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1章 僕は魔女?

26.婚礼式

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 なんだか僕がオロオロしてる間にクロードとエドガーが次々と話を進めてしまっている。
 本当は嬉しいよ。嬉しいけど恐縮してしまうんだよ。だって僕は一般人なんだもの。王族とかしきたりとかよくわからないし、ましてや異世界。獣人やヒトの違いもまだ理解していない。僕は人間だけどこの世界にはまだ馴染めてない。すべてが初めて尽くしなんだ。
 クロードが僕はこの世界で卵で産まれたって教えてくれたけど。孵化して育ったのは元の世界で。だからやっぱり今いる世界は異世界なんだよ。


「お色はどうされますかぁ? 明るい色に合わせても素敵ですよぉ」
 さきほどから僕の身体にいろいろな生地の布を合わせては色見を確認してるのは仕立屋のレプスさんだ。彼はうさぎの獣人で長い耳が頭から生えている。それがぴょこんぴょこんと動いているのが可愛らしい。
「こんなきれいな黒目に黒髪なんですからぁ、真っ白な布で仕立てても素敵ですよぉ。それかいっそのこと瞳の色でわけてみますかぁ? クロード様が金でエドガー様が青。アキト様が黒はどうでしょうかぁ? 」
 語尾を伸ばす話し方が癖で、この種族特有の話し方なんだそうだ。
 彼は僕たちの間をぴょんぴょん行ったり来たりしている。
 
「レプス、悪いが俺は少しでも早くアキトと伴侶になりたいんだ。今から仕立てるのは時間がかかりすぎる。既製品でいいから急いでくれないかな? 」
「ええ~っ! エドガー様、王族の儀式に既製品はないですよぉ。そんなに急ぐのはアレですか? 先に卵作っちゃったとかでしょうかぁ? イヒヒ」
「ちっ違うぞ。そんなわけないだろう。アキトにはちゃんと伴侶がいるんだって周りにわからせとかねえと下心があるやつが沢山寄ってきそうだからな!」
「もう!エドガ―何言ってるんだよ! 僕も早すぎるとは思うよ。婚約を先にして伴侶契約はあとでも……」
「いやだ!ダメだ!アキト頼む。ここまで来てそれはないぜっ。どうか俺の伴侶になってくれ」
「エドガー、貴方が焦っているのは私のせいですか?」
「そりゃ、クロードに先を越されたってのもあるけど。その……アキトの気が変わらねーうちに既成事実を作っちまいたいんだよ!」
「なんだよそれ」僕がむくれた顔をすると
「その気持ちはよくわかります」とクロードが横でうなづく。
 はぁ?なんでそうなるのさ!そういえばクロードも強引な方法でパートナー契約むすんだよね!あれが伴侶契約だったなんて知らなかったし!
「アキトはふわふわしててつかみどころがないのですよ。気を抜くとどこかに飛んでいってしまいそうで時々怖くなるんです」
「クロード。お前も俺と同じだったのか!よかった」
  なぜか男同士肩を叩き合ってうなづいている。
「そんなっ!僕は風船じゃないよ」
「いや、もっと儚い。シャボン玉のようだ」
  あれ?クロードさん、なんかメルヘンチックになってませんか?僕は人間ですよー。シャボン玉なんかなりませーん。もっともそういう変身出来る魔法があるなら使いたいけど。  
「そう怒らないでくれ。それだけ私達はアキトの事を愛してるんだよ」
 クロードに愛しそうに頭をなでられると顔がニヤけてしまう。惚れた弱みなんだろうな。

 とりあえず急ピッチで仕上げるからとレプスから1ヶ月だけ待ってくれと言われた。

 その後、僕は日課のように王様の元へ治癒に出かけ、クロードから沢山の呪文と魔力の抑え方を習い、エドガーはドラゴン騎士団の引き継ぎでバタバタした。
「騎士団達はよくやってくれてるようだが、親父が倒れてからは副団長が指揮をしてたみたいで俺に対してあまりいい気はしてないようだ。婚儀が終わったらしばらくそちらに行かないといけないかもしれない」
 エドガーが暗い顔で報告してきた。
「そうなのか。でもドラゴンに会えるんでしょ?僕話せるかもしれないよ?」
「え?! アキト。一緒に行ってくれるのか? 」
「うん。そのつもりだったけど……行っちゃダメなの? 」
「いや! 来てくれ! 俺達新婚なのに引き裂かれるかと心配だったんだ! 」

 合間を縫ってラドゥさんやコーネリアスさんに王族のしきたりや作法なども教わる。
 あっという間の一か月だった。
 
~~~~~~~

「やっと……やっとこの日が来た。俺は心も体も張り裂けそうだったぜっ! 」
 エドガーがグッと両手を握りしめてぷるぷるしている。
 
 そうなんだ。身体もなんだ……。ははは……。
 そう、あれから大きなベットで3人で寝ているんだけど2人とも僕にシてこなかったんだ。もちろん寝る前におやすみのキスをしたり抱きついたりスキンシップしたり……しすぎて僕だけイかされたりしたけれど。2人は決して僕に挿入してこなかったんだ。なんでも僕と愛し合って交わると僕の魅了が増し増しになってライバルが増えるからだって言うんだ。
 どうやら二人で婚儀は終わるまではヤラナイと協定を組んでいたらしい。
 じゃあ……じゃあ婚儀が終わったら僕は身体がもつのかな? 期待半分、恐怖半分だよ。
 

 レプスさんが仕立ててくれた衣装はとても素晴らしかった。
 王族であるエドガーは赤をベースとした金糸の刺繍が入った生地の襟の高いテールコート。金のブレード飾りが豪華だ。中は真っ白なシャツに襟元はフリルがこれでもかとついている。黒のパンツに足元は黒のロングブーツ。金髪に精悍な顔立ちが浮き立つような色合いだ。カッコいい!
 クロードは黒地に銀糸の刺繍が入った生地のタキシード。ベルトは銀のバックルだ。中は真っ白でフリルがいっぱいのシャツ。パンツは白で足元は黒のロングブーツ。知的でかっこいい!!耳と尻尾がピクピクしてる。ちょっぴり緊張してるのかな?
 そして僕はなんと全身真っ白です。白地に金糸が入った生地で細かい刺繍が散りばめられてて、金のチェーンがたくさんついている細身のタキシード。白のパンツに白のロングブーツ。
 これらを一か月で仕上げたレプスさん達仕立屋さんを尊敬するよ!
 レプスさん本人はもっと宝石や装飾品を付け足したかったみたいで真っ赤な目をさらに充血させて悔しそうにしていた。本当に仕事熱心だな。

「くそー、エドに先を越されるとはなぁ」言葉とは裏腹にニヤニヤしてるのは第一皇太子のユリウスさん。
「これからも私はあなた方を支援しますよ」ニコニコ嬉しそうなのはユリウスさん付き宰相のコーネリアスさんだ。
「ぁあ。素敵だねぇ! 」感嘆の声を上げてるのは第二皇太子のラドゥさん。
 その隣でラドゥさん側近のオスマンだけが不服そうであった。
「皆さん騙されてはいませんか?魔女というものは……」
「オスマンさんも来てくれたの?ありがとう! 」僕が笑顔で駆け寄ると
「……仕事ですから」と口もごってしまった。
「僕オスマンさんに会いたかったんだ」
「へ?わ……私にですか? 何の用です? 」
「こないだはごめんなさい。宝物庫で助けてもらったのにお礼もいわないで……」
「っ!私を脅す気ですか?!そんなところに居たのがバレたら大変なことに」
「そ……そっか。ごめん。もうこの話はなしにするよ。これからもよろしくね」
「……」
 ん~気まずい。オスマンさんには何か誤解されたままのような気がする。
 

 婚礼の儀式は竜の間でされる。この国は無宗派なので神殿がないらしい。
 部屋の奥の壁に今にも動き出しそうな大きな竜のレリーフがある。
 聖なる儀式のときに使われる広間だそうだ。
 部屋の中には桜のような薄ピンクと白の花びらが待っている。
 魔法で花を降らせてるのだろうか?浄化作用があるみたいだ。

 一段高くなった場所で王様が僕らを待っていた。詰め襟の白地に金のラインのはいった宝石で彩られた祭司服姿だ。王様自らが婚儀の見届け人となる。
 クロードとエドガーと僕。共に3人、王様の前に膝間づいた。
「顔をあげよ。そのまま前へ」
 3人で前に進むとにっこりと王様がほほ笑む。あぁ渋くてカッコいい。これぞイケおじというのだろうか。
「これより三人の婚儀を取り交わす! エドガー・ヴラド・ポーツラフ。汝はいついかなる時も内泉あきとを伴侶として支え愛し続けることを誓うか?」
「誓います」
「クロード・レオ・パルドス。汝はいついかなる時も内泉あきとを伴侶として支え愛し続けることを誓うか?」
「誓います」
「内泉あきと。汝はいついかなる時もエドガー・ヴラド・ポーツラフ。クロード・レオ・パルドス。の両名を伴侶として支え愛し続けることを誓うか?」
「誓います」
「では誓約書に署名し誠実なる証とせよ」
 僕たちは誓約書に連名で名前を記入した。婚姻届けと同じ意味合いをもつんだろうな。
 本当はこの時に互いに伴侶契約魔法をかけあうんだけど、僕とクロードは先に済ましてしまってるため、エドガーとだけになってしまう。それについていろいろと憶測が飛ぶのもよくないと魔法は初夜の時に行うということでココでは省いてもらった。

「よし!では民に顔見世をしようぞ!」
 王様はそういってバルコニーへと僕たち三人を連れだした。
 そこにはひとめ婚礼式を見ようと集まった民衆の方々で埋め尽くされていた。
「皆の者!よく聞け!」
 王様の響き渡るバリトンの声に辺り一斉に静かになる。
「我は容姿:ドラクル・ヴラド・ポーツラフ!この国の王である!今日の良き日に3人の末裔たちが婚儀を行い、互いに伴侶契約を結んだ! 魔女の末裔内泉あきと。勇者の末裔エドガー・ヴラド・ポーツラフ。賢者の末裔クロード・レオ・パルドス。この3人は本日儀式にのっとり正式に伴侶とする! 皆のもの! 彼らに祝福を!! 」

 わあああああっ!! と大歓声のどよめきが起こった。
 王様は伝説の三人の勇者の末裔ということで僕たちを紹介したのだ。
 これには僕たち三人も周りの家臣達も驚いた。
 だが王様としてはこの際、何か噂になるよりは事実を言う方がいいと思われたようだ。

 そうか。王族の儀式というよりこの民衆へ示すことの方が意味があったのか。
 周辺の国々へも伝令が飛ばされ、周知させるよう徹底される。
 これで僕が王族に仲間入りした事、また容易に手をだせない人物となったのだった。
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