異世界行ったらボクは魔女!

ゆうきぼし/優輝星

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外伝

外伝 魔物と獣人の恋 前編

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 東の森に行ってはいけないよ。あそこには怖い魔物が住んでいるから。
 絶望し寂しい魔物は近づくものを取り込んで哀しみの淵に叩き込むから。
 話しかけてはいけないよ。絶対に愛してはいけないよ。
 なぜなら虚無しか残らないから。


「サティ。サティアス!どこにいるんだい?」
 木こりのホーネストは斧を片手に家の裏手に声をかけた。
「はあい。ここにいるよ」
 すぐに草むらから長い尻尾がふりふり近づいてくる。
 小さな耳をぴょこんと頭の上にたててサティアスは返事をした。
「おかえりなさい!」
「また一人でかくれんぼをしてたのかい?お兄ちゃんたちにおいてかれたんだね?」
 末っ子のサティアスは身体も小さく上の二人の兄達からよくからかわれている。
「うん。サティはまだ小さいからにいに達について行けないの」
「よしよし。しょうがない兄ちゃん達だね。帰ってきたら叱っておくよ!」
 子供好きのホーネストは伴侶のフランクとの間に卵を3つ産んだ。
 その最後の卵が孵化した子がサティアスだった。

 ある日のこと。ホーネストは高熱を出した。季節の変わり目で体調をくずしたのだ。
 フランクは町に出稼ぎに出ていて不在だ。子供たちは心配でじっとしてられなかった。
「東の森の奥に氷のカタバミって薬草が生えてて熱さましに効くんだ。それがあれば母様は助かるかもしれない」
 兄達と一緒にサティアスは東の森に薬草を探しに入って行った。
「おい。サティ!お前はそっちを探せ!俺らはあっちの奥に行ってみるから」
「うん。あんまり遠くに行かないでね」

 初めて行った場所。それも入ってはいけないと言われていた森。
「こ……怖くないぞ。怖くない。早く薬草を見つけて帰るんだ」
 だけどどこを探しても見つからない。そもそも氷のカタバミがどんな形なのかも知らないのだ。
「うっ。ひっく。ない。どこにもないよ」
 日の当たらない森は寒く草がうっそうと茂っていた。背の低いサティアスは草陰ですぐに見えなくなった。
「うっうっ。怖いよ。さむいよ。ぐすんぐすん。兄ちゃんどこ?」
 完全に兄達とはぐれてしまったようで不安で仕方がない。
「早く薬草を見つけないと母さんの熱が下がらない。どうしよう」
 泣きながら森の奥へ奥へと彷徨っていた。


「何者だ?!ここに何をしに来た?」
 いきなり背後で低い声がした。咄嗟に身体が硬直する。
「ひゃあっ!ごめんなさい。ごめんなさい」
「子供? 子供が何故こんなところにいる?」
「ひぃっ!……」
 ただでさえ不安で押しつぶされそうだったのに、突然現れた全身真っ黒な人物に驚いてサティアスは気を失ってしまった。


「……ん~。のどがかわいたよぉ」目を覚ますと辺りは暗くなっていた。
「目が覚めたのか?」
 暗闇の奥で何かが動いた。金の瞳がこちらをじっとみつめている。
「ひっ。ここはどこ??」
「夜は獰猛な魔物がでる。お前など食われてしまうからな。ここに連れてきた」
「ぼ……ボクを食べちゃうの?」
「はっ?お前のようながりがりのチビを食っても腹の足しにもなるまい」
「ボクは美味しくないよ。食べないで」
「だから食べぬと言っておるだろうが」
「くしゅんっ。さむい」
「なんだ?寒いのか?はぁ。仕方ないな。こっちへ来い。寄り添えば寒さはしのげるだろう」
「うん。でも食べないでね。食べちゃダメだよ」
「わかったわかった」
 いったい自分は何をしているのだろうか。人間なぞを相手にするなんて。人が恋しいのか?馬鹿な!あの日、あの時から自分は人であることをやめたのに。愛したたった一人の魔女を亡くした時に。
 許せなかった。共に戦い、共に歩み、共に笑い。愛し合った。気持ちは通じていると思っていた。だがそれは自分だけの独りよがりだったのだ。それも自分と友と誓った仲間を選ぶなんて。なんて残酷な仕打ちだろうか?
 何も信じられない。何も信じたくはない。堕ちろ!堕ちろ!すべての者が朽ち堕ちてしまえ。
 そう呪いながら生きてきた。闇の中で息を潜め。憎くて愛しい魔女の遺品を胸に抱いて。
 
 震えながら小さな子供が近づいてくる。このまま食ってしまおうか?と思いあぐねていると
「あのさ。おじさんは魔物さんなの?」と聞いてきた。
「……だったらどうする?」
「うっ。お……お願いがあるんだ」
「ほぉ?魔物にお願いをするなんてただで済むとは思ってないだろうな?お願いをきく代わりにお前は私に何をくれるんだい?」
「へ?……ぼ……ボクの願いを叶えてくれるならボクを……あげる!ボクをあげるからお母さんを助けて!!」
「ふうん。詳しく話してみろ」
「ほんと?助けてくれるの?」
「……まずは願い事を言え」
 こんなのはただの気まぐれだ。そう一時のきまぐれでしかない。

「お前。名はなんというのだ?」
「サティアス。皆はサティって呼ぶよ」
「そうかサティというのか」
「魔物のおじさんは?」
「私か?……クロウだ。クロウ・リー」

~~~~~~~~

「サティ!サティアスが帰ってきた!!」
「サティがいたよ!サティだ!」
 二人の兄達が大きな声で家から飛び出してきた。
 小さな弟を置いてきてしまった罪悪感があったのだろう。
 二人とも弟を抱きしめて泣いている。
「ごめんよ。サティ」
「よく帰ってきたな。ごめんな」
 
「こんな夜中にどこに行ってたんだ!」
 家の中から怒鳴りあげてるのは父親のフランクだった。
 ホーネストが倒れたと聞いて慌てて町から帰ってきたのだ。
「お父さん。ごめんなさい。でも!でもこれを!これを母さんに!!」
 サティアスは震える手の中の物をフランクに渡した。
「お前。これは氷のカタバミじゃないか!」
「うん。東の森で見つけてきたんだ」
「なんだと!あんな危ない場所にいったのか!!」
「ごめんなさい!!」
「……いや、わるい。すまない。ありがとうサティ」
 フランクはサティを抱きしめ、二人の兄達もフランクに抱きついた。
「さあ、この薬草を煎じてホーネスト母さんに飲まそう」
「うん!ボクも手伝う!」
 翌朝ホーネストは薬草が効いたのか熱も下がり起き上がれるようになった。


――――――――――――――――

 クロード・レオパルドスの祖父のお話です。
 なぜクロードが魔物とのミックスなのかの原点となる話。

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