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1章 僕は魔女?
20.城の秘密
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エドガーが王都に戻ってきたことで派閥が3つに増えた。重臣たちの顔も覚えた。
不穏な空気を纏ってるやつは今後接触してみるつもりだ。
フォキシーにも気になる数人の重臣達を探ってもらうようにエドガーから頼んでもらっている。
これで取り巻き達のあぶり出しも進むだろう。
「ねえ。さっき謁見の間に行くときに通った場所にもう一度行かないか? 」
「なんだ? なんか気になるもんでもあるのか?」
「うん。あの竜のモチーフなんだけどさ。魔力に反応して文字が出てたじゃない?」
「え? そんなもん見たことねえぜ! 」
「文字ですか? アキトには文字がみえたのですね? 」
あれれ? おかしいな。見間違いじゃないはず。なぞなぞみたいな言葉だったぞ。
光の角度によって竜が浮かび上がる壁や柱に手を添えると象形文字が浮かび上がってくる。
クロードが柱に手を当てた時に僕は文字が浮かぶことに気づいたんだ。
「これ……模様じゃなかったのか?! 」
そうか! エドガーやクロードにはこれがデザインに見えていたんだ。
「模様って……僕には読めるんだけど……あれ? なんで読めるんだろう? 」
「まさかこれって竜の文字では? 」クロードが驚いた表情で僕を見てくる。
「竜の文字? 親父が竜騎士だからかな? でもなんでアキトが竜の文字が読めるんだ? 」
「わかんない。いやきっと僕が竜に関係してるという事なんだろうな」
今まで僕は自分の出生について知らないでいようと思っていた。僕が両親の事を聞くといつも祖母ちゃんは辛そうだったんだ。そんな顔をさせたくなくっていつしか僕は聞かなくなっていた。
だけど……僕はそろそろ僕自身について向き合わないといけない時期なのだろう。
「とにかくまずは探ろう。エドガーもクロードも壁に手を当てて文字が浮かぶか確認して行ってくれ」
「わかった。アキトは何が書いてあるか読みあげていってくれないか? 」
まさになぞなぞのようだった。
「《炎のわだつみに鎮めるる亡霊の魂よ。永遠の死を弔うのは灼熱の業火のみ》」
「《我は何も必要とせずそれ故にすべてを求めているもの。復活は我の為でもあるのだから」
「《咎人の秘めるる闇なる裡の記憶を暴くこと勿れ。災いの元となるであろう》」
「《忘れるな。我々はこの地を見守っている。争いは破滅への序章》」
そして下から上に登り竜が書かれているレリーフには《道しるべはここではない。汝の頭上にある》とかかれてあった。という事はこの階の上の階に行けということなのか?
「エドガー、二階って上がれるの? 」
「ああ。その横に階段があるだろう? 続きは二階か? 」
僕たちは二階へ上がり白い壁や柱を探す。だが、一階と違い二階は木の扉などで雰囲気が違った。
「あれ? なんだか下と様子が違うねえ」
「そうなんだ。先代が祭り好きで多くの来賓を呼ぶために二階に客間や大広間を作ったんだ」
先代ってことはエドガーのおじいさんなのかな? 何年も代替わりすると大切な事は忘れ去られて行ってしまうものなのだろう。この城にこういう仕掛けが隠されてるって何代目までがわかっていたのだろうか。
「ふむ。改装されてるという事ですね? 」
クロードが顎に手を当て考え込む。とりあえず手分けして探そうと僕らは別れた。
「ただし! アキトは俺らの目が届く範囲にいるようにな! お前は魅力的過ぎるから攫われるかもしれねえ」
「何言ってるのさ。わかったよ。ここなら見えるだろ? 」
僕はクロードとエドガーの真ん中の位置に立ち、白い壁を見つけた。手を当てると象形文字が現れる。
「出たよ!えっと《封印の品は資格がある者しか見つけられない》」
文字を読んで間もなく、ふっと象形文字が書き換わった。
――――――《お前は魔女の血統か? 》
「……そうだよ」
答えた瞬間、アキトの身体は転送された。
「アキトが消えた!!!」
「嘘だろ!!!」
~~~~~~~~~~~~~
ぐらりと景色がゆがんだと思ったら見たこともない部屋にいた。否、部屋というよりもここは。
「宝物庫じゃないのか? 」
目の前には金貨や金塊が山積みにあり、棚には見たことのない魔道具らしきものが陳列してあり、剣や王冠もある。いかにも触るとヤバいぞというような箱には厳重に鍵がしてある。
うわあっ?! こんなのヤバいんじゃないの? 僕泥棒になっちゃわない? 壁触ったら転送されましたなんて誰が信じてくれるんだ? どうしよう。牢屋行きだろうか?
後ずさりしたときに宝箱のひとつにぶつかったみたいだ。ガシャン! と音を立てて床に落ちた。
「……誰かいるのか?」「どこだ?出てこい! 」
ど……どうしよう!!! 僕の他に誰かいただんだ! それも複数? 逃げなきゃっ。でもどこに? 宝物庫には窓がない。出入口がどこなのかもわからなかった。
「灯りがないからよく見えないや」
手探りで進んでいくと急に明るくなった。あれ? 電気がついたのかな? いやいやこの世界には電気なんか通ってない! あるのは魔法。じゃあ誰が……。
「貴方でしたか? 」
背後から急に声がして慌てて振り返るとそこにはオスマンがいた。
あああ! これって予知夢でみたやつだ! しまった! ここに繋がるなんて。って事はこの後僕は。
「こんなに早く謁見が終わるなんて予定外ですね」
オスマンは少し焦った様子で僕の手を引っ張って奥へと連れて行く。
僕はバカだ。なんで夢の話をエドガーとクロードにしておかなかったのだろう。
今日はラドゥの傍にオスマンはいなかった。なのに僕は重臣の顔を覚えることに集中してそのことに重視してなかった。予知夢を見てたというのに。完全なる油断。僕の周りにはいつも力の強いエドガーとクロードがいて守られていた。だから自分で身を守るという概念がなかったのだ。
「は・・・離せっ!! 」
「しっ。静かに奴らにみつかります!! 」
オスマンが小声で話しかけてきた。片手で口をふさがれ後ろから抱き込まれる様な格好になった。
さっきの声の奴らか? 他にも誰かいるの? どうなってるんだ??
僕らはちょうど大人二人がギリギリ入れるスペースに潜り込んだ。L字の棚の背面ですぐ隣の棚との間だ。ううっ。こいつ思ったよりも良い身体つきじゃないか。僕なんかよりも筋肉がついている。緊張してるのか口をふさいでる手が少し汗ばんできてる。ふいにオスマンの息が耳にかかる。
「どうやってここに潜り込んだのですか? 貴方は何をどこまでご存じなのですか? 」
耳元で囁くように問われ僕の心臓はときめいた。なんなんだこの身体! やめてくれ。僕が好きなのはクロードで体を許すのはせめてエドガーまでにしたいっ。
「おいっ! そちらにはいないのか! 」
「いないようです。ただ単に何かが落ちただけでは?それよりもうここから出ませんか? 」
「だいたいどういうものかもわからないのに魔女のハートを探せなんて」
「あぁ。まったくだ。お貴族様は何を言い出すか分かんねえよなあ」
「お前たち! まだ見つからないのか! そろそろ見張りが戻ってくるぞ! 」
「ドリスタン様もう戻りましょう」
「コラッ! 大きな声でわしの名を呼ぶな! 王に黙ってきてることがばれたらどうする! 」
こいつは謁見の間で会ったやつだ。やけにじゃらじゃら宝飾品をつけていた。
「仕方がないな。まあ良い。あの魔女とやらは代替わりしたところでそれほど魔法が使えないらしい。心配して損したわ。力がないのならビビる必要もなかったわい。なあに魔女は淫乱だからすぐにわしとも付き合ってくれるだろうさ」
はあ?! 何を言ってやがる! そうか僕は周りからこういう感じにみられていたのか?! ショックだ。それに腹が立つ! 僕は魔女である前に男だ。もっと自分を鍛えないと!!
ギィイッ! ガシャン!!と何かが閉まる音がして人声がしなくなった。
「行ったか? 」
オスマンがやっとふさいでいた手を離してくれた。
「はあっ。誰があんなやつと! 僕にだって選ぶ権利がある! 」
開口一番に僕はドリスタンの言葉に対して反論した。
「ぷっ。くくくっ。確かに。」
……オスマンって笑うんだ。それも可愛い。見た目よりも実年齢は若いのかもしれない。
「オスマンって笑うと可愛いんだね」
「っ!……それは誘ってるのですか? 」
「え?! そ……そんな! あいつのいう事真に受けないでよね! 僕は淫乱じゃない。多分ね」
「多分なんですね? アキト様は以外と面白い方なのですね」
「ゔっ。ほっといてくれ。それより何でここにいるのか教えてよ」
「私はここに入り込もうとする輩を見つけたので後をつけて紛れ込んだんです。貴方こそ」
ん~。これは本当なのか? 信じてもいいのかがまだわからないなあ。僕の事については隠し事はしないほうがいいだろう。オスマンは勘がいい。嘘はすぐにバレてしまいそうだ。
「僕は気づいたらここに転送されてたんだ」
「転送? それを信じろというのですか? 」
「そうだよ。信じても信じなくてもいいよ。でも本当の事だ」
オスマンのエメラルドの瞳がじっとこちらを見つめてくる。真意を測りかねてると言ったところか?
「オスマンの瞳は魅了なの?」
「えっ!? それを本人に聞くのですか? 」
「うん。魅了じゃないならどうして僕は君が気になるの? 」
「はあ?! あ……アキト様は自分が何を言ってるかわかってらっしゃる?……天然なんですね?」
「ん~? 天然とはよく言われるなあ。それよりオスマンは僕の事を信じてくれる? 」
「信じる? 貴方は本当に面白いな。あのレオ・パルドスが貴方に惚れ込むのもわかる気がする」
「レオ・パルドスってクロのこと? オスマンは彼の何を知ってるの? 」
「知らないのですか? レオ・パルドスは先代の宰相をされていたのですよ」
「へえ~。……ってクロって何歳なの?! 」
「さあ? それは本人に聞くのが一番ではないですか? 」
「そうだね。あとで聞いてみるよ」
「ところで貴方はここに何をしに来たのですか? 転送されたというにはここで何かをするつもり、もしくはする必要があるのではないのですか? 」
「オスマン。さすがだね。ラドゥさんが君を側近に置く気持ちがわかるよ」
「それは私がさっきレオ・パルドスについて言った事の返しですか? 」
「ふふふ。そうだよ。ねえオスマン、もし君ならこの中のどこに魔女のハートとやらがあると思う? 」
「やはり探しに来たのはそれですか? 」
オスマンのエメラルドの瞳がキラリと光る。綺麗だな。でも見透かされるような瞳だ。
「魔女のハートが何かしってるんだね? 」
オスマンの眉が片方上がった。僕でさえそれが何か確信が持てないのに。
「……ええ。竜の秘宝の封印を解くものです」
そうか! この王宮には僕らが探してるモノが何かを知ってるものがいるんだ。
「だったらオスマン、勇者と賢者のも知ってるんでしょ? 」
「私を試しているのですか? はぁ趣味が悪いですね。勇者のは力の剣。賢者のは智慧の石ですよ」
「それを知ってるのはオスマンとドリスタン以外はだれがいるの? 」
「王の側近や重臣たちは存じてるものが多いかと。古い言い伝えですので」
「言い伝えなの? エドガーは知らなかったよ」
「エドガー様は幼くして剣の訓練に励み、ダンジョン巡りなどされてたのであまり勉学は興味がなかったようですね。それに今の若い方は知らない方も多いです。私は祖父によく聞かされてました」
「ねえ。その3つとも全部ここにあるんじゃない? 」
「……それは答えられません。私も存じませんから」
「でも魔女のハートはあるんだ? 」
「ご存じのように世界を元に戻した三人の冒険者は秘宝を隠すために各々の一番大事なものを交換し合うのですよ。その中で魔女は勇者に自分のハートを渡したのです。つまり勇者とはこの国の王の先祖なのです」
「だからここに隠されてるのだと? 」
「おそらくは」
「オスマン。宝物庫の中で一番大事な品はどこに置かれてるの? 」
「一番奥の部屋ではないでしょうか? 」
「一緒に行ってくれる? 僕灯りがつけれないんだ」
「……いいでしょう」
オスマンは呪文を唱えると丸い発光体が浮かび上がり僕らの周辺を飛び回っている。
「わあ。蛍みたい」
簡単な呪文ですよと教えてもらい、唱えると僕の周りにも発光体が回りだした。
「今のですぐに使えるとはなかなか筋がいいですね」
おや。褒められた。なあんだいい奴じゃないか。
不穏な空気を纏ってるやつは今後接触してみるつもりだ。
フォキシーにも気になる数人の重臣達を探ってもらうようにエドガーから頼んでもらっている。
これで取り巻き達のあぶり出しも進むだろう。
「ねえ。さっき謁見の間に行くときに通った場所にもう一度行かないか? 」
「なんだ? なんか気になるもんでもあるのか?」
「うん。あの竜のモチーフなんだけどさ。魔力に反応して文字が出てたじゃない?」
「え? そんなもん見たことねえぜ! 」
「文字ですか? アキトには文字がみえたのですね? 」
あれれ? おかしいな。見間違いじゃないはず。なぞなぞみたいな言葉だったぞ。
光の角度によって竜が浮かび上がる壁や柱に手を添えると象形文字が浮かび上がってくる。
クロードが柱に手を当てた時に僕は文字が浮かぶことに気づいたんだ。
「これ……模様じゃなかったのか?! 」
そうか! エドガーやクロードにはこれがデザインに見えていたんだ。
「模様って……僕には読めるんだけど……あれ? なんで読めるんだろう? 」
「まさかこれって竜の文字では? 」クロードが驚いた表情で僕を見てくる。
「竜の文字? 親父が竜騎士だからかな? でもなんでアキトが竜の文字が読めるんだ? 」
「わかんない。いやきっと僕が竜に関係してるという事なんだろうな」
今まで僕は自分の出生について知らないでいようと思っていた。僕が両親の事を聞くといつも祖母ちゃんは辛そうだったんだ。そんな顔をさせたくなくっていつしか僕は聞かなくなっていた。
だけど……僕はそろそろ僕自身について向き合わないといけない時期なのだろう。
「とにかくまずは探ろう。エドガーもクロードも壁に手を当てて文字が浮かぶか確認して行ってくれ」
「わかった。アキトは何が書いてあるか読みあげていってくれないか? 」
まさになぞなぞのようだった。
「《炎のわだつみに鎮めるる亡霊の魂よ。永遠の死を弔うのは灼熱の業火のみ》」
「《我は何も必要とせずそれ故にすべてを求めているもの。復活は我の為でもあるのだから」
「《咎人の秘めるる闇なる裡の記憶を暴くこと勿れ。災いの元となるであろう》」
「《忘れるな。我々はこの地を見守っている。争いは破滅への序章》」
そして下から上に登り竜が書かれているレリーフには《道しるべはここではない。汝の頭上にある》とかかれてあった。という事はこの階の上の階に行けということなのか?
「エドガー、二階って上がれるの? 」
「ああ。その横に階段があるだろう? 続きは二階か? 」
僕たちは二階へ上がり白い壁や柱を探す。だが、一階と違い二階は木の扉などで雰囲気が違った。
「あれ? なんだか下と様子が違うねえ」
「そうなんだ。先代が祭り好きで多くの来賓を呼ぶために二階に客間や大広間を作ったんだ」
先代ってことはエドガーのおじいさんなのかな? 何年も代替わりすると大切な事は忘れ去られて行ってしまうものなのだろう。この城にこういう仕掛けが隠されてるって何代目までがわかっていたのだろうか。
「ふむ。改装されてるという事ですね? 」
クロードが顎に手を当て考え込む。とりあえず手分けして探そうと僕らは別れた。
「ただし! アキトは俺らの目が届く範囲にいるようにな! お前は魅力的過ぎるから攫われるかもしれねえ」
「何言ってるのさ。わかったよ。ここなら見えるだろ? 」
僕はクロードとエドガーの真ん中の位置に立ち、白い壁を見つけた。手を当てると象形文字が現れる。
「出たよ!えっと《封印の品は資格がある者しか見つけられない》」
文字を読んで間もなく、ふっと象形文字が書き換わった。
――――――《お前は魔女の血統か? 》
「……そうだよ」
答えた瞬間、アキトの身体は転送された。
「アキトが消えた!!!」
「嘘だろ!!!」
~~~~~~~~~~~~~
ぐらりと景色がゆがんだと思ったら見たこともない部屋にいた。否、部屋というよりもここは。
「宝物庫じゃないのか? 」
目の前には金貨や金塊が山積みにあり、棚には見たことのない魔道具らしきものが陳列してあり、剣や王冠もある。いかにも触るとヤバいぞというような箱には厳重に鍵がしてある。
うわあっ?! こんなのヤバいんじゃないの? 僕泥棒になっちゃわない? 壁触ったら転送されましたなんて誰が信じてくれるんだ? どうしよう。牢屋行きだろうか?
後ずさりしたときに宝箱のひとつにぶつかったみたいだ。ガシャン! と音を立てて床に落ちた。
「……誰かいるのか?」「どこだ?出てこい! 」
ど……どうしよう!!! 僕の他に誰かいただんだ! それも複数? 逃げなきゃっ。でもどこに? 宝物庫には窓がない。出入口がどこなのかもわからなかった。
「灯りがないからよく見えないや」
手探りで進んでいくと急に明るくなった。あれ? 電気がついたのかな? いやいやこの世界には電気なんか通ってない! あるのは魔法。じゃあ誰が……。
「貴方でしたか? 」
背後から急に声がして慌てて振り返るとそこにはオスマンがいた。
あああ! これって予知夢でみたやつだ! しまった! ここに繋がるなんて。って事はこの後僕は。
「こんなに早く謁見が終わるなんて予定外ですね」
オスマンは少し焦った様子で僕の手を引っ張って奥へと連れて行く。
僕はバカだ。なんで夢の話をエドガーとクロードにしておかなかったのだろう。
今日はラドゥの傍にオスマンはいなかった。なのに僕は重臣の顔を覚えることに集中してそのことに重視してなかった。予知夢を見てたというのに。完全なる油断。僕の周りにはいつも力の強いエドガーとクロードがいて守られていた。だから自分で身を守るという概念がなかったのだ。
「は・・・離せっ!! 」
「しっ。静かに奴らにみつかります!! 」
オスマンが小声で話しかけてきた。片手で口をふさがれ後ろから抱き込まれる様な格好になった。
さっきの声の奴らか? 他にも誰かいるの? どうなってるんだ??
僕らはちょうど大人二人がギリギリ入れるスペースに潜り込んだ。L字の棚の背面ですぐ隣の棚との間だ。ううっ。こいつ思ったよりも良い身体つきじゃないか。僕なんかよりも筋肉がついている。緊張してるのか口をふさいでる手が少し汗ばんできてる。ふいにオスマンの息が耳にかかる。
「どうやってここに潜り込んだのですか? 貴方は何をどこまでご存じなのですか? 」
耳元で囁くように問われ僕の心臓はときめいた。なんなんだこの身体! やめてくれ。僕が好きなのはクロードで体を許すのはせめてエドガーまでにしたいっ。
「おいっ! そちらにはいないのか! 」
「いないようです。ただ単に何かが落ちただけでは?それよりもうここから出ませんか? 」
「だいたいどういうものかもわからないのに魔女のハートを探せなんて」
「あぁ。まったくだ。お貴族様は何を言い出すか分かんねえよなあ」
「お前たち! まだ見つからないのか! そろそろ見張りが戻ってくるぞ! 」
「ドリスタン様もう戻りましょう」
「コラッ! 大きな声でわしの名を呼ぶな! 王に黙ってきてることがばれたらどうする! 」
こいつは謁見の間で会ったやつだ。やけにじゃらじゃら宝飾品をつけていた。
「仕方がないな。まあ良い。あの魔女とやらは代替わりしたところでそれほど魔法が使えないらしい。心配して損したわ。力がないのならビビる必要もなかったわい。なあに魔女は淫乱だからすぐにわしとも付き合ってくれるだろうさ」
はあ?! 何を言ってやがる! そうか僕は周りからこういう感じにみられていたのか?! ショックだ。それに腹が立つ! 僕は魔女である前に男だ。もっと自分を鍛えないと!!
ギィイッ! ガシャン!!と何かが閉まる音がして人声がしなくなった。
「行ったか? 」
オスマンがやっとふさいでいた手を離してくれた。
「はあっ。誰があんなやつと! 僕にだって選ぶ権利がある! 」
開口一番に僕はドリスタンの言葉に対して反論した。
「ぷっ。くくくっ。確かに。」
……オスマンって笑うんだ。それも可愛い。見た目よりも実年齢は若いのかもしれない。
「オスマンって笑うと可愛いんだね」
「っ!……それは誘ってるのですか? 」
「え?! そ……そんな! あいつのいう事真に受けないでよね! 僕は淫乱じゃない。多分ね」
「多分なんですね? アキト様は以外と面白い方なのですね」
「ゔっ。ほっといてくれ。それより何でここにいるのか教えてよ」
「私はここに入り込もうとする輩を見つけたので後をつけて紛れ込んだんです。貴方こそ」
ん~。これは本当なのか? 信じてもいいのかがまだわからないなあ。僕の事については隠し事はしないほうがいいだろう。オスマンは勘がいい。嘘はすぐにバレてしまいそうだ。
「僕は気づいたらここに転送されてたんだ」
「転送? それを信じろというのですか? 」
「そうだよ。信じても信じなくてもいいよ。でも本当の事だ」
オスマンのエメラルドの瞳がじっとこちらを見つめてくる。真意を測りかねてると言ったところか?
「オスマンの瞳は魅了なの?」
「えっ!? それを本人に聞くのですか? 」
「うん。魅了じゃないならどうして僕は君が気になるの? 」
「はあ?! あ……アキト様は自分が何を言ってるかわかってらっしゃる?……天然なんですね?」
「ん~? 天然とはよく言われるなあ。それよりオスマンは僕の事を信じてくれる? 」
「信じる? 貴方は本当に面白いな。あのレオ・パルドスが貴方に惚れ込むのもわかる気がする」
「レオ・パルドスってクロのこと? オスマンは彼の何を知ってるの? 」
「知らないのですか? レオ・パルドスは先代の宰相をされていたのですよ」
「へえ~。……ってクロって何歳なの?! 」
「さあ? それは本人に聞くのが一番ではないですか? 」
「そうだね。あとで聞いてみるよ」
「ところで貴方はここに何をしに来たのですか? 転送されたというにはここで何かをするつもり、もしくはする必要があるのではないのですか? 」
「オスマン。さすがだね。ラドゥさんが君を側近に置く気持ちがわかるよ」
「それは私がさっきレオ・パルドスについて言った事の返しですか? 」
「ふふふ。そうだよ。ねえオスマン、もし君ならこの中のどこに魔女のハートとやらがあると思う? 」
「やはり探しに来たのはそれですか? 」
オスマンのエメラルドの瞳がキラリと光る。綺麗だな。でも見透かされるような瞳だ。
「魔女のハートが何かしってるんだね? 」
オスマンの眉が片方上がった。僕でさえそれが何か確信が持てないのに。
「……ええ。竜の秘宝の封印を解くものです」
そうか! この王宮には僕らが探してるモノが何かを知ってるものがいるんだ。
「だったらオスマン、勇者と賢者のも知ってるんでしょ? 」
「私を試しているのですか? はぁ趣味が悪いですね。勇者のは力の剣。賢者のは智慧の石ですよ」
「それを知ってるのはオスマンとドリスタン以外はだれがいるの? 」
「王の側近や重臣たちは存じてるものが多いかと。古い言い伝えですので」
「言い伝えなの? エドガーは知らなかったよ」
「エドガー様は幼くして剣の訓練に励み、ダンジョン巡りなどされてたのであまり勉学は興味がなかったようですね。それに今の若い方は知らない方も多いです。私は祖父によく聞かされてました」
「ねえ。その3つとも全部ここにあるんじゃない? 」
「……それは答えられません。私も存じませんから」
「でも魔女のハートはあるんだ? 」
「ご存じのように世界を元に戻した三人の冒険者は秘宝を隠すために各々の一番大事なものを交換し合うのですよ。その中で魔女は勇者に自分のハートを渡したのです。つまり勇者とはこの国の王の先祖なのです」
「だからここに隠されてるのだと? 」
「おそらくは」
「オスマン。宝物庫の中で一番大事な品はどこに置かれてるの? 」
「一番奥の部屋ではないでしょうか? 」
「一緒に行ってくれる? 僕灯りがつけれないんだ」
「……いいでしょう」
オスマンは呪文を唱えると丸い発光体が浮かび上がり僕らの周辺を飛び回っている。
「わあ。蛍みたい」
簡単な呪文ですよと教えてもらい、唱えると僕の周りにも発光体が回りだした。
「今のですぐに使えるとはなかなか筋がいいですね」
おや。褒められた。なあんだいい奴じゃないか。
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