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2章 竜騎士団編
67.歩み続けよう
しおりを挟む「アキト!」
「アキト!目が覚めましたか?!」
目を開けるとエドガーとクロードの心配そうな顔が見えた。
「あ……クロ?エド?」
あれ?ここは?僕は何してたんだっけ?
ぼんやりとした意識の下、強く手を握りしめられた。
「気分が悪いところはないですか?」
「おいっ、何か食べたいもんはねえのか?」
「水が飲みたいな……」
「よし!すぐ飲ませてやるからな!」
どうやら僕は丸3日眠り続けていたらしい。
「ずっとうなされてたのですよ」
クロードに抱き起こされてここがドラゴン城だと気づく。
「アキト様っ!お水です」
バレットがすかさず冷たい水を運んでくれた。
「ありがとう。いただくよ」
喉を通りすぎる冷たさが気持ちよくて一気に飲み干す。
「はぁ。美味しかった。のどが渇いてたみたい。」
一息つくと皆がほっとした表情になった。
「僕、皆に心配かけちゃったみたいだね。ごめんよ」
「いいや、俺達こそ、お前に負担をかけちまって悪かった」
診療所のダレンの診断では初めての擬態魔法で魔力を継続しすぎて疲れがでたらしい。
「ずっとうなされてらして、悪い夢でも見ていたのですか?」
「夢の中で神龍(シェンロン)に会ってたんだ」
「なんですって?!」
「なんだって?!」
「何かされませんでした?」
「何かされてないだろうな!」
示し合わせたように二人同時に同じセリフを言うのに思わず笑みがこぼれる。
「くすっ。まだ何もされてないよ。僕が知りたかったことが聞けたというか聞かされた」
クロードとエドガーには隠し事はしたくない。
僕は神龍(シェンロン)から聞いた話をふたりにも伝えた。
「俺は絶対にアキトを守る!」
「わたしもアキトの傍を離れません!」
真剣な表情の二人に胸が熱くなる。愛されてるってこういうことなんだろうな。
「ありがとう。クロ。エド。二人とも愛してるよ」
「私もです!愛してます!」
クロードがアキトに抱きついた
「俺も!俺も愛してるぜ!」
後れを取ったエドガーはクロード事僕を抱き込んでくれた。
あのあと、目覚めない僕を心配した二人が王宮からドラゴン城へ運んだらしい。
荒れている王宮よりは診療所のあるドラゴン城のほうが落ち着くと判断したのだそうだ。
王宮には引き続き火竜のレッドが残り、白竜のホワイトが公務を手伝っている。彼は武芸だけでなく経理や執務をも完ぺきにこなす文武両道の持ち主であったようだ。ナルシストになるのも無理はない。
第一皇太子のユリウスもコーネリアスの様子をみながら少しづつ公務に戻っている。
王様はまだ寝たきりだが、健康状態よりも心労の方がひどいようだ。
これは時間が癒してくれるのを待つよりは仕方がなかった。
「アキト。コバルトが見舞いに来てますよ。会われますか?」
「うん。会うよ!」
ドラゴン城には今青龍のコバルトと土竜のアンバーが常在してくれている。
「アキトっ!だ、だ、だい、大丈夫か?これっどうぞ!」
両手いっぱいの野花を抱えたコバルトがぎこちなく笑う。
「わあ!綺麗だね!ありがとう!!」
こんなにたくさん。僕の為に摘みに行ってくれたんだ。
「嬉しいよ。心配かけてごめんね。また元気になったら背中に乗せてね」
「もちろん!どこでも!連れて行くっ!」
前のめりになるコバルトをクロードがやんわりと制す。
「アキトは皆さんよりも体が弱いので無理な遠乗りはお控えくださいね」
「え?!そうだね。えっと近場で、その。クロードかバレットも一緒に行こうね」
クロードに過保護だと言おうとしたが、心配かけたばかりで反論もできない。
「わかった!良い場所探しておく。だから早く元気になってくれ」
「クロ。ちょっと僕から離れてみてよ」
「いやです」
クロードは常に僕の身体に尻尾を巻き付けるようになった。
それは猫化してしまうというよりも僕に何かがあってはいけないという強迫観念のようだ。
「魔女の契約について魔法書を読み解いたよ」
「え?契約解除されるのですか?」
あらら耳がたれ下がってしまったね。そんな情けない顔久しぶりに見たよ。
「僕に縛られたい?今以上に」
「はい!!わたしはもうアキトなしでは生きられないのですから」
「そんな大げさ……でもないね。ふふ。でもね、束縛ばかりもしたくないんだ。クロードにも自分の考えをもって僕の隣に立って欲しい。その賢者の知識を借りたいんだ」
「アキト。わたしはもう貴方のモノです。どうぞ好きに使ってください」
「ありがとう。でもそれだけじゃ足りない。僕はクロが好きだ。手放すことなんてできない。でもね人形でいて欲しいわけじゃないんだ」
「ふはは。アキト言うようになりましたね。わかりました。私はもっと貴方の為に出来る事を考え動きましょう。これでも昔は宰相だったのですよ」
以前ラドゥさんに言われたのですよとポツリとクロードは話し出した。
「王宮を離れるときに、王族の伴侶として何か役職に就くようになさいと言われました。今から思えば肩書があった方がよりアキトやエドガーと一緒にいられるし役位たてるという意味だったのでしょうね」
「そうなのか。あのさ。ラドゥさんはクロをひどい目にあわそうとしたけれど僕は彼を何故か憎めないんだ。オスマンの事も人を操って悪いことをしようとしたのに、僕は痩せて瞳の色が濁ってしまったのがショックだった。もう僕は以前のような人としての常識を持ち合わせていないのかもしれない」
「魔女の力が濃くなってきてるかもしれませんね」
「こんな僕は嫌い?もし僕がもっと残忍で冷徹になってしまったらどうする?」
「それでも大好きですよ。アキトはアキトです。たとえ獣人でも魔女でも人でも竜でも愛してます」
「……ありがとう」
あぁ。泣きそうだよ。クロードはいつだって僕が欲しい言葉をくれる。
僕は魔法書を片手にクロードの魔女契約の一部を解いた。
「これで僕と一緒にいなくても人型のままだし自分の好きな時に猫化になれるよ」
「ありがとうございます。人型になれるなら無理して猫化になりたいと思いません」
「ははは。そうだったのか。僕は黒猫のクロに会えてうれしかったよ」
「ふむ、そういう事ならたまには猫化もいいかもしれませんね」
クロードの手が優しく僕の頬をなでる。
「あー!!クロ!また抜け駆けしてるな!」
王宮の片づけにいっていたエドガーが帰ると同時に僕ら二人を抱き込んだ。
「ふふふ。おかえりなさい」
「待ってたんですよ。お茶にしましょうか」
まだまだ僕にはこの世界について知らないことが多い。
この先また悲しい事や困難が訪れるかもしれない。
でもエドガーとクロードが傍にいてくれる。それだけで幸せだ。
~~~~~~~~~~~
2章終了です。あと少し閑話がはいります。
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