異世界行ったらボクは魔女!

ゆうきぼし/優輝星

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番外編

番外編 竜たちの宴04

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 この日、朝の集合時にホワイトは竜騎士団長と初顔合わせをする事ができた。この世代の団長は顎髭の伸びた精悍な顔立ちに威厳に満ちた態度であった。隊長格をまとめ上げる団長が人間だと言う事をこの時初めて知ったのだ。
 ――――――竜騎士団の団長は王族でなくてはならない
 竜はこの世界最強の生き物だ。そして秩序を守るため、最強のモノを倒せるのは非力な人間の中から選ばれた。それも王家の血を引くモノで「力の剣」に選ばれたただ一人に。代々その者が団長となり統率していた。
「力の剣」は唯一竜を倒せる剣とされた。そのため竜たちの間では、その剣を別名竜殺しドラゴンキラーと呼んでいた。
「久しぶりの合同訓練だ。皆怪我のないように気をつけてくれ」
 ぐるりと周囲を見回すと団長は 小高い物見台の上へと移動した。

 日ごろは数隊ずつに分かれて活動している為、全隊がまとまって同じ場所にいることが珍しかった。
 今回は純血種のホワイトが入ってきたということで特別に全員に会う機会を作ってくれたようだ。
 竜には竜同士で生まれた純血種と他種族との間に産まれた混血がいた。
 純血種は数も少なく竜の中でも能力が高い。そのために貴重視される。隊長格に選ばれるのもそれがゆえんだ。
 だが、ホワイトは実力が認められないとまず仲間に受け入れてもらえないと考えていた。
 つまり彼の中では、今はお試し期間なのだ。

 訓練は簡単にいえば総当たりトーナメント戦だ。
 手当たり次第に戦って最後に残った者が勝利者というもの。
「ホワイトよ。遠慮はしなくてもいい。わたしに君の実力のほどを見せてくれないか」
 団長はにこやかに恐ろしい事を言う。
 純血種の竜が実力を見せるほど本気で戦うという事なのかと他の竜は青ざめる。
「ふぅん、実力ねえ‥‥‥」
 ファイヤーは小ばかにしたように目をすがめた。
「かしこまりました。この研ぎ澄まされた感性と華麗で優雅な身のこなしをするわたしの力を団長にお見せして進ぜましょう。だがそれによってここにいる全員のハートをわしづかみにしてしまう事になりかねません。あぁ、なんて罪作りな僕‥‥‥」
 ホワイトが額に手を当て苦悩するそぶりをみせる。
「‥‥‥はは。お前は面白い子だねえ」
 団長は自分の顎髭をなでながら口の端をあげた。

「では、はじめっ!!!」
 団長の掛け声とともにいっせいに皆が動き出す。混血種の中でも獣人タイプの者は力も強く抜きんでるようだ。
 ホワイトは軽く手合わせをしながらひらりと相手の攻撃をかわすように人混みの中を進んでいた。
 ある程度人数が減った所で勝ち残っている好敵手を相手にしようとしていた。
「ちっ!なんだあいつ。エラそうにしやがって!全然戦ってないじゃないか」
「俺らを馬鹿にしてるんじゃないのか?」
「おいっ。フォーメーションを組んであいつを一気に囲ってしまわねえか?」
「え?反則にならねえか?」
「総当たりなんだからいいんじゃねえ? ちょっと脅かしてやるのさ。ねえ?ファイヤーさん」
「‥‥‥脅かすだけだぞ。間違っても純血種だという事を忘れるなよ」
 ファイヤーは適当に戦いながら進んでいた。

 半分ほどに人数が減ったところでホワイトは行く手を阻まれた。
 気づけばラグビーのスクラムのように自分を中心に円を描くように人壁が出来ている。
「何をしようというのだ? このわたしをっ?! ぐっ!」
 人壁はホワイトの話を聞き終わる前に姿勢を低くして一気に中心にむかって押し合いはじめた。
「どうだ? ナルシスト野郎! この輪から抜け出せねえだろ!」
「悔しかったらもう二度と生意気なことは言いませんって泣いて謝れよ」
 輪の中心が狭まっていきどこからともなく手が伸びてホワイトの下半身をまさぐりだした。
 形の良い臀部や太腿だけでなく直接股間をいやらしく撫でまわすやつさえもいる。
 「なっ! 何をするっ! このわたしに淫らな真似をするつもりか!」
 ホワイトの声があたりに響いた。
 真っ赤になって震えているホワイトの可憐さに注目が集まる。
「くそっその手があったか!」
「お前らだけっなあにイイ事してやがんだよ!」
「そうだそうだ。俺もヤラセロ!」
 人壁に登りホワイトに抱き着くものさえ現れた。
「いい匂いだぜっ」
「チュー。チューさせてくれっ」
「馬鹿者! わたしから離れろっ! 本気で怒るぞ!」
 めずらしくホワイトが怒鳴っている。
 
「ばか! あいつらやりすぎだ!」
 ファイヤーが慌てて止めに入ろうとするよりも早くアンバーが動いていた。
「ホワイト! そのままでいろ!」
 ズッシャアアッッ
 地面がわずかに盛り上がった後ホワイトの周辺の土だけが陥没した。
 スクラムを組んでいた人壁は崩れ多数が足元の穴へと落ちて行った。
 だがまだ数人がホワイトに抱きついて撫でまわしていたのだ。
 そして胸の辺りを触っていた手に乳首をつままれた途端、ホワイトはキレた。
「てめえら! よくも僕の美しい身体をいたぶってくれたな‥‥‥」
 聞こえてきた声はいつものような麗しい声ではなく地を這うような低い声で。
「ホワイト!? 静まれ!」
 アンバーがぎょっとして叫ぶ。
「おい! お前ら早く逃げろ!!」
 ファイヤーが叫ぶのも遅く、ホワイトの周りにいた者は皆吹き飛ばされた。

 ゴォオオオオッ
 突風と竜巻が同時におき、近づこうとする者はかまいたちによって切り刻まれた。
 訓練場は騒然となった。今や対抗戦どころじゃない。
「皆して僕を馬鹿にしやがって! 僕がどれだけ必死で生きてきたか。どうやってここまでよじ登ってきたか! 今の僕を好きになるためにどれだけの努力をしてきたか! お前らにっ! お前らなどにっっ」
 いつもの美麗な顔が歪み、眉間を寄せ唇をわなわなと震わせるホワイトは痛ましかった。
「わかるぞ‥‥‥少なくても俺はわかってやってるつもりだぞ」
 いつの間にか背後にアンバーが忍び寄っていた。地面に同化し傍まで移動していたのだ。
 鋭い風が切り刻もうとするがアンバーの硬い身体はびくともしなかった。
 そっと背後から抱きしめるとホワイトの耳元で囁いた。
「ホワイト。聞こえるか?」
「っ! アンバー?」
「お前は強い。強くて誰よりも美しい。そして慈悲深く皆を護れる勇敢な竜だ。頼むから気持ちを鎮めてくれないか?俺の頼みを聞いてくれないか」
「‥‥‥あ。僕は‥‥‥なんてことを。感情に任せて‥‥‥暴れてしまう‥‥‥など」
 瞬時に風はやみ、ホワイトはアンバーの腕の中に倒れ込んだ。
「ホワイト? おいっ。しっかりしろ!」


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