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第三章 家族とは

4 アルファの家

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「今はまだ高塚の家を敵にまわしたくないんや」
 朝比奈の表情が険しくなる。
「そうやろな」
 ハジメも同意するようにうなづく。
「できれば僕にもわかるように説明して。僕もあの場に居たんやから」
「そうやった。すぐる。ごめんな」

 「亜紀良さんとは卒業と同時に結婚をするつもり。でも出来ればメディアの目の届かないように内輪だけでこっそりと式をあげるつもりやってん」
 僕たちと同じだ。

「すぐる。今から話すことはここだけの話や。お前にはあんまりややこしいことを聞かせたくなかってんけどな。世の中にはアルファ主義っていうのがおってな。高塚家は代々アルファがすべてを引き継ぐ家系で血統よりもバース性を重視する家や。有力者が多く各業界に顔が効く。朝比奈はそこの血筋ではある。」
「朝比奈さんが? 」
 僕は朝比奈と高塚が親戚にあたるということを初めて知った。

「うん。俺は高塚家の次男にあたるが母親が違うため表だっては兄弟だとは名乗ってない。長男がベータだったせいで、オメガとのほうがアルファの子が産まれる確率が高いって理由から高塚家公認で愛人を作ったらしい。それが俺の母親や。父親は俺を息子と認め、認知はしたが高塚の籍にはいれてはくれなかった。朝比奈は母方の姓なんや」
「そこが腹立つ! つまり朝比奈のバース性がはっきりした時、アルファでなかったら高塚の姓を名乗らせる気はなかったって事や。結果、アルファでなくてよかったと俺は思ってる」
「じゃあ朝比奈さんがアルファだったらどうなってたの?」
「どんな手を使ってでも高塚姓に変えさせる気やったと思うよ」
「そんな……ひどい」
「そうやな。だけど、俺はそんな中で育ったからそれがひどい事だと感じてなかった。小さい頃に実母と離れ離れになったからな。普通に衣食住は整ってたし塾で勉強もさせてもらってた。一応は家長の息子という扱いやってん。バース性が判明するまでは……」

 高塚を見る限り高そうなスーツに威厳のある風格で、名門と呼ばれる家柄なのだろうなとは思っていたがアルファ重視の家系だとは思っていなかった。
「俺がオメガとわかって父親はかなり落胆したらしいよ」
 他人事のように言う朝比奈が痛々しい。
「幸いにも三人目でようやくアルファの子が産まれて落ち着いたみたいやけどな」
「それで高塚さんは?」
「亜紀良さんはうちの父親の弟になる。俺の叔父という立場やねん」
「叔父さんっていうことは朝比奈さんが甥なの?」
「うん。俺と亜紀良さんは15歳ほど離れてるねん」
「え? そんなに? まったく見えないね。高塚さんってすごく若く見える」
「はは。今度本人に言うてあげて。喜ぶから。俺と一緒にいるために鍛えてるらしいよ」
「へえ~。あの人、それなりに頑張ってるんや?」
 ハジメが意外そうに言うと朝比奈が苦笑する。


「それで今の話を聞く限りではなにがダメなのか僕にはわからないんだけど?」
「そこやねんけど、今言うたように高塚家はアルファ重視や、俺の父親は子供の頃身体が弱かったようでね、予備のアルファが必要という事で亜紀良さんが引き取られたらしい」
「引き取られたって?」
「優秀なアルファの子を養子にしたんや。スペアがわりに」
「…………信じられない。そんなの人を人として見ていないんじゃないの?」
「よかった……。すぐるが普通の反応で。俺らはどこかバース性のことで感覚が麻痺してしまってるんやろうな。もうそれが当たり前のことのように思えてたわ」


「あ……ごめん。ちょっと偉そうだったかも。僕はずっとベータとして生きてきたから。アルファの何がすごくて何が良いのかがまったくわからないんだ。人の人生を簡単に変えてしまうようなことをしてまで何を守りたいのかがわからない」
「さすがやな、すぐるは……。俺の目に狂いはなかった」
 ハジメが抱きついてくる。わわ。朝比奈さんの前では恥ずかしいよ。
「すぐる、その感覚はずっと持っていて欲しい。俺は半分、高塚の家に汚染されてるから。俺の考えがおかしいと思った時にすぐに訂正してくれる人が欲しい。ハジメはそのうちの一人。すぐるくんにもそうなって欲しいねん。これからも俺の事業を手伝ってくれる?」
「もちろん! 手伝わせてください」

「うん。ありがとう。さて、ここからが本題や。俺はいろいろあって、結果的に高塚の家を出て亜紀良さんのところで暮らしてるねん。まあ父親のところが本家で、亜紀良さんが分家のような感じかな。そこに取巻きや傍系の親類やらが魑魅魍魎のように資力争いを水面下でしている。俺は姓こそ違えど、本家の血筋でアルファが産まれやすいと言われるオメガや。それが今の段階で亜紀良さんのところに嫁ぐとなると勢力争いが起きる」
「今の段階でってどういうこと?」
「高塚家の次の跡取りはまだ正式に決まってないんや。アルファで生まれた弟はまだ小学生で、跡継ぎにするには早すぎる。そこで父の弟である亜紀良さんを取り込もうと寄ってくる者も多いんや。実は亜紀良さんが海外を主にしていたのもそういうのが関係しててな。こちらにおると面倒事に巻き込まれそうで嫌だったらしい。それで穏便にこっそりと式も挙げて弟が高校を卒業した辺りで報告しようと思ってたんや」

「それなのに。俺の親父がヤラかしたってことか」
「そ~やなあ。あんなに沢山の報道陣の前で。まあすぐに気づいて俺の名前は言わなかったようやけど。パパラッチや情報通の専門誌あたりは探りを入れてくるやろうね」
「うっ。すまん! ほんまに俺の親父はときどき間抜けになってしまうんや。デザインのことで頭がいっぱいで他の事はどこかに置いてきてしまうんやと思う」
「置いてきたらあかん。すぐに拾いに行けって言ってくれ。いつもは草壁さんがすぐにフォロー入れてくれるのに。あの時はインタビューの最中でどうする事も出来なかったんやろな」

「まあ、すぐに会場を出てきたし、そんなに大ごとになってないないんじゃない?」
 この時まで僕は自分が巻き込まれ体質だって事に気づいてなかった。
「そうやといいんやけどな」

「ん? 草壁さんからメールが来てる。……はあ? なんやこれ!」
「どないしたハジメ?」
「どうしたの?」

 ハジメのスマホの画面にはゴシップ記事として亜紀良が僕の腕を掴んでる写真が載っていた。タイトルは『見つめあう二人。高塚家のホープ結婚間近!』と書いてあったのだ。

「ふざけんなああああ!」 
 ハジメがスマホをぶん投げた。バウンドしたのを朝比奈がキャッチしたが角の部分にひびが入ってしまっていた。
「ハジメ。モノにあたったらだめだよ」
「わかってる! わかってるがなんで俺のすぐるがこんなやつとスクープなんかに!」
「おいハジメ。こんなやつとはなんや。元はと言えば誰の親父のせいなんや」
「いや、そうやけど。でもこれは違うやろ!」

「……は、はは。こっちは熱愛だって……」
 あっという間に各スクープサイトに出回ってるようだ。大きな事件も何もない時に載せやすい話題だったようだ。
「ま。人の噂も七十五日って言うし、すぐに忘れられるよ。たぶん……」
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