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2章 竜騎士団編
46.ダレンの独白
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黒猫のクロは城の内部を探っていた。今朝はアキトが鍛錬に行く日である。昨夜からアキトがいない間に少し場内を散歩に出るとバレットにも言い聞かせていた。アキトが黒猫を飼っているというのは城内では皆が知っていたので、見かけても誰も不思議に思わないはずだ。
クロことクロードはこの城に入ってから気がかりな事があった。それは、やけに懐かしい匂いがするという事だ。
この匂いは、マリー様?クロードと共に異世界に飛んだブラッディーマリーの残滓を感じる。ただそれは微量で気を抜くと途切れてしまう。そうまるで動いているかのように。あまりに不確定すぎてアキトにも言えないでいた。
マリー様が生きている?いや、そんなはずはない。この目で荼毘にされたとこを見た。だけど、胸騒ぎがする。何かを忘れている気がするのだ。
イタズラ好きでいつも人の事を見透かしていた。まるで未来が見えていたかのように。
『あのマリー様の事だ。魔法契約時になにか細工をされたか?』
小さく口の中でくそっ!と悪態をつく。
しかしすぐにそれはきっとアキトの為にした事だろうと思い直す。
――――――「この子はわたしたちの未来」
アキトの事をそう呼んで大事にされていた。そのせいで大事にされすぎた感はあるが。闇の部分を教えなかったのも意図的なのかもしれない。無垢でいる事が何かの役に立つのかもしれない。
「おやおや、一人でお散歩ですかな?」
いきなり後ろから首根っこを掴まれて動けなくなる。黒猫の姿の為あっという間に手足ぶらん状態になる。
「にゃっにゃ?」
まったく気配を感じなかった……。だがこの声はダレンだ。
「やっと二人になれましたね」
クロは毛を逆立てた。だが身動きが取れない。
「ふーーーーーっつ!!」
爪をたて尻尾を膨らませる。その様子を見たダレンが眉を寄せて囁いた。
「手荒な真似はしませんので私と話をしませんか?貴方も知りたがってるマリーの話です」
その言葉にクロは大人しくなりダレンに抱きかかえられた。
マリー様を知っているのか?なぜ?クロはじっとダレンを見つめた。
ダレンは無言のまま歩み、城内の一角にある部屋に入ると結界を貼った。
そこまでするのか?……これだけで他に聞かれてはマズイ内容だと理解する。
「貴方がその状態になる予想はついておりました」
身体が固まった。全神経がダレンの次の言葉に集中した。
「わたしはマリーの伴侶でした。マリーは先読みが出来たのです」
~~~~~~~~~~~~~
「さて、老いぼれの独り言を聞いていただこうかな?」
ダレンの独白がはじまった。
わたしはマリーを愛しておりました。おそらくマリーもそうだったのでしょう。
しかしアレは小さな頃から未来が見えていたようです。出会った途端に私達は恋に落ち、愛を育みましたが、アレは当然のように微笑んでおりました。
わたしは当時、魔術を学びながら考古学を研究しておりました。高度な魔術は太古の昔から使われておりましたのでそのルーツを探したかったのです。マリーもその研究に携わっておりました。
研究が進めば進むほど矛盾がわたしの中で生まれました。……ある時期を境にぽっかりとなくなってる年代があるのです。わたしはそれを失われた年代と記しました。マリーもまたその期間に興味を持っておりました。
そしてわたしは一つ一つ読み解くように謎をとき仮説をたてていきました。
この世界は確実に一度滅びたのだと。伝説はおとぎ話ではなく実際に起こった過去なのだ。
ではそれを再生復活させたのは誰で何の目的だったのか?
―――――― 竜たちの守護神に神龍(シェンロン)が存在するという。それは絶対的な力をもちすべてを掌握し見守っているものとされる。この世界の均衡を保ち平和の象徴とされているらしい。
いくつかの伝承を調べていくと、神龍(シェンロン)自体は実体がなく普段は眠りについているようだった。しかしその精神は竜たちと意識の底でつながってるらしく、つまりは眠っていても竜たちを通してこの世界を見ているという事になるのだ。
強大な力を持ち、今もこの世界を見守り続ている神龍(シェンロン)。世界を再生復活させたのは神龍(シェンロン)で間違いないだろう。だが神はその偉大さゆえに実体をもたない。力を発現させるためには降臨しないといけないはずだ。
そして王都の城には竜の文字が隠されてるという。わたしはその文字の解読ではなく、なぜ文字を残したのかの方が気になった。つまりは目的を持ったものがわざと書き残したのだ。おそらく次に来る破滅を回避するための伏線としてではないだろうか? ――――――
マリーは嬉しそうに私の話に頷き、そして引き締めた顔つきになっていきました。
「ダレン、貴方は天才だ。わたしはずっと自分が見てるモノが夢なのか妄想なのか。はたまた自分は狂ってるのではないかと悩んでいたのに。こうも正論をなげかけてきてくれた。これでやっと気持ちが固まった」
そして気高く美しく好奇心旺盛な魔女はある日突然わたしに言いました。
「ありがとう。貴方と過ごした日々は決して忘れない。いいえ、この日々があるからこそ、わたしはこれからの人生を歩んでいける。これはわたしのわがままだったのだよ」
そう言うと自分がすべき事を話し、わたしにその一部を託してこの世界を去りました。
あとはクロードさん、あなたの知ってる通りです。マリーは伝説の勇者と魔女の卵をこの世界から解き放った。
生まれてきたのがアキトですよね?あの子はマリーが命を懸けて守り育てた子。
「にゃあ」
クロは肯定するようにひと声鳴いた。
そのアキトはクロードが愛する伴侶でもあるのだ。
正直に言うと悩み葛藤もしましたよ。でもマリーを愛する気持ちに抗うことはできなかった。
そしてわたしはこの場を守り続けたのです。マリーとの約束のために。
いづれ来る貴方がたに会う為、魔女の部屋を隠し続けるために。
この城にはマリーの部屋があります。しかしそれは竜達に見つからないように常に移動させてます。
そう、わたしは自分の魔力が枯渇するまでこの部屋を隠し移動させ続けるので、この城から出ていくことが出来なくなりました。
でもね……ときどき、その部屋でマリーに会うことが出来たのですよ。あい変わらずコロコロと笑い、アキトや貴方の事を楽しそうに聞かせてくれました。その幸せな想いが私の宝物なのですよ。いつしか私達は伴侶だけではなく共犯者になったのです。
「マリーの傍にいてくれてありがとう。」
ダレンが一番言いたかったのはこの言葉だったのではないだろうか?
クロードはそんな気がした。
「さあ、わたしの話はここまでです。次は貴方が過去と対峙しないといけないらしいですね」
「大きさはもう少し大きいほうがいいでしよう」
クロードはダレンに言われるまま黒猫から黒豹の姿に戻った。
「アキトを護ってあげなさい」
ダレンが手をかざすと部屋の奥に扉が現れる。
クロードは一度だけダレンのほうを振り向いた。その微笑む初老の男はマリー様を思い出させる。
「己のなすべき事をせよ!」
その言葉に背中を押されクロードは扉の奥へと歩んだ。
クロことクロードはこの城に入ってから気がかりな事があった。それは、やけに懐かしい匂いがするという事だ。
この匂いは、マリー様?クロードと共に異世界に飛んだブラッディーマリーの残滓を感じる。ただそれは微量で気を抜くと途切れてしまう。そうまるで動いているかのように。あまりに不確定すぎてアキトにも言えないでいた。
マリー様が生きている?いや、そんなはずはない。この目で荼毘にされたとこを見た。だけど、胸騒ぎがする。何かを忘れている気がするのだ。
イタズラ好きでいつも人の事を見透かしていた。まるで未来が見えていたかのように。
『あのマリー様の事だ。魔法契約時になにか細工をされたか?』
小さく口の中でくそっ!と悪態をつく。
しかしすぐにそれはきっとアキトの為にした事だろうと思い直す。
――――――「この子はわたしたちの未来」
アキトの事をそう呼んで大事にされていた。そのせいで大事にされすぎた感はあるが。闇の部分を教えなかったのも意図的なのかもしれない。無垢でいる事が何かの役に立つのかもしれない。
「おやおや、一人でお散歩ですかな?」
いきなり後ろから首根っこを掴まれて動けなくなる。黒猫の姿の為あっという間に手足ぶらん状態になる。
「にゃっにゃ?」
まったく気配を感じなかった……。だがこの声はダレンだ。
「やっと二人になれましたね」
クロは毛を逆立てた。だが身動きが取れない。
「ふーーーーーっつ!!」
爪をたて尻尾を膨らませる。その様子を見たダレンが眉を寄せて囁いた。
「手荒な真似はしませんので私と話をしませんか?貴方も知りたがってるマリーの話です」
その言葉にクロは大人しくなりダレンに抱きかかえられた。
マリー様を知っているのか?なぜ?クロはじっとダレンを見つめた。
ダレンは無言のまま歩み、城内の一角にある部屋に入ると結界を貼った。
そこまでするのか?……これだけで他に聞かれてはマズイ内容だと理解する。
「貴方がその状態になる予想はついておりました」
身体が固まった。全神経がダレンの次の言葉に集中した。
「わたしはマリーの伴侶でした。マリーは先読みが出来たのです」
~~~~~~~~~~~~~
「さて、老いぼれの独り言を聞いていただこうかな?」
ダレンの独白がはじまった。
わたしはマリーを愛しておりました。おそらくマリーもそうだったのでしょう。
しかしアレは小さな頃から未来が見えていたようです。出会った途端に私達は恋に落ち、愛を育みましたが、アレは当然のように微笑んでおりました。
わたしは当時、魔術を学びながら考古学を研究しておりました。高度な魔術は太古の昔から使われておりましたのでそのルーツを探したかったのです。マリーもその研究に携わっておりました。
研究が進めば進むほど矛盾がわたしの中で生まれました。……ある時期を境にぽっかりとなくなってる年代があるのです。わたしはそれを失われた年代と記しました。マリーもまたその期間に興味を持っておりました。
そしてわたしは一つ一つ読み解くように謎をとき仮説をたてていきました。
この世界は確実に一度滅びたのだと。伝説はおとぎ話ではなく実際に起こった過去なのだ。
ではそれを再生復活させたのは誰で何の目的だったのか?
―――――― 竜たちの守護神に神龍(シェンロン)が存在するという。それは絶対的な力をもちすべてを掌握し見守っているものとされる。この世界の均衡を保ち平和の象徴とされているらしい。
いくつかの伝承を調べていくと、神龍(シェンロン)自体は実体がなく普段は眠りについているようだった。しかしその精神は竜たちと意識の底でつながってるらしく、つまりは眠っていても竜たちを通してこの世界を見ているという事になるのだ。
強大な力を持ち、今もこの世界を見守り続ている神龍(シェンロン)。世界を再生復活させたのは神龍(シェンロン)で間違いないだろう。だが神はその偉大さゆえに実体をもたない。力を発現させるためには降臨しないといけないはずだ。
そして王都の城には竜の文字が隠されてるという。わたしはその文字の解読ではなく、なぜ文字を残したのかの方が気になった。つまりは目的を持ったものがわざと書き残したのだ。おそらく次に来る破滅を回避するための伏線としてではないだろうか? ――――――
マリーは嬉しそうに私の話に頷き、そして引き締めた顔つきになっていきました。
「ダレン、貴方は天才だ。わたしはずっと自分が見てるモノが夢なのか妄想なのか。はたまた自分は狂ってるのではないかと悩んでいたのに。こうも正論をなげかけてきてくれた。これでやっと気持ちが固まった」
そして気高く美しく好奇心旺盛な魔女はある日突然わたしに言いました。
「ありがとう。貴方と過ごした日々は決して忘れない。いいえ、この日々があるからこそ、わたしはこれからの人生を歩んでいける。これはわたしのわがままだったのだよ」
そう言うと自分がすべき事を話し、わたしにその一部を託してこの世界を去りました。
あとはクロードさん、あなたの知ってる通りです。マリーは伝説の勇者と魔女の卵をこの世界から解き放った。
生まれてきたのがアキトですよね?あの子はマリーが命を懸けて守り育てた子。
「にゃあ」
クロは肯定するようにひと声鳴いた。
そのアキトはクロードが愛する伴侶でもあるのだ。
正直に言うと悩み葛藤もしましたよ。でもマリーを愛する気持ちに抗うことはできなかった。
そしてわたしはこの場を守り続けたのです。マリーとの約束のために。
いづれ来る貴方がたに会う為、魔女の部屋を隠し続けるために。
この城にはマリーの部屋があります。しかしそれは竜達に見つからないように常に移動させてます。
そう、わたしは自分の魔力が枯渇するまでこの部屋を隠し移動させ続けるので、この城から出ていくことが出来なくなりました。
でもね……ときどき、その部屋でマリーに会うことが出来たのですよ。あい変わらずコロコロと笑い、アキトや貴方の事を楽しそうに聞かせてくれました。その幸せな想いが私の宝物なのですよ。いつしか私達は伴侶だけではなく共犯者になったのです。
「マリーの傍にいてくれてありがとう。」
ダレンが一番言いたかったのはこの言葉だったのではないだろうか?
クロードはそんな気がした。
「さあ、わたしの話はここまでです。次は貴方が過去と対峙しないといけないらしいですね」
「大きさはもう少し大きいほうがいいでしよう」
クロードはダレンに言われるまま黒猫から黒豹の姿に戻った。
「アキトを護ってあげなさい」
ダレンが手をかざすと部屋の奥に扉が現れる。
クロードは一度だけダレンのほうを振り向いた。その微笑む初老の男はマリー様を思い出させる。
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その言葉に背中を押されクロードは扉の奥へと歩んだ。
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