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第二章「王国侵攻編」
第三十九話「ラントの覚悟」
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五月十六日の午後。
シーバスが今後の戦いに思いを巡らせている頃、ラントは駆逐兵団と轟雷兵団からもたらされる報告に言葉を失い立ち尽くしていた。
南門では鬼人族戦士二百五名、魔獣族戦士九十八名の計三百三名の戦死が確認され、負傷者の治療にあたろうとしたエンシェントエルフの治癒師二十一名も戦死している。
負傷者は三百名以上で、仲間たちによって町の外に運び出され、治療を受けていた。
東門では巨人族の戦死者十名、毒による負傷者が百名以上という結果が報告される。
死者こそ少ないが、これまでほとんど戦死者を出さなかった巨人族が倒されたことに、轟雷兵団の士気は大きく下がっていた。
(三百名以上が戦死……僕のせいだ……)
呆然と立ち尽くす彼の前には、人化した鬼神王ゴインと巨神王タレットが膝を突き、深く頭を下げている。
「今回のことは俺の失敗だ。陛下から罠に気を付けるように言われていたのに見抜けなかった。申し訳ねぇ。どんな罰でも受ける」
ゴインが声を震わせながら謝罪する。
「鬼神王殿と同じく、私も油断した。まさかあれほどの準備を行ってくるとは……いや、言い訳はせぬ。いかなる処分も受ける所存」
二人の謝罪の言葉をラントは聞き流していた。
(どこで間違えた? 偵察はしっかり行ったはず……いや、どこかに兆候は必ずあった。僕が見逃したんだ……)
情けなさと悔しさ、そして悲しさから涙が零れそうになるが、それを必死に堪える。そして、跪く二人に声を掛けた。
「今回のことはすべて私の責任だ。鬼神王も巨神王もよくやってくれた。あの混乱の中で被害を最小限にし、負傷者を連れ帰ってくれたことは感謝しかない。二人とも負傷したと聞いたが、治療はまだなのか?」
「怪我はかすり傷だ。陛下が気にするほどじゃねぇ」
ゴインは満身創痍の状態だが、最後に治療を受けると言って、治癒師の治療を拒否していた。
「既に解毒ポーションで完治しております」とタレットが冷静に報告する。
「そんなことより今回のことは陛下の責任じゃねぇ。俺たちの責任だ……」と肩を落としたゴインがもう一度言った。
しかし、ラントは首を横に振る。
「私の油断が招いたことだ……」
そこで我に返り、後ろに立つ側近のキースに確認する。
「負傷者の治療はどうなっている。治癒師も多く負傷したそうだが、治療は間に合っているのか?」
「ポーション類もふんだんに使っておりますので、これ以上戦死者が出ることはございません」
キースはラントが気にすると思い、自信をもって言い切った。
「そうか……助かる」とラントは安堵の表情を見せる。
「まだ敵が残っているが、いかがなされるおつもりか」
魔導王オードがいつも通りの平板な口調で確認する。
「少し待ってくれ。まだ頭が回らないんだ」
ラントはそう言って弱々しい笑みを浮かべる。彼自身、配下の者たちの忠誠心を維持するために強い魔帝を演じなければならないと分かっているが、言葉通り気持ちの整理がつかず、どうしていいのか考えがまとまらない。
「既に捕虜の尋問は開始しております。そろそろ情報が手に入る頃でしょう」
そう言って天魔女王アギーが話に加わる。
ラントが落ち込んでいることに気づいており、彼が行いそうなことを先回りして行うことで気を引こうとしたのだ。
「さすがは天魔女王だ。助かるよ」とラントは褒める。
「捕虜から情報が得られるまでは、負傷者の治療に専念してはどうでしょうか」
キースがそう提案すると、神龍王アルビンが賛同する。
「賛成だ。俺のミスで巨神王と轟雷兵団には迷惑を掛けた。少しでも早く、負傷者を回復させてやってくれ」
普段は傲慢な態度であることが多いアルビンが、タレットに小さく頭を下げている。アルビンが他の部族の負傷者を気遣ったことに多くの者が驚いていた。
「陛下の命令は届いていたが、うっぷんを晴らすためにあえて無視した。その結果があそこで苦しんでいる巨人族たちだ。陛下が悪いわけじゃない」
ラントはアルビンにまで気を使われるとは思っておらず、思わず目を見開く。
その後、ラントは負傷者の見舞いに行きたいと言ったのだが、キースが止める。
「今の陛下が見舞いに行っては逆効果です。心を落ち着かせてから皆に声を掛けてください」
普段ラントに対し強く意見を言わないキースが、有無を言わせない口調で言ってきたことに驚くが、ラントは「そうだな」と言って素直に従った。
「天幕の中で情報が集まるのを待ってはいかがでしょうか?」
エンシェントエルフのメイド、エレンが提案すると、ラントは素直に用意された天幕に入っていく。
天幕の中ではエンシェントドラゴンのローズが少し苛立った感じで立っている。
また、護衛であるハイオーガのラディや騎獣であるアークグリフォンのロバートたちは不安そうな表情でラントを見ていた。
「すまない」とラントはローズたちに謝罪する。
ローズはラントの前に立つと、顔を近づけて強い口調で言った。
「あんたが謝ることなんてないわ! 今回の戦いだって負けたわけじゃない。人族の兵士をほとんど返り討ちにしているのよ! もう少しシャキッとしなさいよ!」
「言いすぎだぞ!」とラディが血相を変えて駆け寄るが、「構わない」とラントが止める。
「三十分だけ一人にしてくれ。それで立ち直ってみせる」
彼の言葉にラディたちが出ていく。そして最後にローズが残り、ラントを抱き締めた。
「あんたが頑張っているのはみんなが知っているわ。それに死んだ人たちはあんたが悔やんでも喜ばない。でも、泣きたくなったら泣きなさい。私はそれでもあなたのことを軽蔑したりなんてしないから」
その声はそれまでのような棘はなく、優しいものだった。彼女はそれだけ言うと、天幕を出ていった。
ラントは地面に拳を打ち付け、嗚咽を漏らす。
三十分後、彼は赤く腫れた目をしているものの、笑みを張り付けられるくらいには復活した。
天幕にキースたちが入ってきた。その顔には僅かに困惑の表情が浮かび、どのように声を掛けていいのか迷っている。
「心配を掛けた。もう大丈夫だ」
力強い口調でそう言うと、すぐにこれからのことを話し始めた。
「尋問の結果次第だが、敵が何をしてきたのかが分かれば、すぐに対応する。その前にみんなの前で一度話をしておきたい。キース、エレン、準備を頼む」
キースとエレンが同時に頭を下げる。
駆逐兵団の負傷者たちは応急処置を終えた後、東門前に戻ってきており、エンシェントエルフやデーモンら魔術師によって重傷者の治療は終わっていた。
巨人族の負傷者たちは肺をやられた者が多く、治癒魔法だけでは厳しかったが、高価な上級ポーションをふんだんに使い、こちらも重症者の治療は終わっている。
ラントは彼らの前に立つと、エレンに拡声の魔法を掛けてもらい、演説を始めた。
「我が戦士たちよ!」と呼びかけ、少し間を置く。
戦士たちはラントの前で頭を下げる。
「此度の作戦の失敗はすべて私の責任である!」
その言葉に戦士たちがどよめき、「それは違います!」という声がそこかしこから上がる。
「私は魔帝である!」と大きく声を張り上げる。
その声に戦士たちのざわめきが消える。
「私は諸君らを率い、勝利すると約束した!」と言い、周囲を見回す。
多くの者が逃げ帰ったことに悔しそうな表情を浮かべていた。
「しかし、私は人族を見くびり、我が国の至宝である戦士を多く失った。先代までの魔帝とは違うと大言壮語したのにだ!」
その掃き捨てるような口調に、戦士たちは彼が何を言いたいのか分からず、困惑している。
「私はこの一戦で多くのことを学んだ! 人族を見くびってはならないこと、最後まで全力で考え抜くこと、そして、私自らが戦場に立つべきであるということを!」
最後の言葉にアギーが反対の声を上げようと顔を上げる。
ラントはそれを目で制すると、更に話を続けていく。
「先ほども言ったが、私は魔帝だ! 諸君らを率い、戦うべき魔帝なのだ! 今回の作戦において私は魔帝として戦ったのか。そのことを考えた……」
戦士たちはラントの次の言葉を静かに待っている。
「諸君らは我が命令に従い、命懸けで戦ってくれる。私はそのことを当然だと思うようになっていた! これは私の驕りだ! 命懸けで戦うべきは諸君らではなく、この私であるべきなのだ!」
そこで我慢できなくなったのか、アギーが声を上げる。
「ですが、御身に何かあれば、私たちは再び絶望に飲み込まれてしまいます!」
アギーの叫びに多くの者が賛同する。
「その通りだ!」
「陛下は我らの希望なんです!」
ラントはアギーに視線を向けると、それまでの厳しい口調から優しいものに変える。
「天魔女王の言いたいことは理解している。私の身を案じていることも。それに命を懸けて戦うといっても前線に立つつもりはないし、敵に身を晒すつもりもない……」
アギーは「では……」と表情を明るくするが、ラントはそれに構わず話を続けていく。
「私が言いたいのは心のありようなのだ」と言いながら、拳で胸を叩く。
「私は諸君らに任せておけば問題ないと安易に考えていた。実際、君たちにはそれだけの能力がある。しかし、それでは私は何のためにここにいるのだ?」
そして再び戦士たちを見回していく。
「今回の作戦の失敗で私は思い知らされた。尊い犠牲を払ってようやく気づいたのだ! 諸君らに甘えていたと……諸君らと共に戦っていなかったのだと!」
「そんなことはありません!」とアギーが叫び、ゴインも「俺たちと共に戦ってくれていたぞ!」と叫ぶ。
他の戦士たちも口々に同じような言葉を叫んでいた。
それをラントは手を上げることで鎮める。
「諸君らの気持ちは分かっている! だが、これは私の正直な思いなのだ! そして、今後二度とこのような思いをするつもりはない! 私は、第九代魔帝ラントは、ここに宣言する! 戦士と共に戦うことを! 常に戦場に立ち、諸君らと共にあることを!」
「「「オオオ!!」」」
その言葉に戦士たちの歓喜が爆発する。
「多くの同胞の命を奪った、この地の人族にはその報いを与える! そのことを諸君らの目でしっかりと見てほしい!」
ラントはそれだけ言うと、演説を終えた。
戦士たちはその後も歓声を上げ続け、その声はテスジャーザの地下にいる神聖ロセス王国の兵士たちにも聞こえていた。
シーバスが今後の戦いに思いを巡らせている頃、ラントは駆逐兵団と轟雷兵団からもたらされる報告に言葉を失い立ち尽くしていた。
南門では鬼人族戦士二百五名、魔獣族戦士九十八名の計三百三名の戦死が確認され、負傷者の治療にあたろうとしたエンシェントエルフの治癒師二十一名も戦死している。
負傷者は三百名以上で、仲間たちによって町の外に運び出され、治療を受けていた。
東門では巨人族の戦死者十名、毒による負傷者が百名以上という結果が報告される。
死者こそ少ないが、これまでほとんど戦死者を出さなかった巨人族が倒されたことに、轟雷兵団の士気は大きく下がっていた。
(三百名以上が戦死……僕のせいだ……)
呆然と立ち尽くす彼の前には、人化した鬼神王ゴインと巨神王タレットが膝を突き、深く頭を下げている。
「今回のことは俺の失敗だ。陛下から罠に気を付けるように言われていたのに見抜けなかった。申し訳ねぇ。どんな罰でも受ける」
ゴインが声を震わせながら謝罪する。
「鬼神王殿と同じく、私も油断した。まさかあれほどの準備を行ってくるとは……いや、言い訳はせぬ。いかなる処分も受ける所存」
二人の謝罪の言葉をラントは聞き流していた。
(どこで間違えた? 偵察はしっかり行ったはず……いや、どこかに兆候は必ずあった。僕が見逃したんだ……)
情けなさと悔しさ、そして悲しさから涙が零れそうになるが、それを必死に堪える。そして、跪く二人に声を掛けた。
「今回のことはすべて私の責任だ。鬼神王も巨神王もよくやってくれた。あの混乱の中で被害を最小限にし、負傷者を連れ帰ってくれたことは感謝しかない。二人とも負傷したと聞いたが、治療はまだなのか?」
「怪我はかすり傷だ。陛下が気にするほどじゃねぇ」
ゴインは満身創痍の状態だが、最後に治療を受けると言って、治癒師の治療を拒否していた。
「既に解毒ポーションで完治しております」とタレットが冷静に報告する。
「そんなことより今回のことは陛下の責任じゃねぇ。俺たちの責任だ……」と肩を落としたゴインがもう一度言った。
しかし、ラントは首を横に振る。
「私の油断が招いたことだ……」
そこで我に返り、後ろに立つ側近のキースに確認する。
「負傷者の治療はどうなっている。治癒師も多く負傷したそうだが、治療は間に合っているのか?」
「ポーション類もふんだんに使っておりますので、これ以上戦死者が出ることはございません」
キースはラントが気にすると思い、自信をもって言い切った。
「そうか……助かる」とラントは安堵の表情を見せる。
「まだ敵が残っているが、いかがなされるおつもりか」
魔導王オードがいつも通りの平板な口調で確認する。
「少し待ってくれ。まだ頭が回らないんだ」
ラントはそう言って弱々しい笑みを浮かべる。彼自身、配下の者たちの忠誠心を維持するために強い魔帝を演じなければならないと分かっているが、言葉通り気持ちの整理がつかず、どうしていいのか考えがまとまらない。
「既に捕虜の尋問は開始しております。そろそろ情報が手に入る頃でしょう」
そう言って天魔女王アギーが話に加わる。
ラントが落ち込んでいることに気づいており、彼が行いそうなことを先回りして行うことで気を引こうとしたのだ。
「さすがは天魔女王だ。助かるよ」とラントは褒める。
「捕虜から情報が得られるまでは、負傷者の治療に専念してはどうでしょうか」
キースがそう提案すると、神龍王アルビンが賛同する。
「賛成だ。俺のミスで巨神王と轟雷兵団には迷惑を掛けた。少しでも早く、負傷者を回復させてやってくれ」
普段は傲慢な態度であることが多いアルビンが、タレットに小さく頭を下げている。アルビンが他の部族の負傷者を気遣ったことに多くの者が驚いていた。
「陛下の命令は届いていたが、うっぷんを晴らすためにあえて無視した。その結果があそこで苦しんでいる巨人族たちだ。陛下が悪いわけじゃない」
ラントはアルビンにまで気を使われるとは思っておらず、思わず目を見開く。
その後、ラントは負傷者の見舞いに行きたいと言ったのだが、キースが止める。
「今の陛下が見舞いに行っては逆効果です。心を落ち着かせてから皆に声を掛けてください」
普段ラントに対し強く意見を言わないキースが、有無を言わせない口調で言ってきたことに驚くが、ラントは「そうだな」と言って素直に従った。
「天幕の中で情報が集まるのを待ってはいかがでしょうか?」
エンシェントエルフのメイド、エレンが提案すると、ラントは素直に用意された天幕に入っていく。
天幕の中ではエンシェントドラゴンのローズが少し苛立った感じで立っている。
また、護衛であるハイオーガのラディや騎獣であるアークグリフォンのロバートたちは不安そうな表情でラントを見ていた。
「すまない」とラントはローズたちに謝罪する。
ローズはラントの前に立つと、顔を近づけて強い口調で言った。
「あんたが謝ることなんてないわ! 今回の戦いだって負けたわけじゃない。人族の兵士をほとんど返り討ちにしているのよ! もう少しシャキッとしなさいよ!」
「言いすぎだぞ!」とラディが血相を変えて駆け寄るが、「構わない」とラントが止める。
「三十分だけ一人にしてくれ。それで立ち直ってみせる」
彼の言葉にラディたちが出ていく。そして最後にローズが残り、ラントを抱き締めた。
「あんたが頑張っているのはみんなが知っているわ。それに死んだ人たちはあんたが悔やんでも喜ばない。でも、泣きたくなったら泣きなさい。私はそれでもあなたのことを軽蔑したりなんてしないから」
その声はそれまでのような棘はなく、優しいものだった。彼女はそれだけ言うと、天幕を出ていった。
ラントは地面に拳を打ち付け、嗚咽を漏らす。
三十分後、彼は赤く腫れた目をしているものの、笑みを張り付けられるくらいには復活した。
天幕にキースたちが入ってきた。その顔には僅かに困惑の表情が浮かび、どのように声を掛けていいのか迷っている。
「心配を掛けた。もう大丈夫だ」
力強い口調でそう言うと、すぐにこれからのことを話し始めた。
「尋問の結果次第だが、敵が何をしてきたのかが分かれば、すぐに対応する。その前にみんなの前で一度話をしておきたい。キース、エレン、準備を頼む」
キースとエレンが同時に頭を下げる。
駆逐兵団の負傷者たちは応急処置を終えた後、東門前に戻ってきており、エンシェントエルフやデーモンら魔術師によって重傷者の治療は終わっていた。
巨人族の負傷者たちは肺をやられた者が多く、治癒魔法だけでは厳しかったが、高価な上級ポーションをふんだんに使い、こちらも重症者の治療は終わっている。
ラントは彼らの前に立つと、エレンに拡声の魔法を掛けてもらい、演説を始めた。
「我が戦士たちよ!」と呼びかけ、少し間を置く。
戦士たちはラントの前で頭を下げる。
「此度の作戦の失敗はすべて私の責任である!」
その言葉に戦士たちがどよめき、「それは違います!」という声がそこかしこから上がる。
「私は魔帝である!」と大きく声を張り上げる。
その声に戦士たちのざわめきが消える。
「私は諸君らを率い、勝利すると約束した!」と言い、周囲を見回す。
多くの者が逃げ帰ったことに悔しそうな表情を浮かべていた。
「しかし、私は人族を見くびり、我が国の至宝である戦士を多く失った。先代までの魔帝とは違うと大言壮語したのにだ!」
その掃き捨てるような口調に、戦士たちは彼が何を言いたいのか分からず、困惑している。
「私はこの一戦で多くのことを学んだ! 人族を見くびってはならないこと、最後まで全力で考え抜くこと、そして、私自らが戦場に立つべきであるということを!」
最後の言葉にアギーが反対の声を上げようと顔を上げる。
ラントはそれを目で制すると、更に話を続けていく。
「先ほども言ったが、私は魔帝だ! 諸君らを率い、戦うべき魔帝なのだ! 今回の作戦において私は魔帝として戦ったのか。そのことを考えた……」
戦士たちはラントの次の言葉を静かに待っている。
「諸君らは我が命令に従い、命懸けで戦ってくれる。私はそのことを当然だと思うようになっていた! これは私の驕りだ! 命懸けで戦うべきは諸君らではなく、この私であるべきなのだ!」
そこで我慢できなくなったのか、アギーが声を上げる。
「ですが、御身に何かあれば、私たちは再び絶望に飲み込まれてしまいます!」
アギーの叫びに多くの者が賛同する。
「その通りだ!」
「陛下は我らの希望なんです!」
ラントはアギーに視線を向けると、それまでの厳しい口調から優しいものに変える。
「天魔女王の言いたいことは理解している。私の身を案じていることも。それに命を懸けて戦うといっても前線に立つつもりはないし、敵に身を晒すつもりもない……」
アギーは「では……」と表情を明るくするが、ラントはそれに構わず話を続けていく。
「私が言いたいのは心のありようなのだ」と言いながら、拳で胸を叩く。
「私は諸君らに任せておけば問題ないと安易に考えていた。実際、君たちにはそれだけの能力がある。しかし、それでは私は何のためにここにいるのだ?」
そして再び戦士たちを見回していく。
「今回の作戦の失敗で私は思い知らされた。尊い犠牲を払ってようやく気づいたのだ! 諸君らに甘えていたと……諸君らと共に戦っていなかったのだと!」
「そんなことはありません!」とアギーが叫び、ゴインも「俺たちと共に戦ってくれていたぞ!」と叫ぶ。
他の戦士たちも口々に同じような言葉を叫んでいた。
それをラントは手を上げることで鎮める。
「諸君らの気持ちは分かっている! だが、これは私の正直な思いなのだ! そして、今後二度とこのような思いをするつもりはない! 私は、第九代魔帝ラントは、ここに宣言する! 戦士と共に戦うことを! 常に戦場に立ち、諸君らと共にあることを!」
「「「オオオ!!」」」
その言葉に戦士たちの歓喜が爆発する。
「多くの同胞の命を奪った、この地の人族にはその報いを与える! そのことを諸君らの目でしっかりと見てほしい!」
ラントはそれだけ言うと、演説を終えた。
戦士たちはその後も歓声を上げ続け、その声はテスジャーザの地下にいる神聖ロセス王国の兵士たちにも聞こえていた。
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