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第三部:「砲艦戦隊出撃せよ」
第四十七話
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ゾンファ共和国のヤシマ侵攻作戦は失敗に終わり、ゾンファは大きな痛手を受けた。
しかし、損害を受けたのはゾンファだけではなかった。
占領されたヤシマはもちろん、自由星系国家連合(FSU)の各国も解放作戦において大きな損害を受けている。
ヤシマ及びFSUはゾンファに対し、不当な侵略行為に対する賠償を求めた。特にヤシマはゾンファに拉致されたとされる多数の行方不明者がおり、その返還と補償を強く要求する。
それに対し、ゾンファは全ての要求を拒否した。
ゾンファはヤシマ市民の要求に従って解放軍を送っただけであり、その費用を負担すべきであるとまで主張した。
その厚顔な主張にヤシマとFSUの外交官は激怒するものの、ゾンファに対して戦端を開くこともできず、ズルズルと交渉を引き延ばされるしかなかった。
唯一得られたものは、ヤシマ星系とジュンツェン星系の間にあるイーグン星系の帰属がヤシマに確定したことだった。これによりヤシマは自国の外側に緩衝地帯を得ることができ、今回のような奇襲を受ける可能性を排除できるようになった。
ヤシマにとって頭の痛い問題があった。
それは捕虜となった百三十万人にも及ぶゾンファ将兵の存在だった。当初、ヤシマ政府は捕虜返還を補償や行方不明者返還の交渉材料にしようとしたが、ゾンファ政府は無条件での捕虜返還を求め、交渉には一切応じなかった。
ゾンファ側が交渉に応じなかった理由はヤシマの技術者たちを返還する意思がなかったことと、ヤシマ政府が捕虜の扱いに困り、何もしなくても返還されると考えていたためと言われている。
また、捕虜になった将兵が帰還した場合、治安の悪化が懸念されることも理由の一つではないかという憶測が流れたが、フー上将が虜囚となっている将兵を無為に放置することはないと否定している。
いずれにせよ、ヤシマは多くの兵士、市民を失い、ほとんど得るものがなかった。また、防衛艦隊の再建、イーグン星系への防衛拠点の建設など国力の低下を招くことは間違いなかった。
ゾンファ側の思惑通り、ヤシマは捕虜の扱いに苦慮した。
市民を殺害した地上軍の幹部については、人道に対する罪として死刑としたが、さすがに百万人以上を処刑するわけにもいかず、食料の確保だけでも多くの負担が伴った。
家族を失った市民からは処刑若しくは小惑星での強制労働などを行うよう強く求められたが、再びKYニューズが暗躍し始めた。
KYグループはゾンファ軍に協力した記者や論客を解雇し、反省するかのように検証記事を公表したが、僅か数ヶ月でそれに関する記事は消えた。KYグループ以外のマスメディアはゾンファの手先となったことを非難し続けたが、ヤシマ市民の反応は薄かった。
ほとぼりが冷めたと判断したKYニューズは“ゾンファ将兵に対し非人道的な対応ではなく、民主国家として人道的な対応をもって彼らに反省を促すべきだ”という主張を始めた。
その正論に対し反論する者は人道に対する挑戦者であり、ゾンファの軍人と変わらないというような稚拙な主張を繰り返したが、市民たちは再びKYニューズに踊らされ、その主張を支持していく。
ヤシマ暫定政権首班のタロウ・サイトウはその状況に危機感を抱いた。
彼は捕虜と取引をし、KYグループがゾンファ共和国の手先であったことを証言させ、ゾンファの協力者として記者たちを次々と逮捕していった。
KYニューズは軍人による報道の締め付けとして大々的に反サイトウキャンペーンを張ったが、それが彼らの命取りになった。
祖国解放の英雄、サイトウは絶大な人気を誇り、更に清廉な人物であるため、捏造を得意とするKYニューズですら、すぐにはスキャンダルを捏造できなかった。
その間に有力な記者や論客が次々と逮捕されていき、逮捕されていない記者は次に逮捕されるのは自分ではないかと恐怖を感じるようになる。
元々ゾンファに金で雇われているだけで、そのゾンファから切り離されたため、資金的にも苦しくなっていく。
KYグループ関係者というだけで白眼視され始め、愛国心の欠片もない彼らは、サイトウの切り崩しに次々と転向していった。
KYグループでは内部告発者が次々と現れ、更に逮捕者が出るようになる。KYグループ内は疑心暗鬼に支配され、それが更なる没落を招いていった。
僅か一年ほどでメディアとしての収入は数十分の一にまで低下し、巨大メディアグループは崩壊寸前にまで凋落した。
サイトウは捕虜に対し、ある提案を行なった。
それは隣国スヴァローグ帝国への亡命の斡旋だった。スヴァローグ帝国は三つの有人星系を有しているが、内乱による慢性的な人材不足に陥っていた。
そのため、自由星系国家連合からの移民受入に積極的だった。更にゾンファ共和国と国境を接していないことから紛争もなく、反ゾンファ感情の少ない唯一の国家でもあった。
サイトウは自分たちが虐げ、反ゾンファ感情の強いヤシマより、肩身の狭い思いをせず自由に生きていけるスヴァローグへの移住を提案したのだ。
その当時、捕虜たちは小惑星の一つに閉じ込められ、完全に隔離されていた。また、祖国が自分たちを見捨てたことは知らされており、多くの自殺者が出ている状況であった。
彼らはサイトウの説明を信じた。というより、信じるしかなかった。
スヴァローグの実情を知る者も僅かにいたが、多くのゾンファ将兵はサイトウの提案に乗った。そして、この提案は人道的にも問題なく、サイトウに反発するKYニューズですら反対することができなかった。
しかし、サイトウは人道的な見地からゾンファ将兵に同情し、スヴァローグに亡命させるわけではなかった。
スヴァローグは皇帝を頂点とする厳しい身分制度があり、移民の身分は最も下位となる。もちろん人権などないに等しく、農奴として酷使され搾取されるだけの存在として生きていかなくてはならない。
それを知っていた上で彼は提案したのだ。
彼はゾンファ将兵を許すつもりはなかった。降伏が認められず殺されていった部下や家族を人質に取られ死地に赴かざるを得なかった同胞たちを弔うため、ゾンファ将兵に最も過酷な罰を与えたのだ。
ヤシマ政府は移民の斡旋料として、スヴァローグから幾ばくかの金を受け取っている。戦死した将兵たちへの補償には遠く及ばないが、それでもゾンファから得られなかった補償を得たとして、サイトウは市民から絶賛された。
そんなことを知らないゾンファの捕虜たちは、百万人以上がスヴァローグへ亡命を希望した。
そして、亡命した者のほぼ全員がスヴァローグに移住したことを後悔することになる。自分たちは移民ではなく、奴隷としてここに送り込まれたと知ったためだ。
スヴァローグは彼らを農奴のように酷使し、磨り潰していく。
更に藩王同士の抗争にも駆り出され、無為に命を散らせていった。数年後には半数以上が命を落とし、残りも生きる希望を失っていた。
スヴァローグに行かなかった者たちも決して幸福ではなかった。
放棄されていた資源採掘用小惑星に閉じ込められ、自活できるギリギリの環境に置かれた。
完全リサイクルシステムによる単調な食事と情報端末だけでなく紙すら与えられない環境。することもなく、無為に過ごす日々に彼らは次第に疲弊していった。
それでもヤシマは彼らに干渉することはなかった。
そもそも通信設備すら与えず、年に数度太陽光パネルや環境データを宇宙空間から確認するだけで、接触を一切行わなかったのだ。
そして、脱出するための資源もない絶望的な状況で、誰にも思い出されることなく、ゾンファの捕虜たちは時代の狭間に消えていった。
しかし、損害を受けたのはゾンファだけではなかった。
占領されたヤシマはもちろん、自由星系国家連合(FSU)の各国も解放作戦において大きな損害を受けている。
ヤシマ及びFSUはゾンファに対し、不当な侵略行為に対する賠償を求めた。特にヤシマはゾンファに拉致されたとされる多数の行方不明者がおり、その返還と補償を強く要求する。
それに対し、ゾンファは全ての要求を拒否した。
ゾンファはヤシマ市民の要求に従って解放軍を送っただけであり、その費用を負担すべきであるとまで主張した。
その厚顔な主張にヤシマとFSUの外交官は激怒するものの、ゾンファに対して戦端を開くこともできず、ズルズルと交渉を引き延ばされるしかなかった。
唯一得られたものは、ヤシマ星系とジュンツェン星系の間にあるイーグン星系の帰属がヤシマに確定したことだった。これによりヤシマは自国の外側に緩衝地帯を得ることができ、今回のような奇襲を受ける可能性を排除できるようになった。
ヤシマにとって頭の痛い問題があった。
それは捕虜となった百三十万人にも及ぶゾンファ将兵の存在だった。当初、ヤシマ政府は捕虜返還を補償や行方不明者返還の交渉材料にしようとしたが、ゾンファ政府は無条件での捕虜返還を求め、交渉には一切応じなかった。
ゾンファ側が交渉に応じなかった理由はヤシマの技術者たちを返還する意思がなかったことと、ヤシマ政府が捕虜の扱いに困り、何もしなくても返還されると考えていたためと言われている。
また、捕虜になった将兵が帰還した場合、治安の悪化が懸念されることも理由の一つではないかという憶測が流れたが、フー上将が虜囚となっている将兵を無為に放置することはないと否定している。
いずれにせよ、ヤシマは多くの兵士、市民を失い、ほとんど得るものがなかった。また、防衛艦隊の再建、イーグン星系への防衛拠点の建設など国力の低下を招くことは間違いなかった。
ゾンファ側の思惑通り、ヤシマは捕虜の扱いに苦慮した。
市民を殺害した地上軍の幹部については、人道に対する罪として死刑としたが、さすがに百万人以上を処刑するわけにもいかず、食料の確保だけでも多くの負担が伴った。
家族を失った市民からは処刑若しくは小惑星での強制労働などを行うよう強く求められたが、再びKYニューズが暗躍し始めた。
KYグループはゾンファ軍に協力した記者や論客を解雇し、反省するかのように検証記事を公表したが、僅か数ヶ月でそれに関する記事は消えた。KYグループ以外のマスメディアはゾンファの手先となったことを非難し続けたが、ヤシマ市民の反応は薄かった。
ほとぼりが冷めたと判断したKYニューズは“ゾンファ将兵に対し非人道的な対応ではなく、民主国家として人道的な対応をもって彼らに反省を促すべきだ”という主張を始めた。
その正論に対し反論する者は人道に対する挑戦者であり、ゾンファの軍人と変わらないというような稚拙な主張を繰り返したが、市民たちは再びKYニューズに踊らされ、その主張を支持していく。
ヤシマ暫定政権首班のタロウ・サイトウはその状況に危機感を抱いた。
彼は捕虜と取引をし、KYグループがゾンファ共和国の手先であったことを証言させ、ゾンファの協力者として記者たちを次々と逮捕していった。
KYニューズは軍人による報道の締め付けとして大々的に反サイトウキャンペーンを張ったが、それが彼らの命取りになった。
祖国解放の英雄、サイトウは絶大な人気を誇り、更に清廉な人物であるため、捏造を得意とするKYニューズですら、すぐにはスキャンダルを捏造できなかった。
その間に有力な記者や論客が次々と逮捕されていき、逮捕されていない記者は次に逮捕されるのは自分ではないかと恐怖を感じるようになる。
元々ゾンファに金で雇われているだけで、そのゾンファから切り離されたため、資金的にも苦しくなっていく。
KYグループ関係者というだけで白眼視され始め、愛国心の欠片もない彼らは、サイトウの切り崩しに次々と転向していった。
KYグループでは内部告発者が次々と現れ、更に逮捕者が出るようになる。KYグループ内は疑心暗鬼に支配され、それが更なる没落を招いていった。
僅か一年ほどでメディアとしての収入は数十分の一にまで低下し、巨大メディアグループは崩壊寸前にまで凋落した。
サイトウは捕虜に対し、ある提案を行なった。
それは隣国スヴァローグ帝国への亡命の斡旋だった。スヴァローグ帝国は三つの有人星系を有しているが、内乱による慢性的な人材不足に陥っていた。
そのため、自由星系国家連合からの移民受入に積極的だった。更にゾンファ共和国と国境を接していないことから紛争もなく、反ゾンファ感情の少ない唯一の国家でもあった。
サイトウは自分たちが虐げ、反ゾンファ感情の強いヤシマより、肩身の狭い思いをせず自由に生きていけるスヴァローグへの移住を提案したのだ。
その当時、捕虜たちは小惑星の一つに閉じ込められ、完全に隔離されていた。また、祖国が自分たちを見捨てたことは知らされており、多くの自殺者が出ている状況であった。
彼らはサイトウの説明を信じた。というより、信じるしかなかった。
スヴァローグの実情を知る者も僅かにいたが、多くのゾンファ将兵はサイトウの提案に乗った。そして、この提案は人道的にも問題なく、サイトウに反発するKYニューズですら反対することができなかった。
しかし、サイトウは人道的な見地からゾンファ将兵に同情し、スヴァローグに亡命させるわけではなかった。
スヴァローグは皇帝を頂点とする厳しい身分制度があり、移民の身分は最も下位となる。もちろん人権などないに等しく、農奴として酷使され搾取されるだけの存在として生きていかなくてはならない。
それを知っていた上で彼は提案したのだ。
彼はゾンファ将兵を許すつもりはなかった。降伏が認められず殺されていった部下や家族を人質に取られ死地に赴かざるを得なかった同胞たちを弔うため、ゾンファ将兵に最も過酷な罰を与えたのだ。
ヤシマ政府は移民の斡旋料として、スヴァローグから幾ばくかの金を受け取っている。戦死した将兵たちへの補償には遠く及ばないが、それでもゾンファから得られなかった補償を得たとして、サイトウは市民から絶賛された。
そんなことを知らないゾンファの捕虜たちは、百万人以上がスヴァローグへ亡命を希望した。
そして、亡命した者のほぼ全員がスヴァローグに移住したことを後悔することになる。自分たちは移民ではなく、奴隷としてここに送り込まれたと知ったためだ。
スヴァローグは彼らを農奴のように酷使し、磨り潰していく。
更に藩王同士の抗争にも駆り出され、無為に命を散らせていった。数年後には半数以上が命を落とし、残りも生きる希望を失っていた。
スヴァローグに行かなかった者たちも決して幸福ではなかった。
放棄されていた資源採掘用小惑星に閉じ込められ、自活できるギリギリの環境に置かれた。
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