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2章 竜騎士団編

66.我はいつでもお前の傍にいる

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「デメリットだって?」
《そうじゃ。魔女はもう魔女ではなかった。再生時に魔力を使いはたしてしまっていた。これでは我は憑依できない。しかたなく欠けた記憶を適当に補って王都近隣の貴族の子とした》
「ヒドイ!貴方の身勝手な都合で引っ張り回されたマリアが可愛いそうじやないか!!」
《まぁ、話は最後まで聞け。その後、最愛のマリアをなくした勇者ジークは王に政りあげられる。子孫を残せと臣下に迫られ仕方なく貴族の子息達を抱きまくった》
「え?それって。もしかして」
 確か最初の王になった勇者は卵を作りまくったがどれも孵化しなかったはず。
 ただ、一人だけ孵化した相手がいたって言ってた。それがひょっとして。

《そうだ。お前は勘がいいのぉ。愛がない場合、卵殻を接して卵は出来ても孵化しない。だが相手はマリアの再生体だ。記憶はなくても二人は結びついたのじやよ。どうじや!いい仕事をしたとは思わぬか?》
「それっていい仕事っていうの?マリアは幸せになれたの?」
《それなりに幸せだったはずじゃ。二人の間にはちゃんと卵が産まれ子供も孵化したからな。あとは知らぬ》
「なんだよ!そんなのっ!ちゃんと最後まで責任とってよ」
《まあまあ。それより孵化した子供が面白かったのじゃ!あやつは我がマリアに与えた記憶を持って生まれてのぉ。王宮とドラゴン城を繋ぐことが出来たのじゃ!》

「王宮と?そういえば王宮の壁に描かれてあった隠し文字があったのだけどその意味って分かる?」
《例えばどういう隠し文字じゃったのじゃ?》
「炎のわだつみに鎮めるる亡霊の魂よ。永遠の死を弔うのは灼熱の業火のみ」
《それは、この世界を変えるときに闇に堕ちた魂を焼き払い地の底に鎮めたのじゃ》
「我は何も必要とせずそれ故にすべてを求めているもの。復活は我の為でもあるのだから」
《それは我のことだ。全知全能だが刺激が欲しい。この世界を復活させるのは我のためでもある》
「咎人の秘めるる闇なる裡の記憶を暴くこと勿れ。災いの元となるであろう」
《過去の過ちをさぐると現在の罪の元になるぞという戒めじゃな》
「忘れるな。我々はこの地を見守っている。争いは破滅への序章」
《我の事を忘れるなよ。争いごとは破滅へのシナリオじゃ~って意味かのぉ》

《我はこちらの世界では竜の目を通してしか知らぬ故、どうしてもドラゴン城周辺の記憶となる。あやつは王位を継承してから王宮と竜を繋ぐ橋渡しとなったのじゃ!どうだ?我がしたことはエライじゃろう??》

 神龍(シェンロン)って大きな子供みたい。これって褒めてもらいたいのかな?
「確かに、こちらと竜たちを繋いでくれたのには感謝してる」
《おお!やはりそう思うか?!うんうん。わかってくれるか。そうかそうか》
「でも腑に落ちない点があるよ。貴方は先ほどからこの世界のシナリオがどうとかってって言ってるけど、最初から破滅のシナリオを考えるためにこの世界を作ったの?ならば竜たちにこの世界を守らせる必要はないのでは??」
《それは違うぞ。我とてせっかく作った世界じゃ。安易に壊すつもりなどない》
「じゃあなんで??」
《破滅の元は人の感情が作り出すのじゃ。人には負の感情がある。怒り、憎しみ、恨み、嫉み、羨みなど。これらの負の感情が闇をつくり、呪いや魔物を引き寄せるのじゃ。我にはそれを止めることは出来ない》
「でも、さっき自分は全知全能で出来ないことはないって言ってたじゃないか!」
《もぉ~。余計な事は覚えておるのじゃのぉ。それはそうだがのぉ》
「じゃあ、闇をつくらないようにしてしまえばいいんじゃないの?」
《それは無理じゃ。我は必要以上の手出しが出来ぬからな。おぬしらの世界に介入しすぎると不具合が起こってしまう。我は基本、相手から求められた場合のみ動くことが出来る》

「そんなこと言って、勝手にマリアを再生したじゃないか!」
《もともとマリアは我が手を貸して産み出された子なのじゃよ》
「え?どういうこと?確か、黒竜と魔女のハーフだって」
《そうじゃ、我が憑依するためには高い魔力と頑丈な身体が必要だった。それまで竜たちは純潔を重視しており、同族でしか交わっておらなかったのじゃ。そこで我は愛のキューピットとなったのじゃ》
「それってさ、自分が憑依したいから適した器を作りたかったってことなんじゃないの?」
《お前はさっきから言う事がキツイなあ。我は神龍(シェンロン)ぞ。まぁよいわ。その通りだからな》
「人の心まで自由に操ったの?そんなのヒドイよ!」
《まさか。そこまで我は介入しないぞ。能力は高いがそれ故に孤独だった黒竜がいた。そこに気は強いがおせっかいな魔女をめぐり合わせたのじゃ。あとは知らぬ。いつの間にか二人が恋に落ちただけじゃ》
「二人は幸せだったの?無責任なことしてないよね?」
《そこまで我は責任もてないぞ。そういうのは本人らの問題じゃろ?》


「でも自分がきっかけをつくったからって何をしてもいいってわけじゃないじゃん!そもそも再生した体に憑依してどうするつもりだったのさ!」
《ん~、まぁ。それはちょっとした冒険をしてみたかったのでな》
「冒険?何それ?……まさか他人に憑依してこの世界に紛れ込むとかじゃないよね」
《なぜわかったのじゃ!!》
「そんなのさっきの話の流れでわかるじゃん!!もぉ!」
 神龍(シェンロン)って賢いのかバカなのかわかんないや!
 ある意味世間知らずなのかな?

「……嫌ですからね」
《へ?まだ我は何も言ってはおらぬがな》
「いやいや、この流れであなたが言いそうなことぐらいわかりますよ!」
《なんじゃつまらん。ちょっと身体を貸してくれるだけでよいのに。減るもんじゃなし》
「い~や!いやいやいや!減るとかじゃないです!憑依なんて簡単にしてもらいたくないですよ!!貴方が僕を贄にしたがってるってのはわかってますし!」
《我とて嫌がる相手に無理やり憑依するつもりはないぞ。ただ、今日はお前と直接話がしたかった。我はという事も教えてやりたかったのでな》
「なにそれ。怖いんだけど」
《我を頼ってくれてもいいという事じゃよ。ではまた会おうぞ!》


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