16 / 386
第一部:「士官候補生コリングウッド」
第十四話
しおりを挟む
宇宙暦四五一二年十月二十三日 標準時間〇五三〇
アルビオン軍所属のスループ艦HMS-L2502034ブルーベル34号は、トリビューン星系の小惑星に向けての攻撃準備を開始した。
その小惑星は、アルビオン軍に“AZ-258877”と名付けられ、その色彩、形状からブルーベルの兵は“ローストピーナッツ”と呼んでいるが、内部にはスループ艦デイジー27号を破壊した通商破壊艦の支援拠点があった。
戦闘指揮所の指揮官席に座る艦長のエルマー・マイヤーズ少佐は攻撃開始三十分前に戦闘配置を命じ、訓示を行った。
「総員に告ぐ。本艦はこれより三十分後の〇六〇〇に敵拠点のある小惑星AZ-258877を攻撃する。敵のベース及び通商破壊艦に損害を与えることは恐らくできないだろう。だが、デンゼル大尉率いる別働隊の行動を容易にするため、この任務は欠かすことのできない非常に重要な任務である。祖国のため、命懸けで潜入する戦友のため、諸君らの力を見せて欲しい。以上」
そして、〇五四〇に第一種戦闘配置に移行する旨の艦内放送が流れると、艦内は一気に慌ただしくなった。
副長のアナベラ・グレシャム大尉は自らの城、緊急対策所から、次々と指示を出していく。
「最外殻ブロック閉鎖。閉鎖確認後、五十キロパスカルまで減圧……換気空調を非常循環系に切替え後、連絡ダンパ閉鎖……外殻冷却系、主兵装冷却系と分離……艦内各ブロック閉鎖確認……」
彼女の命令を掌帆長以下の緊急対策チームが実行、確認していく。
マニュアルに従い、すべてのチェック項目の確認が終わると、副長は戦闘指揮所に報告した。
「CIC、こちらERC。非常対策マニュアル・チェックすべて完了、緊急時制御盤スタンバイ完了」
マイヤーズはメインスクリーンに表示されるEMのチェック項目がすべて緑色に点灯したことを確認した上で、「CIC、了解」と短く答え、他の部署からの報告を待つ。
主兵装ブロックから、掌砲長のグロリア・グレン兵曹長の報告が上がる。
「CIC、こちらMAB。主砲各コイル電圧安定、カロネードへの円筒状弾薬容器装填完了、対宙レーザー各門スタンバイ完了……」
艦長が同じように了解と言った直後、機関長のデリック・トンプソン機関大尉の声がCICに響く。
「CIC、こちら機関制御室。機関出力調整準備完了。質量-熱量変換装置主兵装系接続完了……」
標準時間〇五時五〇分には、すべての準備が終わり、ブルーベル34号は“彼らの家”から“戦闘艦”に姿を変えた。
標準時間〇六〇〇。
AZ-258877との距離が五光秒に近づいた。
マイヤーズ艦長は低く、そしてゆっくりとした口調で「攻撃開始」というと、CICにいる戦術士のオルガ・ロートン大尉が、操舵長と掌砲長に命じた。
「ランダムパターンCスタート、主砲及びカロネード順次発射」
戦闘時には敵の攻撃を回避するため、ランダムに軌道を変更する。
人工頭脳によるランダムパターンに操舵長の手動操作が加わり、敵のAIによる予測を困難にする。
この場合、自艦の攻撃にも影響するため、パターンを決めておき、攻撃のタイミングとマニュアル操作のタイミングを合わせるようにすることが重要になる。
攻撃開始から十秒後、直線型加速器により加速された1テラワット(10億キロワット)の荷電粒子の塊が小惑星表面の珪素や鉄化合物を真っ白な閃光と共に蒸発させていく。
その数秒後、レールキャノンより発射された金属製の散弾が小惑星の表面に幾つもの白い靄を作っていく。
「クイン中尉、小惑星表面の解析を頼む。次の攻撃で敵のスクリーンを攻撃する予定だ。敵スクリーンの性能、範囲の解析も合わせて頼む」とマイヤーズはスクリーンを見ながら、情報士のフィラーナ・クイン中尉に命じた。
「了解しました、艦長。小惑星表面の解析及び敵ベース防御スクリーン能力の解析を実行します」
ブルーベルが小惑星に攻撃をかけた直後、敵が反撃してきた。
「後方よりユリン級ミサイルと思われる高速飛翔体、二十基接近中!」
ロートンのやや緊迫した声が響くと、CICに緊張が走る。
更に大尉の声が続く。
「……対宙レーザーによる迎撃開始……接近残数五基、四、三、二……一基……全数破壊。発射地点は前方の小惑星、三ヶ所より発射されたものと推定。艦長、指示願います」
彼女の冷静な声だけがCIC内に響き、CIC要員の息を吐く音が重なる。
ユリン級ミサイルは、ステルス性を持たせた全長30メートルほどの対艦ミサイルである。アルビオンのファントム級のコピー兵器ながら比較的近距離から超遠距離まで攻撃できる汎用性の高い対艦兵器であった。
加速性能が20kGと高機動の戦闘艦の三倍以上あるが、それでも〇・2光速に達するのに五分近く掛かるため、通常はある程度の相対速度を持った状態、すなわち艦同士が接近する状態で使われることが多い。
基地など固定された場所から発射する場合は遠距離攻撃を掛ける必要があるが、今回は近距離からの攻撃となり、発見されやすい最大加速での使用となったと考えられる。
マイヤーズは冷静に「攻撃の第二波は?」と確認する。
「第二波接近中」という回答がすぐに入った。
再び、CICに緊張が走り、ロートンの声が響いていく。
「高速飛翔体二十基接近中……対宙レーザーによる迎撃開始……二基が迎撃ラインを突破する可能性あり。十五秒後の被弾確率八十五パーセント。手動回避開始……」
大尉の感情を排した声が続くが、マイヤーズの緊迫した声がそれに被る。
「総員、対ショック体勢を取れ! 副長、被弾後は緊急時対応ガイドラインに従い処理を実行せよ。被弾まで五秒、三、二、一、……」
艦長のカウントダウンと共に艦内にガーンという衝撃が走り、赤みがかった非常用照明に切り替わると共に“ウォーン・ウォーン”という緊急アラームが鳴り響く。
艦内各所の下士官、兵たちは訓練では無いこの状況に一気に浮き足立つ。それには一切構わず、緊急時対策所からグレシャム大尉の被害報告が届く。
「F3R1ブロック減圧。内圧0キロパスカル。Fデッキ右舷線量計指示上昇……各気密扉二重閉鎖確認……人的被害……なし。隣接ブロック圧力変動なし……EPGオールグリーン」
「機関制御室、主兵装ブロック。被害状況を報告せよ」というマイヤーズの冷静な声に艦内は一気に落ち着きを取り戻す。そして、兵たちは訓練通りに対処し始めた。
「こちら、RCR。機関及び伝送系オールグリーン。PP出力安定中……」
「こちら、MAB。各兵装オールグリーン」
機関長と掌砲長の声が被りながら、CICに響いた。
マイヤーズはロートンに顔を向け、
「ロートン大尉、ミサイル発射地点へのカロネードによる攻撃は可能か?」と確認する。
「可能です」という回答がすぐに返ってきた。
マイヤーズはカロネードによる攻撃を命じた。
敵のミサイルは第二波で打ち止めだったのか、攻撃は止み、ミサイル発射台はすべてカロネードにより破壊された。
「当艦の損害は軽微。各員は直属の責任者の指示に従い、冷静に行動せよ。副長、F3R1ブロックは当面放棄する。掌帆長に隣接エリアの被害状況を再確認させ、詳細報告を頼む。ロートン大尉、敵ベースへの攻撃を継続せよ」
アラームが止み、艦長の平板な声が艦内を巡ると乗組員たちの顔に余裕が出てきた。
ミサイルは結局命中せず、ギリギリのところで迎撃できた。しかし、艦の近傍で爆発したため損傷した。
衝撃の割には艦の損傷は軽微だったのは、損害を受けた箇所がFデッキの格納庫付近であったことと相対速度が小さかったためだ。
ユリン級ミサイルの攻撃を受けた後、ブルーベル34号は敵ベースの正面側、恒星の反対側に回りこんだ。
予想通りベースの入口らしきものがあり、前面には強力な防御スクリーンが展開されている。
「ここまできても敵ベースからの攻撃はない。恐らく防御兵器の設置は先ほどのミサイルしか間に合わなかったのだろう」と艦長はロートンに囁くようにそう言った。
「はい、艦長。防御スクリーンは強力ですが、範囲は狭いようです。まだ、ベース自体が未完成なのではないでしょうか」と彼女も艦長の意見に頷く。
「クイン中尉、解析結果はまだ出ないか?」
「小惑星表面の結果はあと五分ほどお待ち下さい。防御スクリーンの能力については、機関長の予測より五パーセント程度低いようです。スクリーンのスペクトル解析ではゾンファ製の確率が九十八パーセント以上との結果が出ております」
その言葉を聞き、「やはりゾンファか……」と艦長は小さく呟いたあと、
「攻撃は予定通り、〇七〇〇まで周辺を含む全体を、それ以降は別働隊に被害が出ないようベースのドック出入口付近に集中させる」とCICの全員に命じた。
標準時間〇六二五。
マイヤーズは、クインから小惑星表面の解析が完了したとの報告を受け、その結果をアウル1に転送するよう命じた。
■■■
宇宙暦四五一二年十月二十三日 標準時間〇六〇〇
神戸丸という名で偽装していたゾンファ共和国の通商破壊艦“P-331”用の拠点である、通称“クーロンベース”の主制御室では、数人の男たちがいつもの当直のように寛いでいた。
突如、メインスクリーンに警報表示が現れ、警報メッセージが響く。
「小型戦闘艦より攻撃を受けつつあり。防御スクリーン外縁部を含む広範囲にエネルギー兵器及び質量兵器の反応あり。繰り返す……」
男たちは慌てて、損害状況を確認すると共に、当直責任者はクーロンベースの司令カオ・ルーリンに緊急連絡を入れる。
「こちらMCR! 現在、攻撃を受けつつあり! カオ司令、至急連絡願います……」
当直責任者の緊迫した声に「どうした! 状況を説明せよ!」と不機嫌そうな若い男の声が反応した。
当直責任者は逃げ出したと思っていたアルビオンのスループ艦らしき小型戦闘艦から攻撃を受けていることを報告する。
それに対し、カオ司令は、「小型のスループ如きに狼狽えるな! ユリンで沈めてしまえ!」と煩わしそうに命令する。
「了解しました。司令」と応えたあと、彼はMCRの攻撃担当にミサイル使用の指示を出した。
五分後、責任者から報告が上がる。
「全基発射。一基が命中若しくは至近弾となり敵に損傷を与えた模様」
「敵の損傷程度は?」という司令の問いに対し、
「艦体に破損箇所が見られるものの損傷は軽微な模様」と申し訳無さそうに報告する。
「チッ!」という舌打ちの後、
「すぐに上がる。敵の行動を監視すると共に、P-331のワン・リーに情報を流してやれ」と言って通信を切った。
連絡を受けたワン・リー艦長は、「了解した」と一言言った後、船内の部下たちに戦闘準備をさせる。
そして、彼は苦い顔をしながら、「ミサイルを使い切る奴があるか」と小さく司令を罵倒した後、敵に関する情報を集め始めた。
アルビオン軍所属のスループ艦HMS-L2502034ブルーベル34号は、トリビューン星系の小惑星に向けての攻撃準備を開始した。
その小惑星は、アルビオン軍に“AZ-258877”と名付けられ、その色彩、形状からブルーベルの兵は“ローストピーナッツ”と呼んでいるが、内部にはスループ艦デイジー27号を破壊した通商破壊艦の支援拠点があった。
戦闘指揮所の指揮官席に座る艦長のエルマー・マイヤーズ少佐は攻撃開始三十分前に戦闘配置を命じ、訓示を行った。
「総員に告ぐ。本艦はこれより三十分後の〇六〇〇に敵拠点のある小惑星AZ-258877を攻撃する。敵のベース及び通商破壊艦に損害を与えることは恐らくできないだろう。だが、デンゼル大尉率いる別働隊の行動を容易にするため、この任務は欠かすことのできない非常に重要な任務である。祖国のため、命懸けで潜入する戦友のため、諸君らの力を見せて欲しい。以上」
そして、〇五四〇に第一種戦闘配置に移行する旨の艦内放送が流れると、艦内は一気に慌ただしくなった。
副長のアナベラ・グレシャム大尉は自らの城、緊急対策所から、次々と指示を出していく。
「最外殻ブロック閉鎖。閉鎖確認後、五十キロパスカルまで減圧……換気空調を非常循環系に切替え後、連絡ダンパ閉鎖……外殻冷却系、主兵装冷却系と分離……艦内各ブロック閉鎖確認……」
彼女の命令を掌帆長以下の緊急対策チームが実行、確認していく。
マニュアルに従い、すべてのチェック項目の確認が終わると、副長は戦闘指揮所に報告した。
「CIC、こちらERC。非常対策マニュアル・チェックすべて完了、緊急時制御盤スタンバイ完了」
マイヤーズはメインスクリーンに表示されるEMのチェック項目がすべて緑色に点灯したことを確認した上で、「CIC、了解」と短く答え、他の部署からの報告を待つ。
主兵装ブロックから、掌砲長のグロリア・グレン兵曹長の報告が上がる。
「CIC、こちらMAB。主砲各コイル電圧安定、カロネードへの円筒状弾薬容器装填完了、対宙レーザー各門スタンバイ完了……」
艦長が同じように了解と言った直後、機関長のデリック・トンプソン機関大尉の声がCICに響く。
「CIC、こちら機関制御室。機関出力調整準備完了。質量-熱量変換装置主兵装系接続完了……」
標準時間〇五時五〇分には、すべての準備が終わり、ブルーベル34号は“彼らの家”から“戦闘艦”に姿を変えた。
標準時間〇六〇〇。
AZ-258877との距離が五光秒に近づいた。
マイヤーズ艦長は低く、そしてゆっくりとした口調で「攻撃開始」というと、CICにいる戦術士のオルガ・ロートン大尉が、操舵長と掌砲長に命じた。
「ランダムパターンCスタート、主砲及びカロネード順次発射」
戦闘時には敵の攻撃を回避するため、ランダムに軌道を変更する。
人工頭脳によるランダムパターンに操舵長の手動操作が加わり、敵のAIによる予測を困難にする。
この場合、自艦の攻撃にも影響するため、パターンを決めておき、攻撃のタイミングとマニュアル操作のタイミングを合わせるようにすることが重要になる。
攻撃開始から十秒後、直線型加速器により加速された1テラワット(10億キロワット)の荷電粒子の塊が小惑星表面の珪素や鉄化合物を真っ白な閃光と共に蒸発させていく。
その数秒後、レールキャノンより発射された金属製の散弾が小惑星の表面に幾つもの白い靄を作っていく。
「クイン中尉、小惑星表面の解析を頼む。次の攻撃で敵のスクリーンを攻撃する予定だ。敵スクリーンの性能、範囲の解析も合わせて頼む」とマイヤーズはスクリーンを見ながら、情報士のフィラーナ・クイン中尉に命じた。
「了解しました、艦長。小惑星表面の解析及び敵ベース防御スクリーン能力の解析を実行します」
ブルーベルが小惑星に攻撃をかけた直後、敵が反撃してきた。
「後方よりユリン級ミサイルと思われる高速飛翔体、二十基接近中!」
ロートンのやや緊迫した声が響くと、CICに緊張が走る。
更に大尉の声が続く。
「……対宙レーザーによる迎撃開始……接近残数五基、四、三、二……一基……全数破壊。発射地点は前方の小惑星、三ヶ所より発射されたものと推定。艦長、指示願います」
彼女の冷静な声だけがCIC内に響き、CIC要員の息を吐く音が重なる。
ユリン級ミサイルは、ステルス性を持たせた全長30メートルほどの対艦ミサイルである。アルビオンのファントム級のコピー兵器ながら比較的近距離から超遠距離まで攻撃できる汎用性の高い対艦兵器であった。
加速性能が20kGと高機動の戦闘艦の三倍以上あるが、それでも〇・2光速に達するのに五分近く掛かるため、通常はある程度の相対速度を持った状態、すなわち艦同士が接近する状態で使われることが多い。
基地など固定された場所から発射する場合は遠距離攻撃を掛ける必要があるが、今回は近距離からの攻撃となり、発見されやすい最大加速での使用となったと考えられる。
マイヤーズは冷静に「攻撃の第二波は?」と確認する。
「第二波接近中」という回答がすぐに入った。
再び、CICに緊張が走り、ロートンの声が響いていく。
「高速飛翔体二十基接近中……対宙レーザーによる迎撃開始……二基が迎撃ラインを突破する可能性あり。十五秒後の被弾確率八十五パーセント。手動回避開始……」
大尉の感情を排した声が続くが、マイヤーズの緊迫した声がそれに被る。
「総員、対ショック体勢を取れ! 副長、被弾後は緊急時対応ガイドラインに従い処理を実行せよ。被弾まで五秒、三、二、一、……」
艦長のカウントダウンと共に艦内にガーンという衝撃が走り、赤みがかった非常用照明に切り替わると共に“ウォーン・ウォーン”という緊急アラームが鳴り響く。
艦内各所の下士官、兵たちは訓練では無いこの状況に一気に浮き足立つ。それには一切構わず、緊急時対策所からグレシャム大尉の被害報告が届く。
「F3R1ブロック減圧。内圧0キロパスカル。Fデッキ右舷線量計指示上昇……各気密扉二重閉鎖確認……人的被害……なし。隣接ブロック圧力変動なし……EPGオールグリーン」
「機関制御室、主兵装ブロック。被害状況を報告せよ」というマイヤーズの冷静な声に艦内は一気に落ち着きを取り戻す。そして、兵たちは訓練通りに対処し始めた。
「こちら、RCR。機関及び伝送系オールグリーン。PP出力安定中……」
「こちら、MAB。各兵装オールグリーン」
機関長と掌砲長の声が被りながら、CICに響いた。
マイヤーズはロートンに顔を向け、
「ロートン大尉、ミサイル発射地点へのカロネードによる攻撃は可能か?」と確認する。
「可能です」という回答がすぐに返ってきた。
マイヤーズはカロネードによる攻撃を命じた。
敵のミサイルは第二波で打ち止めだったのか、攻撃は止み、ミサイル発射台はすべてカロネードにより破壊された。
「当艦の損害は軽微。各員は直属の責任者の指示に従い、冷静に行動せよ。副長、F3R1ブロックは当面放棄する。掌帆長に隣接エリアの被害状況を再確認させ、詳細報告を頼む。ロートン大尉、敵ベースへの攻撃を継続せよ」
アラームが止み、艦長の平板な声が艦内を巡ると乗組員たちの顔に余裕が出てきた。
ミサイルは結局命中せず、ギリギリのところで迎撃できた。しかし、艦の近傍で爆発したため損傷した。
衝撃の割には艦の損傷は軽微だったのは、損害を受けた箇所がFデッキの格納庫付近であったことと相対速度が小さかったためだ。
ユリン級ミサイルの攻撃を受けた後、ブルーベル34号は敵ベースの正面側、恒星の反対側に回りこんだ。
予想通りベースの入口らしきものがあり、前面には強力な防御スクリーンが展開されている。
「ここまできても敵ベースからの攻撃はない。恐らく防御兵器の設置は先ほどのミサイルしか間に合わなかったのだろう」と艦長はロートンに囁くようにそう言った。
「はい、艦長。防御スクリーンは強力ですが、範囲は狭いようです。まだ、ベース自体が未完成なのではないでしょうか」と彼女も艦長の意見に頷く。
「クイン中尉、解析結果はまだ出ないか?」
「小惑星表面の結果はあと五分ほどお待ち下さい。防御スクリーンの能力については、機関長の予測より五パーセント程度低いようです。スクリーンのスペクトル解析ではゾンファ製の確率が九十八パーセント以上との結果が出ております」
その言葉を聞き、「やはりゾンファか……」と艦長は小さく呟いたあと、
「攻撃は予定通り、〇七〇〇まで周辺を含む全体を、それ以降は別働隊に被害が出ないようベースのドック出入口付近に集中させる」とCICの全員に命じた。
標準時間〇六二五。
マイヤーズは、クインから小惑星表面の解析が完了したとの報告を受け、その結果をアウル1に転送するよう命じた。
■■■
宇宙暦四五一二年十月二十三日 標準時間〇六〇〇
神戸丸という名で偽装していたゾンファ共和国の通商破壊艦“P-331”用の拠点である、通称“クーロンベース”の主制御室では、数人の男たちがいつもの当直のように寛いでいた。
突如、メインスクリーンに警報表示が現れ、警報メッセージが響く。
「小型戦闘艦より攻撃を受けつつあり。防御スクリーン外縁部を含む広範囲にエネルギー兵器及び質量兵器の反応あり。繰り返す……」
男たちは慌てて、損害状況を確認すると共に、当直責任者はクーロンベースの司令カオ・ルーリンに緊急連絡を入れる。
「こちらMCR! 現在、攻撃を受けつつあり! カオ司令、至急連絡願います……」
当直責任者の緊迫した声に「どうした! 状況を説明せよ!」と不機嫌そうな若い男の声が反応した。
当直責任者は逃げ出したと思っていたアルビオンのスループ艦らしき小型戦闘艦から攻撃を受けていることを報告する。
それに対し、カオ司令は、「小型のスループ如きに狼狽えるな! ユリンで沈めてしまえ!」と煩わしそうに命令する。
「了解しました。司令」と応えたあと、彼はMCRの攻撃担当にミサイル使用の指示を出した。
五分後、責任者から報告が上がる。
「全基発射。一基が命中若しくは至近弾となり敵に損傷を与えた模様」
「敵の損傷程度は?」という司令の問いに対し、
「艦体に破損箇所が見られるものの損傷は軽微な模様」と申し訳無さそうに報告する。
「チッ!」という舌打ちの後、
「すぐに上がる。敵の行動を監視すると共に、P-331のワン・リーに情報を流してやれ」と言って通信を切った。
連絡を受けたワン・リー艦長は、「了解した」と一言言った後、船内の部下たちに戦闘準備をさせる。
そして、彼は苦い顔をしながら、「ミサイルを使い切る奴があるか」と小さく司令を罵倒した後、敵に関する情報を集め始めた。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
ベル・エポック
しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正でリメイク版です。保存もかねて載せました。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる