上 下
14 / 35
第二章 朝比奈と高塚

3庇護者

しおりを挟む
 しばらくして俺は亜紀良あきらと共にアルファの総会とやらに出向いた。
「うん、よう似合う。今日の主役は君やからな」
 俺は亜紀良が選んだ白のタキシードを着ている。
「いえ、まだ服に着せられてる感じです。自分で着こなせてない」
「ふふ。ええ返事や。大丈夫や、中身が伴えば自ずと着こなせるようになる」
 対して亜紀良はブラックのスーツだ。しかも光の加減でクロコダイル柄が浮かび上がる隠し模様が入っている。ネクタイは真紅でポケットチーフはオーガンジーのレースだ。一見すると派手になりそうな出で立ちだが、亜紀良が着ると小粋に見えるから不思議だ。
「僕が良いと言うまでこの仮面をつけといてくれる? 君はまだ未成年やから」
 渡されたのは目元を隠すような仮面。
「仮面舞踏会みたいやね」
「ははは! マスカレードやな!」 
 オメガには発情期がある。もちろん抑制剤もあるが薬に頼ってばかりじゃなく、発散させるのが一番やと、亜紀良は言う。
 オメガは個人差はあるが発情期がくると3~7日は動けなくなる。その間の生活を見てくれて熱も発散できる相手の事を庇護者というらしい。もちろん同意の上というのが前提だ。

 外観は黒いだけのビルに、亜紀良がカードをかざすと扉があき、中に黒服を着た筋肉質の男が二人出てきた。ガードマン? やたらと警備が厳重やな?
「高塚様いらっしゃっいませ」
「ああ。久しぶりやね」
「皆様お待ちでございます」
 なんだか緊張する。
「いいかい。僕の側を離れたらあかんで」
 耳元で言われ、ドキドキする。亜紀良の声はバリトンで身体の奥に響く感じがして心地良い。
 
 中に入ると大きなサロンになっており、立食パーティーのようだった。俺でも知ってる著名人達やどこかで目にした方々ばかりだ。
「よう! 亜紀良久しぶりやな」
「ちっ。面倒な奴が来たな」
 確かこの人は大御所と言われる俳優さんやったはず。。
「今度の子はどんな感じなんだい? 姿勢もいいし可愛い唇だね」
「今度の子?」
 俺が疑問を口にすると亜紀良が苦笑する。
「僕は慈善事業もしていてね、ときどき将来有望な子にパトロンを見つけてあげるのさ」
「……慈善事業?」
「そうそう。亜紀良の目利きは確かだからな。ここから有名なモデルや俳優に巣立った子もいるんだよ」
「それって……パトロンってまさかウリとか……?」
 俺は顔面蒼白になった。まさかここは売春倶楽部だったのか? 
「ああ、誤解しないでくれるか。ここにいる人間は人格者ばかりや。無理やり若い子を手籠めにしたりとかはないから。このサロンには紳士協定の規約があってね、守れないやつは追放される。ここで皆んないろんな人脈や情報交換するのがひとつのステータスやねん。それをみすみす手放すやつはおらんさかいに」
「ははは。その通りさ。アルファの中でも更に有能な者しか参加できない総会だからね。我々はここに入る為にかなりの手順を踏んできた。その苦労を水の泡にする気はないよ」
 俺にはわからん世界や。なんや亜紀良が嫌がりそうな世界やのになんでこんな場所に俺を連れてきたんや。
「まあ、そんな顔すんな。言いたいことはわかる。だが庇護者を見つけるにはここが一番安全なんや」
「庇護者? その子はオメガなんか?」
「そうや。それにこの子は僕の身内や。これがどういう意味か分かっとるやろ?」
「それは……怖いな。でもそれだけの価値のある子というわけか」
「打算はやめときや。命がいくつあっても足りへんで」
 いきなり目の前ではじまったバチバチの攻防戦に戸惑いを通り越して腹が立ってきた。俺の事を決めるのは俺自身やろ?
「なんやようわからんが。俺の事なんやろ? だったら俺に選ぶ権利があるんやないか? おっさん……アルファの皆さんらが勝手に騒ぐのはちょっと違うんやないか?」
「は? この子は必ず自分が選ばれると思ってるのかい?」
「ぷっはははは。さすがや、じゅん君の言う通りやな」
 亜紀良がニコニコと楽しそうに笑いだす。
 おそらくここに集まった奴らは金持ちで自尊心が高く、刺激を求めているか暇を持て余してる奴らだ。それに対して俺が持ち合わせてるのは、なけなしの度胸だけ。傍にあるステージの上に立ち俺はマイクを手に取った。

「俺はじゅんと言います。まだ学生ですがこれから成人するまでには親元を離れ事業を立ち上げるつもりです。だが、今の俺には何もない。今から言う事はただの夢物語で終わるかもしれない。すべては俺の度胸と運とこれから学ぶ技術にかかっています。俺は習得する事に飢えてます! あなた方ご自身が知る技術を、過去の経験や知識を。俺に教えてください。決して後悔はさせません。よろしくお願いします」

 その後、別室で何人かの壮年の紳士と話をした。どの人も落ち着いた雰囲気で物腰も穏やかで育ちの良さや懐の広さを感じた。
「亜紀良君が珍しく親身になっていると思ったら、よほどその子の事を気に入ってるんだね」
「ええ。彼は僕の秘蔵っ子です」
 亜紀良がニコニコと機嫌よく受け答えしている。こういう態度をみせるということは彼らはかなりの実力者達なのだろう。
「じゅん君、仮面をとってもええよ」
 という事はこの人達は庇護者候補というわけか。俺は仮面を取って素顔をさらした。壮年の紳士達は微笑んで俺を見ている。
「朝比奈じゅんと言います」
「朝比奈? そうか君が高塚の長男の子か」
「父をご存じですか?」
「ああ。アレもここにはよく来るからな。なるほど理解した。アレの呪縛から離れたいんだね?」
 呪縛? そうか。俺は高塚の家というものに縛られてたのかもしれない。だから家を出るだけでなく完全に独り立ちがしたいのか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これがおれの運命なら

やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。 ※オメガバース。Ωに厳しめの世界。 ※性的表現あり。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

その溺愛は伝わりづらい

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...