異世界行ったらボクは魔女!

ゆうきぼし/優輝星

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外伝

外伝 魔物と獣人の恋 後編

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 クロウ・リーはまた1人になった。すべてはただの気まぐれだ。そう呟きながらまた眠りについた。
 次に目覚めると自分と同じような匂いがする事に気づいた。
「本当に居たんだな。それもこんなところに居やがったのか」
 暗闇の中で金色の目が自分を見ていた。なんだ?これは?夢?いや、現実か?

「お前は?!」
  それはあまりにも自分に似ていた。
 しかし頭には耳が生え腰からは尻尾が生えている。
「驚かないんだな?」
「いや、充分に驚いている。表情に出ないだけだ」
「そうか。それって魔物だから表情に出ないのか?」
「さあ、そうかもしれない」
「俺のことはわかるのか?」
「予想はつく」
  そうだ。あの時。最後に会った日のサティを思い出せば理解ができる。
 おそらくはあの日サティは卵殻を自分の中に忍ばせてクロウに抱かれたのだろう。だからあんなに泣いて謝っていたのだ。だとしたら目の前に居るのは。この自分とよく似た獣人は……。

「お前の母親はサティだな」
「あんた、ちゃんと俺の母さんの名前を覚えていたのか」
「ああ。覚えている」
「そうか。そう。母さん、良かったな」
  自分に似た青年は一粒の涙を流した。
「サティは……もういないのか?」
「ああ、とっくの昔に亡くなったさ」
  魔物と獣人の流れる時間は違う。魔物の一時が、獣人の数年、数十年になる。
 そんなことは分かっていた。わかっていたはずだった。
 ――――――馬鹿な子だ。本当に。

 魔物とのハーフ。そんな子供を育てるだけでも気苦労は絶えなかっただろうに。
「母さんはずっとあんたの事だけ想っていたよ。一人で俺を育てたんだ」
「一人でか……」
 次に言える言葉が見つからない。こんな魔物の自分を想い、その子供を育て上げるなんて。
 何がサティをそうさせたのか?自分のどこがあの子をここまで思わせたのか?
 また、自分自身なぜあの時サティを抱いたのだろうか?
「あんたは悪くないって。自分が勝手に好きになったって。あんたの横顔が寂しそうで目が離せなくなったって言ってた。あんたに触れただけで幸せだったと。だけど俺にあんたの名前をつけてた」
「名前?お前の名前ってまさか」
「俺の名前はクロウだよ」
「……」
 あの子は何をしたかったのだろう?自分の子供に私の名前を付ける意味は?

「なんだよ。あんたは深く考えなくてもいいんじゃないか?母さんは好きな相手の名前を子供につけた。それだけさ。でもさ、つけられた子供はそうじゃない。自分の名前の元になるやつが気になって会ってみたくなるだろう?」
「サティはそこまで考えていたのかもしれないな」
「え? ぁあ、そういうことか!俺がハーフだから母さんは寿命が長い事がわかってたのか!だからあんたのところへ行かせるように仕向けたってことか?それも俺自身の意思であんたを探し出すようにしたのか?!」
 確かに。親に言われて来るよりは自分で情報を探しながら来た方が時間がかかる。しかしその間は探し出すという目的を持って動くことが出来る。サティは自分で考えて行動することを子供に教えたかったのか?
 しかもこの子は勘がいい。頭の回転も速そうだ。わたしの血を引いているのなら賢者の資格もあるのかもしれない。
「勉強はしたことがあるのか?」
「読み書きぐらいさ。学校には行けなかった」
「ではわたしが教えれることは全部教えてやろう」
「ほんとか?」
「見る限り、お前は魔族の血が濃そうだ。寿命も獣人よりは長いだろう。しばらくわたしの退屈しのぎの相手になってくれ」


 獣人のクロウは物覚えが良かった。教えたことをあっという間に吸収していった。
 相変わらずわたしは闇の中でしか動けず、光の中には出れなかったが、昼間の間は自分なりに予習復習もしていたようだ。
 私が潜む洞窟の周辺に自分で小屋をたてて寝床すら作ってしまった。
 木こりであった祖父の影響で木の加工は得意だった。手先も器用でなんでも卒なくこなしてしまう。ただ他の親族とは絶縁状態で一人で生きていくために苦労したようだ。やはり魔族の血がそうさせたらしい。そのため食料も狩りをするだけでなく、作物も育てたりして自分が食べる量は、たやすく手に入れていた。数年、いや数十年は共に過ごしたであろうか?
 教えることがなくなる頃には獣人クロウは言葉遣いも立ち居振る舞いもしっかりと身に着けていた。

「もうこれ以上は教えることはない。これから先はどうするのだ?」
「そうですね。まずは子供たちに読み書きでも教えようかと。とりあえず人里に降りてから考えてみるつもりです」
「人里か。そうだな。礼儀も身に着けたし、貴族の中に入り込んでもおかしくないくらいだ。お前の知恵を役立てる仕事につけばいい。」
「はい。そのつもりです」
「くれぐれも魔物の血に溺れない様にな。常に気を静めて獣人であるように努めるんだぞ」
「はい。いろいろと教えてくださり、ありがとうございました」
「いや、私には親らしいことはこれぐらいしか出来ない。よく頑張ったな」
「っ!初めて親と名乗ってくれましたね?」
「……そうだったか?」
 自分では気づかなかった。そうかお前の親だと言ってやってなかったのか。

「わたしには人の心はもう残ってはいない。知らずに傷付けていたこともあるやもしれぬが配慮してくれ」
「ええ。わかっています。しかし私自身にもそういうところがありますので」
「変なところが似てしまったのかな。いや半分魔物の血のせいか?」
「さあ。どうでしょうか」
 少し不安そうな顔でクロウを見つめる目は自分と同じ金色だ。

「少しだけお前の母さんの話をしておこう。サティはいつも笑顔で活発な子だった。魔物のわたしにも臆することなく近寄っては寂しくないかと声をかける優しい子だったさ。そして自分は『愛に生きたいんだ』と言っていた」
「愛に生きる?」
「そうだ。人を愛して愛に生きたいと言っていたんだ。だからお前も愛する人を見つけ、その人とその子供の事を全身で愛してやれ。それがわたしがしたくてもできなかったことだ。お前はわたしのようになってはならない」
「貴方は母さんを愛してたのですか?」

「わたしは魔物だ。人の心はもう持ち合わしてはない。だがおそらく、あの時わたしはサティを愛しく思っていたのだろうな。出ないとお前が卵から孵化することはありえなかった。それが答えだ」
「それが答え?ではわたしは愛されてたのですね?」
「少なくともサティはお前を愛して守り育てていただろう?」
「ええ。ええそうです。そうでした」
「これからお前は人と接して人の心を学ぶと良い。生きる目的を見つけろ」
「生きる目的ですか?」
「ああ。……魔物は生きる目的がないとただの化け物になってしまう」


「では、長い間お世話になりました。ここにはもう戻らないつもりです」
「そうだな。魔物になぞもう近寄ってはいけない」
「……お体に気を付けて。……父さん。ありがとう」


 獣人クロウはそれから姿を見てはいない。戻ってこなかったところをみると無事に人里で生きる目的を見つけたのだろう。これ以上自分がしてやれることもない。
「さて人のフリをする必要もなくなった。ではまた眠りにはいるとしよう」
 今度目覚めた時は何年後になっているだろうか?
 そう思いながらも魔物は憎くて愛しい魔女の遺品を胸に抱いて眠りについた。

 夢の中で会えるのはころころと表情が変わる獣人だろうかそれとも……。
 

――――――――――――――――――――
 なぜクロードが魔物とのミックスなのかの原点となる話はこれでおしまい。
 このあと獣人クロウは同じ獣人と恋におちクロードが産まれるのです。
 この時点では魔物は賢者の時と同じ知識をもってます。魔女の遺品をもってたからです。

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