異世界行ったらボクは魔女!

ゆうきぼし/優輝星

文字の大きさ
上 下
73 / 84
2章 竜騎士団編

65.呼びかけ

しおりを挟む
 アキトは気だるげにまどろんでいた。
 魔力は循環し今は有り余る力が体中をめぐっている。
 左右には愛すべき伴侶が寄り添って寝ている。  
 やるべきごとはまだ山積みだが三人でいれば何でもできる気がした。
 
 
《――――――まったく。我を呼ばずに片付けてしまうとは》


 へ?なんだ?どこかから声が聞こえる。
 クロードもエドガーもまだ眠りの中にいる。侍従のバレットはドラゴン城だ。
 おかしいな。気のせいかな??
 
 突然、目の前が明るくなった。
 気づけば真っ白な空間にぽわんと浮いたようになっていた。
「あれ?僕って寝ぼけてるんだな」

《ははは。可愛い反応だな? 初めまして。アキト》
「はじめまして。えっと。どなたでしょうか?」
 何もない白い空間に話しかけてみた。
《この世界では神龍(シェンロン)と呼ばれている。人間に話しかけるのは久しぶりだ》
「神龍(シェンロン)?」
《そうだ。我を呼べば何でも叶う。此度はいつ呼ばれるかと今か今かと待っておった》
「はぁ?さようですか??」
《なんじゃ連れないのう。我の事は聞き及んでいるだろう?》
「神龍(シェンロン)ってまさかあの?!」
 そうだ、神龍(シェンロン)は実体がないから僕の身体を贄に狙ってるって。
 だとしたらここは?神龍(シェンロン)の中なの??

《どうしたアキト?急なことで戸惑っておるのか?恐れるでない。ちょっと話をしてみたかっただけじゃ。お前は今までの依頼主たちと違う動きをするのでな。面白くって声をかけてみたくなったのじゃ》
「今までの依頼人?それはどういう??」
《そうじゃのぉ。我は全知全能のため、出来ないことはない。それを皆は知っておるので我の力を欲しがって苦難を乗り越えて我を呼び出すのじゃ》
 それって、エドガーがしようとしていた事なんじゃないのか?
 そういえば、いつの間にか呼び寄せることが出来るアイテムは手に揃っていた。
 僕の中の魔女のハート。エドガーの力の剣。クロードの智慧の石。
 もしも、何か取り返しのつかない出来事が起これば使ったかも……。
 ん??待てよ。
「あの、貴方は竜たちの目を通して僕らの事を見てたのですよね?」
《そうじゃ、よく知っておるな。我は感情が乏しい。万能になるためには、何かを手ばせねばならなかった。それに感情がある生き物は、いがみ合って憎しみあって、争いが起こり、小さな火種が徐々に大きくなる。そこから戦争になり、野が焼け、生き物が減り……を繰り返す。だが、お前はその前の段階で止めてしまった》
「え?僕が止めたんですか?」
《なんじゃ気づいてなかったのか?ほぉ。計算ではなかったのか。アキトの動きはまさにイレギュラーじゃの。観察しがいがある》

 神龍(シェンロン)が考えていた未来では、ラドゥさんは自分の想いを達成し、王都を壊滅し魔物の巣窟にし、エドガー以外の王族を壊滅させ自らも狂って命を果てる。悔恨の想いにかられたエドガーはこの世界を元に戻そうと、竜の秘宝を手にするために神龍(シェンロン)を呼び出すといった流れだったようだ。
 このシナリオの分岐点は王宮に偵察に行った時点だったらしい。本来ならすぐに捕まっていたのに僕らは子猫や犬に擬態していたので見つかりにくかった。

 だが、それ以前にも、僕がドリスタンに捕まった時、そのまま僕の催眠がとけずドリスタンに抱かれてしまい卵を孕む、卵のために父親のドリスタンを断罪できず、エドガーが荒れてクロードが魔物化するといったストーリーもあったらしい。
 このシナリオの分岐点は僕がオスマンを見破ったことだったらしい。

「どれもこれもあんたを呼び出すために作られたシナリオじゃないか!」
《そうだ。我を呼び出してこの力を使い、この世界を元に戻す。素敵な話ではないか?》
「全然!まず、貴方は僕達生き物を馬鹿にしてるんじゃないのか?」
《我に向かってそんな口の利き方をするのはお前が初めてじゃ》
「なんでも自分の思いどうりになると思ったらいけないんだよ」
《お前だけじゃ、我の思い通りにならぬのは。お前をこの世界のバグとして排除することも可能なのだぞ。正直何度かそうしようかと思いあまったこともあったのじゃ。だがそのたびにお前は予測不能な動きをして回避する。それが我はいつしか面白くなってきたのじゃ》
 僕を排除しようとしていたのか?いつの話なのだろう?心当たりがあるようでない。
 
《お前は魔女のくせに魔女らしくない。今回のシナリオの一つにラドゥを射殺してしまうというのもあったのに。お前はそれどころか浄化してしまった。淫蕩で奔放さのためにオスマンを誘惑するというシナリオすらも当てはまらなくなってしまった》
「あのさ、なんで全部破滅に向かうシナリオなのさ!この世界をどうしたいのさ!」
《我には悠久の時間がある。それは長く平穏でつまらないものなのだ》
「は?ちょっと待ってよ!それって暇つぶしがしたいって聞こえるよ!」
《そうじゃな。そうとも言うのぉ》
「ふざけるな!!僕らは精一杯生きているんだ!あんたのおもちゃじゃない!!」
《おもちゃか。かつて同じセリフを言われたことがある。お前の母親にじゃ》

「僕の母親?どういうこと?」
《この世界を作り変えるために、我はマグダラのマリアの身体に憑依した。久しぶりに肉体を手に入れ実体のあるモノに触れる感覚は堪らなかった。しかしマリアは魔物に殺されあっけなくなくなった。せっかく贄になってくれた魔女をみすみす手放すのも惜しくて、我は外見を作り変えて元の場所に戻してやった》
「作り変えたって?違う人間にしたってこと?」
《そうじゃ。再生させたのじゃ。じゃが元のように魔力は戻らなかったし記憶もあいまいになった。そのときに言われたのだ。おもちゃじゃないのよ。もう同じ人生は歩めないと》
「再生させたって?本当は再度その身体に憑依するつもりだったんじゃないの?」
《ふっふふ。その通りじゃ!しかし再利用にはデメリットも伴う》



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?【第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞】

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。 2025/2/28 第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞をいただきました

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

遅咲きの番は孤独な獅子の心を甘く溶かす

葉月めいこ
BL
辺境の片田舎にある育った村を離れ、王都へやって来たリトは、これまで知らなかった獣人という存在に魅せられる。 自分の住む国が獣人の国であることも知らなかったほど世情に疎いリト。 獣人には本能で惹き合う番(つがい)という伴侶がいると知る。 番を深く愛する獣人は人族よりもずっと愛情深く優しい存在だ。 国王陛下の生誕祭か近づいた頃、リトは王族獣人は生まれながらにして番が決まっているのだと初めて知った。 しかし二十年前に当時、王太子であった陛下に番が存在する証し〝番紋(つがいもん)〟が現れたと国中にお触れが出されるものの、いまもまだ名乗り出る者がいない。 陛下の番は獣人否定派の血縁ではないかと想像する国民は多い。 そんな中、友好国の王女との婚姻話が持ち上がっており、獣人の番への愛情深さを知る民は誰しも心を曇らせている。 国や国王の存在を身近に感じ始めていたリトはある日、王宮の騎士に追われているとおぼしき人物と出会う。 黄金色の瞳が美しい青年で、ローブで身を隠し姿形ははっきりとわからないものの、優しい黄金色にすっかり魅了されてしまった。 またいつか会えたらと約束してからそわそわとするほどに。 二度の邂逅をしてリトはますます彼に心惹かれるが、自身が国王陛下の番である事実を知ってしまう。 青年への未練、まったく知らない場所に身を置く不安を抱え、リトは王宮を訊ねることとなった。 自分という存在、国が抱える負の部分、国王陛下の孤独を知り、リトは自分の未来を選び取っていく。 スパダリ獅子獣人×雑草根性な純真青年 僕はもう貴方を独りぼっちにはしない。貴方を世界で一番幸せな王様にしてみせる 本編全30話 番外編4話 個人サイトそのほかにも掲載されています。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

処理中です...