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一章バディになるまで

9犯罪の被害者

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「父さん、助けに来ましたよ」
「……冬眠結界のブース解除に入る。邪魔が入らない様に監視しろ」
「わかった」
 解除係と見られる男が、魔法円を構築しようとしたときバリバリバリッと音と共に電撃をくらった。移転した瞬間に俺が攻撃を発動したからだ。あっという間に感電した男が足元に転がる。男から視線を外した先には。
「……隊長。なぜここに?」
 そこにはホークスがいた。
「よぉ。なんでお前こそ、ここにいるんだよ」
 ウォルフが睨みつける。喉からグルルルとうなり声が聞こえた。
「ホークス。俺を欺いてたのか?」
「っ! そ、それはっ。隊長の事は尊敬しておりますっ」
「ではなぜだ!」
「父さんを助けるためです!」
 ホークスが羽ばたこうとする隙をついてウォルフが羽を掴んだ。ボォッと炎が上がり羽の一部が焼け落ちてしまう。
「ぐぁあっ。離せっ。父さんを解放しなければっ」
「目を覚ませ! お前が開けようとしてるブースは熊族だぞ! 鷹族ではない」
「私は母が鷹族だったのです。だから母親似で……」
「馬鹿な! 俺が見たところ、お前は純血種だ。熊と鷹の間に産まれたとしたらそれは混血だ。熊の要因も引き継ぐはずがお前にはそれがない!」
「……な、なにバカなことを!私は父さんの子だ!」
「ホークス、てめえは恐らく卵の頃に誘拐されたんだ」
「……擦り込みなのか?」
 この世界は多種多様な種族が入り混じっている。そして各種族の習性を逆手に取るものも出てきた。
 特に鳥人族は孵化して最初に見たものを親と認識する。そのために卵のうちに誘拐されるケースが多い。なぜなら犯罪や奴隷まがいな扱いをしても擦り込み状態で親と認識させた相手を滅多なことでは裏切らないからだ。
「助けたい理由は父親だからか? ここにいるのは重刑の凶悪犯なんだぞ。開放すれば更に被害者が増える。お前のような子供が更に増えるんだぞ!」
「私のような子? まさかそんな。父さんは偉大な人で……怖くて。怖い……怖いんだ。叩かないでっ」
「ホークス、お前は誰よりも正義感が強かったはずだ」
「ぁ……隊長……。私は……何をしようとして」
 ホークスはその場で膝から崩れ落ちた。

◇◆◇

「未だに信じられない」
「きっと擦り込みの上に洗脳魔法をかけられてたからだよ。事情徴収の時にでもかけられたんだろうな。あいつは真面目だったから。ときどきおかしいとは感じてたんじゃねえのかなあ」
 あの朝、俺にウォルフがスパイだと言ってきたのも、フィンデルさんの露店に発火弾を投げ入れすぐに飛び去ったのも洗脳されていたかららしい。ホークス自身も犯罪の犠牲者だったのだ。
「羽燃やしちまったからしばらくは飛べねえし反省してると思うぜ」
「見かけによらず優しいんだな」
「羽燃やしたのに?」
「翼をもがなかっただろ? 羽は生えてくるじゃないか」
「へへ。バレてたか。ああいうの弱いんだよ。もしも弟や妹が生きてたら同じ目にあってたかもって思うとさ。ついね」
 そうだ。仮にも俺と一緒に居た時のホークスは弱者を守ろうとする警備隊の精神を持っていた。どんな生き方をしてきたのかはわからないが彼は変わろうとしていたのかもしれない。

「報告書を読んだ」
「……そうか」
「お前。最初から潜入操作でこちらに来たんだな」
「ああ。俺は内通者を探していたんだ」
「俺に近づいたのはホークスがいたからか?」
「そうだ。あのテーマパークにもホークスを追って行ったんだ。やつは出生時の報告書が偽造されていた。王国の上層部から疑われてたのさ」
「なるほどな。偶然にしては出来すぎてると思っていた」
「たびたび警備の極秘案件が容疑者達に筒抜けになっていたんだ。俺は各部署を回りながら秘密裏に調査を行っていた」

「俺も疑われてたんだろう?」
「……そうだ。エアはいつもそのサイバーサングラスを外さない。だから魔道具に洗脳されてるかもしれないと思われていた」
「で? お前の目から見て俺はどうだったんだ?」
「エアは清廉潔白だ。そのくせ純情で責任感が強い。エアがサングラスを外さないのは前のバディに対して未だに申し訳ないと感じてるらかだ」
「それは……っ……。頭の中では理解はしているんだ。だけどあの時、俺を庇わなければ先輩はまだ現役で活躍されていたかもしれないと、そう思うと悔しくって」
「過去は変えれない。そして忘れる必要もない。大事なのはその後の自分がどう生きるかだ。後ろばかり振り返ってたらフィンデルさんが喜ぶと思うか? あの人はこれからの未来をエアに託したんじゃねえのか?」
「……ウォルフ」
「確かにエルフは容姿端麗で見るものを惹きつける。だけど俺はエアの外見だけじゃなく中身に惚れたんだ。お前は気高く強い。雷撃の戦闘力も高い。だから次の隊長にも選ばれたんだろ? そろそろ自分を認めてやってもいいんじゃねえか?」
「自分を認める……?」
「そうだ。お前はよくやっている。慰めてるんじゃねえぞ。本心だ」
「……」

「情けない男の戯言を聞いてくれよ。俺はもうお前にぞっこんなんだ。気が強いくせに純情で正義感が強くて、そのうえ処女で童貞だなんて」
「う、うるさい! そんなこと言ってもう事件は解決したんだろ? ……お前も俺を置いていくのだろう?」
「……エア。こっちむいてくれ」
「いやだ! 近寄るな」
「ひどいなぁ。顔見せてくれ」
 ウォルフがそっと俺のサングラスを外す。
「ぁあ。まいったな。美しすぎて吸い込まれそうだ。虹色に輝く瞳が潤んで綺麗だ」
「なぜだ……感情が溢れて……お前のせいで情緒不安定になってしまう」
 普段ならクールに装えるのに。ウォルフの前では素顔をさらけ出してしまう。
「だったら、俺は責任をとらなくちゃな。」
 優しくウォルフが俺の腰を抱き寄せた。
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