
モリスは有名ホテルのバーで働いていた元バーテンダーという異色の経歴の持ち主だ。その知識と経験からDOE5の艦長付き従卒となったが、艦長室を訪れる客に対し、完璧に対応していたと前任者から引継ぎを受けている。
艦長室には執務室と寝室、更に簡易の厨房が備えられている。
これは来客をもてなす際にすぐに飲み物を出すためだ。ちなみにモリスは寝台のことを折り畳み寝台と呼んだが、艦長の寝台は折り畳み式ではない。古くからの慣習でそう呼ばれているのだ。
クリフォードはモリスから受け取ったブランデーをゆっくりと回しながら、香りを楽しむ。
(良い香りのブランデーだが、私にはもったいないな。しかし、殿下からはこのくらいの酒の味は覚えておくようにと言われているのだが……)
酒は飲めるものの、今まで味わって飲む機会は少なかった。
しかし、王太子専用艦の艦長という役職柄、来訪者を歓待することも職務の一つとなる。
当然のことながら、王太子が招く客のほとんどは上流階級であり、舌が肥えている。そのような相手に侮られないためにも、酒の味を覚えるようにと言われていたのだ。
(これも三十年物と言われたが、私には全く分からないな。軍配給の安いウイスキーやビールの方が私には似合いなのだろう……)
そんなことを考えながら、二十分ほどかけて飲み切ると、陰に控えているモリスに「ご馳走様」と言ってグラスを渡し、寝室に向かった。
■■■
DOE5の士官室では新任艦長の話で持ちきりだった。
航法長のハーバート・リーコック少佐が感想を話していた。
「何度会っても若いと感じる。中佐じゃなく中尉と言った方が違和感がないくらいだ」
それに対し、戦術士のベリンダ・ターヴェイ少佐が「そうかしら?」と言い、
「見た目は若いけど、凄く落ち着いているわ。それにあれほどの武勲を挙げているのに謙虚だし。僅か五年で殊勲十字勲章が二回に武功勲章が一回よ。運も味方しているんでしょうけど、実力も凄いと思うわ」
リーコックは「その点は私も同感だよ」と頷き、
「私が言いたかったのは単に見た目のことだけだ。話をすれば中佐に相応しい人物だと納得しているよ」
「あら、随分持ち上げるわね。着任される前は殿下も身びいきが過ぎるって言っていたのに」
副長のクラウディア・ウォーディントン少佐がそう言って茶化す。
「私だって人を見る目は持っている。一度話をすれば艦長が我々とは違うと納得できたよ」
ウォーディントンは彼の言葉に「そうね」と素っ気無く答えるが、心の中では別のことを考えていた。
(ハーバートは焦っているみたいね。確かに少佐になって二年。決して遅い昇進じゃないけど、子爵家を継ぐ身としては不安になってもおかしくないわ。この辺りで殊勲十字勲章に匹敵する武勲を挙げておきたいと考えているはず。だから、コリングウッド艦長に認めてもらって少しでも目立つところに行きたいというのは分からないでもないわ……)
そして、リーコックの焦りに不安を覚える。
(でも、大丈夫かしら。彼の能力は言っては悪いけど平凡だわ。確かに航法の腕は悪くないし、ミスも少ない。でも、それだけ。あの天才についていこうとすれば、必ず無理をするわ。この艦は殿下をお守りすることが最大の使命。冒険するようなことは決してしてはいけない。艦長はお若いわ。ハーバートに乗せられなければいいのだけど……と言っても私は一年以内にこの艦を去るはず。次の副長がそのことを分かってくれないと大変なことになるわ……)
彼女がそんなことを考えているとは露知らず、リーコックはターヴェイと話し込んでいた。
(ベリンダもそう。彼女は艦長の武勲に興味を持っている。そして問題なのは自分でもできると思うことね。天才の真似を凡人がすることは危険なことだと彼女は分かっていない。悪い影響を受けなければいいのだけど……)
そこまで考えたところで小さく溜め息を吐く。
(私が心配することじゃないわね。どうも副長を長くやっていると悲観的な方にばかり考えてしまうわ。この艦だからベテランの副長が引き継いでくれるはずだから少しは安心なんだけど……)
八ヶ月後、彼女は昇進し艦を去るが、その期待は裏切られることになる。
それが終わり、艦長室に戻って一人になると、大きく息を吐き出す。
(表面上は上手くいっている……それにしてもレディバードとは大違いだ。レディバードでは下士官たちとも話す機会が多かったが、ここでは准士官以上としか話す機会がない……)
砲艦では問題が多いと言われていた准士官や下士官が多かったが、家族のような気やすい関係を好ましく思っていた。
王室専用艦ではそのような関係を築くことは望めず、杓子定規な対応が多いと感じてしまう。
しかし、すぐに気持ちを切り替える。
(前の艦のことを考えても仕方がない。幸い、この艦が戦闘をする機会はほとんどない。ゆっくりと時間を掛けて、艦をまとめていくしかないだろうな……)
一抹の不安を感じながら、椅子に深々と座り、眠りに落ちていった。
一時間ほど、うたた寝をしていたが、気づけば毛布が掛けられていた。
(モリスが掛けてくれたのか。相変わらず気が利くが、起こしてくれればいいものを……)
彼の予想通り、艦長室付きの従卒ヒューイ・モリス兵長が掛けた物だった。クリフォードが起き上がると、モリスが「失礼します、艦長」と言いながら入ってきた。
「そろそろお休みになった方がよろしいかと。寝台の準備はできておりますが、その前に寝る前の一杯をお持ちした方がよろしいでしょうか」
「ああ、一杯頼むよ。殿下より頂いたブランデーをシングルで」とクリフォードは言い、「気遣いありがとう」と言って毛布を渡す。
モリスは「いいえ、艦長、仕事ですので」と言って簡易厨房に入っていく。
モリスは有名ホテルのバーで働いていた元バーテンダーという異色の経歴の持ち主だ。その知識と経験からDOE5の艦長付き従卒となったが、艦長室を訪れる客に対し、完璧に対応していたと前任者から引継ぎを受けている。
艦長室には執務室と寝室、更に簡易の厨房が備えられている。
これは来客をもてなす際にすぐに飲み物を出すためだ。ちなみにモリスは寝台のことを折り畳み寝台と呼んだが、艦長の寝台は折り畳み式ではない。古くからの慣習でそう呼ばれているのだ。
クリフォードはモリスから受け取ったブランデーをゆっくりと回しながら、香りを楽しむ。
(良い香りのブランデーだが、私にはもったいないな。しかし、殿下からはこのくらいの酒の味は覚えておくようにと言われているのだが……)
酒は飲めるものの、今まで味わって飲む機会は少なかった。
しかし、王太子専用艦の艦長という役職柄、来訪者を歓待することも職務の一つとなる。
当然のことながら、王太子が招く客のほとんどは上流階級であり、舌が肥えている。そのような相手に侮られないためにも、酒の味を覚えるようにと言われていたのだ。
(これも三十年物と言われたが、私には全く分からないな。軍配給の安いウイスキーやビールの方が私には似合いなのだろう……)
そんなことを考えながら、二十分ほどかけて飲み切ると、陰に控えているモリスに「ご馳走様」と言ってグラスを渡し、寝室に向かった。
■■■
DOE5の士官室では新任艦長の話で持ちきりだった。
航法長のハーバート・リーコック少佐が感想を話していた。
「何度会っても若いと感じる。中佐じゃなく中尉と言った方が違和感がないくらいだ」
それに対し、戦術士のベリンダ・ターヴェイ少佐が「そうかしら?」と言い、
「見た目は若いけど、凄く落ち着いているわ。それにあれほどの武勲を挙げているのに謙虚だし。僅か五年で殊勲十字勲章が二回に武功勲章が一回よ。運も味方しているんでしょうけど、実力も凄いと思うわ」
リーコックは「その点は私も同感だよ」と頷き、
「私が言いたかったのは単に見た目のことだけだ。話をすれば中佐に相応しい人物だと納得しているよ」
「あら、随分持ち上げるわね。着任される前は殿下も身びいきが過ぎるって言っていたのに」
副長のクラウディア・ウォーディントン少佐がそう言って茶化す。
「私だって人を見る目は持っている。一度話をすれば艦長が我々とは違うと納得できたよ」
ウォーディントンは彼の言葉に「そうね」と素っ気無く答えるが、心の中では別のことを考えていた。
(ハーバートは焦っているみたいね。確かに少佐になって二年。決して遅い昇進じゃないけど、子爵家を継ぐ身としては不安になってもおかしくないわ。この辺りで殊勲十字勲章に匹敵する武勲を挙げておきたいと考えているはず。だから、コリングウッド艦長に認めてもらって少しでも目立つところに行きたいというのは分からないでもないわ……)
そして、リーコックの焦りに不安を覚える。
(でも、大丈夫かしら。彼の能力は言っては悪いけど平凡だわ。確かに航法の腕は悪くないし、ミスも少ない。でも、それだけ。あの天才についていこうとすれば、必ず無理をするわ。この艦は殿下をお守りすることが最大の使命。冒険するようなことは決してしてはいけない。艦長はお若いわ。ハーバートに乗せられなければいいのだけど……と言っても私は一年以内にこの艦を去るはず。次の副長がそのことを分かってくれないと大変なことになるわ……)
彼女がそんなことを考えているとは露知らず、リーコックはターヴェイと話し込んでいた。
(ベリンダもそう。彼女は艦長の武勲に興味を持っている。そして問題なのは自分でもできると思うことね。天才の真似を凡人がすることは危険なことだと彼女は分かっていない。悪い影響を受けなければいいのだけど……)
そこまで考えたところで小さく溜め息を吐く。
(私が心配することじゃないわね。どうも副長を長くやっていると悲観的な方にばかり考えてしまうわ。この艦だからベテランの副長が引き継いでくれるはずだから少しは安心なんだけど……)
八ヶ月後、彼女は昇進し艦を去るが、その期待は裏切られることになる。
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