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「ひとなつの経験」

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 毎年お盆になると、僕は両親に連れられておばあちゃんちに帰省する。都会育ちの僕にはおばあちゃんちは宝島のようなワクワク感があった。
 従兄弟は僕とは5歳違いで、仲が良い僕らはいつも二人で林や神社に探検にでかけた。
「わあカブトムシがいっぱいいる!」
「前の晩に蜜をぬっておいたんだ。去年のなつは取れなかったからね」
「準備してくれてたの?」
「うん。甘い蜜の香りに惹かれてたくさんのカブトムシが寄ってくるんだよ」
「うちの近所じゃカブトムシはスーパーにしか売ってないんだ。だから沢山みれて凄い嬉しい!」

 その日の晩は神社の境内に盆踊りに出かけた。僕は屋台に夢中だったが、いつの間にか数人の男子に囲まれた。
「なあなあ、お前がこいつの甥っ子なんか?」
「こ、こんにちは」
 僕が挨拶をすると皆急にしゃべりだした。
「うわあ。声もいいけど可愛い顔してんなぁ」
「それになんか良い匂いがするぜ」
 きっとよそから来た僕がもの珍しかったんだろう。男子たちは間合いを詰めてきた。
「触るな! こいつは俺の……だ!」

「えっと。さっきは助けてくれてありがとう」
「やっぱり、甘い香りに誘われて寄ってくるんだな……」
「え? なあに?」
「知らない奴に声をかけられてもヘラヘラ笑ってるんじゃないぞ」
「僕ヘラヘラしてないよ」
「してた。」
「してない!」


「ケンカしてごめん。もうじき帰らなきゃいけないのに」
「そうだな。悪かった。ごめん。なあ、俺と離れるのが嫌か?」
「うん。一緒に居ると楽しいし、帰るときはいつも寂しくなるんだ」
「俺もだよ! 俺も一緒に居ると楽しいし離れたくないんだ」
「ふふ。ありがとう! 僕ら一緒の気持ちなんだね」
「ああ。なあ、おまじないをしてもいいか?」
「おまじない? わあ、なになに? していいよ!」
「ずっと一緒にいれるおまじないだよ」
 そう言って僕の首の後ろをぺろりと舐めた。
「うひゃ。なにこれ?」
「……マーキング」
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