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6ニアミス

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 討伐メンバーは騎士団長のおかげですんなりと決まった。賢者と魔法使いは団長の友人らしい。ただヒーラーだけは宰相からの人選であった。ユウマは嫌がったが、団長から一人ぐらいは宰相側の意見も取り入れなければと説得され渋々承認したのだ。彼女は癒しの使い手の聖女と言われていた人だった。清楚で可憐な乙女のような人物である。

 国を離れ北へ南へと討伐をしていく都度にランクの高い魔物が現れるようになった。
「やはり魔王の復活は近いのかもしれん」
 賢者がいうとユウマが尋ねた。
「魔王はまだ復活してなかったのですか? 僕が召喚されたのは魔王復活が近いからと言われたはず、すでに一年が経つように思いましたが?」
「はは。魔王が復活すればもっと魔物が湧いて出てくるだろう」
「そうなのですか? 何故魔王は人を襲うのですか?」
「さあな、そこは私もよくわからないが、あやつらに人の心はないと思っている。思考レベルも低いのだろう」
 魔法使いが答える。本当にそうだろうか。魔王は人の心の悪しき部分が集まって出来たのではなかったのか? 倒されてもまた復活してしまうなんて怨念だけがつのっていったのではないだろうか?
 
 とある村に立ち寄った際にユウマは懐かしい気配を感じる。
「なんだろう? ここにくるのは初めてのはずなのに」
「ユウマ。どうしたのだ?」
「団長。いえ、なんだか師匠がいる気がして」
「そうか。俺もちょっとこの村が気になってはいるんだ」
 旅の疲れを癒す名目でしばしの間、この村にとどまることにした。ゴードンは隣国にいるはずだ。こんな辺境の地にいるはずはない。だがそれは宰相が言った内容であって、実際にユウマがこの目でみたわけではない。
「師匠の手掛かりがココで掴めそうな気がする」

「勇者様。よくぞお越しくださいました」
 村長たちが食事をもってぞろぞろと宿屋にあいさつにやってきた。本来ならあまり目立つ事はしないほうがいい。いかにもここにいますと魔族の標的になるようなものだ。
「まあ。わざわざいらしてくれたのですね。心から感謝いたします」
 聖女がそれを微笑みながら歓迎する。どうやら彼女が発信源か?
「聖女様。先ほどはお声をかけくださりありがとうございます」
「おお。噂以上にお美しい方だ」
「あらそんなことございませんわ。ほほほ」
 ユウマはそれを胡乱な目で見ていた。討伐に出てからほぼユウマ一人で魔物を倒してきたので聖女に癒してもらう必要がなかった。賢者に魔物の特性などを見極めてもらい、魔法使いが後方支援をし団長がサポートに回ってくれる。ほとんど、怪我する事なく終わるので聖女の出番がないのだ。
「勇者様のおかげですわ」
 それが聖女の口癖だった。終始ニコニコとしてるだけの存在。ときおり家族との手紙のやり取りをしているだけだ。他のメンバーもいざとなれば彼女が回復魔法を発動するだろうと思っているのか、あまり何も言わない。
 
 夜になりユウマは陣営を抜け出した。
「ユウマ、まずは病人がいそうな場所を探そう」
団長も気になっていたのか、ユウマの後をついてきていた。保養所や薬師を探し出しそれらしき人物がいないかを聞いて回る。だが片腕を呪われた騎士などどこにもいなかった。
「やはり気のせいか。ここにはいないみたいだな」
「そうですね。先に戻ってください。僕は少し散歩をして気持ちを沈めてから戻りますので」
 なにかがおかしい。探し方が間違っているのではないか? もう少し手掛かりがあればいいのに。団長もいろいろと手を尽くして探してくれてるらしいがまったく足取りがつかめない。
「何かを見落としてるのか? それとも……」

◇◆◇

 ゴードンは痛む腕を庇いながらあてもなく彷徨っていた。昨日までは村の外れの荒屋に住んでいたのだが、何故だか急に村長に追い出されたのだ。
「なんだお前は! こんなところに住んでいたのか?」
「すまない。少しの間でいいのでここに置いてもらえないだろうか?」
「ダメだ! ダメだ! どこの誰かは知らないがお前みたいな薄汚いのがこの村にいるってわかったら聖女さまが怖がるだろうに。早く出て行ってくれ!」
「聖女さまが来られるのか?」
「ああ。前振れの知らせが届いたんだよ。見回りに来てよかったさ。さあさ。もう二度とこの村に近寄るんじゃないよ!」
 そうか。俺を見て怖がる人がいるのか。そういえば来てる服もボロボロで風呂にも何日も入っていない。思うようなトレーニングもできず筋肉もかなり落ちてきた気がする。これじゃあ女性や子供に怖がられるな。聖女様がくるってことは魔王討伐は始まっているのか? あれから何日たったのかさえもわからない。ユウマは元気だろうか。
「……俺って情けねえなあ。弟子に会わす顔がねえよ」
 ゴードンは今まで身体を鍛え剣をふるう事で己の存在意義を見出してきたのだ。それが今や落ちぶれ剣も持つこともできないなんて。徐々にゴードンの顔からは笑顔が消えていく。暗くすさんだ表情になっていった。
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