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2章 竜騎士団編
59.浸食 ラドゥside
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内側からどす黒いものが浸食してくる。これはなんだ?この感情はなんなのだ?
兄上が羨ましい。父上と似た精悍な容姿。男らしい笑顔。
幼いころから自分は母親似だと言われ続けてきた。次の王は第一皇太子のユリウス。
そう当り前のように言われてきた。どこに行っても私は兄と比べられた。
自分も父上に似たかった。スカイブルーの瞳に褐色の肌に筋肉質の身体。本当に兄上と父上は似ている。
自分の白い肌が軟弱にみえる。自分だけが違う生き物に思えた。
実際、自分は違う生き物なのだ。母上に似たことだけが救いだった。
先代の王の最後を看取ったのはわたしだった。なくなる直前になぜか私が呼ばれたのだ。
そのときお側にいたのは私一人。まるでそのタイミングを狙ったかのようだった。
ことキレる寸前に彼は自分の中の全ての毒の元をわたしに注ぎ込んだ。
深い闇の記憶と嫉妬と疑惑を。彼は王家の血筋ではなかったのだ。
真なる王が現れるまでのつなぎの王だった。
傀儡にされ哀しみと切望を私の中に呪縛として植え込んだ。
父上は兄上が産まれ、良き王に、良き父になろうと公務にいそしむ様になったそうだ。
遠征は数か月続くこともあったという。その間、王都を守っていたのが母上と先代の王の息子だったらしい。現王である父上は一人っ子だったので、先代の王の息子を兄のように慕っていた。周りの側近からの反対意見も突っぱねて王は彼を傍に置いていたらしい。
しかし彼は私が産まれた直後に亡くなってしまっていた。故に会ったことはない。
母上はその頃から体調を崩されだしたようだ。
父上はそれまでの仕事を減らし、出来るだけ母上の傍にいるようにした。
思えば仕事にあけくれ伴侶の事を思いやることが少なかったと反省したのだ。
そして第三皇太子の。我が弟のエドガーが産まれた。血を分けた僕の可愛い弟だ。
でも。ときどき私は母上がうなされていたのを知っている。
普段は凛としている母上が私と二人だけになった時に時折涙していたことも。
弟のエドガーが生まれたことによって環境が変わった。
エドガーは顔立ちは父上だが肌の色は母上似だ。白い肌に瞳の色もダークブルーで自分と同じだった。
私は殊の外エドガーを可愛がった。エドガーも母上を亡くして寂しかったのだろう。私によく懐いてくれた。
そんな折、父上がドラゴン城に私たち兄弟を連れて行ってくれた。
父にしたら日頃公務で忙しく子供の相手をしてやれないので気晴らしにといった感じだった。
自分たちが住んでいる王宮も別名ドラゴン城と呼ばれていたがこちらが本物だったらしい。
美しい城を見てまわるまではよかった。だが竜たちの姿を見た途端、足がすくんでしまった。ただ恐ろしかった。
しかし、兄上のユリウスもよちよち歩きの弟のエドガーでさえ、竜に近づいていく。
二人とも竜を怖がることなく笑顔ではしゃいでいるのだ。
小さな子供が大きな竜に囲まれる姿は自分には異様に映って見えた。
信じられないっあんな大きな野蛮そうな生き物がいるなんて!私は驚愕した。
「皇太子達はさすがですな。王族は代々竜と共に生きておりますゆえ恐怖心などありますまい」
一緒についてきた側近の男が媚びる様に笑っていた。
その言葉は幼い私の心をえぐり取った。まさか気づかれたのでは?
そういえば自分を見る竜達の視線が冷たく鋭い気がする。
遊び疲れた兄上とエドガーが寝ている間に、私は濃い青色の髪の男に声をかけられた。
「お前はどこの子だい?……お前。確か第二皇太子?だが王族ではないな?」
その言葉に私は凍り付いた。なぜだ?何故バレた?
運悪く、その後ろには私を探しに来た父上がいた。
「それはどういう意味だ?ラドゥは私の子だ」
「団長!それは違います。俺らには匂いでわかるんだ。この子は直系の血を受け継いでいない」
「そんなはずはない!お前は我が伴侶が不義を働いたというのか!?」
どうしよう!このままじゃ秘密がバレてしまう。母上が最後まで隠したがっていた事が!
その時、私は父上が子守歌代わりに話してくれた力の剣の事を思いだした。
その小さな短剣が力の剣と呼ばれるのは唯一竜を殺せる剣だからだと。
この濃い青色の髪の男は青龍だったはず。ならば……。
「父上っ怖かったっ」
「ラドゥ!おいで!」
私は父上の懐に入り込むと抱きつき、その胸にある短剣を握り取った。
「団長!俺の話を聞いてくださいっ」
男が近づいてきて父上の肩に手をかける。今だ!と身体ごと男にぶつかり震える手で男の胸めがけ短剣を突き刺した。
「ぐがあああっ!!」
男は剣を胸に受けたまま目の前でのたうち回ると動かなくなった。
「ラド?あぁっ!コバルト!!何を??」
「ち……父上がっ危ないと思い。わたしはっわたしが……」
「……ラドゥ……父を守ろうとしてくれたのか?」
咄嗟に着いた嘘だったが父上には通用したようだ。
「コバルトォオオオオっ!!!!」
雄たけびのような声が響いた。この青龍の伴侶がいたらしい。
「何故だ?団長が??ドラクル!俺の番をっ。俺の伴侶をっ!何故?」
「ラドゥを襲おうとしてたのだ」
「うそだ!!コバルトがそんなことするはずがない!!」
つがいを亡くした竜は怒り狂うという。ほどなくして父上は狂った竜の呪いをうけた。
呪った竜は伴侶の後を追ったという。
私が竜を刺したことは隠蔽された。その後竜たちはわたしに関する事に口を閉ざした。
王が竜に呪われたのは私のせいなのだ。
ほどなくして青龍は世代交代をした。今度の子はまだ経験値が浅いらしい。
それからわたしは恐怖の為にその時の記憶をなくしたことにした。
兄上やエドガーは眠っていて何も覚えてないのが功を期した。
目立たぬようにいつも控えめに微笑んで王族らしく優雅にふるまい、時には王政に似合わぬと思われる様に自由気ままに行動した。
そんなわたしに教育係が付いた。それがコーネリアスだった。彼は美しい銀狼で、その風になびく銀の尾。知的なまなざし。私は一目で彼に魅入られた。彼は私の初恋だった。頭脳派でやがてコーネリアスは若くして宰相となる。そう、王の側近となる宰相になったのだ。
兄上が疎ましい。兄上が……ユリウスがいなければ。私が第一継承者であれば……。
宰相は王につくものだ。現時点の第一継承者はユリウス。父上がお倒れになってからは兄上の傍付の宰相となられた。私が王になればコーネリアスは私の傍に。私の隣に立ってくれるのだろうか?
だが淡い期待はもろくも敗れる。私は見てしまったのだ。執務室でむつみあう彼らを。
「ぁあっ。ユリウスっ……だめだっ。もうすぐラドゥ様がいらっしゃる……」
「少しだけ。もう少しだけお前に触れていたいんだ」
「ぁあっ!っ!……やっ」
思えばコーネリアスの視線はいつでも兄上に向けられていた。
望めば望むほどにこの手からは全てこぼれ落ちて行ってしまう……。
……手に入らぬならいっそ壊してしまおうか。王位も初恋も王都さえも。
そうだ。そうすればもう惨めな思いはしなくてもいい。
側近たちが良からぬ動きをしていたのに便乗し揺さぶりをかけてみた。
兄上がどういう態度を見せるのかに興味があったのだ。
オスマンが関わっているのはわかっていたがわざと泳がしてみる。
三流貴族のドリスタンに家族の扶養について脅されているようだった。
王族や貴族なんてくだらないな。そろそろ事を起こそうかと思っていた。
そこへエドガ―が帰ってきた。魔女を連れて。
何故このタイミングで?せっかく逃がしたのに?
可愛い弟には王位の事など考えなくてもいいと小さなころから言い聞かせていた。
自由に生きて欲しかったし巻き込みたくなかった。
だが、エドガーは私や兄上の王位継承の事や父上の身体の事まで考えてくれてたようだ。
嬉しかった。魔女のアキトも美しくかわいかった。
エドガーが好きになった子だ。幸せになって欲しい。ただ獣の伴侶がいるのが気に入らないが。
たとえ王都がなくなっても竜がいればなんとかなるだろう。
だから安全性の高い竜の傍にエドガーを送ろう。
そうそして狂気に浸食された感情は、罪を背負ったまま消えてしまえばいいのだ。
あと少しでわたしの願いが叶う。誰か私を……消してくれ。
兄上が羨ましい。父上と似た精悍な容姿。男らしい笑顔。
幼いころから自分は母親似だと言われ続けてきた。次の王は第一皇太子のユリウス。
そう当り前のように言われてきた。どこに行っても私は兄と比べられた。
自分も父上に似たかった。スカイブルーの瞳に褐色の肌に筋肉質の身体。本当に兄上と父上は似ている。
自分の白い肌が軟弱にみえる。自分だけが違う生き物に思えた。
実際、自分は違う生き物なのだ。母上に似たことだけが救いだった。
先代の王の最後を看取ったのはわたしだった。なくなる直前になぜか私が呼ばれたのだ。
そのときお側にいたのは私一人。まるでそのタイミングを狙ったかのようだった。
ことキレる寸前に彼は自分の中の全ての毒の元をわたしに注ぎ込んだ。
深い闇の記憶と嫉妬と疑惑を。彼は王家の血筋ではなかったのだ。
真なる王が現れるまでのつなぎの王だった。
傀儡にされ哀しみと切望を私の中に呪縛として植え込んだ。
父上は兄上が産まれ、良き王に、良き父になろうと公務にいそしむ様になったそうだ。
遠征は数か月続くこともあったという。その間、王都を守っていたのが母上と先代の王の息子だったらしい。現王である父上は一人っ子だったので、先代の王の息子を兄のように慕っていた。周りの側近からの反対意見も突っぱねて王は彼を傍に置いていたらしい。
しかし彼は私が産まれた直後に亡くなってしまっていた。故に会ったことはない。
母上はその頃から体調を崩されだしたようだ。
父上はそれまでの仕事を減らし、出来るだけ母上の傍にいるようにした。
思えば仕事にあけくれ伴侶の事を思いやることが少なかったと反省したのだ。
そして第三皇太子の。我が弟のエドガーが産まれた。血を分けた僕の可愛い弟だ。
でも。ときどき私は母上がうなされていたのを知っている。
普段は凛としている母上が私と二人だけになった時に時折涙していたことも。
弟のエドガーが生まれたことによって環境が変わった。
エドガーは顔立ちは父上だが肌の色は母上似だ。白い肌に瞳の色もダークブルーで自分と同じだった。
私は殊の外エドガーを可愛がった。エドガーも母上を亡くして寂しかったのだろう。私によく懐いてくれた。
そんな折、父上がドラゴン城に私たち兄弟を連れて行ってくれた。
父にしたら日頃公務で忙しく子供の相手をしてやれないので気晴らしにといった感じだった。
自分たちが住んでいる王宮も別名ドラゴン城と呼ばれていたがこちらが本物だったらしい。
美しい城を見てまわるまではよかった。だが竜たちの姿を見た途端、足がすくんでしまった。ただ恐ろしかった。
しかし、兄上のユリウスもよちよち歩きの弟のエドガーでさえ、竜に近づいていく。
二人とも竜を怖がることなく笑顔ではしゃいでいるのだ。
小さな子供が大きな竜に囲まれる姿は自分には異様に映って見えた。
信じられないっあんな大きな野蛮そうな生き物がいるなんて!私は驚愕した。
「皇太子達はさすがですな。王族は代々竜と共に生きておりますゆえ恐怖心などありますまい」
一緒についてきた側近の男が媚びる様に笑っていた。
その言葉は幼い私の心をえぐり取った。まさか気づかれたのでは?
そういえば自分を見る竜達の視線が冷たく鋭い気がする。
遊び疲れた兄上とエドガーが寝ている間に、私は濃い青色の髪の男に声をかけられた。
「お前はどこの子だい?……お前。確か第二皇太子?だが王族ではないな?」
その言葉に私は凍り付いた。なぜだ?何故バレた?
運悪く、その後ろには私を探しに来た父上がいた。
「それはどういう意味だ?ラドゥは私の子だ」
「団長!それは違います。俺らには匂いでわかるんだ。この子は直系の血を受け継いでいない」
「そんなはずはない!お前は我が伴侶が不義を働いたというのか!?」
どうしよう!このままじゃ秘密がバレてしまう。母上が最後まで隠したがっていた事が!
その時、私は父上が子守歌代わりに話してくれた力の剣の事を思いだした。
その小さな短剣が力の剣と呼ばれるのは唯一竜を殺せる剣だからだと。
この濃い青色の髪の男は青龍だったはず。ならば……。
「父上っ怖かったっ」
「ラドゥ!おいで!」
私は父上の懐に入り込むと抱きつき、その胸にある短剣を握り取った。
「団長!俺の話を聞いてくださいっ」
男が近づいてきて父上の肩に手をかける。今だ!と身体ごと男にぶつかり震える手で男の胸めがけ短剣を突き刺した。
「ぐがあああっ!!」
男は剣を胸に受けたまま目の前でのたうち回ると動かなくなった。
「ラド?あぁっ!コバルト!!何を??」
「ち……父上がっ危ないと思い。わたしはっわたしが……」
「……ラドゥ……父を守ろうとしてくれたのか?」
咄嗟に着いた嘘だったが父上には通用したようだ。
「コバルトォオオオオっ!!!!」
雄たけびのような声が響いた。この青龍の伴侶がいたらしい。
「何故だ?団長が??ドラクル!俺の番をっ。俺の伴侶をっ!何故?」
「ラドゥを襲おうとしてたのだ」
「うそだ!!コバルトがそんなことするはずがない!!」
つがいを亡くした竜は怒り狂うという。ほどなくして父上は狂った竜の呪いをうけた。
呪った竜は伴侶の後を追ったという。
私が竜を刺したことは隠蔽された。その後竜たちはわたしに関する事に口を閉ざした。
王が竜に呪われたのは私のせいなのだ。
ほどなくして青龍は世代交代をした。今度の子はまだ経験値が浅いらしい。
それからわたしは恐怖の為にその時の記憶をなくしたことにした。
兄上やエドガーは眠っていて何も覚えてないのが功を期した。
目立たぬようにいつも控えめに微笑んで王族らしく優雅にふるまい、時には王政に似合わぬと思われる様に自由気ままに行動した。
そんなわたしに教育係が付いた。それがコーネリアスだった。彼は美しい銀狼で、その風になびく銀の尾。知的なまなざし。私は一目で彼に魅入られた。彼は私の初恋だった。頭脳派でやがてコーネリアスは若くして宰相となる。そう、王の側近となる宰相になったのだ。
兄上が疎ましい。兄上が……ユリウスがいなければ。私が第一継承者であれば……。
宰相は王につくものだ。現時点の第一継承者はユリウス。父上がお倒れになってからは兄上の傍付の宰相となられた。私が王になればコーネリアスは私の傍に。私の隣に立ってくれるのだろうか?
だが淡い期待はもろくも敗れる。私は見てしまったのだ。執務室でむつみあう彼らを。
「ぁあっ。ユリウスっ……だめだっ。もうすぐラドゥ様がいらっしゃる……」
「少しだけ。もう少しだけお前に触れていたいんだ」
「ぁあっ!っ!……やっ」
思えばコーネリアスの視線はいつでも兄上に向けられていた。
望めば望むほどにこの手からは全てこぼれ落ちて行ってしまう……。
……手に入らぬならいっそ壊してしまおうか。王位も初恋も王都さえも。
そうだ。そうすればもう惨めな思いはしなくてもいい。
側近たちが良からぬ動きをしていたのに便乗し揺さぶりをかけてみた。
兄上がどういう態度を見せるのかに興味があったのだ。
オスマンが関わっているのはわかっていたがわざと泳がしてみる。
三流貴族のドリスタンに家族の扶養について脅されているようだった。
王族や貴族なんてくだらないな。そろそろ事を起こそうかと思っていた。
そこへエドガ―が帰ってきた。魔女を連れて。
何故このタイミングで?せっかく逃がしたのに?
可愛い弟には王位の事など考えなくてもいいと小さなころから言い聞かせていた。
自由に生きて欲しかったし巻き込みたくなかった。
だが、エドガーは私や兄上の王位継承の事や父上の身体の事まで考えてくれてたようだ。
嬉しかった。魔女のアキトも美しくかわいかった。
エドガーが好きになった子だ。幸せになって欲しい。ただ獣の伴侶がいるのが気に入らないが。
たとえ王都がなくなっても竜がいればなんとかなるだろう。
だから安全性の高い竜の傍にエドガーを送ろう。
そうそして狂気に浸食された感情は、罪を背負ったまま消えてしまえばいいのだ。
あと少しでわたしの願いが叶う。誰か私を……消してくれ。
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