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3グレン
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俺はグレートサラマンダーの化身。名は紅蓮。自分で言うのもなんだがかなり上級な魔物だ。
生まれた時から高度な魔力を持ち人間達の中に紛れ込む様に生きてきた。人間達の生活が向上するにつれ森林伐採が増え、魔物の居場所も減ってきたためだ。俺たちは新たな居場所をもとめて人との接触をはかってきたのだ。
そんなある日俺は命を拾われる。ちょっとした気のゆるみと油断から魔物だという事がバレてしまった。魔物討伐だと一部の貴族たちが騒ぐ中、その人は颯爽と現れて俺を庇い、魔物との協定に反旗を翻して戦争を吹っ掛けたいのかと恫喝してまわってくれたのだ。
彼は宮廷魔導士の筆頭で誰とでも分け隔てなく付き合う人の良いじいさんだった。こんな魔族の血が流れる俺にも人間と同じように目をかけてくれて何かと世話を焼いてくれた。貴族たちと渡り合えるような立ち居振る舞いや多くの知識も授けてくれたのだ。
俺たちは受けた恩は忘れない。じいさんは亡くなる前に、誰とも主従契約を結んでないなら孫と結んでやってくれと俺に頼み込んできた。自分の寿命はもうすぐ尽きるからと。じいさんが俺に頼みごとをするなんてはじめての事だった。最初で最後の恩人との約束。
じいさんの目は千里眼といってこの先起こるであろうことが分かるのだと言っていた。きっとあの子にはお前が必要になると言い残して。
俺は約束通り遺産を相続する歳まで、つかず離れずであの子を、ウィリアムを遠くから見守るつもりだったのだ。
遠縁に引き取られたというウィリアムはまだ子供で、善悪もわかってないようだった。とりあえずは虐められてもないようだと安心した。じいさんが言うには若気の至りで出来てしまった娘には申し訳ないことをしたが、いろいろな制約があり自分が直接に娘を助けることが出来なかったのだという。だから孫だけは幸せになってもらいたい。そのためには俺が必要だというのだ。
そんな矢先、俺の目の前であの子が誘拐された。
(くそっ! ほっておけねえじゃないか!)
後を追うと暴れる子供に手を挙げている男たちが目に入る。
(あれは俺の主人となる子だ! 勝手に傷つけやがって!)
怒りに任せて紅蓮の炎で焼き尽くし灰にしてやった。
(あの子は? 怖がってないだろうか?)
驚かさない様に近づくとぷっくりとした薄ピンクの唇が微かにふるえていた。
まるで猛獣に怯える獲物のように。
いつもは遠目だったが近くで会ってみて、こんなにも綺麗な子だったのかと目を瞠る。
殴られて赤みを帯びた頬に手を添えるとびくっと固まりながらも前を向く。
美しい。夜の闇に輝く銀髪も白い肌も。何より清らかなハートが。
怯えながらも気丈にふるまおうとする仕草もすべてが俺の好みなのだ。やわらかな頬。きめ細かい肌。食べちまいたいくらい可愛らしい唇が俺の目の前にある。
(ああ。もう駄目だ。たまんねえっ)
襲い来る衝動のまま、その唇を奪った。吐息さえも甘く気絶するまで貪ってしまった。想像する以上に全身を駆け抜ける甘美な甘い唾液。混ざりあうように鼻に抜ける血の香りに気づいた時はすでに遅し、契約が結ばれていた。
――――『生涯の契約』
殴られたはずみで口の中を怪我していたのだろう。
魔族と人間との間で交わされる契約は体液交換と血で成り立つ。
じいさんとの約束では十八歳になってからだという取り決めだったが成り立ってしまった事は仕方がない。いや、その前から俺はすでに捕らわれてたのかもしれない。
それも若干十歳の子供に。自分でも信じられなかった。
やがてウィリアムの周りの人間の欲望が浮かび上がってくる。アイツらの目的は金だったのだ。本来なら人間なのだから人間の中だけで育てられるのが一番だとは思う。しかし財産目当ての色眼鏡な人間の手で、あの子の魂が歪められてしまうのではないかと危機感から姿を現すことにした。
彼の身近にいられる立場を手に入れるために。そして執事として屋敷に潜入したのだ。
ウィリアムは成長と共にさらに美しさに磨きがかかった。しかも無防備すぎるのだ。俺から見たら隙だらけで心配で仕方がない。誰かの手に堕ちる前に目立たない場所に囲ってしまわないと。俺は焦った。もう誰にも渡すつもりはなかったからだ。すぐに策を講じてこの辺境地に連れてきた。王都と離れたここなら俺の動きが取りやすい。
もちろんウィリアムはそのことに気づいていない。あの無垢な魂は必要以上に疑う事を知らないのだ。どんなに辛くとも常に前を向いて凛とした姿勢を崩さない。内面の強さと美しさは何物にも劣らない。俺はますますウィリアムに傾倒した。
本当は手折りたい。汚したい。めちゃめちゃに甘やかして俺だけしか見れないようにしたい。
襲い来る飢餓の衝動のまま寝静まってからその唇を奪ってしまうときもあった。
(これは俺のモノだ。俺だけのモノ。早く全部を奪っちまいたい)
そこから時々淫らな夢を見させては後蕾を慣れさせていた。
(バレたら嫌われちまいそうだ。だから出来るだけ優しく。身も心も全部俺のモノにしてしまわないと)
静かにゆっくりと確実に徐々にその心を捕えて行ってやる。俺は今までこれほどまでに何かに執着したことはなかった。なんなんだこの感情は?
これがひょっとして人で言うところの愛情ってやつか?
生まれた時から高度な魔力を持ち人間達の中に紛れ込む様に生きてきた。人間達の生活が向上するにつれ森林伐採が増え、魔物の居場所も減ってきたためだ。俺たちは新たな居場所をもとめて人との接触をはかってきたのだ。
そんなある日俺は命を拾われる。ちょっとした気のゆるみと油断から魔物だという事がバレてしまった。魔物討伐だと一部の貴族たちが騒ぐ中、その人は颯爽と現れて俺を庇い、魔物との協定に反旗を翻して戦争を吹っ掛けたいのかと恫喝してまわってくれたのだ。
彼は宮廷魔導士の筆頭で誰とでも分け隔てなく付き合う人の良いじいさんだった。こんな魔族の血が流れる俺にも人間と同じように目をかけてくれて何かと世話を焼いてくれた。貴族たちと渡り合えるような立ち居振る舞いや多くの知識も授けてくれたのだ。
俺たちは受けた恩は忘れない。じいさんは亡くなる前に、誰とも主従契約を結んでないなら孫と結んでやってくれと俺に頼み込んできた。自分の寿命はもうすぐ尽きるからと。じいさんが俺に頼みごとをするなんてはじめての事だった。最初で最後の恩人との約束。
じいさんの目は千里眼といってこの先起こるであろうことが分かるのだと言っていた。きっとあの子にはお前が必要になると言い残して。
俺は約束通り遺産を相続する歳まで、つかず離れずであの子を、ウィリアムを遠くから見守るつもりだったのだ。
遠縁に引き取られたというウィリアムはまだ子供で、善悪もわかってないようだった。とりあえずは虐められてもないようだと安心した。じいさんが言うには若気の至りで出来てしまった娘には申し訳ないことをしたが、いろいろな制約があり自分が直接に娘を助けることが出来なかったのだという。だから孫だけは幸せになってもらいたい。そのためには俺が必要だというのだ。
そんな矢先、俺の目の前であの子が誘拐された。
(くそっ! ほっておけねえじゃないか!)
後を追うと暴れる子供に手を挙げている男たちが目に入る。
(あれは俺の主人となる子だ! 勝手に傷つけやがって!)
怒りに任せて紅蓮の炎で焼き尽くし灰にしてやった。
(あの子は? 怖がってないだろうか?)
驚かさない様に近づくとぷっくりとした薄ピンクの唇が微かにふるえていた。
まるで猛獣に怯える獲物のように。
いつもは遠目だったが近くで会ってみて、こんなにも綺麗な子だったのかと目を瞠る。
殴られて赤みを帯びた頬に手を添えるとびくっと固まりながらも前を向く。
美しい。夜の闇に輝く銀髪も白い肌も。何より清らかなハートが。
怯えながらも気丈にふるまおうとする仕草もすべてが俺の好みなのだ。やわらかな頬。きめ細かい肌。食べちまいたいくらい可愛らしい唇が俺の目の前にある。
(ああ。もう駄目だ。たまんねえっ)
襲い来る衝動のまま、その唇を奪った。吐息さえも甘く気絶するまで貪ってしまった。想像する以上に全身を駆け抜ける甘美な甘い唾液。混ざりあうように鼻に抜ける血の香りに気づいた時はすでに遅し、契約が結ばれていた。
――――『生涯の契約』
殴られたはずみで口の中を怪我していたのだろう。
魔族と人間との間で交わされる契約は体液交換と血で成り立つ。
じいさんとの約束では十八歳になってからだという取り決めだったが成り立ってしまった事は仕方がない。いや、その前から俺はすでに捕らわれてたのかもしれない。
それも若干十歳の子供に。自分でも信じられなかった。
やがてウィリアムの周りの人間の欲望が浮かび上がってくる。アイツらの目的は金だったのだ。本来なら人間なのだから人間の中だけで育てられるのが一番だとは思う。しかし財産目当ての色眼鏡な人間の手で、あの子の魂が歪められてしまうのではないかと危機感から姿を現すことにした。
彼の身近にいられる立場を手に入れるために。そして執事として屋敷に潜入したのだ。
ウィリアムは成長と共にさらに美しさに磨きがかかった。しかも無防備すぎるのだ。俺から見たら隙だらけで心配で仕方がない。誰かの手に堕ちる前に目立たない場所に囲ってしまわないと。俺は焦った。もう誰にも渡すつもりはなかったからだ。すぐに策を講じてこの辺境地に連れてきた。王都と離れたここなら俺の動きが取りやすい。
もちろんウィリアムはそのことに気づいていない。あの無垢な魂は必要以上に疑う事を知らないのだ。どんなに辛くとも常に前を向いて凛とした姿勢を崩さない。内面の強さと美しさは何物にも劣らない。俺はますますウィリアムに傾倒した。
本当は手折りたい。汚したい。めちゃめちゃに甘やかして俺だけしか見れないようにしたい。
襲い来る飢餓の衝動のまま寝静まってからその唇を奪ってしまうときもあった。
(これは俺のモノだ。俺だけのモノ。早く全部を奪っちまいたい)
そこから時々淫らな夢を見させては後蕾を慣れさせていた。
(バレたら嫌われちまいそうだ。だから出来るだけ優しく。身も心も全部俺のモノにしてしまわないと)
静かにゆっくりと確実に徐々にその心を捕えて行ってやる。俺は今までこれほどまでに何かに執着したことはなかった。なんなんだこの感情は?
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