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8着せ替え人形
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ひとしきりオレの生い立ちを聞いた二人は難しい顔になった。
「本当に王子なのだな?」
「はい。こんな姿じゃ信じてもらえないかもしれませんが」
イスベルクは眉間にしわを寄せてオレを睨む様に見つめ続けている。カッコいいけどちょっと怖いよ。整いすぎている顔立ちのせいだろうか。クールで冷たい雰囲気が氷のようだって呼ばれる理由だって本人はわかっているのかな?
小説の中のイスベルクは北の大地を護る皇太子だ。過酷な環境を乗り越え国を采配していくには常に合理的に物事を運ぶほうが都合がいいと沈着冷静に行動する主君として登場する。国を護る事にしか興味がなく、高度な氷魔法の使い手でもある。荒れ狂う吹雪の中、淡々と兵を進める姿に雪上の悪魔だの、冷酷な皇太子などとあだ名がついてしまっていた。だがイスベルクは寿命が短く長くは生きられないという設定だった。
もし小説通りならイスベルクは長生きできないのかな? 服の上からでも、鍛えられた体をしているのが見てわかる。見た限りは元気そうだし何か持病でもあるのかな? 手を伸ばしイスベルクの腕に触れてみる。おお。筋肉すげえ。ムキムキじゃん。
「あ~。そろそろ薬でも飲もうか? ちょっと横になって眠っとけ」
ユージナルがそういってオレに薬を飲ませた。うげー。なんだこの味。苦いっ。
「まずい……けほっ」
イスベルクが固まったまま耳が赤くなっている。オレを凝視したままで。なんかオレ悪いことしたか? ひょっとして嫌われている? 助けようとしたのが迷惑だった? ごめんよ。悪気はなかったんだ。ただ助けたかったんだ。
薬が効いてきたのかオレはいつの間にか眠ってしまった。
◇◆◇
「おい。起きろっ」
身体を強く揺すられて目が覚めた。いつの間にか朝になっていたようだ。
「ったく。お前にも使い道があったとはな!」
デカイ声が頭に響く。この声はあいつだなと思って顔をあげると第一王子エリュプシオンがふんぞり返ってオレを睨みつけていた。なんだ一体? イスベルクは? ユージナルはどこだ? 二人はどこにいったのだろう。
自分の周りが騒がしい。医者もやってきて頭の怪我を診ているようだ。
「後頭部の強打した部分はまだ腫れておりますので髪を洗うときだけ気を付けていただければと」
医者はそう言うとするすると頭の包帯をといてしまう。
「よしっ。さっさと風呂に入れろ! 汚いドブねずみのようじゃないか。磨いて少しは見れるようにしろ」
「「かしこまりました」」
侍従さん達の声がする。おお。お手伝いしてくれるってか? オレって風呂に入っていいの? やったあ。汗もかいていたし入りたかったんだよね。あっという間に服を脱がされてゴシゴシ磨かれる。ああ気持ちいいぜ。
仕上げは侍女さん達がやってきた。なんかいっぱい体や顔に塗りたくられて良い匂いがする。手触りの良いシャツに腕をとおし、見たこともないような綺麗な上着をいろいろと着せられた。
オレ着せ替え人形みたいになっている? どの服も大きすぎて結局子供用の衣装になったようだ。なんかむかつく。だいたいこの国の男子が無駄に筋肉つきすぎているんだ。きっとそうに違いない。
「……不思議な髪の色よねえ」
「へ? そうなの?」
侍女さんが言うにはオレの髪はピンクに近いらしい。何それ? オレってやっぱりピンクなの? 男なのにピンク頭って恥ずかしいんだけど。
「髪伸びすぎですよね。前髪切っちゃいましょう……お切りしますね」
急に丁寧に言いなおされてくすぐったい気持ちになる。鏡の前に座らせられて驚いた。
――――誰だこれ?
自分で言うのもなんだが、お人形のように可愛い。可愛くなってしまった。これってオレだよね? 未だにルミエールとしてのオレの顔に慣れない。少し癖のある肩までの髪。くすんだ色だと思っていたのは汚れていたからだったのか。今はピンクっぽいがキラキラして見える。前髪を切ったから大きな目がよく見えるようになった。白い肌につんとした鼻に小さな唇。ああそうか。記憶の中のルミエールの母親に似ている。なんだ、オレは母親似ってことか!
「は? 誰だお前……ルミエールなのかっっ!」
間抜けな顔をしたエリュプシオンがぽかんと口をあけている。こいつって腹違いだけどオレの一番上の兄貴になるんだよな?
「はい。そうですけど」
何言ってるんだ。さっきからそこにいて見てたじゃないか。
「そうかそうか。なるほど! これならいけるな!」
一人で納得したようにうんうんうなづいている。だからなんなんだよ。
「何がいけるというのですか?」
主語がないぞ主語はどこ行った? ちゃんと話せよ。
「王からお前へ王命が下った! 『冷酷と名高い氷の皇太子へ輿入れせよ』」
へ? えっと。オレ男の子ですけど? 輿入れって嫁に行けってことだよね?
「本当に王子なのだな?」
「はい。こんな姿じゃ信じてもらえないかもしれませんが」
イスベルクは眉間にしわを寄せてオレを睨む様に見つめ続けている。カッコいいけどちょっと怖いよ。整いすぎている顔立ちのせいだろうか。クールで冷たい雰囲気が氷のようだって呼ばれる理由だって本人はわかっているのかな?
小説の中のイスベルクは北の大地を護る皇太子だ。過酷な環境を乗り越え国を采配していくには常に合理的に物事を運ぶほうが都合がいいと沈着冷静に行動する主君として登場する。国を護る事にしか興味がなく、高度な氷魔法の使い手でもある。荒れ狂う吹雪の中、淡々と兵を進める姿に雪上の悪魔だの、冷酷な皇太子などとあだ名がついてしまっていた。だがイスベルクは寿命が短く長くは生きられないという設定だった。
もし小説通りならイスベルクは長生きできないのかな? 服の上からでも、鍛えられた体をしているのが見てわかる。見た限りは元気そうだし何か持病でもあるのかな? 手を伸ばしイスベルクの腕に触れてみる。おお。筋肉すげえ。ムキムキじゃん。
「あ~。そろそろ薬でも飲もうか? ちょっと横になって眠っとけ」
ユージナルがそういってオレに薬を飲ませた。うげー。なんだこの味。苦いっ。
「まずい……けほっ」
イスベルクが固まったまま耳が赤くなっている。オレを凝視したままで。なんかオレ悪いことしたか? ひょっとして嫌われている? 助けようとしたのが迷惑だった? ごめんよ。悪気はなかったんだ。ただ助けたかったんだ。
薬が効いてきたのかオレはいつの間にか眠ってしまった。
◇◆◇
「おい。起きろっ」
身体を強く揺すられて目が覚めた。いつの間にか朝になっていたようだ。
「ったく。お前にも使い道があったとはな!」
デカイ声が頭に響く。この声はあいつだなと思って顔をあげると第一王子エリュプシオンがふんぞり返ってオレを睨みつけていた。なんだ一体? イスベルクは? ユージナルはどこだ? 二人はどこにいったのだろう。
自分の周りが騒がしい。医者もやってきて頭の怪我を診ているようだ。
「後頭部の強打した部分はまだ腫れておりますので髪を洗うときだけ気を付けていただければと」
医者はそう言うとするすると頭の包帯をといてしまう。
「よしっ。さっさと風呂に入れろ! 汚いドブねずみのようじゃないか。磨いて少しは見れるようにしろ」
「「かしこまりました」」
侍従さん達の声がする。おお。お手伝いしてくれるってか? オレって風呂に入っていいの? やったあ。汗もかいていたし入りたかったんだよね。あっという間に服を脱がされてゴシゴシ磨かれる。ああ気持ちいいぜ。
仕上げは侍女さん達がやってきた。なんかいっぱい体や顔に塗りたくられて良い匂いがする。手触りの良いシャツに腕をとおし、見たこともないような綺麗な上着をいろいろと着せられた。
オレ着せ替え人形みたいになっている? どの服も大きすぎて結局子供用の衣装になったようだ。なんかむかつく。だいたいこの国の男子が無駄に筋肉つきすぎているんだ。きっとそうに違いない。
「……不思議な髪の色よねえ」
「へ? そうなの?」
侍女さんが言うにはオレの髪はピンクに近いらしい。何それ? オレってやっぱりピンクなの? 男なのにピンク頭って恥ずかしいんだけど。
「髪伸びすぎですよね。前髪切っちゃいましょう……お切りしますね」
急に丁寧に言いなおされてくすぐったい気持ちになる。鏡の前に座らせられて驚いた。
――――誰だこれ?
自分で言うのもなんだが、お人形のように可愛い。可愛くなってしまった。これってオレだよね? 未だにルミエールとしてのオレの顔に慣れない。少し癖のある肩までの髪。くすんだ色だと思っていたのは汚れていたからだったのか。今はピンクっぽいがキラキラして見える。前髪を切ったから大きな目がよく見えるようになった。白い肌につんとした鼻に小さな唇。ああそうか。記憶の中のルミエールの母親に似ている。なんだ、オレは母親似ってことか!
「は? 誰だお前……ルミエールなのかっっ!」
間抜けな顔をしたエリュプシオンがぽかんと口をあけている。こいつって腹違いだけどオレの一番上の兄貴になるんだよな?
「はい。そうですけど」
何言ってるんだ。さっきからそこにいて見てたじゃないか。
「そうかそうか。なるほど! これならいけるな!」
一人で納得したようにうんうんうなづいている。だからなんなんだよ。
「何がいけるというのですか?」
主語がないぞ主語はどこ行った? ちゃんと話せよ。
「王からお前へ王命が下った! 『冷酷と名高い氷の皇太子へ輿入れせよ』」
へ? えっと。オレ男の子ですけど? 輿入れって嫁に行けってことだよね?
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