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33龍に成る イスベルクSide
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背骨が音をたてていく。ルミエール。ルミエールを守りたい。俺の番。俺の唯一。
焼けた髪。火傷で膨れ上がった手足。なのにどうして笑顔でいるのだ。どんな姿になろうとお前は美しい。俺の唯一なんだ。俺の半身。俺の魂の片割れ。だから頼む。いなくならないでくれ。頼むから。お前が居ない世界なぞ何も望まない。……ルミエール!
そうだ。この俺のチカラで元通りにしてみせる。俺の……チカラ……そうだ。
――――――龍のチカラで!
鈍く硬い音が身体の奥から鳴り響きルミエールの胸のミスリルと同調する。己が何者であるのかが同時に理解していく。ミスリルに息を吹き込みルミエールの持つ癒しのチカラを最大限に引き出す。
俺の目から滴がひとつこぼれルミエールの上に落ちた。俺は泣いていたのか?滴がこぼれた個所から少しづつ元の姿に戻って行く。これは再生と浄化の涙か?……そうか俺は龍になったのか。
ヒトの魔力の呪いなど怖れるに足らない。浄化のチカラで呪いなぞ跳ね飛ばすのだ。ああ、俺のルミエール。可愛い俺の番。俺を守ろうと全部のチカラを使おうとした我が伴侶。かけていたものがカチリと収まるような感覚がした。
「おおお?怪物になったのか!これは面白い、闘いがいがある!」
アグニという人間が何やらわめいている。父上が言っていたのはこれか。番以外はまさにどうでもよくなる。踏みつぶしてしまおうか。
「かーかっかっか。さあかかってこい!」
うっとおしい炎がちろちろと見える。炎は苦手だ。相性が悪い。だが最近まで感じていた不調も番が傍に居るだけで無くなっている。さすがだ。俺の番は素晴らしい。今なら何でもできそうだ。このまま番を連れてどこかに行ってしまおうか……。
「そら!かかってこい!ばけものめ!」
尻尾で跳ね飛ばすと喜びながらしつこく炎をまき散らしてくる。邪魔だなあ。こいつはなんだっけ?生かしておかないといけないのか?面倒だな。固めておくか。
……絶対零度。氷結のチカラで瞬時に凍らせた。ぷすぷすと音がするのは中から溶かそうとしているからか。やめておけ。瞬間冷凍でないと解凍した時に心臓が動かないぞ。まあ動かなくともよいがな。人間とはすぐに死ぬ動物だからな。気をつけないといけないと言っていたのは誰だったのだろう。
部屋が静かだ。おそらく少し前から結界が貼られていたのだろう。他にも人間がいたはずだったが今は誰もいない。結界の中に閉じ込められたのか。どうでもいいが俺の番を休ませたい。可愛い可愛い俺の番。
「……ん……」
番の頬に色味が戻って行く。綺麗なバラ色だ。髪は短くなってしまったが、また伸ばせばいい。
「……ん。あれ?……ここは?」
ゆっくりと大きな瞳が開いて行く。透き通るような瞳。綺麗だ。瞳の中に俺の姿が映る。はっ。しまった、今の俺の姿は怖くはないだろうか?番に怖がられて嫌われるのはツライ。
「……オレはどうして?……生きてるのか?……」
ルミエールが本音で話す時だけ「僕」でなく「オレ」になる。それも気の許せる相手といるときだけ。つまりは俺といるときだけだ。自分で気づいているのだろうか?
「え?……ドラゴン?……」
少し驚いたように俺を見上げる。怯えないでくれ。
「……イスベルクなの?」
なんと!俺の番は天才だ!俺が何も言わなくても気づいてくれた!そうだ人型の時にそう呼ばれていた。
「ふふ。カッコいい」
鼻先を撫でて頬ずりしてくれた。カッコいいって?おお!番が気に入ってくれた!可愛いくて仕方がない。
「そっか龍になれたんだね。凄いなあ」
いや、違う。俺は凄くなんかない。きっとそれは番のおかげだ。お前が居てくれたから俺は龍になれたのだ。
「そうだ。部屋を壊しちゃったんだ。挙式までに直さないと。オレイスベルクの軍服姿をすごく楽しみにしてるんだ」
挙式?そうだった。式をあげないと。ああ、では人型に戻らないといけない……。どうやって戻るのだ?……あれ?
◇◆◇
「バカ息子め!世話をかけよって!」
父上の声に視界が反転する。腕に抱いていたはずの俺の番がいない。
「俺の番は?ルミエールはどこだ!」
「はあ?ったく目を覚ました第一声がそれなのか?」
呆れた顔のユージナルが目に入った。俺が目を覚ましただと?
「お前は龍に進化したあと昏倒したのだ。あの時ルミエールが居なかったら暴走していたかもしれないな」
父上の言葉に驚きを隠せない。ついさっきまで俺はルミエールと一緒に部屋にいたはずなのに?
「昏倒?俺がですか?」
「そうだ。チカラのバランスが取れてなかったのだろう」
「驚いたぜ。いきなり結界が張られて俺らは弾かれてさ。次に結界が解除されたら狭い部屋の中に龍がいたからな。身体を縮こまるようにしてルミエールを抱いていたんだぜ」
「覚えてないな」
「はいはい。でしょうね。でもまあ。……よかったな」
「ああ。そうなのかな。そうだな」
ユージナルにしみじみ言われて意味を理解した。でも龍になれたのはルミエールを救いたかったからだ。決して後継者になりたかったわけではない。
「それでルミエールは今どこなのだ?」
「ぶあはははは。さすがは儂の息子と言ったところか。もう番の事しか頭にないのだろう?」
「はい。やっと父上の気持ちがわかりました」
「あの子は今、城の修復を手伝ってる。お前は良い番を持ったな」
「修復?」
「城が崩れ落ちなかったのはシーヴルの結界のおかげとルミエールのチカラのおかげだな」
シーヴル。そういえばいないと思っていたらあいつが結界を張っていたのか。
「くくく。ルミエールはお前の軍服姿が好きらしいぞ。そのために今日の式に間に合わせようと頑張ってる。会いに行ってやれ」
「はい!行きます!」
焼けた髪。火傷で膨れ上がった手足。なのにどうして笑顔でいるのだ。どんな姿になろうとお前は美しい。俺の唯一なんだ。俺の半身。俺の魂の片割れ。だから頼む。いなくならないでくれ。頼むから。お前が居ない世界なぞ何も望まない。……ルミエール!
そうだ。この俺のチカラで元通りにしてみせる。俺の……チカラ……そうだ。
――――――龍のチカラで!
鈍く硬い音が身体の奥から鳴り響きルミエールの胸のミスリルと同調する。己が何者であるのかが同時に理解していく。ミスリルに息を吹き込みルミエールの持つ癒しのチカラを最大限に引き出す。
俺の目から滴がひとつこぼれルミエールの上に落ちた。俺は泣いていたのか?滴がこぼれた個所から少しづつ元の姿に戻って行く。これは再生と浄化の涙か?……そうか俺は龍になったのか。
ヒトの魔力の呪いなど怖れるに足らない。浄化のチカラで呪いなぞ跳ね飛ばすのだ。ああ、俺のルミエール。可愛い俺の番。俺を守ろうと全部のチカラを使おうとした我が伴侶。かけていたものがカチリと収まるような感覚がした。
「おおお?怪物になったのか!これは面白い、闘いがいがある!」
アグニという人間が何やらわめいている。父上が言っていたのはこれか。番以外はまさにどうでもよくなる。踏みつぶしてしまおうか。
「かーかっかっか。さあかかってこい!」
うっとおしい炎がちろちろと見える。炎は苦手だ。相性が悪い。だが最近まで感じていた不調も番が傍に居るだけで無くなっている。さすがだ。俺の番は素晴らしい。今なら何でもできそうだ。このまま番を連れてどこかに行ってしまおうか……。
「そら!かかってこい!ばけものめ!」
尻尾で跳ね飛ばすと喜びながらしつこく炎をまき散らしてくる。邪魔だなあ。こいつはなんだっけ?生かしておかないといけないのか?面倒だな。固めておくか。
……絶対零度。氷結のチカラで瞬時に凍らせた。ぷすぷすと音がするのは中から溶かそうとしているからか。やめておけ。瞬間冷凍でないと解凍した時に心臓が動かないぞ。まあ動かなくともよいがな。人間とはすぐに死ぬ動物だからな。気をつけないといけないと言っていたのは誰だったのだろう。
部屋が静かだ。おそらく少し前から結界が貼られていたのだろう。他にも人間がいたはずだったが今は誰もいない。結界の中に閉じ込められたのか。どうでもいいが俺の番を休ませたい。可愛い可愛い俺の番。
「……ん……」
番の頬に色味が戻って行く。綺麗なバラ色だ。髪は短くなってしまったが、また伸ばせばいい。
「……ん。あれ?……ここは?」
ゆっくりと大きな瞳が開いて行く。透き通るような瞳。綺麗だ。瞳の中に俺の姿が映る。はっ。しまった、今の俺の姿は怖くはないだろうか?番に怖がられて嫌われるのはツライ。
「……オレはどうして?……生きてるのか?……」
ルミエールが本音で話す時だけ「僕」でなく「オレ」になる。それも気の許せる相手といるときだけ。つまりは俺といるときだけだ。自分で気づいているのだろうか?
「え?……ドラゴン?……」
少し驚いたように俺を見上げる。怯えないでくれ。
「……イスベルクなの?」
なんと!俺の番は天才だ!俺が何も言わなくても気づいてくれた!そうだ人型の時にそう呼ばれていた。
「ふふ。カッコいい」
鼻先を撫でて頬ずりしてくれた。カッコいいって?おお!番が気に入ってくれた!可愛いくて仕方がない。
「そっか龍になれたんだね。凄いなあ」
いや、違う。俺は凄くなんかない。きっとそれは番のおかげだ。お前が居てくれたから俺は龍になれたのだ。
「そうだ。部屋を壊しちゃったんだ。挙式までに直さないと。オレイスベルクの軍服姿をすごく楽しみにしてるんだ」
挙式?そうだった。式をあげないと。ああ、では人型に戻らないといけない……。どうやって戻るのだ?……あれ?
◇◆◇
「バカ息子め!世話をかけよって!」
父上の声に視界が反転する。腕に抱いていたはずの俺の番がいない。
「俺の番は?ルミエールはどこだ!」
「はあ?ったく目を覚ました第一声がそれなのか?」
呆れた顔のユージナルが目に入った。俺が目を覚ましただと?
「お前は龍に進化したあと昏倒したのだ。あの時ルミエールが居なかったら暴走していたかもしれないな」
父上の言葉に驚きを隠せない。ついさっきまで俺はルミエールと一緒に部屋にいたはずなのに?
「昏倒?俺がですか?」
「そうだ。チカラのバランスが取れてなかったのだろう」
「驚いたぜ。いきなり結界が張られて俺らは弾かれてさ。次に結界が解除されたら狭い部屋の中に龍がいたからな。身体を縮こまるようにしてルミエールを抱いていたんだぜ」
「覚えてないな」
「はいはい。でしょうね。でもまあ。……よかったな」
「ああ。そうなのかな。そうだな」
ユージナルにしみじみ言われて意味を理解した。でも龍になれたのはルミエールを救いたかったからだ。決して後継者になりたかったわけではない。
「それでルミエールは今どこなのだ?」
「ぶあはははは。さすがは儂の息子と言ったところか。もう番の事しか頭にないのだろう?」
「はい。やっと父上の気持ちがわかりました」
「あの子は今、城の修復を手伝ってる。お前は良い番を持ったな」
「修復?」
「城が崩れ落ちなかったのはシーヴルの結界のおかげとルミエールのチカラのおかげだな」
シーヴル。そういえばいないと思っていたらあいつが結界を張っていたのか。
「くくく。ルミエールはお前の軍服姿が好きらしいぞ。そのために今日の式に間に合わせようと頑張ってる。会いに行ってやれ」
「はい!行きます!」
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