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第三部:「砲艦戦隊出撃せよ」
第十八話
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宇宙暦四五一八年五月十七日。
ジュンツェン進攻艦隊は総司令官であるキャメロット防衛艦隊司令長官グレン・サクストン大将の命令により、第三惑星ランスロットの軌道上から次々と加速していく。
商船並みの加速力しか持たない砲艦戦隊は補助艦艇と共に最初期に加速を開始した。
キャメロット星系からジュンツェン星系の間にはアテナ、ターマガント、ハイフォンの三つの星系がある。
アテナ星系は大型要塞と二個艦隊が常駐する拠点であり、アルビオンの完全な支配星系である。ターマガント星系は十年前からアルビオンが実効支配しており、四年前の謀略以降は百隻単位の高機動戦隊が哨戒を行い、制宙権を確立していた。
ここまではアルビオンの支配星系であり、ほぼ安全が確保されている。
しかし、ハイフォン星系は事情が異なる。
ハイフォンはゾンファの国防ラインであり、ターマガント星系側JPには濃密な機雷原と千隻単位の防衛艦隊が配備されていると推定される。また、小規模ながらも補給や整備が行える軍事拠点も存在していた。
サクストン総司令官はハイフォン星系に向かう超光速航行に入る前に、艦隊の速度を調整した。これはJP出口にある機雷に対するためだった。
機雷はステルス性と高い機動力を持つファントムミサイルやゾンファのユリンミサイルなどのステルスミサイルの発射装置であり、六等級艦、すなわち駆逐艦程度なら一発で轟沈できる威力を持っている。
しかし、ミサイルである限りは必ず加速する必要がある。そして、加速するには高機動のミサイルといえども比較的長い時間が必要だった。
最大加速度二十kGの最新型であっても、光速の二十パーセントに達するには約三百秒、五分という時間を要する。また、この加速時間で三十光秒の距離を移動する。
侵入してきた敵艦に対し、機雷が攻撃をかける場合、“敵艦の検知”、“ミサイルの発射”、“ミサイルの加速”という三つのプロセスを経る必要があった。
この時、敵艦が機雷に対して正の相対速度を持っていれば、ミサイルの加速は短時間で済むが、相対速度が負であった場合、加速時間は長くなる。
ステルスミサイルの性質上、加速時間が長ければ長いほど、加速度が大きければ大きいほど、漏出するエネルギーや重力場の乱れなどからステルス性は損なわれてしまう。
ステルス性が損なわれたミサイルは防衛用の対宙レーザー砲により容易に撃ち落すことができ、戦果を上げることは叶わない。
このため、艦隊が敵支配星系に進入する場合は、JP出口での相対速度が極力ゼロになるように調整し、FTLに移行する必要があった。
艦隊が減速して進入してくることが分かっていても機雷が敷設されるのは、少しでも敵に損害が与えられる可能性があるためだが、もうひとつ理由があった。それは敵の偵察を防ぐという理由だ。
超光速航行は超光速航行機関により超空間に突入し、光速を超えて移動するのだが、ジャンプポイントから出た直後はFTLを行えない。
これはすべての超光速航行船に共通する物理的な制限のためで、超空間を出た直後の船のFTLDは空間を歪ませた“応力”のようなものが残る。
この“応力”が残った状態で再度FTLDを起動すると、定められた航路が歪められ、全く別の場所や最悪の場合、超空間に閉じ込められることになる。
このため、再突入には最低一時間の調整期間が必要であった。
この一時間は超空間に逃げ込むことができない。つまり、機雷が敷設されているとその間、逃げ回るか、ミサイルを撃ち落し続ける必要があるのだ。
大艦隊であれば撃ち落すことは可能だが、偵察艦隊のような小規模な部隊では多数のミサイルを撃ち落し続けることは事実上不可能だ。また、加速力に優るミサイルから逃げ続けることもできない。
そのため、機雷は敵の偵察を防ぐ有効な手段と考えられ、どの国でも自国の最外郭星系には必ず設置されている。
ジュンツェン進攻艦隊のうち、六等級艦以上の戦闘艦が先行してハイフォン星系に進入した。そして、機雷を次々と破壊していく。
三時間後、補助艦艇が“掃宙”の終わった安全な宙域にジャンプアウトしてきた。そこにはクリフォードらの砲艦戦隊も含まれている。
ハイフォン星系に進入した際、サクストン総司令はゾンファ共和国政府宛てに最後通牒を突きつけた。
「貴国は先の停戦合意を一方的に破棄し、ヤシマを不当に占領した。直ちにヤシマに侵攻した艦隊を撤退させるとともに、ヤシマ政府および国民に対し謝罪と損害の賠償を実施せよ。また、今回の不当行為の責任を明らかにし、全宇宙に二度と他国の主権を侵害しないと宣言せよ。アルビオン王国軍はヤシマからの全ゾンファ軍の引き上げを確認するまで、先の停戦合意を凍結し、貴国への懲罰を行う……」
その時、ハイフォン星系には約百隻の小艦隊が警戒に当たっていたが、三万隻もの大艦隊を前にジュンツェン星系に向けて撤退していくところだった。撤退する小艦隊から返信は一切無かった。
残された軍事拠点には多くの兵士たちが取り残されていた。ゾンファ艦隊が撤退すると、拠点から脱出用の大型艇などが次々と吐き出されていく。
そして、脱出が途切れた途端、拠点は巨大な火の玉に変わった。
機密情報を守るためにゾンファ軍が自爆させたのだ。
こうしてハイフォン星系はアルビオン側の支配星系となった。
今回、あっさりとハイフォン星系を奪えたのには理由がある。
そもそも星系の防御は非常に難しい。
ジャンプポイントに大量の機雷を敷設しても無力化することが可能であるため、大艦隊を常駐させるか、要塞衛星のような強力な軍事施設の建設が必要になる。
本来であれば、緩衝宙域を設け、その宙域に敵が侵入してきたところで支配星系の防備を固めることが理想的である。実際、アルビオン王国側は緩衝宙域としてターマガント星系を置き、更にその後方のアテナ星系に大型軍事衛星と常時二個艦隊を配備している。
ゾンファ共和国としてもターマガント星系を緩衝宙域とし、ハイフォン星系で敵の侵攻を食い止める戦略であったが、十年前の第三次ゾンファ-アルビオン戦争において、ハイフォン星系の要塞が破壊され、更にターマガント星系の支配権も奪われたことから、ハイフォン星系が緩衝宙域となっていたのだ。
ハイフォン星系に軍事拠点を建設することも可能だが、干渉宙域がない状態では敵に先手を取られるため、星系防衛という点では効率が悪く、ゾンファとしては新たな要塞の建設に踏み切っていなかったのだ。
六月十二日。
アルビオン艦隊は輸送艦と工作艦などの補助艦艇の一部をハイフォン星系に残し、敵地ジュンツェン星系に向けてジャンプした。
ジュンツェン進攻艦隊は総司令官であるキャメロット防衛艦隊司令長官グレン・サクストン大将の命令により、第三惑星ランスロットの軌道上から次々と加速していく。
商船並みの加速力しか持たない砲艦戦隊は補助艦艇と共に最初期に加速を開始した。
キャメロット星系からジュンツェン星系の間にはアテナ、ターマガント、ハイフォンの三つの星系がある。
アテナ星系は大型要塞と二個艦隊が常駐する拠点であり、アルビオンの完全な支配星系である。ターマガント星系は十年前からアルビオンが実効支配しており、四年前の謀略以降は百隻単位の高機動戦隊が哨戒を行い、制宙権を確立していた。
ここまではアルビオンの支配星系であり、ほぼ安全が確保されている。
しかし、ハイフォン星系は事情が異なる。
ハイフォンはゾンファの国防ラインであり、ターマガント星系側JPには濃密な機雷原と千隻単位の防衛艦隊が配備されていると推定される。また、小規模ながらも補給や整備が行える軍事拠点も存在していた。
サクストン総司令官はハイフォン星系に向かう超光速航行に入る前に、艦隊の速度を調整した。これはJP出口にある機雷に対するためだった。
機雷はステルス性と高い機動力を持つファントムミサイルやゾンファのユリンミサイルなどのステルスミサイルの発射装置であり、六等級艦、すなわち駆逐艦程度なら一発で轟沈できる威力を持っている。
しかし、ミサイルである限りは必ず加速する必要がある。そして、加速するには高機動のミサイルといえども比較的長い時間が必要だった。
最大加速度二十kGの最新型であっても、光速の二十パーセントに達するには約三百秒、五分という時間を要する。また、この加速時間で三十光秒の距離を移動する。
侵入してきた敵艦に対し、機雷が攻撃をかける場合、“敵艦の検知”、“ミサイルの発射”、“ミサイルの加速”という三つのプロセスを経る必要があった。
この時、敵艦が機雷に対して正の相対速度を持っていれば、ミサイルの加速は短時間で済むが、相対速度が負であった場合、加速時間は長くなる。
ステルスミサイルの性質上、加速時間が長ければ長いほど、加速度が大きければ大きいほど、漏出するエネルギーや重力場の乱れなどからステルス性は損なわれてしまう。
ステルス性が損なわれたミサイルは防衛用の対宙レーザー砲により容易に撃ち落すことができ、戦果を上げることは叶わない。
このため、艦隊が敵支配星系に進入する場合は、JP出口での相対速度が極力ゼロになるように調整し、FTLに移行する必要があった。
艦隊が減速して進入してくることが分かっていても機雷が敷設されるのは、少しでも敵に損害が与えられる可能性があるためだが、もうひとつ理由があった。それは敵の偵察を防ぐという理由だ。
超光速航行は超光速航行機関により超空間に突入し、光速を超えて移動するのだが、ジャンプポイントから出た直後はFTLを行えない。
これはすべての超光速航行船に共通する物理的な制限のためで、超空間を出た直後の船のFTLDは空間を歪ませた“応力”のようなものが残る。
この“応力”が残った状態で再度FTLDを起動すると、定められた航路が歪められ、全く別の場所や最悪の場合、超空間に閉じ込められることになる。
このため、再突入には最低一時間の調整期間が必要であった。
この一時間は超空間に逃げ込むことができない。つまり、機雷が敷設されているとその間、逃げ回るか、ミサイルを撃ち落し続ける必要があるのだ。
大艦隊であれば撃ち落すことは可能だが、偵察艦隊のような小規模な部隊では多数のミサイルを撃ち落し続けることは事実上不可能だ。また、加速力に優るミサイルから逃げ続けることもできない。
そのため、機雷は敵の偵察を防ぐ有効な手段と考えられ、どの国でも自国の最外郭星系には必ず設置されている。
ジュンツェン進攻艦隊のうち、六等級艦以上の戦闘艦が先行してハイフォン星系に進入した。そして、機雷を次々と破壊していく。
三時間後、補助艦艇が“掃宙”の終わった安全な宙域にジャンプアウトしてきた。そこにはクリフォードらの砲艦戦隊も含まれている。
ハイフォン星系に進入した際、サクストン総司令はゾンファ共和国政府宛てに最後通牒を突きつけた。
「貴国は先の停戦合意を一方的に破棄し、ヤシマを不当に占領した。直ちにヤシマに侵攻した艦隊を撤退させるとともに、ヤシマ政府および国民に対し謝罪と損害の賠償を実施せよ。また、今回の不当行為の責任を明らかにし、全宇宙に二度と他国の主権を侵害しないと宣言せよ。アルビオン王国軍はヤシマからの全ゾンファ軍の引き上げを確認するまで、先の停戦合意を凍結し、貴国への懲罰を行う……」
その時、ハイフォン星系には約百隻の小艦隊が警戒に当たっていたが、三万隻もの大艦隊を前にジュンツェン星系に向けて撤退していくところだった。撤退する小艦隊から返信は一切無かった。
残された軍事拠点には多くの兵士たちが取り残されていた。ゾンファ艦隊が撤退すると、拠点から脱出用の大型艇などが次々と吐き出されていく。
そして、脱出が途切れた途端、拠点は巨大な火の玉に変わった。
機密情報を守るためにゾンファ軍が自爆させたのだ。
こうしてハイフォン星系はアルビオン側の支配星系となった。
今回、あっさりとハイフォン星系を奪えたのには理由がある。
そもそも星系の防御は非常に難しい。
ジャンプポイントに大量の機雷を敷設しても無力化することが可能であるため、大艦隊を常駐させるか、要塞衛星のような強力な軍事施設の建設が必要になる。
本来であれば、緩衝宙域を設け、その宙域に敵が侵入してきたところで支配星系の防備を固めることが理想的である。実際、アルビオン王国側は緩衝宙域としてターマガント星系を置き、更にその後方のアテナ星系に大型軍事衛星と常時二個艦隊を配備している。
ゾンファ共和国としてもターマガント星系を緩衝宙域とし、ハイフォン星系で敵の侵攻を食い止める戦略であったが、十年前の第三次ゾンファ-アルビオン戦争において、ハイフォン星系の要塞が破壊され、更にターマガント星系の支配権も奪われたことから、ハイフォン星系が緩衝宙域となっていたのだ。
ハイフォン星系に軍事拠点を建設することも可能だが、干渉宙域がない状態では敵に先手を取られるため、星系防衛という点では効率が悪く、ゾンファとしては新たな要塞の建設に踏み切っていなかったのだ。
六月十二日。
アルビオン艦隊は輸送艦と工作艦などの補助艦艇の一部をハイフォン星系に残し、敵地ジュンツェン星系に向けてジャンプした。
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