転生ろうそく王子は愛に溺れるだけじゃない!

ゆうきぼし/優輝星

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14おまじない

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 宿屋の主人に礼を言ってマカロンを渡すと喜んでくれた。
「とても親切にしてくださりありがとうございました」
 必ずまた来ますと約束する。だってオレ凄くこの宿が気に入ったんだよね。優しいご主人は以前ルミエールが母親と住んでいた屋敷の使用人に似ていた。懐かしさがあふれていたんだ。
「いえいえ。貴方様にはいろいろとお世話になったのでこれくらい当然の事でございます」
「ん?お世話って?」
「この地は妖精たちの故郷。彼らは自然の中に生きております。そこがどんなに小さな裏庭だったとしても。貴方は小さな頃から彼らに優しく接してくださっていた。ここはそのすべての集約地。ようやくそのご恩返しをさせていただいたまでです」  
 そういえば記憶の中のルミエールは引っ込み思案で屋敷の中で本を読んでいるか裏庭の動物や植物たちを相手に遊んでいた。……遊んでいた中に妖精も居たのか?
「先ほどの施しも彼らはとても喜んでおりましたよ」
 ありゃ。マカロンあげたこと?凄いなあ。なんでもわかっちゃうなんて。……この人、人間だよね?まあ深く考えない事にしておこう。


 初めて乗る馬車は4人乗りで向かい合わせに座るタイプ。ゆったりと座りながら移動出来るから楽だった。
「かなり速度が遅いな。ユージナルが馬車を引いて走った方が速いのではないか?」
「無理です! 馬車っすよ! こういう屋根付きの馬車は重いんですよ!」 
 真顔でイスベルクが言うからユージナルが必死で言い返している。もうユージナルったら本気にするなんて。イスベルクは冗談で言ったのに。……冗談だよね?

「どうしてイスベルクは早く帰りたいの?」
「氷の国の防御は完璧だ」
 へえ。そんなに凄いんだ。早く見てみたいなあ。
「それじゃ通じませんよ。ルミエールを取り返されるんじゃないかって心配でしかたないんでしょ?」
 そっか。南の国の奴らの手の届かない場所まで行きたいんだな? 貢ぎ物のオレが取り返されるのは嫌なのか。
「もっと相手に伝わるように言わないと」
「善処する」
「……そろそろ宰相のグラソンに連絡を入れておいた方がいいんじゃないですか?」
「それもそうだな。じゃあ手紙でも送っておいてくれ」
「ええ!俺がですか? イスベルク様が送ればいいでしょうに!」
「サインはする」
「もぉまたそうやって。俺がグラソンが苦手なの知っているくせに~」
 また二人の掛け合いがはじまった。本当に仲が良いんだな。
「ふふふ。旅行って楽しいね」
 好きだった幻想奇談の世界を旅することができるなんてオレはなんて幸運なんだろう。
「疲れてはいないか?」
「うん。ありがとう。馬車にも乗れたし今凄く幸せだよ」
「こんなことくらいで幸せを感じるな。もっとして欲しいことなどはないのか?」
 んー?なんだろうなぁ。今の所思いつかないなぁ。こうしてお話の中の登場人物と一緒にいられるだけで嬉しいんだ。
「イスベルクと一緒に入れて嬉しい」
「そ、そうか! ずっと一緒にいてやるぞ!」
 
 ユージナルがニタニタしている。なんかオレ面白いことしたかな?
「なんだ? 気持ち悪いぞ。言いたいことがあるなら言え」
「いえ。やっと年相応になられたなと思って」
 そっか。イスベルクは威厳がありすぎてすぐに忘れちゃうけど19歳なんだよな。
「年相応が俺にはわからん。ずっと戦いばかりだったからな」
「そんなに長く戦争していたの?」
「まあな。とりあえず終結したがな。力を欲しがる国は多い」
「うちの炎の国みたいなところだよね。近隣諸国なら間違いなく攻めに入っていたかも」
 とにかくチカラに誇示した筋肉自慢が多すぎる国だもんな。
「もともとミスリルの魔力を増幅させる特質は極秘だったんだよ。だがいつの間にかその特質が周知のこととなっちゃってさ。それだけ人々の関心が高かったのだろうな」
「ミスリル自体は七色に輝く宝石だからそれだけで装飾品として人気があった。やがて剣や装備に装飾されチカラが倍増される事が知れたのだ」
「じゃあ今後も戦はありえるんだね?」
 よし! オレも参戦できるようになるぞ!
「もとはと言えばバカ親父のせいなのだ」
「イスベルク様。仕方ありませんよ。皇帝は皇后を溺愛しているんですから」
「どういうこと?」
「あ~。その氷の国にはアイスドラゴンがいるんだが。えっと……皇帝のいう事しか聞かないんだ。以前は敵が現れてもドラゴンを見ただけで退散してしまったり、一撃で倒せたんだが……」
「戦いに行きたくない。母上と離れたくないとか言い出してな。代わりにお前が行けと戦場に放り出されたというわけだ」
「そんな……まだ12歳だったんでしょ?」
 何それ? オレの……ルミエールの父王と同じ感じなの? 
「その言い方は勘違いさせちゃいますよ。皇帝は非道な方じゃありません。もともとイスベルク様は小さい頃からチカラが強すぎて制御がなかなか出来なかったのです。このままだと城を壊すし皇后にケガをさせるから戦って来いと放り出されただけで」

 結局放り出されたのか。それって非道じゃないの? それに……
「イスベルクは母親と一緒いられなかったの?」
「そうだな。だが不自由はないぞ。俺はひとりでなんでもできるからな」
 そういうことじゃないよ。ルミエールは幼いころは母親がいて守ってくれていた。その記憶やぬくもりはオレの中に残っている。だがイスベルクは? 一人でなんでもできるから良いとかじゃなくて。この威厳とかも自分が身に付けたくてつけたんじゃなくて必然的に身についてしまったものだとしたら? いくらチカラが強くても心が悲鳴をあげてしまいそうだ。
「イスベルク。ちょっとだけ頭を下げて」
 馬車の中はちょっと窮屈だがオレはイスベルクの頭を抱え込んだ。

「いいこ。いいこ。よく頑張ったね」
 オレはイスベルクの頭を撫でてそのおでこにキスをひとつした。ルミエールの母様がしてくれていたおまじないだ。コレをされると不思議と心が軽くなった気がしていた。
「ぐぅう……」
 あれ? へんな声が聞こえたぞ? イスベルクは真っ赤になっていた。
 
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