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第二章「王国侵攻編」
第四十三話「戦後処理」
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ラントは護衛たちと共に陥落されたテスジャーザの町の中を歩いていた。
水攻めによって道には土砂とゴミが溢れ、更に戦いによって破壊された住宅が多く見られ、町の中は酷い状態になっている。
(匂いもそうだけど、これじゃ人が住むことはできないな。瓦礫は時空魔法で何とかなるけど、こびりついた泥を落とすには人の手が必要だな……)
建物の瓦礫などについては時空魔法の使い手であるデーモンたちが回収し始めたため、地上部分は多少マシになったが、下水道を始め、地下部分は流れ込んだゴミと王国軍兵士たちが持ち込んだ物資が散乱し、どこから手を付けていいのか困惑するという報告を受けている。
(対王国戦に限って言えば、このまま放置しても問題ないんだけど、この町は王国の東部の交通の要になっているからな。今後使うつもりなら早めに復旧しておいた方がいい……)
テスジャーザは東部最大の都市であり、交通の要所でもあった。それでもグラント帝国にとっては必要な物とは言い難く、復旧の手間と天秤にかけていた。
また、約九千名の捕虜を得ているが、その多くが無傷で、労働力として使えないこともない。数が多いとはいえ、武器もなく戦力としては大したことはないが、数が多いだけに監視に割く帝国軍戦士の数は馬鹿にならない。
ラントは町の中の視察を終えると、捕虜たちの様子を見に行った。
捕虜は町の外に集められ、人化を解いた古龍族や巨人族が見下ろすように監視を行っている。
ほとんどの捕虜が龍や巨人に怯えており、特に東地区で戦った兵士は外聞を気にすることなく恐怖に震え、蹲って泣いていた。
(思惑通り恐怖を感じているな。若い義勇兵ばかりだから虚勢を張ることすらできないようだ。これなら使えるかもしれない……)
ラントは捕虜の様子を見て、テスジャーザの復旧作業に使うことにした。
その話を神龍王アルビンらにした。
「後で使うつもりなら水攻めなんてしなければよかったんじゃないか」とアルビンに呆れられる。
鬼神王ゴインや巨神王タレットもその言葉に思わず頷いていた。
ラントは少しばつの悪そうな表情を浮かべる。
「確かにそうなんだが、確実に全滅させるには一番だと思ったんだ」
「私は陛下の壮大な策に感銘いたしましたわ」
「その通り。魔法をこのように使うとは目から鱗であった」
天魔女王アギーと魔導王オードはラントの作戦に肯定的だった。
「捕虜はどうするんで? 進軍するにしてもここで作業するにしても邪魔ですぜ」とゴインが言った。
「それが問題なんだ。殺すのは忍びないし、かといって放置して逃げられ、ナイダハレルやサードリンに向かわれても困る。町の後片付けに使おうと思っているんだが、監視のために多くの戦士は割きたくない」
「ならば、町に閉じ込めて復興作業に当ててはどうだろうか」
オードがそう言って提案する。
「閉じ込めて作業に当てる? 具体的にはどうするんだ?」
「水攻めのお陰でこの町の出入口はすべて分かっている。四方の城門を封鎖し、下水の出口に見張りを置いた上で捕虜を町の中に閉じ込め、復興作業をさせてはと思ったのだ」
「なるほど。確かにいい案かもしれない」
ラントが賛意を示すが、タレットが疑問を呈した。
「都合よくいくだろうか?」
「どういう意味だ、巨神王」とオードが問う。
「人族の戦士が素直に言うことを聞くとは思えぬ。作業の方は期待せぬ方がよいのではないか」
「巨神王の言うことにも一理あるが、古龍族や巨人族を見て捕虜たちの心は折れている。ある程度脅しを掛ければ言うことを聞くと思う」
「では、捕虜全員を町に戻して閉じ込めるということでしょうか?」
アギーが確認する。
「そのつもりだが」とラントが答えると、アギーが提案を行った。
「完全に心が折れてしまっている者は解放してはいかがでしょうか? 彼らが王国軍に合流すれば、陛下の圧倒的な智謀を宣伝してくれますわ」
「それはいい!」とラントは手放しで喜ぶ。
「どういうことなんだ?」とゴインが首を傾げている。
それにアギーが得意げに答えていく。
「心が折れているのは駆逐兵団と戦った南地区の担当と轟雷兵団と戦った東地区の担当。つまり、我が軍の恐ろしさを、身をもって知っている者たちよ。それに陛下のお考えになった水攻めでも辛い目に合っているから、その体験を伝えてくれれば、相手の士気が下がるということ」
「なるほど。陛下のよくやる敵の士気を下げるっていう策か」
「そうよ。私は陛下ならどうお考えになるだろうって考えるようにしているの」
アギーは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「さすがは天魔女王だ。皆も彼女のようにいろいろと考え、提案してほしい」
結局、捕虜たちのうち、戦いに参加しなかった西地区と北地区の兵士をテスジャーザの町に閉じ込め、復旧作業に当たらせることにした。
その捕虜たちを前にラントは立った。
「諸君らには明日からこの町の復旧、特に地下部分の土砂の撤去をやってもらう」
ラントがそう言うと捕虜たちから不平の声が漏れる。しかし、エンシェントドラゴンや巨人たちが威嚇するとすぐにその声は消えた。
「期限は五日後の五月二十二日の日没だ。やりたくなければそれでも構わんが、期限までに完了しなければ、それ相応の罰を与えるから覚悟しておけ」
ラントの言葉に合わせるように龍たちが空に向かってブレスを放ち、巨人が足を踏み鳴らす。
捕虜たちは恐怖に震え、反抗する気概を失っていた。
その後、捕虜たちが逃げ出せないよう、各門は再び魔法で封鎖され、下水道の出口にも土属性魔法で作られた格子状の柵が取り付けられる。更に反乱の可能性を下げるため、武器や罠に使われる予定だった毒草なども回収している。
東地区と南地区にいた兵士たちは、別の場所に移動させていた。
「君たちはよく戦った! 我がグラント帝国では勇敢な戦士を辱めることはしない! よって君たちを解放し、王国軍に復帰することを認めよう!」
捕虜たちは半信半疑でその言葉を聞くが、すぐに食料や毛布などが配られ、ここから離れられると希望を持つ。
「解放はするが、街道を西以外に向かうことは許さん! もし、街道から離れた者がいれば、即座に攻撃する! 分かったか!」
ラントの言葉に捕虜たちは恐怖に震えながら頷くことしかできなかった。
捕虜たちは恐怖の対象である帝国軍から一刻も早く離れたいと、すぐに出発する。
その中にはヴァンパイアロードによって傀儡にされた者も含まれていた。
捕虜の扱いが決まったところで、今後の戦略について話し合われる。
「私としては戦死者の追悼式を行い、海沿いの町を攻略した上で、進軍を行いたいと考えている」
「なぜすぐに進軍しないのだ?」とアルビンが尋ねる。
「まずは解放した捕虜が次の町、カイラングロースに到着し、テスジャーザ陥落の情報を伝える時間が必要だ。これによって敵の士気は下がる。他にも海沿いの町を攻略することで、海上輸送による奇襲を防ぐことができる」
「だが、時間を与えることで今回の罠を考えた奴が新しい策を実行するのではないか?」
「その可能性はあるが、それについても策は考えている」
その言葉に全員がラントに強い視線を向ける。
「アデルフィなる者がナイダハレルで王国市民を虐殺したロセス神兵隊の指揮官だったという噂を流す。既にナイダハレルでの悪行についてはいろいろと噂を流しているから、ロセス神兵隊の関係者は肩身の狭い思いをしているはずだ。それを利用する」
「さすがは陛下ですわ! 情報によって敵の動きを封じる。まさに神の如き智謀でございます!」
アギーが恍惚とした表情で褒め称える。
「神の如きというのは言い過ぎだ。だが、相手が危険なら満足に動けなくすれば危険は少なくなる。まあ、窮鼠となって反撃してくるかもしれないから油断する気はないがな」
ラントは各地に潜ませた諜報員に更に噂をばらまくよう命じた。
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(対王国戦に限って言えば、このまま放置しても問題ないんだけど、この町は王国の東部の交通の要になっているからな。今後使うつもりなら早めに復旧しておいた方がいい……)
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ほとんどの捕虜が龍や巨人に怯えており、特に東地区で戦った兵士は外聞を気にすることなく恐怖に震え、蹲って泣いていた。
(思惑通り恐怖を感じているな。若い義勇兵ばかりだから虚勢を張ることすらできないようだ。これなら使えるかもしれない……)
ラントは捕虜の様子を見て、テスジャーザの復旧作業に使うことにした。
その話を神龍王アルビンらにした。
「後で使うつもりなら水攻めなんてしなければよかったんじゃないか」とアルビンに呆れられる。
鬼神王ゴインや巨神王タレットもその言葉に思わず頷いていた。
ラントは少しばつの悪そうな表情を浮かべる。
「確かにそうなんだが、確実に全滅させるには一番だと思ったんだ」
「私は陛下の壮大な策に感銘いたしましたわ」
「その通り。魔法をこのように使うとは目から鱗であった」
天魔女王アギーと魔導王オードはラントの作戦に肯定的だった。
「捕虜はどうするんで? 進軍するにしてもここで作業するにしても邪魔ですぜ」とゴインが言った。
「それが問題なんだ。殺すのは忍びないし、かといって放置して逃げられ、ナイダハレルやサードリンに向かわれても困る。町の後片付けに使おうと思っているんだが、監視のために多くの戦士は割きたくない」
「ならば、町に閉じ込めて復興作業に当ててはどうだろうか」
オードがそう言って提案する。
「閉じ込めて作業に当てる? 具体的にはどうするんだ?」
「水攻めのお陰でこの町の出入口はすべて分かっている。四方の城門を封鎖し、下水の出口に見張りを置いた上で捕虜を町の中に閉じ込め、復興作業をさせてはと思ったのだ」
「なるほど。確かにいい案かもしれない」
ラントが賛意を示すが、タレットが疑問を呈した。
「都合よくいくだろうか?」
「どういう意味だ、巨神王」とオードが問う。
「人族の戦士が素直に言うことを聞くとは思えぬ。作業の方は期待せぬ方がよいのではないか」
「巨神王の言うことにも一理あるが、古龍族や巨人族を見て捕虜たちの心は折れている。ある程度脅しを掛ければ言うことを聞くと思う」
「では、捕虜全員を町に戻して閉じ込めるということでしょうか?」
アギーが確認する。
「そのつもりだが」とラントが答えると、アギーが提案を行った。
「完全に心が折れてしまっている者は解放してはいかがでしょうか? 彼らが王国軍に合流すれば、陛下の圧倒的な智謀を宣伝してくれますわ」
「それはいい!」とラントは手放しで喜ぶ。
「どういうことなんだ?」とゴインが首を傾げている。
それにアギーが得意げに答えていく。
「心が折れているのは駆逐兵団と戦った南地区の担当と轟雷兵団と戦った東地区の担当。つまり、我が軍の恐ろしさを、身をもって知っている者たちよ。それに陛下のお考えになった水攻めでも辛い目に合っているから、その体験を伝えてくれれば、相手の士気が下がるということ」
「なるほど。陛下のよくやる敵の士気を下げるっていう策か」
「そうよ。私は陛下ならどうお考えになるだろうって考えるようにしているの」
アギーは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「さすがは天魔女王だ。皆も彼女のようにいろいろと考え、提案してほしい」
結局、捕虜たちのうち、戦いに参加しなかった西地区と北地区の兵士をテスジャーザの町に閉じ込め、復旧作業に当たらせることにした。
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ラントがそう言うと捕虜たちから不平の声が漏れる。しかし、エンシェントドラゴンや巨人たちが威嚇するとすぐにその声は消えた。
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東地区と南地区にいた兵士たちは、別の場所に移動させていた。
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アギーが恍惚とした表情で褒め称える。
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