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短編
スイカわり
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「暑いなあ。こんな日は海にでもいきたいなぁ」
なんとなくぽつりとつぶやいてみた。もちろん悪気はない。
「海? アキト海スキか?」
コバルトが覗き込んできた。いつからそこにいたんだろう。気づかなかった。
「わ! びっくりした。」
「海行くか? 行くか?」
今にも捕まれて攫われそうな雰囲気にたじろぐ。
「あー、いやぁ。皆で楽しく海で遊べたらいいなぁって。ほら、たまには休みが必要だろ?」
「皆で? 2人きりダメか?」
「え? そ、そうだな。多い方が、楽しいじやないか。えーっとスイカわりとかさ!」
コバルトが自分に好意を持ってくれてるのは知っている。ありがたいのだが、緊急事態でもないのに2人きりで出かけるとなると話しは別だ。伴侶であるクロードやエドガーに後でお仕置きをされるのは目に見えている。咄嗟にスイカわりなんて思い付きで言ってしまったが、そもそもこの世界にスイカはあるのか?
「スイカワリ? 」
「うん!スイカ……大きい果物を用意して、挑戦者に目隠しをさせて、その果物を周囲の声だけを頼りに探して叩いて割るんだ。誰が1番最初にわるか競いあったりするの」
「競いあう……タノシイ?」
「うん。楽しいよ! 多分」
今日は天気がよく、久しぶりにハーブ達の手入れをしようと花壇にきている。雑草を抜いてるうちに肥料を足したり、次に何を植えようかと夢中になって動きづめだった。そこでさっきの台詞が出てしまったのだ。
「そうか! 海か。よしっ、私にまかせておけ。なあに、私にできないことはないっ。皆でやろう!」
ホワイトがいつのまにか立っていた。いや、いたはずだ。その証拠にあーはっはっはと遠くで笑い声が聞こえる。すでに姿が見えないとなると何か行動を起こしているに違いない。
「……なに? なんかヤバいことなりそうかな?」
「アキトどうした? 顔色が悪いが疲れたんじやないのか?」
水汲みにいったクロードが戻ってきた。僕には伴侶が2人いる。そのうちのひとりがクロードだ。
「あー、うん。それがさ……」
すでにコバルトの姿もない。
ことの次第をクロードに説明しているとレッドが苦虫でも潰した顔で近づいてきた。
「はぁ。アキトお前、なんかあいつらに言ったのか?」
「えーっと、言ったような言わなかったような」
「なんだそれは??」
僕はあはは。と返すしかなかった。
案の定、アキトが思うよりも話しは大事になっていた。
ここドラゴン城はこの世界の警備の要とも言われている場所だ。故にここを空っぽにするわけにはいかない。それなのに。海で大会が開かれると噂になり我も我もと参加者が増えているらしい。
「なんだか凄いことになってるな? まぁたまにはこういうイベントも息抜きになっていいが」
僕のもう1人の伴侶のエドガーが言う。
「皆、海が好きなんだね」
「違うぞ。商品が出るそうなんだ。なんでも好きなモノをもらえるとか」
「はあ? それは……誰が用意するのかな? は、はは」
「そりゃあ、最初に提案したやつじゃねえのか? 誰なんだ?俺の許可なく言い始めたのは?」
エドガーはここの竜たちを取りまとめる竜騎士団の団長だ。ちなみにコバルトは青龍。ホワイトは白竜。レッドは赤竜。他に土竜のアーバンがいる。それぞれが隊長でその下には部下たちがいる。
「ごめん。多分僕かな」
「え?!アキトが?何を商品に出すんだ?」
「さあ?なんだろうね……はぁ」
エドガーの顔が引き攣る。
「嫌な予感しかしねえ」
「ホワイトさんに聞きに行こうかなぁ……」
ホワイトはナルシストだが仕事が良くできる。早くて手際が良い。
「アキト! よく来た! 思ったより参加者が膨れ上がってな、二日に分けようかと思ってたところだ。なあに心配することはない。近隣の島にしたからここから遠くもないし何かあればすぐに戻れる。果物もいいサイズのものをすでに用意した。どうだ!私にかかればあっという間だろう?」
ホワイトは美しいプラチナよりの白髪をかきあげる。美麗な鼻筋に整った顔だちは見惚れるほどだ。ふふんと胸を張って褒めて欲しそうなホワイトの様子に今更やめようとはいえなくなってしまった。
「そ、そうだね。スゴイデスネー」
僕は抑揚のない声で返事をした。
「はーはっはっは。そうだろう。いや、感謝するには及ばないぞ。当たり前の事をしただけだ。王宮の騒ぎの一件から皆働き詰めだったからな。私も何か皆んなで楽しめるイベントはないか検討していたのだ」
そうだったのか。じゃあ、今回のスイカわりはまさに良いタイミングだったというわけなのか。
「あ、あの、商品なんですが」
「ん? ああ、何にするのだ?」
「へ?」
「アキトが決めてくれるのであろう?」
えー?そう来ましたか?
「僕、資金がありませんっ!どうしたらいいですか?」
「あー、そう言うことか。ふむ。どうせならアキトにしかできないことにすればいいのではないか?」
「あー、なるほど!って? どんなことでしょう?」
「キス! キスがイイ!」
突然コバルトが現れた。僕の後をつけていた?まさかね。
「オレ、特訓スル!だからアキトとキスしたい!」
「えー?!」
「あぁ。そうか、コバルトはアキトが好きなのか……」
ホワイトが憐れむような顔になる。僕がこれ以上伴侶を取らないと決めているのをわかっているからだ。
「うん、オレ、アキトスキ!」
「……だそうだぞ。アキト。」
ホワイトが眉を下げて困ったようにこちらを見る。
うっそーん。僕に決めさす気なの?
「……オレとキスはイヤなのか? き……キライなのか?」
今にも泣きだしそうなコバルトにこればっかりは困り顔のホワイト。コバルトはがっしりした成熟した身体つきなのだが中身はまだ子供っぽいらしい。先代がなくなり急な代替わりで能力や肉体が先に成長し、中身がまだ追いついてないのだという。見かけはクールで表情が乏しいがそれも成長途中だからだろう。
「わ……わかった。コバルトの事は嫌いじゃないよ。以前空中散歩に連れて行ってくれた時は凄い楽しかったよ。あの時はありがとう」
出来るだけ言葉を選んで傷つけない様に返事をすると急に黙りこくってしまった。あれれ?怒ったのかな?いや、ホワイトがニマニマした顔をしてるから怒ってはない?よく見るとコバルトの耳が真っ赤だった。
「こんなに照れてるコバルトを見るのは初めてだ。ふふふ。いいものを見せてもらったぞ。アキトよ。わたしからも礼を言う。この子のわがままを聞いてくれてありがとう」
ううっ。そんな風に言われるともう後にひけない。僕知ってるんだ。若輩でも隊長として頑張ってるコバルトを他の竜たちが心配して見守ろうとしてるってこと。まあいいかキスぐらい……。
「お待ちくださいっ!」
話に割り込んできたのはクロードだった。強張った顔でこちらを睨んでいる。
「貴方たちはアキトの能力を知って言ってるんでしょうね?」
「……あっ……」
そうだ僕は魔女だ。魔女と交われば必然的に魔力や能力が向上する。
「キスひとつでもアキトの体液が混じればと良からぬ気持ちで襲ってくるものもいるはず」
「なんだそんなことか。簡単なことではないか。クロードお主が正々堂々と優勝すれば良いのではないか」
ホワイトが事も無げに言い切る。
「それは……」
「もちろん、試合前に周りには結界を張ろう。アキトの許可なく近づくものは金縛りにする。それで文句はあるまい?伴侶殿の言い分もわかる。私もその辺の考慮は忘れていた。すまない。故に参加者は抽選とする。まあ、実際行われるのは海辺での飲み会だ。騒ぎたいのだよ。スイカわりとやらは余興の一つだ。あまり思いつめるな」
ホワイトの判断はいつも素早いし正攻法だ。くるりと背を向けると忙しそうに去っていった。
「ま……負けないからなっ」
クロードに対抗心を燃やしたままコバルトも持ち場に戻って行った。
「クロ……ごめん」
「いえ。……その、私も嫉妬深くて申し訳ない」
「そっ!そんなことないよ。クロが怒るのは当然だよ」
「当日はエドと参加して絶対アキトの唇は死守します!」
「そ……そうだね」
当日は晴天だった。そしてなんとありましたスイカもどき。スイカそっくりな色違いな果物。何が違うって色が違う。緑とクロじゃない。青と黄色だったり。赤と青だったり、ちなみに中身の色は皮の色を掛け合わした色だ。皮が青と黄色だと中身の身は緑。赤と青の場合はむらさき。だけど不思議と味はスイカだった。
ホワイトの言う通り、メインは海辺のバーベキュー。スイカわりは余興イベントのはずでした。
しかし、選ばれたつわもの達の目つきは半端なかった。
「アキトさんのくちびる~」
「俺、あきらめずにいてよかった。ぜってえ頑張るっ」
「もちろん美人さんのくちびる狙いだけじゃねえ。魔力も強化してえ!」
僕は浜辺の木陰で椅子に座らせてもらっている。周りには結界があるので挑戦者たちは近づけないが、意思表明をしに僕の前に来てくれる。一応僕が主催者らしいのでにっこりと笑顔で見送る事にした。
「よし!右だぁ!違うっ。左っ左っ。そこだぁっはっはっは」
ナビゲーター役をかってでたのはレッドで、アルコールの量と共に指示がいい加減になっていく。
「……何故抽選でアンバーが選ばれているんだ?」
どこからともなく低い声が聞こえてきた。この声は確かホワイトさんのはず?
「面白そうだったからだ。それにホワイトが企画を手伝ったんだろ?なおの事参加したくなるじゃないか」
いつものようにニコニコと細い目をさらに細くしてアーバンはほほ笑む。土竜は巨漢だ。だがアーバンは気は優しく思いやりにあふれた男気がある土竜だ。伴侶のホワイトを大事にしている。
「そうだが……アーバンっ」
ホワイトがおもむろにアーバンの胸元を掴むと引き寄せ、濃厚な口づけを交わした。
「ひゅ~~っ」
レッドが口笛を吹く。あついね~と周りから野次が飛ぶ。
「なっ?……ど、どうした?……皆の前でこんな……」
アーバンが腰砕けになって目を白黒させていた。細身のホワイトがアーバンの身体を抱え込む。腕力はホワイトの方が上なのか?これではまるで……。
「アーバン。お前の可愛いくちびるを味わえるのはこのわたしだけだ。ナビゲーターとして応援するのならまだ許せるが参加するのは許せないっ。昨夜もさんざん可愛がってやったというのにまだ足らなかったのか?……そうか!おねだりか?おねだりだな?そうかなるほどっ。可愛い奴め!ちょうど準備と手配も終わった。後は皆が勝手にやるだろう。さあ!ベットへ運んでやろう!」
「まっ!待ってくれ!昨夜は激しかったじゃないか!おれはまだケツが……」
「それはすまなかった。今日は出来る限り優しく徹底的にほぐしてやるからな」
え?それって……ホワイトさんが攻め……??
「誰よりも愛している。わたしにはアーバン。君しか見えない」
麗しい微笑を浮かべてホワイトは巨漢のアーバンを横抱きにする。いわゆるお姫様抱っこだ。
「……ホワイト……皆が見てる」
アーバンは真っ赤になっていた。
「愛してると言ってくれないのか?」
「べ……ベットでなら」
「よし!行くぞっ。レッド、アキトっあとは頼んだぞ!」
ホワイトは白竜に姿を変えるとアンバーを抱えたまま飛び去って行った。
「そういえばホワイトさん。ワインを樽で抱えて飲んでいたな……」
ただの酔っ払いだったのかもしれない……。
スイカわり会場に視線を戻すとこちらもはちゃめちゃになってきていた。
ナビゲーター役のレッドは上機嫌で指示を飛ばすが、左と右が反対になっていたり適当な場所で叩けってさけんだりで挑戦者たちが脱落していく。一方、クロードとエドガーはペアになって互いに指示しあい、確実にスイカをわり続けている。コバルトも必死で割り続けていた。
結局優勝はクロードとエドガーが同点1位。3位がコバルトだった。
「おめでとう!」
僕は伴侶二人の元に駆け寄った。二人とも満面の笑みで僕に抱きついて代わる代わるにキスをした。
その横でコバルトが肩を落として立ちすくんでいる。
「……コバルト。皆を盛り上げてくれてありがとう」
僕はコバルトの頬にキスをした。途端にぱあっと満面の笑みが広がる。そうして笑ったコバルトの顔はあどけなさが残るようだった。
「アキト……」
すぐにいつもの無表情に戻るが耳が赤い。照れてるんだろうか?
「コバルト。帰りは僕とクロとエドを乗せてくれる?僕コバルトの背に乗りたいんだ」
「モチロン!アキト乗る。オレ嬉しいっ」
クロードが僕の肩を抱きに来た。コバルトと睨みあうが、嫉妬深いって事はそれだけ愛されてるってことだよね?単純にそのことが嬉しい。エドガーはレッドと話し込んでいる。
「お前らさあ、大人げないなあ。たまにはあいつに花もたせてやってくれよ~」
「何言ってんだよ。レッド。お前ほど酒が強い奴が酔うはずないだろ。コバルトのために酔ったふりしてるのはわかってたんだぜ」
そうなのだ。レッドはコバルトにだけは的確な指示をだしていた。僕もわかっていたがそれでもいいなと思っていたので黙っていたのだ。
仲間たちも海に飛び込んで騒いだりと久しぶりに楽しんだみたいだった。
「さあっそろそろ帰ろうぜ!」
エドガーが帰り支度を始めると一人また一人と手伝いにやってきた。皆、なんだかんだとエドガーを団長と認め始めてきているのだ。時間をかけて少しづつこうして仲間と共に時間を築き上げていけたらいい。
そうしてひと夏の思い出が出来上がった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アンダルシュ《うちの子》推し会!
「第二回 お題:スイカ割り」に参加させていただきました。
なんとなくぽつりとつぶやいてみた。もちろん悪気はない。
「海? アキト海スキか?」
コバルトが覗き込んできた。いつからそこにいたんだろう。気づかなかった。
「わ! びっくりした。」
「海行くか? 行くか?」
今にも捕まれて攫われそうな雰囲気にたじろぐ。
「あー、いやぁ。皆で楽しく海で遊べたらいいなぁって。ほら、たまには休みが必要だろ?」
「皆で? 2人きりダメか?」
「え? そ、そうだな。多い方が、楽しいじやないか。えーっとスイカわりとかさ!」
コバルトが自分に好意を持ってくれてるのは知っている。ありがたいのだが、緊急事態でもないのに2人きりで出かけるとなると話しは別だ。伴侶であるクロードやエドガーに後でお仕置きをされるのは目に見えている。咄嗟にスイカわりなんて思い付きで言ってしまったが、そもそもこの世界にスイカはあるのか?
「スイカワリ? 」
「うん!スイカ……大きい果物を用意して、挑戦者に目隠しをさせて、その果物を周囲の声だけを頼りに探して叩いて割るんだ。誰が1番最初にわるか競いあったりするの」
「競いあう……タノシイ?」
「うん。楽しいよ! 多分」
今日は天気がよく、久しぶりにハーブ達の手入れをしようと花壇にきている。雑草を抜いてるうちに肥料を足したり、次に何を植えようかと夢中になって動きづめだった。そこでさっきの台詞が出てしまったのだ。
「そうか! 海か。よしっ、私にまかせておけ。なあに、私にできないことはないっ。皆でやろう!」
ホワイトがいつのまにか立っていた。いや、いたはずだ。その証拠にあーはっはっはと遠くで笑い声が聞こえる。すでに姿が見えないとなると何か行動を起こしているに違いない。
「……なに? なんかヤバいことなりそうかな?」
「アキトどうした? 顔色が悪いが疲れたんじやないのか?」
水汲みにいったクロードが戻ってきた。僕には伴侶が2人いる。そのうちのひとりがクロードだ。
「あー、うん。それがさ……」
すでにコバルトの姿もない。
ことの次第をクロードに説明しているとレッドが苦虫でも潰した顔で近づいてきた。
「はぁ。アキトお前、なんかあいつらに言ったのか?」
「えーっと、言ったような言わなかったような」
「なんだそれは??」
僕はあはは。と返すしかなかった。
案の定、アキトが思うよりも話しは大事になっていた。
ここドラゴン城はこの世界の警備の要とも言われている場所だ。故にここを空っぽにするわけにはいかない。それなのに。海で大会が開かれると噂になり我も我もと参加者が増えているらしい。
「なんだか凄いことになってるな? まぁたまにはこういうイベントも息抜きになっていいが」
僕のもう1人の伴侶のエドガーが言う。
「皆、海が好きなんだね」
「違うぞ。商品が出るそうなんだ。なんでも好きなモノをもらえるとか」
「はあ? それは……誰が用意するのかな? は、はは」
「そりゃあ、最初に提案したやつじゃねえのか? 誰なんだ?俺の許可なく言い始めたのは?」
エドガーはここの竜たちを取りまとめる竜騎士団の団長だ。ちなみにコバルトは青龍。ホワイトは白竜。レッドは赤竜。他に土竜のアーバンがいる。それぞれが隊長でその下には部下たちがいる。
「ごめん。多分僕かな」
「え?!アキトが?何を商品に出すんだ?」
「さあ?なんだろうね……はぁ」
エドガーの顔が引き攣る。
「嫌な予感しかしねえ」
「ホワイトさんに聞きに行こうかなぁ……」
ホワイトはナルシストだが仕事が良くできる。早くて手際が良い。
「アキト! よく来た! 思ったより参加者が膨れ上がってな、二日に分けようかと思ってたところだ。なあに心配することはない。近隣の島にしたからここから遠くもないし何かあればすぐに戻れる。果物もいいサイズのものをすでに用意した。どうだ!私にかかればあっという間だろう?」
ホワイトは美しいプラチナよりの白髪をかきあげる。美麗な鼻筋に整った顔だちは見惚れるほどだ。ふふんと胸を張って褒めて欲しそうなホワイトの様子に今更やめようとはいえなくなってしまった。
「そ、そうだね。スゴイデスネー」
僕は抑揚のない声で返事をした。
「はーはっはっは。そうだろう。いや、感謝するには及ばないぞ。当たり前の事をしただけだ。王宮の騒ぎの一件から皆働き詰めだったからな。私も何か皆んなで楽しめるイベントはないか検討していたのだ」
そうだったのか。じゃあ、今回のスイカわりはまさに良いタイミングだったというわけなのか。
「あ、あの、商品なんですが」
「ん? ああ、何にするのだ?」
「へ?」
「アキトが決めてくれるのであろう?」
えー?そう来ましたか?
「僕、資金がありませんっ!どうしたらいいですか?」
「あー、そう言うことか。ふむ。どうせならアキトにしかできないことにすればいいのではないか?」
「あー、なるほど!って? どんなことでしょう?」
「キス! キスがイイ!」
突然コバルトが現れた。僕の後をつけていた?まさかね。
「オレ、特訓スル!だからアキトとキスしたい!」
「えー?!」
「あぁ。そうか、コバルトはアキトが好きなのか……」
ホワイトが憐れむような顔になる。僕がこれ以上伴侶を取らないと決めているのをわかっているからだ。
「うん、オレ、アキトスキ!」
「……だそうだぞ。アキト。」
ホワイトが眉を下げて困ったようにこちらを見る。
うっそーん。僕に決めさす気なの?
「……オレとキスはイヤなのか? き……キライなのか?」
今にも泣きだしそうなコバルトにこればっかりは困り顔のホワイト。コバルトはがっしりした成熟した身体つきなのだが中身はまだ子供っぽいらしい。先代がなくなり急な代替わりで能力や肉体が先に成長し、中身がまだ追いついてないのだという。見かけはクールで表情が乏しいがそれも成長途中だからだろう。
「わ……わかった。コバルトの事は嫌いじゃないよ。以前空中散歩に連れて行ってくれた時は凄い楽しかったよ。あの時はありがとう」
出来るだけ言葉を選んで傷つけない様に返事をすると急に黙りこくってしまった。あれれ?怒ったのかな?いや、ホワイトがニマニマした顔をしてるから怒ってはない?よく見るとコバルトの耳が真っ赤だった。
「こんなに照れてるコバルトを見るのは初めてだ。ふふふ。いいものを見せてもらったぞ。アキトよ。わたしからも礼を言う。この子のわがままを聞いてくれてありがとう」
ううっ。そんな風に言われるともう後にひけない。僕知ってるんだ。若輩でも隊長として頑張ってるコバルトを他の竜たちが心配して見守ろうとしてるってこと。まあいいかキスぐらい……。
「お待ちくださいっ!」
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「貴方たちはアキトの能力を知って言ってるんでしょうね?」
「……あっ……」
そうだ僕は魔女だ。魔女と交われば必然的に魔力や能力が向上する。
「キスひとつでもアキトの体液が混じればと良からぬ気持ちで襲ってくるものもいるはず」
「なんだそんなことか。簡単なことではないか。クロードお主が正々堂々と優勝すれば良いのではないか」
ホワイトが事も無げに言い切る。
「それは……」
「もちろん、試合前に周りには結界を張ろう。アキトの許可なく近づくものは金縛りにする。それで文句はあるまい?伴侶殿の言い分もわかる。私もその辺の考慮は忘れていた。すまない。故に参加者は抽選とする。まあ、実際行われるのは海辺での飲み会だ。騒ぎたいのだよ。スイカわりとやらは余興の一つだ。あまり思いつめるな」
ホワイトの判断はいつも素早いし正攻法だ。くるりと背を向けると忙しそうに去っていった。
「ま……負けないからなっ」
クロードに対抗心を燃やしたままコバルトも持ち場に戻って行った。
「クロ……ごめん」
「いえ。……その、私も嫉妬深くて申し訳ない」
「そっ!そんなことないよ。クロが怒るのは当然だよ」
「当日はエドと参加して絶対アキトの唇は死守します!」
「そ……そうだね」
当日は晴天だった。そしてなんとありましたスイカもどき。スイカそっくりな色違いな果物。何が違うって色が違う。緑とクロじゃない。青と黄色だったり。赤と青だったり、ちなみに中身の色は皮の色を掛け合わした色だ。皮が青と黄色だと中身の身は緑。赤と青の場合はむらさき。だけど不思議と味はスイカだった。
ホワイトの言う通り、メインは海辺のバーベキュー。スイカわりは余興イベントのはずでした。
しかし、選ばれたつわもの達の目つきは半端なかった。
「アキトさんのくちびる~」
「俺、あきらめずにいてよかった。ぜってえ頑張るっ」
「もちろん美人さんのくちびる狙いだけじゃねえ。魔力も強化してえ!」
僕は浜辺の木陰で椅子に座らせてもらっている。周りには結界があるので挑戦者たちは近づけないが、意思表明をしに僕の前に来てくれる。一応僕が主催者らしいのでにっこりと笑顔で見送る事にした。
「よし!右だぁ!違うっ。左っ左っ。そこだぁっはっはっは」
ナビゲーター役をかってでたのはレッドで、アルコールの量と共に指示がいい加減になっていく。
「……何故抽選でアンバーが選ばれているんだ?」
どこからともなく低い声が聞こえてきた。この声は確かホワイトさんのはず?
「面白そうだったからだ。それにホワイトが企画を手伝ったんだろ?なおの事参加したくなるじゃないか」
いつものようにニコニコと細い目をさらに細くしてアーバンはほほ笑む。土竜は巨漢だ。だがアーバンは気は優しく思いやりにあふれた男気がある土竜だ。伴侶のホワイトを大事にしている。
「そうだが……アーバンっ」
ホワイトがおもむろにアーバンの胸元を掴むと引き寄せ、濃厚な口づけを交わした。
「ひゅ~~っ」
レッドが口笛を吹く。あついね~と周りから野次が飛ぶ。
「なっ?……ど、どうした?……皆の前でこんな……」
アーバンが腰砕けになって目を白黒させていた。細身のホワイトがアーバンの身体を抱え込む。腕力はホワイトの方が上なのか?これではまるで……。
「アーバン。お前の可愛いくちびるを味わえるのはこのわたしだけだ。ナビゲーターとして応援するのならまだ許せるが参加するのは許せないっ。昨夜もさんざん可愛がってやったというのにまだ足らなかったのか?……そうか!おねだりか?おねだりだな?そうかなるほどっ。可愛い奴め!ちょうど準備と手配も終わった。後は皆が勝手にやるだろう。さあ!ベットへ運んでやろう!」
「まっ!待ってくれ!昨夜は激しかったじゃないか!おれはまだケツが……」
「それはすまなかった。今日は出来る限り優しく徹底的にほぐしてやるからな」
え?それって……ホワイトさんが攻め……??
「誰よりも愛している。わたしにはアーバン。君しか見えない」
麗しい微笑を浮かべてホワイトは巨漢のアーバンを横抱きにする。いわゆるお姫様抱っこだ。
「……ホワイト……皆が見てる」
アーバンは真っ赤になっていた。
「愛してると言ってくれないのか?」
「べ……ベットでなら」
「よし!行くぞっ。レッド、アキトっあとは頼んだぞ!」
ホワイトは白竜に姿を変えるとアンバーを抱えたまま飛び去って行った。
「そういえばホワイトさん。ワインを樽で抱えて飲んでいたな……」
ただの酔っ払いだったのかもしれない……。
スイカわり会場に視線を戻すとこちらもはちゃめちゃになってきていた。
ナビゲーター役のレッドは上機嫌で指示を飛ばすが、左と右が反対になっていたり適当な場所で叩けってさけんだりで挑戦者たちが脱落していく。一方、クロードとエドガーはペアになって互いに指示しあい、確実にスイカをわり続けている。コバルトも必死で割り続けていた。
結局優勝はクロードとエドガーが同点1位。3位がコバルトだった。
「おめでとう!」
僕は伴侶二人の元に駆け寄った。二人とも満面の笑みで僕に抱きついて代わる代わるにキスをした。
その横でコバルトが肩を落として立ちすくんでいる。
「……コバルト。皆を盛り上げてくれてありがとう」
僕はコバルトの頬にキスをした。途端にぱあっと満面の笑みが広がる。そうして笑ったコバルトの顔はあどけなさが残るようだった。
「アキト……」
すぐにいつもの無表情に戻るが耳が赤い。照れてるんだろうか?
「コバルト。帰りは僕とクロとエドを乗せてくれる?僕コバルトの背に乗りたいんだ」
「モチロン!アキト乗る。オレ嬉しいっ」
クロードが僕の肩を抱きに来た。コバルトと睨みあうが、嫉妬深いって事はそれだけ愛されてるってことだよね?単純にそのことが嬉しい。エドガーはレッドと話し込んでいる。
「お前らさあ、大人げないなあ。たまにはあいつに花もたせてやってくれよ~」
「何言ってんだよ。レッド。お前ほど酒が強い奴が酔うはずないだろ。コバルトのために酔ったふりしてるのはわかってたんだぜ」
そうなのだ。レッドはコバルトにだけは的確な指示をだしていた。僕もわかっていたがそれでもいいなと思っていたので黙っていたのだ。
仲間たちも海に飛び込んで騒いだりと久しぶりに楽しんだみたいだった。
「さあっそろそろ帰ろうぜ!」
エドガーが帰り支度を始めると一人また一人と手伝いにやってきた。皆、なんだかんだとエドガーを団長と認め始めてきているのだ。時間をかけて少しづつこうして仲間と共に時間を築き上げていけたらいい。
そうしてひと夏の思い出が出来上がった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アンダルシュ《うちの子》推し会!
「第二回 お題:スイカ割り」に参加させていただきました。
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国王陛下の生誕祭か近づいた頃、リトは王族獣人は生まれながらにして番が決まっているのだと初めて知った。
しかし二十年前に当時、王太子であった陛下に番が存在する証し〝番紋(つがいもん)〟が現れたと国中にお触れが出されるものの、いまもまだ名乗り出る者がいない。
陛下の番は獣人否定派の血縁ではないかと想像する国民は多い。
そんな中、友好国の王女との婚姻話が持ち上がっており、獣人の番への愛情深さを知る民は誰しも心を曇らせている。
国や国王の存在を身近に感じ始めていたリトはある日、王宮の騎士に追われているとおぼしき人物と出会う。
黄金色の瞳が美しい青年で、ローブで身を隠し姿形ははっきりとわからないものの、優しい黄金色にすっかり魅了されてしまった。
またいつか会えたらと約束してからそわそわとするほどに。
二度の邂逅をしてリトはますます彼に心惹かれるが、自身が国王陛下の番である事実を知ってしまう。
青年への未練、まったく知らない場所に身を置く不安を抱え、リトは王宮を訊ねることとなった。
自分という存在、国が抱える負の部分、国王陛下の孤独を知り、リトは自分の未来を選び取っていく。
スパダリ獅子獣人×雑草根性な純真青年
僕はもう貴方を独りぼっちにはしない。貴方を世界で一番幸せな王様にしてみせる
本編全30話
番外編4話
個人サイトそのほかにも掲載されています。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
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保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
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山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
【完結】転生して妖狐の『嫁』になった話
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【お茶目な挫折過去持ち系妖狐×努力家やり直し系モフリストDK】
トラック事故により、日本の戦国時代のような世界に転生した仲里 優太(なかざと ゆうた)は、特典により『妖力供給』の力を得る。しかしながら、その妖力は胸からしか出ないのだという。
「そう難しく考えることはない。ようは長いものに巻かれれば良いのじゃ。さすれば安泰間違いなしじゃ」
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そうこうしている内に異世界へ。早々に侍に遭遇するも妖力持ちであることを理由に命を狙われてしまう。死を覚悟したその時――銀髪の妖狐に救われる。
彼の名は六花(りっか)。事情を把握した彼は奇天烈な優太を肯定するばかりか、里の維持のために協力をしてほしいと願い出てくる。
里に住むのは、人に思い入れがありながらも心に傷を負わされてしまった妖達。六花に協力することで或いは自分も変われるかもしれない。そんな予感に胸を躍らせた優太は妖狐・六花の手を取る。
★表紙イラストについて★
いちのかわ様に描いていただきました!
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