10 / 134
第一章「帝国掌握編」
第十話「飛行」
しおりを挟むギャバナ国での華々しい成果を引っ提げてのリスターナへの凱旋帰国。
治安が守られ、食い物と経済が回ってきたおかげで、主都の中もずいぶんと活気が戻っている。
おかげで正門から城まで見物客にてごった返し、ちょっとしたお祭りパレード。
主役はもちろんリリアちゃん。
皮肉なことにダメな兄貴の悪名のおかげで、妹の彼女が当たり前のことをしただけで民衆は拍手喝采。いいことをしようものならば、狂喜乱舞の大フィーバー。
ましてや若い身空にて、今回の大国との交渉締結までまとめあげた功績によって、その人気は不動のものに。いまやトップアイドルへと成長。
彼女は着々と女王へと道を歩んでいる。そろそろグッズ販売に乗り出すべきか。いちおうブロマイドとポスターは用意してあるけれども。千部ずつでは足りなさそうだ。よし、追加発注をかけておこう。
なお、彼女の人気の裏でせっせと働いているわたしのことは公然の秘密。「なんか王さまに手を貸してるヘンな女がいるらしい」ぐらいの認識。
だから一般には顔をほとんど知られていないので、堂々と街中を闊歩できるというわけさ。
都民の視線がリリアちゃんの凱旋パレードへと向いているのを尻目に、わたしはルーシーとひさしぶりに街ブラ。
最初に来たときとは雲泥の活気だけれども、大通りの商店の開店率はようやく七割といったところか。一等地だというのに、まだまだ閉じてるところや空き店舗が目立つ。
商人たちは利に敏く、用心深い。いちど裏切ったリスターナをそうやすやすとは許してくれないから、こんなもんだろう。
ノットガルドには冒険者ギルドはないけれども商業ギルドっぽいものはあるらしいので、そのうち接触を試みるのも悪くない。当方が誇る「っぽいモノシリーズ」をちらつかせれば、きっとパクリと喰いついてくるにちがいあるまいて。
今後の展望なんぞを思案しながらトテトテ歩く。
路地裏に腹を空かせた子どもたちの姿はない。
じゃんじゃん収穫される小麦で、バンバン食い物をこしらえて、どんどん配布しまくっているからね。日持ちのするカチコチのパンだけでなく、白くふわふわのパン、あとパスタ類も好評だ。乾麺を優先して開発させたのは正解であった。インスタント麺もすでに試食段階に入っている。充分に国内にゆき渡ったら、今後は輸出にまわすとしよう。
くくく、我ながらおそろしい開発スピードである。他の追随を許さぬぶっちぎり。
ルーシー、えらい! 知識チート、万歳!
喰いっぱぐれていた連中もまとめて雇い入れ、畑の管理、収穫から保管、物流、製造、その他もろもろにて従事させ、とりあえず生活の基盤は確保したから、当面はだいじょうぶだろう。
もちっと国が安定して落ち着いたら、各々が好きな生き方を模索するといいよ。
人形を抱いた若い女が、あえて寂しい裏通りを選んでトボトボ歩く。
だが、ちょっかいをかけてくる不心得者はいない。
先の賊狩りの効果が十分に発揮されているようだ。
綱紀粛正のため、問答無用で殺処分にて、さらし首が効いたみたい。
聞くところによると、巷では子どもがイタズラをすると、お母さんが「そんな悪い子は、王さまに首をちょん切られても知らないから」と言うらしい。
するととたんに子どもは「ごめんなさーい」と本気泣きにてワビを入れてくるという、家庭内恐怖政治がまかり通っているのだとか。
裏では密かに「首狩り王」と呼ばれ、恐れられているらしいシルト・ル・リスターナ。
ごめんよ、美中年。
そんなつもりはなかったんだけど、世間一般にはモロモロすべてが王さま主導ってことになってるから、いい評判もわるい評判もぜんぶ彼のところに押し寄せる。当人は「これぐらいへっちゃらだよ。責任ある立場とはそういうものさ」とか大人の余裕だったけど、たぶん表に出てるのなんて氷山の一角。裏の裏で何を言われてることやら。
この分だと後世の歴史家とかに「中興の祖シルト王は、我が子に裏切られて変わられた。それまでの聡明さと果敢さに加えて、残酷さをも兼ね備えた恐ろしくも賢い王に」なんて、きっと書かれちゃうんだ。
やんごとなきご身分だと、ひとのウワサも七十五日の法則は当てはまらない。
リスターナの国が続くかぎり、いいや、それどころか滅んでも、たぶん他国経由にて長く語り継がれるんだから、たまったものじゃないね。
せいぜい悪名はシルト王に背負ってもらい、リリアちゃんにはいい評判だけを残すように注意しないと。
「それにしてもギャバナから帰ったばっかりのせいかもしれないけど、リスターナってまだまだだねえ」
「そうですね、リンネさま」
あちらの毎日お祭り騒ぎ状態を見てしまうと、こちらは完全に祭りの後にしか見えない。それも町内会レベルの。
環境さえ整えれば、あとは勝手に隆盛するものかと安易に考えていたけれども、街づくりのシュミレーションゲームのようにはいかないか。
国の運営や政治ってむずかしいね。独裁でもないかぎり、ちっとも物事がスムーズに運ばない。
内側の苦労をのぞき見してしまったら、もう、安易に「職務怠慢だ」「仕事しろ! 税金ドロボウ」「やめちまえ! くそバーコード」とかとても言えやしないよ。
そしてつくづく思うのは……。
「ダイクさんやゴードンさんもよくやってるけれども、やっぱり人不足が否めない」
「はい。騒動の折りに嫌気がさして優秀な人材ほど、早々に国に見切りをつけて出て行ってしまいましたから。残ってくれた人たちも主都より遠ざけられて散り散りにて、ほとんどが消息不明らしいですし。いずれ国がまともになったことを知れば、姿をあらわしてくれるかもしれませんが」
「でも、それだと時間がかかるよね? ならいっそのことコッチから探し出して、迎えに行くとか」
「狩りですか……、いいですね。各地の復興具合を見学がてら、ちょっと漁ってみますか。おもわぬ掘り出し物もあるかもしれませんし。ついでにあちこちに潜伏しているであろう膿も出し切ってしまいましょう」
「そうと決まればお城にいって王さまたちに相談だ」
善は急げと、城へと向かって歩き出したわたしたち。
次から国内行脚のぶらり旅編がはじまるよ。
こうご期待。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる