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1章 僕は魔女?

21.魔女のハート

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 少ししゃべりすぎたかもしれない。まあ魔女本人がまさか封印を解くモノがなんだか知らないという事はないだろう。それよりも私がどれだけ知っているかを聞き出したかったに違いない。
 アキトという魔女は私の想像を超える。魔女とはもっとわがままで自分本位な奴だと思っていた。
 だがどうだろう。見た目は普通の美青年だ。それもどこか抜けてるようで、のほほんとしてる。
 頭が弱いのかと思うと突っ込んだ発言もしてくる。それもさらっと聞いてくるのでつい答えてしまう。つかみどころがないのだ。
 そんなところが少しラドゥ様に似ている。


~~~~
「わあ。これはまた頑丈そうな扉だね。それも何年も明けてないみたい」
 奥の部屋には取手のない分厚い扉があった。
「この扉は取手がない上に扉の前に象形文字がかかれてあるので呪いがかかってるのではと言われてるの……です」
 僕はオスマンが全部言い終わるのを前に文字を読んで引戸をあけた。
「な! 何故開け方がわかったのですか? 」
「あー、ここに書いてある文字、僕読めるんだ。あと前に住んでた家の開け方なんだよ。
 ほら、ここに凹みがあるでしよ? ここに手をひっかけて横にスライドするの」
「異国の開け方だったのですね? それにその文字が読めるですと? 何故ですか?! 」
「んー?それはわからないんだ。おいおい調べていくつもり。書いてあった文字はこうだよ。【君なら開け方がわかるだろう】って。ふざけてるよね」
 クスクス笑いながらアキトは中に入っていった。
「案外ココを作った王様って茶目っ気があったんじやないかな? だって竜の文字だって魔力を流さないと浮かばないんだよ。これって謎解きが好きな人でないとなかなか考えつかないよね? 」
  さらっと驚くような発言をする。
「浮かび上がるのですか? 貴方はそれをどうやって解いたのですか?!」
「ん? オスマン壁触ったことある?」
「壁ですか?」
「うん。きっとこの城にはロマンがたくさん詰まってるんだよ。色んな人の想いが感じられる。僕らに伝いたいことがありすぎて、でも簡単に教える事ができなくてそれでこんな方法をとったんだと思うんだ」
「ロマン? とは?」
「この世界でなんていうのかしらないけど、僕の世界でのロマンってさ、ドキドキしたり夢や冒険やあこがれみたいな事を言うんだ」

 アキトは部屋を見渡すとこんにちはと挨拶をした。
「誰に挨拶をされてるのですか?」
「ん? なんとなくこの部屋に挨拶したくなったんだよ。今までココを守ってくれてありがとう」
 アキトが言うとふあっと風が吹いた。
「窓がないのに。どこから風が?!」オスマンがキョロキョロしている。
「僕、魔女のハートを探してるんだ。僕を魔女と認めてくれるなら場所を教えてくれる? 」

   目の前の台がキラリと光った。台には古ぼけた箱がひとつ乗っていた。
「開けてもいい? 」
「気をつけてください」オスマンは警戒していた。そりゃトラップかもしれないと普通なら思うよな。でも今回は違う気がする。まるで見つけてくれと言ってるようだった。
「わかった。じゃあ、まずは魔力を流してみるよ」
 僕は箱に手をかざして開けてもいいかい?と小さく呟いた。
 すると箱は自らゆっくりと開くと中から小さな宝石箱がでてきた。
「わあ。綺麗な箱がでてきたよ。この中にはいってるのかな? 」僕は宝石箱を手に取った。
  オスマンは信じられないと目を大きく見開いていた。
「……魔法を使ったのですか? 」
「使ってないよ。ここはばあちやんの部屋に似てるんだ。僕の言葉に答えてくれる気がした」
「ばあちゃん? 魔女の部屋ですか」オスマンは急に黙りこくってしまった。

「さて、欲しいものは見つかったしどうやって此処をでようか? 」
「では、一旦この部屋を出ましょう。」
 僕は言われるままオスマンと共に部屋を出た。最初の場所に戻ると急に彼は表情を変えてきた。
「アキト様。ここまでです。さあ、その箱をこちらにお返しください」
 どういうことだ? さきほどまでの彼とは違う。何が行けなかった?
 魔女の力のせい? オスマンも僕の力はたいしたことないと思ってたのか?

「最初からハートを僕に見つけ出させて奪うつもりだったの? 」
「どうやら貴方は危険なようです。やはりこの国に魔女は必要ないっ! 」
 腰にさしてる剣をぬいてアキトに向けてきた。
「痛い目にあいたくなかったらそれをわたしに渡してください」
「いやだ! 渡さないっ。こういうやり方は嫌いだ!っ」ぼくはオスマンを突き飛ばした。
 だが、彼はそのまま体勢を立て直し僕に向かって剣を一振りした。
 シュパッ!! 「あうぅ! 」
 オスマンの剣が僕の腕に軽くあたり血が流れる。そのはずみで宝石箱を手から離してしまう。
 カランッと中から何かの塊が僕の足元に転がった。魔女のハートなのか?
「……本当に切るつもりはありませんでした。頼むからそれ以上抵抗しないで下さい」
「くっ……僕は君とケンカはしたくないよ。ラドゥさんが悲しむから」
「ラドゥ様の名前は出さないで下さい! 貴方に何がわかるのだ?! 」
 
 ポタッポタッと腕を伝って僕の血が足元に落ちる。
 その血が足元の塊の上に落ちた時……

 『遅いじゃないかい!? 待ちくたびれたよ!』塊から声がした。

 塊は真っ赤な色に染まりぐるぐる回りながらアキトの目の前まで迫ってきた。
「こ……これがハート? ええ!? なに? 」
『うるさいね。失くした欠片だよ。ほら、受け取りな!』
「ま……待って! ぐぅっ!」
 ハートはそのままアキトの胸の中へ入っていった。まるで融合するように。
「だ……大丈夫か?! 」様子を見ていたオスマンが思わず声をかけた。

「『あぁ、久しぶりだねえ人の身体は。さあて愛しい人に会いに行かないと』」
「アキト様? じゃないな!? お前は何者だ? 」
「『お前に名乗る必要はないね。ふん! 』」
「な?!……嘘だろ? 」
 オスマンが顔をあげると目の前にいたアキトの姿はなかった。

~~~

「アキト! どこだ?!」俺達は2階の全部屋を探し回った。
「くそっ! 別の空間に飛ばされたのかも!? 」
「なんだと?! 」
 一瞬、俺とクロードの頭の中では異世界に戻ってしまったのかもと愕然とした。だがひとつの時代に一人しかこちらからは異世界移転出来ないはず。ならばまだこの世界にいるはずだ。気を取り直すもアキトが触っていたはずの壁がどうしても見つからない。
「くそ! ジジイめ。なんで先代は改装なんかしたんだ! 」
「私がいたころはこんなものなかったぞ」
「え? なんか言ったか?」
「いや……エドガー。王様ならココにある文字がよめるのか? 」
「そうだな。可能性はある。親父に直接会いに行こう! 」

 王の間の前は厳重に門番の見張りが立ちはだかっていた。

「エドガーだ。父上に至急ご相談があり参上した。会わせてくれ」
「いけません。王様はご病気の為一日数時間しかお会いすることはできないのです」
「そこをなんとか入れてくれってんだよ!」
「だめといったらダメです!規則なのです。いくら皇太子だといっても無理です」
「エドガー、まかせろ」
 クロードが門番に呪文を唱えると、壊れたマリオネットのようにへたり込み寝てしまった。
「今のうちだ! 」
「おう! 」

~~~~~

  なんだ?ココはどこだ?煌びやかな部屋の中を進む。僕の足は勝手に動いている。ベットだ? 寝室なのか?
「『ジーク。ジークベルト起きているんだろう?』」
  近くに寄ってわかった。ベットに横たわっているのは王だ! 僕は王の部屋まで移動したってこと?意識はあるが身体が勝手に動く。でもこの後何をしなければいかないのかは理解できている。
 つまり半分は僕の意思でもあるのだ。だけどダメだ。それはできないっ! だって相手は王だ!

「誰だ?。。。アキト?」王が目を覚ました。
「『アキトの身体を借りてきたよ』」
「『マリアか?! マリア・マグダレーナなんだな?!』 」
「『久しぶりじゃないか。あんたはいつ覚醒したんだい?』」
「『アキトに会った時だ。自分が何者だったのかを理解した』」
「『会いたかった……』」
「『ああ。ああ。この日をどれだけ待ち望んだか』」

 僕はベットの上に乗り、僕の腕が王の身体を抱いた。王は僕を愛おしいもののように抱きしめた。
 自然と涙が頬を伝う。恋しい。愛しい。会いたかった。再会のくちづけを交わさなければ。僕はきっと本能でわかっていたんだ。彼とくちづけなければいけないことを。

 「『愛している。あんたに会えなくて辛かった。この何十年、何百年間ずっとあんたへの想いだけが募っていた』」アキトの身体の中の魔女が言う。
「『私もだ。もう一度会ってお前と口づけを交わすことだけを願って今日までとどまってきた』」
 王の中の勇者ジークも答える。
「『……この身体は昔のジークに似てるよ。金の髪に青い瞳。……』」

 そうだ。約束の誓いを果たそう。王の逞しい腕に抱きしめられ胸が歓喜にあふれる。熱を持った唇が僕に重ねられると自然と涙があふれる。舌を絡めあい。濡れた音だけが部屋に響く。
 胸の奥が熱い。せつない気持ちがせりあがってくる。ダメだ! 相手はエドガーの父親だ!
 身体が反応する。誰か止めてくれ。このままだと僕は王と……。熱い。クロード熱をとって。
 ……僕はエドガーに嫌われるだろうか?

 


「親父ぃい! なにやってんだ!!!!」
「アキトっ!!!」
 クロードが門番を眠らせ王の部屋に入るとエドガーの目の前には信じられない光景が飛び込んできた。
 なんと自分の父親とアキトが抱き合って口づけを交わしているのだ。
 俺とクロードはすぐに二人を引き離したのは言うまでもない。

「『ああ~っ。なんだいったい!あんた達はせっかくの再会に水を差す気かい? 』」
 クロードに抱きかかえられてるアキトが喚く。
「『マリア。仕方がないさ。この子たちの代に変わっているのだから』」
 エドガーが引き離した王が苦笑する。

「……あなた方は憑依してるのですか?」クロードが訪ねる。
「『あたしは魔女のハートさ。ほんのちょっとこの子の身体を借りただけさ。700年ぶりに愛しい人に会えたんだからね』」
「え? 親父じゃねえってのか? 」
「『すまない。少しばかりこちらの身体を借りている。私は君たちの先祖になるのかな? 』」
「その身体はアキトなのですよ! 彼の気持ちを考えたことがあるのですか?! 仮に魔女のハートを取り込むことが出来てもアキトの心はどうなりますか?!その方は王でエドガーの父親なのです!アキトはきっと罪悪感を感じて苦しむでしょう!」
「『ならあんた達に手助けを頼もうじゃないか。こうしてジークに会えたからあたしの思念が消えるのも時間の問題さ。だからその前にハートを次期魔女に戻さないといけない。』」

「次期魔女なんて言い方。アキトはっ!……。アキトは……貴方たちの子なのです」
「『!っ。そんな?! あの卵は孵化しなかったはずだよ。腐卵として処理されなかったのかい?』」
「腐卵しなかったのですよ。しかも伝説の勇者と魔女の卵だ。研究材料として保管されていたのです。それをブラッディ・マリーと私で研究所から持ち出し異世界で孵化させたのです」
「え?! クロードなんだってんだそれ?! アキトは何歳なんだ? いや、生まれてなかったから歳はこのままでいいのか?……???」エドガーは話についていくだけで精いっぱいだ。

 クロードの声が聞こえる。僕は卵のまま長い年月眠ってたってこと??どうりで祖母ちゃんが僕の両親について答えにくかったはずだ。……そうか。おかしいと思ってたんだ。クロードはいったい何をどこまで知ってるの?
 アキトは身体の奥でみんなの話に耳を澄ませた。

「『まさか? いやそうか……だからすぐにこの体に馴染んだのか……。この子が目覚めなかったのはあたしのせいさ。孵化には魔力と愛情が必要だがあたしらは卵に何一つ与えられなかった』」
「『マリア。もういい。お前のせいじゃない。私たちのせいだ。世界を戻した後、浮かれていた私は卵殻をもらった。あとは帰国だけのはずだった。卵と共に王宮に戻り次第、王家の儀式にのっとりマリアと伴侶契約をするつもりだった。だが……』」

「『そう。何でも叶えてしまう秘宝がたやすく手に入ると今後また災いの元になるからね。秘宝を隠すためにお互いの一番大事なものを手放したのさ。それがないと見つけ出せないようにね。でも……そのせいであたしの本体は愛を忘れちまった』
「『マリアは私に愛する心(魔女のハート)。私ジークは賢者クロウ・リーに戦闘力(力の剣)を。クロウ・リーはマリアに知識(智慧の石)を譲渡し……そして私たちは壊れた』」
「壊れた?どういうことだ?」
「『そのままさ。マリアは愛してもいない男の卵を産み、育てる事さえ拒否した。私は戦闘力をなくし帰り道に魔物に会いマリアを死なせ、自らも瀕死となった。クロウ・リーは力は持っていたが知識を失っていたので戦い方を忘れていた』」

「『ボロボロになったクロウ・リーのおかげで私は王都まで戻り一命をとりとめた。だが責任感が強いクロウ・リーは私に力の剣を返還し、一人、闇の世界へと消えて行ってしまった』」
「……なんか悲惨じゃないか……。でも待てよ。俺らがいるって事は王は……」
「『そうだ。翌年に別の伴侶候補と一緒になり卵を作った。王としての役目としては跡取りを残さないといけない。わたしはヤケになって手あたり次第に卵を産ませまくった。馬鹿だったのだ。結局生まれたのは一人だけだったが、不思議とマリアに似ていた。この城を作ったのはそいつだ』」

「『とにかくハートが融合しきれてない。このままだとアキトはハートの熱に負けてしまうだろう』」
「それはアキトがいつまでたっても魔女に覚醒しないのと関連はありますか? 」
「『あるだろうね。しかるべき時期に魔力を与えられなかった為、魔力を吸収できる身体じゃないのさ。魔力が作られても媒介がないと充分に吸収できなかったりする。……現に今もハートと融合しきれてない。

――――――つまりは魔女としては欠陥品なのさ。 』」


「欠陥品だなんて言うな! アキトを馬鹿にするな!! あいつは誰よりも純粋で曲がったことが嫌いなやつなんだ!」エドガーが睨みつける。
「『だから、そんな魔女はいないんだよ。』」
「違いますよ。いなかっただけです。きっと彼はになるのですよ」
「『ふっふふはははははっ! 面白いっ! そうだね。そうかもしれない。完璧すぎるモノなんてつまらない。いいね。あんたらにこの子を託してみよう! 』」

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