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第二部:「重巡航艦サフォーク05:孤独の戦闘指揮所(CIC)」
第十二話
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宇宙暦四五一四年五月十五日 標準時間〇〇三五。
第二十一哨戒艦隊の旗艦サフォーク05の戦闘指揮所で惨劇が起きた。
情報士のスーザン・キンケイド少佐が艦長であるサロメ・モーガン艦長を殺害し、自らも命を絶ったのだ。
それだけではなく、CICは外から隔離状態にされ、艦内の通信も使えない状態に陥っていた。
哨戒艦隊の各艦に通信を入れようとしていた通信兵曹のジャクリーン・ウォルターズ三等兵曹が甲高い声で叫ぶ。
「中尉! 通信不能です! ファルマスとも、他の艦とも通信ができません!……どうしたら……」
その報告を予想していたクリフォードは取り乱すことはなかった。
「落ち着け!」とウォルターズ兵曹を一喝すると、「正確な報告を頼む。ウォルターズ兵曹」と落ち着いた声で命令した。
ウォルターズはプロである自分がパニックになったことを恥じ、「申し訳ありませんでした」と言った後、冷静な口調で報告を始めた。
「現在、すべての通信システムがダウンしています。艦内および艦外の音声、文字、信号を含むすべての情報媒体での通信が制限されております」
「共通要因故障対応系は?」
「CCF系は情報士の権限により、ロックされております……中尉」
彼の問いにウォルターズ兵曹は泣きそうな顔で答える。
クリフォードは小さく頷き、「了解した。解除の方法は?」と尋ねた。
「通常のシステムは訓練の終了で復旧するはずです。CCF系は情報士権限がないと復旧不能です……訓練の終了は指揮官と情報士の承認が必要になります」
クリフォードは「了解した」と言って、指揮官席に座った。
内部破壊者対応訓練とは、敵勢力に協力する乗組員がいるという想定の訓練である。
戦闘指揮所、緊急対策所、機関制御室、主兵装ブロック、格納デッキなどの重要施設が機械的に閉鎖される。また、CIC以外の制御装置が乗っ取られる危険を考慮し、CIC以外からの操作を受け付けないようになる。
CICで艦の運用を維持しながら、その間に内部破壊者を確保するというのが主な訓練内容である。
つまり、現状ではCICにいるクリフォード以下七名で、艦の運用を行わなければならない。
ちなみにCICが占拠された場合は、緊急対策所にあるメインシステムとは完全に独立している共通要因故障対応制御系を使用して対応する。
つまり、このCCF系により、第二戦闘指揮所であるERCから、艦の運用を行うことができる。なお、CCF系の使用には人工知能による戦闘指揮所機能喪失認定と、ERCでの士官個人認証による起動承認が必要であった。
通信系故障対応訓練では、通信系の故障及び工廠作業員の破壊活動を想定し、共通要因故障対応設備以外の情報通信がブロックされる。
本来ならERCにあるCCF系により代替の通信および制御が可能であるはずだが、今回は情報士のキンケイド少佐が事前にCCF系をブロックしていたため、当該設備での通信も不能となっていた。
つまり、現状ではCIC要員以外、システムへのアクセスが不可能であり、あらゆる操作がCICでしか行えず、更に他の乗組員との連絡すら取れない状況にある。
(少佐は何をしたかったんだ? サフォークが孤立しても何も変わらないが……今はそんなことを考えている時じゃない。どうやって、この状況を脱するかを考えるべきだ)
クリフォードは現状を理解するにつれ、キンケイド少佐が何をしたかったのか、余計に理解できなくなったが、現状を打破することに専念しようと気持ちを切り替える。
「ウォルターズ、通信系の復旧手段を考えてくれ。サドラー、RCRでの監視ができない。君が炉の監視と制御をやってくれ」
クリフォードはウォルターズ兵曹に通信系の復旧を命じ、機関士であるデーヴィット・サドラー三等機関兵曹に主機関の監視を命じた後、残りのCIC要員を見ていく。
彼の戦術士席の横に座る兵装制御員は、掌砲手のケリー・クロスビー一等兵曹。彼は三十代前半のがっしりとした体躯のベテラン掌砲手であり、この状況でも落ち着いているように見える。
CICの最前列にいるのは操舵員のデボラ・キャンベル二等兵曹。彼女は操舵員らしく、CIC内の状況にはあまり関心を示さず、艦の制御に集中している。そのため、その表情は見えないが、クリフォードが声を掛けるとやや上擦った声が返ってきたことから、不安を隠しきれていない。
情報士席の横に座る索敵員のジャック・レイヴァース上等兵は、クリフォードを除けば今いるCIC要員の中で一番若く、上司であるキンケイド少佐が起こしたこの事態に大きく動揺していた。
航法員のマチルダ・ティレット三等兵曹は、未だにこの状況が理解できないと首を振っている。荒事には向かない性格のようで、艦長とキンケイド少佐の遺体が近くにあることが気になっている。
通常、CIC要員には数えないが、この他に宙兵隊の隊員、ボブ・ガードナー伍長がいる。彼は屈強な肉体を持つ兵士で、どこからか取り出してきた緊急用の防火シートを艦長らの遺体に掛けていた。
(ここにいる八人で、事態が解決するまで艦の運用をしていかなければいけないのか。というより、士官は僕しかいない。指揮を執るのは僕しかいないんだ……)
クリフォードは指揮官席に座り、コンソールを操作し始める。
彼は当直長である艦長が死亡し、次席のキンケイド少佐も死亡したため、指揮を引き継ぐため、艦の人工知能を呼び出し、指揮権委譲手続きを行う。
(艦長とキンケイド少佐の死亡はAIも認識しているな。現在、システムにアクセスできる士官で最高位は僕ということも認識している。ならば、CICの指揮権を僕にあることを認識させれば……これでよし!)
クリフォードは指揮権委譲手続きを終えると、CICにいる当直員に話し始めた。
「みんな聞いてくれ。見ての通り、モーガン艦長とキンケイド少佐が亡くなられた。現在、システムにアクセス可能な士官は私だけになる。今、AIに私の指揮権を認証させた。システムが回復するまで、私クリフォード・コリングウッドが艦の指揮を執る」
彼の宣言に掌砲手のクロスビー兵曹が「了解しました、指揮官殿!」と敬礼しながら、野太い声で答える。
その後に続き、他のCIC要員たちも同じように声を出していく。
クリフォードはそれに頷き、各員に指示を出す。
「全員、それぞれの任務を継続。ウォルターズは通信系の復旧を最優先してくれ。レイヴァースはいつも以上に気合を入れて索敵を行ってくれ。この状況で敵が出てきたら目も当てられない……」
クリフォードの言葉にCIC要員たちに緊張が走る。皆、その可能性を考えていなかったからだが、もし、この状況下で敵と遭遇すれば、圧倒的に不利であると悟る。
(しまったな。今の言い方で変な緊張を与えてしまった)
クリフォードは少し言い方を間違えたと思い、少しおどけたような表情で航法員のティレット兵曹に話し掛ける。
「ティレット兵曹、航法は君に任せたから。僕がやると……この先は言わなくても分かるだろ?」
その言葉に最も緊張していたティレットの顔に笑みが浮かぶ。
「了解しました。お任せ下さい。サフォークを迷子にはさせません」
彼女の言葉にCICの緊張が僅かに緩む。クリフォードは自分の航法の下手さ加減を出汁に、彼らの緊張を解すことに成功した。
「クロスビー、サドラー、こっちにきてくれるか? 他の者は通常任務に戻ってくれ」
クロスビー一等兵曹とサドラー三等機関兵曹が何の用だろうと考えながら、指揮官席に向かう。
「現状について、意見を聞きたい」
クロスビーが頷き、話し始める。
「兵装については、CICからの制御は可能です。但し、戦闘中のような過負荷が掛かるような状況では訓練通りに使い続けられるか、保証は出来かねますが」
クリフォードは「了解した」と頷き、サドラーに視線を送る。
「パワープラントについても問題ありません。防御スクリーン及び質量-熱量変換装置についても攻撃を受けない限り、CICからでも制御は可能です」
クリフォードは小さく頷き、「戦闘中はCICからの制御は難しいということか?」と質問する。
「はい、中尉。防御スクリーン、MECが過負荷になる状況では、機関制御室での微調整が必要になります。CICでも対応できないことはないですが、安全率が著しく低下するとお考え下さい」
彼らの言葉を自分なりに整理していく。
(通常航行は問題なしと。戦闘が起こるとして、長期間は難しいが、一応可能か……まあ、敵が出てくるとしてだが……)
考えがまとまったところで二人に小さく頷き、
「了解した。副長が指揮を執れるようになるまで、私が指揮を執る。ベテランの二人にはサポートを頼みたい。何でもいい、意見があれば気にせず言ってくれ」
クリフォードは泰然としたクロスビー兵曹と、機関科のベテラン、サドラー兵曹と落ち着いて話している様子を見せることにより、他の若い下士官兵の動揺を抑えようと考えた。
(この二人は前の戦争で実戦を経験しているはずだ。だから、少々異常な事態になっても落ち着きを取り戻すのが早い。でも、他の下士官、確か操舵員のキャンベルが二十六歳で最年長だったはずだが、七年前の停戦時にはまだ十九歳だし、実戦経験はないはずだ。実際、動揺していた様子も見られたからな……)
彼の思惑通り、CIC要員たちは落ち着きを取り戻していた。
ウォルターズ通信兵曹より、徐々に現在の状況が明らかになっていく。
「……キンケイド少佐は通常の訓練承認プロセスより、上位の権限で申請を行ったようです。具体的には承認者が当該星系最上位士官、すなわち、星系防衛指揮官の権限となっているのです。更に当該星系最上級情報士官による起案となっております。つまり、ターマガント星系のすべての艦に向けて、訓練の命令が発信されています」
「つまり、サフォークだけでなく、哨戒艦隊のすべての艦と通報艦も、ここと同じような状況に陥っているということか」
「はい、中尉。訓練終了、または、通信機器停止の解除には、現時点での星系防衛指揮官の権限と最上級情報士官の権限が必要になります。防衛指揮官権限は、中尉がお持ちですが、情報士官権限は現在、空位の状態、すなわち、誰も権限を持っていない状態なのです」
「……この状況を正規の方法で終わらせる術がないということか」
クリフォードは現在の状況が非常に危険であると、背中に冷たいものが流れるのを感じた。
(現状では各艦のCICのみが機能している状況だ。何もなければ、各艦の指揮官の判断で動くことになる。だが、これが謀略なら……せめて、艦内、そして、艦隊内の連絡手段を確立しなければ……)
彼は対応方針について検討を始めた。
第二十一哨戒艦隊の旗艦サフォーク05の戦闘指揮所で惨劇が起きた。
情報士のスーザン・キンケイド少佐が艦長であるサロメ・モーガン艦長を殺害し、自らも命を絶ったのだ。
それだけではなく、CICは外から隔離状態にされ、艦内の通信も使えない状態に陥っていた。
哨戒艦隊の各艦に通信を入れようとしていた通信兵曹のジャクリーン・ウォルターズ三等兵曹が甲高い声で叫ぶ。
「中尉! 通信不能です! ファルマスとも、他の艦とも通信ができません!……どうしたら……」
その報告を予想していたクリフォードは取り乱すことはなかった。
「落ち着け!」とウォルターズ兵曹を一喝すると、「正確な報告を頼む。ウォルターズ兵曹」と落ち着いた声で命令した。
ウォルターズはプロである自分がパニックになったことを恥じ、「申し訳ありませんでした」と言った後、冷静な口調で報告を始めた。
「現在、すべての通信システムがダウンしています。艦内および艦外の音声、文字、信号を含むすべての情報媒体での通信が制限されております」
「共通要因故障対応系は?」
「CCF系は情報士の権限により、ロックされております……中尉」
彼の問いにウォルターズ兵曹は泣きそうな顔で答える。
クリフォードは小さく頷き、「了解した。解除の方法は?」と尋ねた。
「通常のシステムは訓練の終了で復旧するはずです。CCF系は情報士権限がないと復旧不能です……訓練の終了は指揮官と情報士の承認が必要になります」
クリフォードは「了解した」と言って、指揮官席に座った。
内部破壊者対応訓練とは、敵勢力に協力する乗組員がいるという想定の訓練である。
戦闘指揮所、緊急対策所、機関制御室、主兵装ブロック、格納デッキなどの重要施設が機械的に閉鎖される。また、CIC以外の制御装置が乗っ取られる危険を考慮し、CIC以外からの操作を受け付けないようになる。
CICで艦の運用を維持しながら、その間に内部破壊者を確保するというのが主な訓練内容である。
つまり、現状ではCICにいるクリフォード以下七名で、艦の運用を行わなければならない。
ちなみにCICが占拠された場合は、緊急対策所にあるメインシステムとは完全に独立している共通要因故障対応制御系を使用して対応する。
つまり、このCCF系により、第二戦闘指揮所であるERCから、艦の運用を行うことができる。なお、CCF系の使用には人工知能による戦闘指揮所機能喪失認定と、ERCでの士官個人認証による起動承認が必要であった。
通信系故障対応訓練では、通信系の故障及び工廠作業員の破壊活動を想定し、共通要因故障対応設備以外の情報通信がブロックされる。
本来ならERCにあるCCF系により代替の通信および制御が可能であるはずだが、今回は情報士のキンケイド少佐が事前にCCF系をブロックしていたため、当該設備での通信も不能となっていた。
つまり、現状ではCIC要員以外、システムへのアクセスが不可能であり、あらゆる操作がCICでしか行えず、更に他の乗組員との連絡すら取れない状況にある。
(少佐は何をしたかったんだ? サフォークが孤立しても何も変わらないが……今はそんなことを考えている時じゃない。どうやって、この状況を脱するかを考えるべきだ)
クリフォードは現状を理解するにつれ、キンケイド少佐が何をしたかったのか、余計に理解できなくなったが、現状を打破することに専念しようと気持ちを切り替える。
「ウォルターズ、通信系の復旧手段を考えてくれ。サドラー、RCRでの監視ができない。君が炉の監視と制御をやってくれ」
クリフォードはウォルターズ兵曹に通信系の復旧を命じ、機関士であるデーヴィット・サドラー三等機関兵曹に主機関の監視を命じた後、残りのCIC要員を見ていく。
彼の戦術士席の横に座る兵装制御員は、掌砲手のケリー・クロスビー一等兵曹。彼は三十代前半のがっしりとした体躯のベテラン掌砲手であり、この状況でも落ち着いているように見える。
CICの最前列にいるのは操舵員のデボラ・キャンベル二等兵曹。彼女は操舵員らしく、CIC内の状況にはあまり関心を示さず、艦の制御に集中している。そのため、その表情は見えないが、クリフォードが声を掛けるとやや上擦った声が返ってきたことから、不安を隠しきれていない。
情報士席の横に座る索敵員のジャック・レイヴァース上等兵は、クリフォードを除けば今いるCIC要員の中で一番若く、上司であるキンケイド少佐が起こしたこの事態に大きく動揺していた。
航法員のマチルダ・ティレット三等兵曹は、未だにこの状況が理解できないと首を振っている。荒事には向かない性格のようで、艦長とキンケイド少佐の遺体が近くにあることが気になっている。
通常、CIC要員には数えないが、この他に宙兵隊の隊員、ボブ・ガードナー伍長がいる。彼は屈強な肉体を持つ兵士で、どこからか取り出してきた緊急用の防火シートを艦長らの遺体に掛けていた。
(ここにいる八人で、事態が解決するまで艦の運用をしていかなければいけないのか。というより、士官は僕しかいない。指揮を執るのは僕しかいないんだ……)
クリフォードは指揮官席に座り、コンソールを操作し始める。
彼は当直長である艦長が死亡し、次席のキンケイド少佐も死亡したため、指揮を引き継ぐため、艦の人工知能を呼び出し、指揮権委譲手続きを行う。
(艦長とキンケイド少佐の死亡はAIも認識しているな。現在、システムにアクセスできる士官で最高位は僕ということも認識している。ならば、CICの指揮権を僕にあることを認識させれば……これでよし!)
クリフォードは指揮権委譲手続きを終えると、CICにいる当直員に話し始めた。
「みんな聞いてくれ。見ての通り、モーガン艦長とキンケイド少佐が亡くなられた。現在、システムにアクセス可能な士官は私だけになる。今、AIに私の指揮権を認証させた。システムが回復するまで、私クリフォード・コリングウッドが艦の指揮を執る」
彼の宣言に掌砲手のクロスビー兵曹が「了解しました、指揮官殿!」と敬礼しながら、野太い声で答える。
その後に続き、他のCIC要員たちも同じように声を出していく。
クリフォードはそれに頷き、各員に指示を出す。
「全員、それぞれの任務を継続。ウォルターズは通信系の復旧を最優先してくれ。レイヴァースはいつも以上に気合を入れて索敵を行ってくれ。この状況で敵が出てきたら目も当てられない……」
クリフォードの言葉にCIC要員たちに緊張が走る。皆、その可能性を考えていなかったからだが、もし、この状況下で敵と遭遇すれば、圧倒的に不利であると悟る。
(しまったな。今の言い方で変な緊張を与えてしまった)
クリフォードは少し言い方を間違えたと思い、少しおどけたような表情で航法員のティレット兵曹に話し掛ける。
「ティレット兵曹、航法は君に任せたから。僕がやると……この先は言わなくても分かるだろ?」
その言葉に最も緊張していたティレットの顔に笑みが浮かぶ。
「了解しました。お任せ下さい。サフォークを迷子にはさせません」
彼女の言葉にCICの緊張が僅かに緩む。クリフォードは自分の航法の下手さ加減を出汁に、彼らの緊張を解すことに成功した。
「クロスビー、サドラー、こっちにきてくれるか? 他の者は通常任務に戻ってくれ」
クロスビー一等兵曹とサドラー三等機関兵曹が何の用だろうと考えながら、指揮官席に向かう。
「現状について、意見を聞きたい」
クロスビーが頷き、話し始める。
「兵装については、CICからの制御は可能です。但し、戦闘中のような過負荷が掛かるような状況では訓練通りに使い続けられるか、保証は出来かねますが」
クリフォードは「了解した」と頷き、サドラーに視線を送る。
「パワープラントについても問題ありません。防御スクリーン及び質量-熱量変換装置についても攻撃を受けない限り、CICからでも制御は可能です」
クリフォードは小さく頷き、「戦闘中はCICからの制御は難しいということか?」と質問する。
「はい、中尉。防御スクリーン、MECが過負荷になる状況では、機関制御室での微調整が必要になります。CICでも対応できないことはないですが、安全率が著しく低下するとお考え下さい」
彼らの言葉を自分なりに整理していく。
(通常航行は問題なしと。戦闘が起こるとして、長期間は難しいが、一応可能か……まあ、敵が出てくるとしてだが……)
考えがまとまったところで二人に小さく頷き、
「了解した。副長が指揮を執れるようになるまで、私が指揮を執る。ベテランの二人にはサポートを頼みたい。何でもいい、意見があれば気にせず言ってくれ」
クリフォードは泰然としたクロスビー兵曹と、機関科のベテラン、サドラー兵曹と落ち着いて話している様子を見せることにより、他の若い下士官兵の動揺を抑えようと考えた。
(この二人は前の戦争で実戦を経験しているはずだ。だから、少々異常な事態になっても落ち着きを取り戻すのが早い。でも、他の下士官、確か操舵員のキャンベルが二十六歳で最年長だったはずだが、七年前の停戦時にはまだ十九歳だし、実戦経験はないはずだ。実際、動揺していた様子も見られたからな……)
彼の思惑通り、CIC要員たちは落ち着きを取り戻していた。
ウォルターズ通信兵曹より、徐々に現在の状況が明らかになっていく。
「……キンケイド少佐は通常の訓練承認プロセスより、上位の権限で申請を行ったようです。具体的には承認者が当該星系最上位士官、すなわち、星系防衛指揮官の権限となっているのです。更に当該星系最上級情報士官による起案となっております。つまり、ターマガント星系のすべての艦に向けて、訓練の命令が発信されています」
「つまり、サフォークだけでなく、哨戒艦隊のすべての艦と通報艦も、ここと同じような状況に陥っているということか」
「はい、中尉。訓練終了、または、通信機器停止の解除には、現時点での星系防衛指揮官の権限と最上級情報士官の権限が必要になります。防衛指揮官権限は、中尉がお持ちですが、情報士官権限は現在、空位の状態、すなわち、誰も権限を持っていない状態なのです」
「……この状況を正規の方法で終わらせる術がないということか」
クリフォードは現在の状況が非常に危険であると、背中に冷たいものが流れるのを感じた。
(現状では各艦のCICのみが機能している状況だ。何もなければ、各艦の指揮官の判断で動くことになる。だが、これが謀略なら……せめて、艦内、そして、艦隊内の連絡手段を確立しなければ……)
彼は対応方針について検討を始めた。
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