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2章 竜騎士団編

60.崩れた結界 R15

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 ちょっと血の出る表現があるのでR15にしました

~~~~~~~~~

 グワンッッッ!!と空気が揺れる衝撃と共にラドゥが膝から崩れた。
「しまった……やられましたね」
 ラドゥが悔し気に顔をゆがます。
「兄貴っ!大丈夫か?」
 エドガーがラドゥの身体を支える。
「これは。無事に結界が壊されたようですね」
 クロードが周辺を見回しながらアキトを抱き込む。
「え?今の攻撃が当たったんじゃないの?」
「ええ。ユリウス様は手加減されてましたからね」
 そうだったのか?結構我を忘れて攻撃してたような感じだったが?
 そういえば、城の備品を投げまくってたような。これは規定外の兄弟げんか?
 本気だったらどうなってたんだろう? 

「エドガー、私から離れなさい」
 ラドゥがエドガーの手を振り払った。
「いやだ。もうわざと悪ぶったりしないでくれ」
「エドガー。これがわたしの本質なのです。醜悪で自分勝手な人間なのです」
「違うよ。兄貴は優しいさ。だから過去の自分の過ちに後悔してる」
「後悔していればこんなむごいことはしませんよ」
「むごいとわかってるんだね?」
「……」

「おいっ!!こんなところにいたのか?!至急治癒してくれ!」
 見慣れた巨漢が現れた。
「アンバー?!どうしてここに?」


~~~~~~~~~~~~~
 数時間前に遡る。
 子猫のアキトと別れた黒猫のクロと小型犬のエドガーは柱の陰に隠れていた。

『おい、アキトと別行動しても大丈夫なのか?』
『執事の子達が一番良心的で安全です。それよりエド、犬の姿のまま入り口を繋げれますか?』
『戦うわけじぇねえからな。魔力を流すだけだからなんとかやってみるさ』
 ドラゴン城からの転移場所は王の寝室だけではなかった。
 万が一の事も考え数か所予備を作っておいた。
 現地に到着後、状況を見てルートを開けるかは団長が決める事として。
 実際に現状を見て、王都は壊滅に近いという判断とした。
『では、抜け道を繋いだら、現状を説明してください。エドなら人型でなくても団長と認められたので竜語で意思の疎通ができるはずです』


「……わかった。そういうことなら俺が一番適応しているだろう」
 現れたのはアンバーだった。王宮の中庭は土で出来ている。
 もちろん周りは高い塀に囲まれているが地面をもぐれば外に出れる。
「俺は土と同化し擬態することが出来る。土の中を移動して結界の元になってるものを壊そう」
 アンバーはすぐにその場から姿を消し、地面を移動した。
 都合よくアンバーが出てきたのには訳がある。アキト達を送り出したのは良いが、やはり気になって何かあれば自分が一番に行くと仲間たちを説き伏せて連絡が来るのをずっと待っていたのだ。
 他の竜たちも隠密に動くなら彼が一番だとわかっているのだ。

 塀の外に出たところで地面から顔出した、
「ぐぅう。臭いっ!」
 何だこの異様な臭気は? 結界を張ってある場所にはキツイ臭気が渦巻いていた。
 そのまま少し離れた場所で実体化した。周辺には人がいない。
 王都はどうなっているんだろうと土から小さなゴーレムを作り出し四方に偵察に行かせた。
 どうやら王都には今ほとんど人がいないようだ。
 結界から放たれる臭気のせいで皆、近隣の村や町に避難しているという。
「不幸中の幸いか。いや、わざとか?人々をココから離すためか?」
 においの元もすぐに特定された。腐乱した魔物だった。
 王都に魔物が襲ってきてたのか?

 一旦、移転場所に戻るとレッドを呼び。コバルトとホワイトに伝達をした。
 警備兵たちが一か所に集まっていたのでレッドの姿は見つからなかった。
 おそらくアキト達が見つかったのだろう。
「くそっ」
 レッドが吐き捨て捨てるように言う。逸る気持ちをおさえ、持ち場に着いた。
「時間稼ぎをしてくれるはずだ。今のうちに結界を壊そう」

 獣人とコーネリアスを貫通してる槍は魔力で強化されていてなかなか壊せなかった。
 しかし不意にその力が弱まったのだ。
「対戦してるのか?」
 槍に流れている魔力が乱れたのがわかる。
 アンバーは身近にあったコーネリアスの槍に体当たりをした。

 グワンッッッ!!と空気が揺れると結界が壊れた。

 槍が消えると同時にコーネリアスの身体に傷口ができ血が噴き出した。
 これは?この槍はまさか……?

「アンバー!やべえぞ!!」
 この声はレッドだ。結界が壊れたので城門から出て来てこれたのだろう。
「獣人が魔物になっちまった!襲ってきてるぞ」
「なんだと?」
 おそらく同じように槍に刺されてた三人の獣人のことだろう。
「コーネリアスもそうなるのか?!」
「わからねえが早く血を止めた方が良い!」
「わかった!アキトを探す!」

 俺はレッドが魔物と応戦してる間を抜け王宮の中を突っ走った。
 腕の中のコーネリアスは徐々に体温が下がってきている。
「結界が壊れた!魔物が城門にいるぞ!」
 途中行き交う武装した兵士たちを見るが皆足取りが重い。
 俺の姿など見えてないようで動揺したようにふらついている。
 あんなので戦えるのか?どうなってるんだ!!

 コバルト!ホワイト!早く来い!

~~~~~~~~~~~~~

 アンバーが腕に抱えていたのは串刺しにされていたコーネリアスだった。
「コーネリアス!!」
 ユリウスが駆け寄りアンバーからコーネリアスを受け取る。
 彼は顔面蒼白でぐったりしている。このままでは命が危ない。
「僕が治癒をかけます!!」
「アキト頼むっ!助けてやってくれ!!」
「はい!まずは傷口をふさぎます!」
 僕はコーネリアスの手を取り意識を集中させた。
 背後はクロードが守ってくれている。尻尾は僕の腰にしっかりと巻きついていた。

「お前は竜だね?」
 ラドゥが眉を寄せてアンバーを睨みつける。
「そうだ。俺は昔、人間にひどいことをした。その罪を今も背負っている。お前もそうじゃないのか?」
「ぐっ!ケダモノが!私の何がわかるというのだ!」
「わからないよ。だがお前はあの槍に生命維持を流し込んでいた。」
「それはっ。魔力を引き出すためだ!」
「違うね。こいつの命を奪う気はなかったんだろ?」

「やっぱりそうだったのか。ユリウス兄貴を困らしたかっただけなんだろ?もうやめようぜ」
 エドガーがラドゥの手を取ろうと近づく。
「近づくな!」
 ラドゥは後方に飛び、オスマンの傍に寄る。
「もう遅いのだ!何もかもがもう遅い!いづれそこの獣も魔物になるだろうっ」
 ラドゥに指さされたのはアキトの背後にいるクロードだった。
「え?……クロ?」
 アキトからはクロードの背中しか見えない。しかしその尻尾が小刻みに震えてる。
「ラドゥ兄貴。獣人にだけ作用する魔法を使ったのか?!」
「そうだ。結界は魔物の臭気のチカラも抑え込んでいた。それが破られた今、は魔物に変わってしまう呪いがかけられるのだ」
 だから魔力が弱まっていた串刺しにされた三人の獣人にはすぐに作用したのだ。
 
「コーネリアスの魔力がどこまで耐えれるかが見ものだな」
「ラドゥ!貴様!俺が憎いなら俺を狙えばいいだろう!」
 ユリウスが苦悶の表情で肩を震わす。
「貴方を狙うだけでなく壊したかったのですよ」
「何故だ?なぜそれほどまでに?」
「何故ですって?そんなの……わたしが……王族の血を継いでないからですよ」
 ラドゥの唇がわなないている。
「私は先王の息子が母に無体を働いてできた不義の子なのです!」
 喉から絞り出すように苦し気に言葉を吐き出す。
 

 アキトも薄々は気づいていた。予知夢で哀しみ苦しむラドゥの姿を何度も見た。
 それに、あれだけ王族の血統を重んじるドラゴン城でラドゥの名前が出たことがなかったからだ。
 竜たちは完全にラドゥを無視していた。

 
「魔物になってしまったらもう元の獣人には戻れません。呪いを解く方法はわたしを消すことです」
 ラドゥが囁くように言うとオスマンと共に部屋から逃げた。

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