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第一部:「士官候補生コリングウッド」
第二十二話
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宇宙暦四五一二年十月二十三日 標準時間〇九時四〇分
アルビオン軍潜入部隊の本隊であるアルファ隊は、通商破壊艦P-331の鎮座するドックから脱出した。
使用したエアロックからベース内へ潜入するために使った点検通路までは、移動距離にして約100メートル。
パワープラント行き通路から撤退したナディア・ニコール中尉率いるブラボー隊は、既に点検通路横の保守エリアに到着している。
クリフォードは敵の銃撃を受け意識を失った指揮官ブランドン・デンゼル大尉に代わり、アルファ隊の指揮を執っていた。
デンゼル大尉はセシル・バトラー一等技術兵とジェニファー・キーオン二等技術兵に運ばせ、クリフォードは自ら先頭に立ち、通路を進んでいく。
ドックの外周にある通路から保守点検エリアに向かう通路への分岐点に到着した。その直後、ドックを迂回してきたベースの守備隊らしき敵に遭遇してしまう。
敵との距離は100メートルほどだが、ブラボー隊がいる保守エリアまではまだ50メートル以上あり、実用本位の通路には身を隠せる遮蔽物がない。
更に敵を牽制できるグレネードや爆薬も使い尽くし、武器はブラスターライフルしかなかった。このような状況で強引に通路を進めば、大きな被害が出ることは容易に予想できる。
彼はアルファ隊の指揮官として決断した。
「フォックス、アルファ隊全員を率いてブラボー隊に合流しろ。私がここで援護する。全力で進め!」
ガイ・フォックス三等兵曹が「しかし……」というが、クリフォードはその言葉を遮り、「時間が無い。命令だ!」と叫ぶ。
そして、フォックスの返答を聞くことなく、十字路の角から狙撃を開始した。
ブラスターライフルを撃ちながら、思い出したかのようにこう付け加えた。
「もう使わないようだから、ブラスターライフルを三丁ほど置いていってほしい」
敵に銃撃を加えながら、更に指示を出す。
「ニコール中尉にエアロック破壊とエリア一斉隔離信号の話をしておいてくれ」
「はい、上官」とフォックスは答え、短く敬礼した後、アルファ隊とともに銃弾の飛び交う通路に突入していった。
クリフォードは“候補生に上官”はいらないと思ったが、口に出す余裕はなく、十人ほどいる敵兵を釘づけにするため、狙撃から乱射に切り替えた。
(脱出に使う通路まで50メートル以上。エアロック破壊とシャッターの閉止にどのくらいの時間差があるんだろう? 船外活動防護服のパワーアシストを使っても十秒はかかる……後ろから撃たれれば……これは詰んだかな?)
彼は生き残る方策を考えるが、思いつかない。
使っていたブラスターライフルのエネルギーが切れる度に、置いてある予備のライフルを手に取り、フォックスたちの援護を切らさないようにしていた。
フォックスたちが逃げた方に目をやると、ちょうど全員が保守エリアに入るところだった。その直後、ブラボー隊のニコールから通信が入る。
「こちらブラボーリーダー、アルファツー聞こえる!」というニコール中尉の声が聞こえてきた。
「こちらアルファツー、聞こえています! 私に構わず逃げてください! ドック側のエアロックを早く破壊しないと爆薬を処理されるかもしれません! 早く!」
「いいから聞きなさい! 今から十秒間援護射撃を行います。そちらから見て右側を狙って射撃しますから、左側を全力で進みなさい! カウントダウン、五、四、……」
「中尉!」とクリフォードは叫び、更に“援護は不要”と続けようとした。しかし、すでに保守エリアから味方の兵士五名が現れ、援護射撃を開始している。
彼は中尉の命令に従うことを即断し、運を天に任せて通路に飛び出した。
その直後、ハードシェルの横を前後からブラスターの白い光の矢が飛び交い始める。
背後から飛んでくるビームが頭のすぐ横を通り過ぎていった。
彼は聞こえないはずの風切り音を聞き、髪の毛が燃える臭いを嗅いだような気がしていた。
半分ほど進んだところで彼の左肩に敵の放ったビームが突き刺さる。
衝撃と痛みにバランスを崩しかけた。
(クソッ! 諦めるにはまだ早い!)
彼はハードシェルのアシスト機能と自らの運動神経をフルに生かし、何とか転倒を堪え、更に通路を進む。
長い十秒間が過ぎ、ブラボー隊のいる保守エリアに近づいた。
その時には敵の攻撃は援護射撃を続けるブラボー隊にも加えられており、ハードシェルに何度かビームが掠めたが、何とか保守エリアに頭から突っ込むことができた。
彼はすぐに自分の状態を確認する。
(ハードシェルの空気漏えい率は……検出限界以下か。ジェットパックも異常なし。生命維持装置……すべて異常なしか。肩は痛いが、運が良かったな……)
命中したブラスターのビームはハードシェルの外殻を貫通せず、怪我は衝撃による軽い打撲のみで、ハードシェルの機能に異常はなかった。
「中尉、ありがとうございました」と礼を言うが、ニコール中尉は彼に構わず、全員に向かって命令する。
「撤退します。フォックス、エアロックの爆破を! 全員、敵の銃撃は無視して通路に飛び込みなさい!」
「はい、中尉」とフォックスが答え、すぐにカウントダウンを開始する。
彼のカウントダウンがゼロになったところで遠くから爆発音が響き、通路内に緊急閉鎖を知らせる自動放送が流れ始めた。
「ドック常用エアロック損傷! 与圧区域減圧中! エリア一斉隔離信号発信! 全与圧エリア非常用隔壁扉及び緊急用シャッター閉鎖! エリア一斉隔離信号発信……」
ベース内に人工知能の中性的な音声が響く。
アルビオン軍潜入部隊はすぐに保守エリアから飛び出し、点検用通路に次々と飛び込んでいく。
敵兵は予想外の事態に一瞬戸惑いを見せ、攻撃の手を緩めてしまう。しかし、通路に飛び出してきたクリフォードらを見つけると、再び激しい攻撃を加え始めた。
アルビオン軍潜入部隊の何人かに命中するが、損害状況を確認することなく、強引に奥に進んでいく。彼らの後ろでは緊急用シャッターがゆっくりと閉じ始め、それと共に敵の攻撃は徐々に弱まっていった。
「ミスター・ラングフォード、被害状況を確認して」と疲れ切った声でニコール中尉がサミュエル・ラングフォード候補生に命じる。
一分後、ラングフォードから、「負傷者十名、行動可能な人員は六名、ハードシェルはいずれも応急処置済みです。ですが、今の攻撃でリードが戦死しました」と答える。
「結局九名も戦死……分かったわ、すぐに外に出ましょう」と苦悩を一瞬だけ露わにしたが、すぐに次の行動を命じていた。
アルビオン軍潜入部隊の本隊であるアルファ隊は、通商破壊艦P-331の鎮座するドックから脱出した。
使用したエアロックからベース内へ潜入するために使った点検通路までは、移動距離にして約100メートル。
パワープラント行き通路から撤退したナディア・ニコール中尉率いるブラボー隊は、既に点検通路横の保守エリアに到着している。
クリフォードは敵の銃撃を受け意識を失った指揮官ブランドン・デンゼル大尉に代わり、アルファ隊の指揮を執っていた。
デンゼル大尉はセシル・バトラー一等技術兵とジェニファー・キーオン二等技術兵に運ばせ、クリフォードは自ら先頭に立ち、通路を進んでいく。
ドックの外周にある通路から保守点検エリアに向かう通路への分岐点に到着した。その直後、ドックを迂回してきたベースの守備隊らしき敵に遭遇してしまう。
敵との距離は100メートルほどだが、ブラボー隊がいる保守エリアまではまだ50メートル以上あり、実用本位の通路には身を隠せる遮蔽物がない。
更に敵を牽制できるグレネードや爆薬も使い尽くし、武器はブラスターライフルしかなかった。このような状況で強引に通路を進めば、大きな被害が出ることは容易に予想できる。
彼はアルファ隊の指揮官として決断した。
「フォックス、アルファ隊全員を率いてブラボー隊に合流しろ。私がここで援護する。全力で進め!」
ガイ・フォックス三等兵曹が「しかし……」というが、クリフォードはその言葉を遮り、「時間が無い。命令だ!」と叫ぶ。
そして、フォックスの返答を聞くことなく、十字路の角から狙撃を開始した。
ブラスターライフルを撃ちながら、思い出したかのようにこう付け加えた。
「もう使わないようだから、ブラスターライフルを三丁ほど置いていってほしい」
敵に銃撃を加えながら、更に指示を出す。
「ニコール中尉にエアロック破壊とエリア一斉隔離信号の話をしておいてくれ」
「はい、上官」とフォックスは答え、短く敬礼した後、アルファ隊とともに銃弾の飛び交う通路に突入していった。
クリフォードは“候補生に上官”はいらないと思ったが、口に出す余裕はなく、十人ほどいる敵兵を釘づけにするため、狙撃から乱射に切り替えた。
(脱出に使う通路まで50メートル以上。エアロック破壊とシャッターの閉止にどのくらいの時間差があるんだろう? 船外活動防護服のパワーアシストを使っても十秒はかかる……後ろから撃たれれば……これは詰んだかな?)
彼は生き残る方策を考えるが、思いつかない。
使っていたブラスターライフルのエネルギーが切れる度に、置いてある予備のライフルを手に取り、フォックスたちの援護を切らさないようにしていた。
フォックスたちが逃げた方に目をやると、ちょうど全員が保守エリアに入るところだった。その直後、ブラボー隊のニコールから通信が入る。
「こちらブラボーリーダー、アルファツー聞こえる!」というニコール中尉の声が聞こえてきた。
「こちらアルファツー、聞こえています! 私に構わず逃げてください! ドック側のエアロックを早く破壊しないと爆薬を処理されるかもしれません! 早く!」
「いいから聞きなさい! 今から十秒間援護射撃を行います。そちらから見て右側を狙って射撃しますから、左側を全力で進みなさい! カウントダウン、五、四、……」
「中尉!」とクリフォードは叫び、更に“援護は不要”と続けようとした。しかし、すでに保守エリアから味方の兵士五名が現れ、援護射撃を開始している。
彼は中尉の命令に従うことを即断し、運を天に任せて通路に飛び出した。
その直後、ハードシェルの横を前後からブラスターの白い光の矢が飛び交い始める。
背後から飛んでくるビームが頭のすぐ横を通り過ぎていった。
彼は聞こえないはずの風切り音を聞き、髪の毛が燃える臭いを嗅いだような気がしていた。
半分ほど進んだところで彼の左肩に敵の放ったビームが突き刺さる。
衝撃と痛みにバランスを崩しかけた。
(クソッ! 諦めるにはまだ早い!)
彼はハードシェルのアシスト機能と自らの運動神経をフルに生かし、何とか転倒を堪え、更に通路を進む。
長い十秒間が過ぎ、ブラボー隊のいる保守エリアに近づいた。
その時には敵の攻撃は援護射撃を続けるブラボー隊にも加えられており、ハードシェルに何度かビームが掠めたが、何とか保守エリアに頭から突っ込むことができた。
彼はすぐに自分の状態を確認する。
(ハードシェルの空気漏えい率は……検出限界以下か。ジェットパックも異常なし。生命維持装置……すべて異常なしか。肩は痛いが、運が良かったな……)
命中したブラスターのビームはハードシェルの外殻を貫通せず、怪我は衝撃による軽い打撲のみで、ハードシェルの機能に異常はなかった。
「中尉、ありがとうございました」と礼を言うが、ニコール中尉は彼に構わず、全員に向かって命令する。
「撤退します。フォックス、エアロックの爆破を! 全員、敵の銃撃は無視して通路に飛び込みなさい!」
「はい、中尉」とフォックスが答え、すぐにカウントダウンを開始する。
彼のカウントダウンがゼロになったところで遠くから爆発音が響き、通路内に緊急閉鎖を知らせる自動放送が流れ始めた。
「ドック常用エアロック損傷! 与圧区域減圧中! エリア一斉隔離信号発信! 全与圧エリア非常用隔壁扉及び緊急用シャッター閉鎖! エリア一斉隔離信号発信……」
ベース内に人工知能の中性的な音声が響く。
アルビオン軍潜入部隊はすぐに保守エリアから飛び出し、点検用通路に次々と飛び込んでいく。
敵兵は予想外の事態に一瞬戸惑いを見せ、攻撃の手を緩めてしまう。しかし、通路に飛び出してきたクリフォードらを見つけると、再び激しい攻撃を加え始めた。
アルビオン軍潜入部隊の何人かに命中するが、損害状況を確認することなく、強引に奥に進んでいく。彼らの後ろでは緊急用シャッターがゆっくりと閉じ始め、それと共に敵の攻撃は徐々に弱まっていった。
「ミスター・ラングフォード、被害状況を確認して」と疲れ切った声でニコール中尉がサミュエル・ラングフォード候補生に命じる。
一分後、ラングフォードから、「負傷者十名、行動可能な人員は六名、ハードシェルはいずれも応急処置済みです。ですが、今の攻撃でリードが戦死しました」と答える。
「結局九名も戦死……分かったわ、すぐに外に出ましょう」と苦悩を一瞬だけ露わにしたが、すぐに次の行動を命じていた。
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