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第二章「王国侵攻編」
第六話「魔帝の翼」
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出陣を決定した会議の後、ラントは聖獣王ダランを呼び止めた。
「私の騎獣は決まったのだろうか?」
前回の戦いではアークグリフォンのロバートを臨時で騎獣としたが、“魔帝の翼”は名誉なことであり、正式に決める必要があった。
ラント自身、出陣は半年以上先だと考えており、特に急いでいなかったが、事態が急変したことで、早急に決める必要が出てきた。
「候補は三名に絞られております。陛下に決めていただくために数日ずつ乗っていただく予定でございました」
「確かに相性があるからな。だが、その時間がない。今からその候補に会うことは可能か?」
「帝都におりますので可能です。すぐに呼び出しましょう」
そう言うと、副官らしき若い男にダランは「ロバート、カティ、ピートに至急宮殿に来るよう伝えよ」と命じた。
宮殿の庭で待っていると、すぐに三体のグリフォンが現れた。
「あの翼の先端が赤いのはロバートだな」とラントが言うと、ダランは「その通りです」と頷き、他の二体についても説明する。
「小柄な方がカティ、大柄な方がピートです。カティは帝国一の飛翔速度と機動性を誇ります。ピートは体格通り耐久力が高く、空中戦では魔獣族でも一二を争う猛者です」
「スピードのカティに戦闘力のピート、それにバランス型のロバートか……選ぶのは難しいな……」
そこに後ろから声が上がる。
「私のことを忘れていないかしら?」
古龍族のローズが不機嫌そうに腕を組んでラントを見ていた。
「私のような弱い者に背中は託せないのではなかったか?」
ラントは少し意地悪い口調でそう言った。
「そ、そんなことはないわ! 確かにあんたは弱いけど、今までなかったくらいの大勝利を帝国にもたらしてくれた。だ、だから、私が騎龍になってあげてもいいわよ!」
最後の方は真っ赤な顔で叫ぶ。
ラントはその表情を微笑ましく思うが、エンシェントドラゴンは目立ちすぎるため、アークグリフォンから選ぶつもりでいた。
「それは光栄だな」とだけ言い、視線をグリフォンたちに向ける。
「ロバートはともかく、二人に乗ってみないと判断はできないな。今からでも乗ることはできるか?」
『『もちろんです』』と同時に念話で答えが返ってくる。
一瞬にして鞍や手綱が装備され、準備が整った。
「では、まずカティからだ」
『光栄でございます』
ラントは鞍によじ登りながらも、その念話に違和感を覚えた。
「女性なのか?」
『はい。ですが、ダラン様がおっしゃった通り、飛翔では誰にも負けません』
「そ、そうか……では、よろしく頼む」
『はっ! では出発します!』
そう言った瞬間、ロケットのような加速で飛び出していく。
ラントは思わず手綱を強く握り、その加速度に耐える。
(確かに速い。それに軽快だ……)
上空に舞い上がると、急旋回などを繰り返していく。ラントはその遠心力に耐えていた。
(まるで暴れ馬だな。緊急時にはいいかもしれないが、普段こんな飛び方をされたら目的地に着くだけで疲れてしまうな……)
十分ほど飛んだ後、庭に着陸する。
着陸するとカティは人の姿になった。グリフォンの時と同じように比較的小柄で引き締まっている印象を受ける。
「見事な飛行だった」とラントは労うと、ピートに乗る。
ピートはカティと対照的に悠然と舞い上がっていった。
(安定感があるな。戦闘になったらどんな動きなるんだろう……)
そのことを念話で告げると、ピートは「少々荒っぽくなりますのでご注意を」と告げ、いきなり急降下を始めた。
(うわぁぁ! いきなりかよ!)
ラントは悲鳴を上げそうになるが、何とか堪える。
地面すれすれで急上昇に転じ、更に宙返りなどを繰り返していく。
(ジェットコースターじゃないんだから勘弁してくれ……)
五分ほどで着陸するが、ラントは息も絶え絶えという感じで声が出ない。
「何をしておるのだ!」とダランが叱責する。
「申し訳ございません! 少しやりすぎました!」
ラントが何とか落ち着き顔を上げると、そこには逆立つ髪の屈強な戦士が不安そうな表情で立っていた。
「気にするな。私が頼んだことなんだから」
「し、しかし……」とピートは言いかけるが、ダランからの強い視線を受けて口を噤んだ。
ラントはダランに視線を向けた。
「相談なのだが、この三人を私の騎獣とすることはできないのだろうか?」
「三名共でございますか? 前例がございませんが、なぜなのでしょうか?」
「ロバートは私の意図をよく読み取ってくれるから安定している」
そう言うとロバートが誇らしげに胸を張る。
「カティは確かに素晴らしい速度だった。もし急ぎの用事がある時には非常に役に立つだろう」
「あ、ありがとうございます!」とカティは紅潮した顔で喜びを表す。
「ピートもあれだけの動きができるなら、乱戦の時には心強い」
「お、俺もいいんですか!」とピートは驚く。
その言葉にラントは頷くと、ロバート、カティ、ピートの三人の前に立つ。
「私以外も乗せることになるが、それでもよければだが」
「「「問題ございません!」」」と三人は口を揃えて答える。
ラントは「では頼むぞ」と三人に言い、ダランの方を向く。
「キース、エレン、ラディを乗せるグリフォンが必要だ」
「承りました。陛下のお傍にいられるなら喜んで志願するでしょう」
「では、その三人を含め、六人でチームを作ってもらう。私としてはロバートを隊長としたいが、何か問題はあるか?」
「ございません」とダランは即答する。
「では、明後日の出発に向けて準備を……」と言いかけたところで、「待ちなさいよ」とローズが口を挟んできた。
「私のことはどうなの! 無視しないでよ!」
真っ赤になって抗議してくる姿にラントはかわいいなと思いながら宥める。
「無視なんてしてないぞ。君には私の騎龍となってもらうつもりだからな」
意外な言葉にローズが「えっ? なんで?」と口籠る。
「エンシェントドラゴンは目立つ。特に君のコバルトブルーの鱗は遠目に見ても美しいからな……」
「う、美しい……」
ローズの顔が更に赤くなる。
「だから、戦意を高揚させるような時には君に頼むことになるだろう。だが、敵情を探るような時には目立ちすぎるから目的を果たせない。だから、君だけに乗るわけにはいかないんだ」
「わ、分かったわ! でも、私の背はあなただけのものだから、他の人は誰も乗せないから!」
「分かっているよ。古龍の仕来りだし、その点は考慮する」
ラントは心の中で苦笑いを浮かべながらも真面目な表情で伝えた。
「では、明後日の出発に向けて準備を頼む。サウスネヴィス城まではローズに乗る。その後、王国内を偵察するが、その際はカティとピートに交互に乗る。私に早く慣れてもらいたいからだ」
そこでロバートが少し不満げな表情をしていることにラントは気づいた。
「ロバート、いや愛称はロブだったな。これからロブと呼ぶがそれでもいいか?」
「も、もちろんです!」と一気に表情が明るくなる。
「カティたちに私が何を求めているかをきちんと理解させてくれ。何といっても君が私の最初の翼だったのだからな」
「御意!」
そして、後ろに控えるキースたちにも指示を出す。
「出発までに準備を整えておいてくれ。今回は長丁場になると思うからな」
三人はその場で大きく頷いた。
「ダラン、今言った通りだが、今回の遠征は時間が掛かる可能性が高い。帝都は君とエスクに任せることになるが、その打ち合わせを明日行う。私が不在の時の体制についてまとめておいてくれ」
「御意」
ラントはそれだけ言うと、執務室に戻っていった。
準備のためラントと別れたローズだが、その顔には無意識に笑みが浮かんでいた。
自宅に戻ると、そこにいた母親、シャーロットがその笑みに突っ込む。
「あら何かいいことでもあったのかしら?」
「と、特に何もないわ」とローズは答えるが、母親の目は誤魔化せなかった。
「ようやく陛下に認めていただけたのね。よかったじゃない」
「べ、別にそんなに嬉しいわけじゃないわ。仕方なくよ」
素直でない愛娘にシャーロットは苦笑するが、すぐに真剣な表情に変える。
「背を託す人を失うことはとても悲しいことよ。アルビンも私もそれを味わっているの。あなたも気を付けなさい」
「分かったわ」
母の気遣いにローズも素直に頷く。
「陛下には今のままの感じで接しなさい」
「な、何のことを……」とローズは真っ赤になる。
「あまり陛下とお話ししたことはないけど、時折窮屈そうな感じに見えたわ。でも、あなたと話している時だけは楽しそうに見えた。多分だけど、あなただけが陛下を一人の男性として見ているからだと思うの」
「……」
ローズは返す言葉が見つからず沈黙する。
「だから、今まで通りでいなさい。それがライバルたちに勝つ一番の方法だと思うわ」
「ら、ライバル……」と更に顔を赤める。
「分かっているのでしょ。だから頑張りなさい」と言ってシャーロットは笑いながら、その場から立ち去った。
残されたローズは呆然と立ち尽くしていた。
「私の騎獣は決まったのだろうか?」
前回の戦いではアークグリフォンのロバートを臨時で騎獣としたが、“魔帝の翼”は名誉なことであり、正式に決める必要があった。
ラント自身、出陣は半年以上先だと考えており、特に急いでいなかったが、事態が急変したことで、早急に決める必要が出てきた。
「候補は三名に絞られております。陛下に決めていただくために数日ずつ乗っていただく予定でございました」
「確かに相性があるからな。だが、その時間がない。今からその候補に会うことは可能か?」
「帝都におりますので可能です。すぐに呼び出しましょう」
そう言うと、副官らしき若い男にダランは「ロバート、カティ、ピートに至急宮殿に来るよう伝えよ」と命じた。
宮殿の庭で待っていると、すぐに三体のグリフォンが現れた。
「あの翼の先端が赤いのはロバートだな」とラントが言うと、ダランは「その通りです」と頷き、他の二体についても説明する。
「小柄な方がカティ、大柄な方がピートです。カティは帝国一の飛翔速度と機動性を誇ります。ピートは体格通り耐久力が高く、空中戦では魔獣族でも一二を争う猛者です」
「スピードのカティに戦闘力のピート、それにバランス型のロバートか……選ぶのは難しいな……」
そこに後ろから声が上がる。
「私のことを忘れていないかしら?」
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「私のような弱い者に背中は託せないのではなかったか?」
ラントは少し意地悪い口調でそう言った。
「そ、そんなことはないわ! 確かにあんたは弱いけど、今までなかったくらいの大勝利を帝国にもたらしてくれた。だ、だから、私が騎龍になってあげてもいいわよ!」
最後の方は真っ赤な顔で叫ぶ。
ラントはその表情を微笑ましく思うが、エンシェントドラゴンは目立ちすぎるため、アークグリフォンから選ぶつもりでいた。
「それは光栄だな」とだけ言い、視線をグリフォンたちに向ける。
「ロバートはともかく、二人に乗ってみないと判断はできないな。今からでも乗ることはできるか?」
『『もちろんです』』と同時に念話で答えが返ってくる。
一瞬にして鞍や手綱が装備され、準備が整った。
「では、まずカティからだ」
『光栄でございます』
ラントは鞍によじ登りながらも、その念話に違和感を覚えた。
「女性なのか?」
『はい。ですが、ダラン様がおっしゃった通り、飛翔では誰にも負けません』
「そ、そうか……では、よろしく頼む」
『はっ! では出発します!』
そう言った瞬間、ロケットのような加速で飛び出していく。
ラントは思わず手綱を強く握り、その加速度に耐える。
(確かに速い。それに軽快だ……)
上空に舞い上がると、急旋回などを繰り返していく。ラントはその遠心力に耐えていた。
(まるで暴れ馬だな。緊急時にはいいかもしれないが、普段こんな飛び方をされたら目的地に着くだけで疲れてしまうな……)
十分ほど飛んだ後、庭に着陸する。
着陸するとカティは人の姿になった。グリフォンの時と同じように比較的小柄で引き締まっている印象を受ける。
「見事な飛行だった」とラントは労うと、ピートに乗る。
ピートはカティと対照的に悠然と舞い上がっていった。
(安定感があるな。戦闘になったらどんな動きなるんだろう……)
そのことを念話で告げると、ピートは「少々荒っぽくなりますのでご注意を」と告げ、いきなり急降下を始めた。
(うわぁぁ! いきなりかよ!)
ラントは悲鳴を上げそうになるが、何とか堪える。
地面すれすれで急上昇に転じ、更に宙返りなどを繰り返していく。
(ジェットコースターじゃないんだから勘弁してくれ……)
五分ほどで着陸するが、ラントは息も絶え絶えという感じで声が出ない。
「何をしておるのだ!」とダランが叱責する。
「申し訳ございません! 少しやりすぎました!」
ラントが何とか落ち着き顔を上げると、そこには逆立つ髪の屈強な戦士が不安そうな表情で立っていた。
「気にするな。私が頼んだことなんだから」
「し、しかし……」とピートは言いかけるが、ダランからの強い視線を受けて口を噤んだ。
ラントはダランに視線を向けた。
「相談なのだが、この三人を私の騎獣とすることはできないのだろうか?」
「三名共でございますか? 前例がございませんが、なぜなのでしょうか?」
「ロバートは私の意図をよく読み取ってくれるから安定している」
そう言うとロバートが誇らしげに胸を張る。
「カティは確かに素晴らしい速度だった。もし急ぎの用事がある時には非常に役に立つだろう」
「あ、ありがとうございます!」とカティは紅潮した顔で喜びを表す。
「ピートもあれだけの動きができるなら、乱戦の時には心強い」
「お、俺もいいんですか!」とピートは驚く。
その言葉にラントは頷くと、ロバート、カティ、ピートの三人の前に立つ。
「私以外も乗せることになるが、それでもよければだが」
「「「問題ございません!」」」と三人は口を揃えて答える。
ラントは「では頼むぞ」と三人に言い、ダランの方を向く。
「キース、エレン、ラディを乗せるグリフォンが必要だ」
「承りました。陛下のお傍にいられるなら喜んで志願するでしょう」
「では、その三人を含め、六人でチームを作ってもらう。私としてはロバートを隊長としたいが、何か問題はあるか?」
「ございません」とダランは即答する。
「では、明後日の出発に向けて準備を……」と言いかけたところで、「待ちなさいよ」とローズが口を挟んできた。
「私のことはどうなの! 無視しないでよ!」
真っ赤になって抗議してくる姿にラントはかわいいなと思いながら宥める。
「無視なんてしてないぞ。君には私の騎龍となってもらうつもりだからな」
意外な言葉にローズが「えっ? なんで?」と口籠る。
「エンシェントドラゴンは目立つ。特に君のコバルトブルーの鱗は遠目に見ても美しいからな……」
「う、美しい……」
ローズの顔が更に赤くなる。
「だから、戦意を高揚させるような時には君に頼むことになるだろう。だが、敵情を探るような時には目立ちすぎるから目的を果たせない。だから、君だけに乗るわけにはいかないんだ」
「わ、分かったわ! でも、私の背はあなただけのものだから、他の人は誰も乗せないから!」
「分かっているよ。古龍の仕来りだし、その点は考慮する」
ラントは心の中で苦笑いを浮かべながらも真面目な表情で伝えた。
「では、明後日の出発に向けて準備を頼む。サウスネヴィス城まではローズに乗る。その後、王国内を偵察するが、その際はカティとピートに交互に乗る。私に早く慣れてもらいたいからだ」
そこでロバートが少し不満げな表情をしていることにラントは気づいた。
「ロバート、いや愛称はロブだったな。これからロブと呼ぶがそれでもいいか?」
「も、もちろんです!」と一気に表情が明るくなる。
「カティたちに私が何を求めているかをきちんと理解させてくれ。何といっても君が私の最初の翼だったのだからな」
「御意!」
そして、後ろに控えるキースたちにも指示を出す。
「出発までに準備を整えておいてくれ。今回は長丁場になると思うからな」
三人はその場で大きく頷いた。
「ダラン、今言った通りだが、今回の遠征は時間が掛かる可能性が高い。帝都は君とエスクに任せることになるが、その打ち合わせを明日行う。私が不在の時の体制についてまとめておいてくれ」
「御意」
ラントはそれだけ言うと、執務室に戻っていった。
準備のためラントと別れたローズだが、その顔には無意識に笑みが浮かんでいた。
自宅に戻ると、そこにいた母親、シャーロットがその笑みに突っ込む。
「あら何かいいことでもあったのかしら?」
「と、特に何もないわ」とローズは答えるが、母親の目は誤魔化せなかった。
「ようやく陛下に認めていただけたのね。よかったじゃない」
「べ、別にそんなに嬉しいわけじゃないわ。仕方なくよ」
素直でない愛娘にシャーロットは苦笑するが、すぐに真剣な表情に変える。
「背を託す人を失うことはとても悲しいことよ。アルビンも私もそれを味わっているの。あなたも気を付けなさい」
「分かったわ」
母の気遣いにローズも素直に頷く。
「陛下には今のままの感じで接しなさい」
「な、何のことを……」とローズは真っ赤になる。
「あまり陛下とお話ししたことはないけど、時折窮屈そうな感じに見えたわ。でも、あなたと話している時だけは楽しそうに見えた。多分だけど、あなただけが陛下を一人の男性として見ているからだと思うの」
「……」
ローズは返す言葉が見つからず沈黙する。
「だから、今まで通りでいなさい。それがライバルたちに勝つ一番の方法だと思うわ」
「ら、ライバル……」と更に顔を赤める。
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